7 / 9
第6話 体育祭にはムカデ競走というものがありまして
しおりを挟む
初めて咲さんと帰ったあの日から数日が経ち、5月に入ったある日のこと。これは体育の時間。
「はい。今日から体育祭練習だ。今日は学年種目のムカデ競走の練習をするぞー。グループはもう決めてると思うからE組はこっち、F組はこっちで固まって練習をしてくれ」
ムカデ競走とは数人1グループでみんなの足をひとつの縄で繋ぎながら走り、その速さを競う競技だ。うちの学校は例年2年生の学年種目となり、基本男女二人ずつの計4人グループとなる。
「じゃあこの前グループ決めたと思うから、そのグループに別れて練習各自で始めちゃってくださーい!」
なんだかんだノリノリで体育祭実行委員を務めている香澄の指示の元、ムカデ競走の練習が始まった。
「龍は香澄みたいに仕事しなくていいのか?」
「いいんだいいんだ。香澄1人でまとまるならわざわざ俺が出る必要も無いだろ?」
「おーい、琉生こっち来てー! あと龍も」
俺は龍と一緒に香澄の元へと向かって歩いて行った。案の定俺のグループは龍と花蓮と香澄に俺を加えた4人だ。まぁ、これがなんか上手くやっぱまとまった。
4人が合流し、練習を始める。
「とりあえず順番どうする? 先頭は男子が良いと思うけど……」
「じゃあ、私と花蓮が真ん中はいるから琉生と龍で前と後ろやってくれる?」
「おっけい! 一旦それで練習してみるか! 琉生、前と後ろどっちやりたい?」
「うーん。やりたいとかは無いけど……一応ガタイがしっかりしてる方が前の方がいいんじゃないかな」
「じゃあ、とりあえず俺前やるわ!」
こうしてとりあえずの順番は龍、花蓮、香澄、琉生、といった順番になった。後悔はない。花蓮の前が良かったなんて思ってないぞ。うん。思って……ない……ぞ……
と、まぁ五分後。
「ねぇ! 龍センスない! 転びすぎてかれれん怪我するよ!」
「あはは……私は大丈夫だけど……競技としてはキツイかなぁ」
「くそぉ……不覚……」
「ま、まぁ元気だしてよ……1回俺が前やって見る?」
「頼んだ琉生……」
チャンス到来っ!!! ここでいいとこ見せて……うんうん。来たぞこれ!
1度俺と龍は足に結んだ縄を解き、場所を交代して再度練習を開始した。
「おぉ! 前琉生の方が安定する!」
「じゃあ、琉生先頭で決定にする?」
「男龍。異論はありません!」
「あはは……じゃあ、先頭努めさせて頂きますね」
こうして、俺は勝負に勝ったのであった。
それから約20分程練習時間は続いた。ちなみに隣のクラスにいる咲さんの様子をちらっと見ていたが、それなりに仲の良さそうなグループは組めていた。良かった良かった。友達がいてくれてちょっとお兄さん安心しちゃった。
「はーい。それじゃそろそろ終わりの時間だ。縄はまとめて結んでこの舞台の上に置いてあるカゴに入れてくれー」
「はぁ……意外と疲れるねーこれ」
「そうだね……私次からちゃんと長い靴下持ってこよ~めっちゃ擦れちゃった」
「かれれんほんとだ! 言ってくれたらジャージ貸したのに!」
花蓮の足首の当たりを見ると、結んでいた縄の跡がくっきりと残っていた。なんだか痛そうだったが、もはや何もするにも俺は気まづかった。
「あ、琉生。先縄解いちゃっていいよ」
「あ、お、おう。すまんありがと」
そう伝えられて俺は先に足の縄を解いた。そしてぐるりと身体の向きを半回転させ、花蓮を見ていた。
「なにみてるのよ……」
「あ、ごめん見てるとかそう言うつもりは……」
小さな声で繰り広げられるこの気まづいはココ最近日常茶飯事であった。まぁ、正直な所、俺は花蓮という存在を友達として見れるようになってきていた。好きは好きだ。でも、咲さんといる時間を素直に楽しいと思えるようになってきたのだ。今の問題はただただ気まづいこと。それに尽きる。
「なんかうまく解けない……」
「解いてやろうか?」
「いい!」
なかなか解けない縄と格闘する花蓮。まぁ……ちょっと可愛いなぁ。はぁ……何考えてんだ俺。
その時だ。
「あぁー! もう無理やり足引っこ抜いてやる!」
花蓮が縄を解くのを諦め、立ち上がった瞬間だった。後ろにいた香澄と龍はなんか話していてまだ縄を解いていない。
「……ちょ! 危ないっ!」
「きゃっ……!」
無理やり縄から足を引き抜こうとした時、片足が上手く抜けずバランスを崩した花蓮。その状態で自分の足に自分の足が引っかかり、今にも倒れそうな状況であった。
俺は咄嗟に1歩前に出て左手で花蓮を支えた。本当に反射的だった。下心とか本当にそういうのは一切なかった。信じてくれ。でも……
「どこ触ってるのよ……!」
「いやどこって……転びそうになったのそっちだろ!」
「う、うるさいわね! 変にガッカリした顔しないでくれる?」
小さな声で繰り広げられる会話は香澄の一言によって終わりを告げる。
「わー! かれれんごめん! 大丈夫だった!?」
「……だ、大丈夫。先二人外しちゃって。ちょっときつく結びすぎちゃったみたいで」
少し頬を赤らめた彼女は静かにしゃがみ込み、誤魔化すかのように香澄の縄を解き始めた。
「あ、ありがとうかれれん」
「よーし! 俺も外したぞ!」
その時、舞台の方から先生たちの声が聞こえた。
「各クラスの体育祭実行委員ー! ちょっと伝えたいことあるから集まってくれー!」
「流石に龍も来なさいよー!」
「分かってる分かってる。じゃ、ちょっと行ってくるわ」
「うん。頑張って」
「……」
俺と花蓮、2人きりになる。
「……解けないか?」
「解けるわよ……」
「……」
「……解いて……」
「はいはい。任せてください」
そう言って立ち上がり、右手で鼻をいじるように誤魔化しながら顔を隠す彼女。俺はしゃがみ込み花蓮の足元へと近付いた。ドクドクとさっきから鳴り止まない心臓の音を隠し、震える手で縄を解きはじめた。なかなか解けないその縄と格闘する俺の手には、まだ小さく柔らかい花蓮の持っているお宝の感覚が抜けていなかった。
「おっそい!」
「あ、ほ、解けた! やったぁ!」
「おーい、2人遅いぞ何してる」
「「すいません!」」
こうしていつもとちょっと違った体育の授業が終わった。
「はい。今日から体育祭練習だ。今日は学年種目のムカデ競走の練習をするぞー。グループはもう決めてると思うからE組はこっち、F組はこっちで固まって練習をしてくれ」
ムカデ競走とは数人1グループでみんなの足をひとつの縄で繋ぎながら走り、その速さを競う競技だ。うちの学校は例年2年生の学年種目となり、基本男女二人ずつの計4人グループとなる。
「じゃあこの前グループ決めたと思うから、そのグループに別れて練習各自で始めちゃってくださーい!」
なんだかんだノリノリで体育祭実行委員を務めている香澄の指示の元、ムカデ競走の練習が始まった。
「龍は香澄みたいに仕事しなくていいのか?」
「いいんだいいんだ。香澄1人でまとまるならわざわざ俺が出る必要も無いだろ?」
「おーい、琉生こっち来てー! あと龍も」
俺は龍と一緒に香澄の元へと向かって歩いて行った。案の定俺のグループは龍と花蓮と香澄に俺を加えた4人だ。まぁ、これがなんか上手くやっぱまとまった。
4人が合流し、練習を始める。
「とりあえず順番どうする? 先頭は男子が良いと思うけど……」
「じゃあ、私と花蓮が真ん中はいるから琉生と龍で前と後ろやってくれる?」
「おっけい! 一旦それで練習してみるか! 琉生、前と後ろどっちやりたい?」
「うーん。やりたいとかは無いけど……一応ガタイがしっかりしてる方が前の方がいいんじゃないかな」
「じゃあ、とりあえず俺前やるわ!」
こうしてとりあえずの順番は龍、花蓮、香澄、琉生、といった順番になった。後悔はない。花蓮の前が良かったなんて思ってないぞ。うん。思って……ない……ぞ……
と、まぁ五分後。
「ねぇ! 龍センスない! 転びすぎてかれれん怪我するよ!」
「あはは……私は大丈夫だけど……競技としてはキツイかなぁ」
「くそぉ……不覚……」
「ま、まぁ元気だしてよ……1回俺が前やって見る?」
「頼んだ琉生……」
チャンス到来っ!!! ここでいいとこ見せて……うんうん。来たぞこれ!
1度俺と龍は足に結んだ縄を解き、場所を交代して再度練習を開始した。
「おぉ! 前琉生の方が安定する!」
「じゃあ、琉生先頭で決定にする?」
「男龍。異論はありません!」
「あはは……じゃあ、先頭努めさせて頂きますね」
こうして、俺は勝負に勝ったのであった。
それから約20分程練習時間は続いた。ちなみに隣のクラスにいる咲さんの様子をちらっと見ていたが、それなりに仲の良さそうなグループは組めていた。良かった良かった。友達がいてくれてちょっとお兄さん安心しちゃった。
「はーい。それじゃそろそろ終わりの時間だ。縄はまとめて結んでこの舞台の上に置いてあるカゴに入れてくれー」
「はぁ……意外と疲れるねーこれ」
「そうだね……私次からちゃんと長い靴下持ってこよ~めっちゃ擦れちゃった」
「かれれんほんとだ! 言ってくれたらジャージ貸したのに!」
花蓮の足首の当たりを見ると、結んでいた縄の跡がくっきりと残っていた。なんだか痛そうだったが、もはや何もするにも俺は気まづかった。
「あ、琉生。先縄解いちゃっていいよ」
「あ、お、おう。すまんありがと」
そう伝えられて俺は先に足の縄を解いた。そしてぐるりと身体の向きを半回転させ、花蓮を見ていた。
「なにみてるのよ……」
「あ、ごめん見てるとかそう言うつもりは……」
小さな声で繰り広げられるこの気まづいはココ最近日常茶飯事であった。まぁ、正直な所、俺は花蓮という存在を友達として見れるようになってきていた。好きは好きだ。でも、咲さんといる時間を素直に楽しいと思えるようになってきたのだ。今の問題はただただ気まづいこと。それに尽きる。
「なんかうまく解けない……」
「解いてやろうか?」
「いい!」
なかなか解けない縄と格闘する花蓮。まぁ……ちょっと可愛いなぁ。はぁ……何考えてんだ俺。
その時だ。
「あぁー! もう無理やり足引っこ抜いてやる!」
花蓮が縄を解くのを諦め、立ち上がった瞬間だった。後ろにいた香澄と龍はなんか話していてまだ縄を解いていない。
「……ちょ! 危ないっ!」
「きゃっ……!」
無理やり縄から足を引き抜こうとした時、片足が上手く抜けずバランスを崩した花蓮。その状態で自分の足に自分の足が引っかかり、今にも倒れそうな状況であった。
俺は咄嗟に1歩前に出て左手で花蓮を支えた。本当に反射的だった。下心とか本当にそういうのは一切なかった。信じてくれ。でも……
「どこ触ってるのよ……!」
「いやどこって……転びそうになったのそっちだろ!」
「う、うるさいわね! 変にガッカリした顔しないでくれる?」
小さな声で繰り広げられる会話は香澄の一言によって終わりを告げる。
「わー! かれれんごめん! 大丈夫だった!?」
「……だ、大丈夫。先二人外しちゃって。ちょっときつく結びすぎちゃったみたいで」
少し頬を赤らめた彼女は静かにしゃがみ込み、誤魔化すかのように香澄の縄を解き始めた。
「あ、ありがとうかれれん」
「よーし! 俺も外したぞ!」
その時、舞台の方から先生たちの声が聞こえた。
「各クラスの体育祭実行委員ー! ちょっと伝えたいことあるから集まってくれー!」
「流石に龍も来なさいよー!」
「分かってる分かってる。じゃ、ちょっと行ってくるわ」
「うん。頑張って」
「……」
俺と花蓮、2人きりになる。
「……解けないか?」
「解けるわよ……」
「……」
「……解いて……」
「はいはい。任せてください」
そう言って立ち上がり、右手で鼻をいじるように誤魔化しながら顔を隠す彼女。俺はしゃがみ込み花蓮の足元へと近付いた。ドクドクとさっきから鳴り止まない心臓の音を隠し、震える手で縄を解きはじめた。なかなか解けないその縄と格闘する俺の手には、まだ小さく柔らかい花蓮の持っているお宝の感覚が抜けていなかった。
「おっそい!」
「あ、ほ、解けた! やったぁ!」
「おーい、2人遅いぞ何してる」
「「すいません!」」
こうしていつもとちょっと違った体育の授業が終わった。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
冴えない俺と美少女な彼女たちとの関係、複雑につき――― ~助けた小学生の姉たちはどうやらシスコンで、いつの間にかハーレム形成してました~
メディカルト
恋愛
「え……あの小学生のお姉さん……たち?」
俺、九十九恋は特筆して何か言えることもない普通の男子高校生だ。
学校からの帰り道、俺はスーパーの近くで泣く小学生の女の子を見つける。
その女の子は転んでしまったのか、怪我していた様子だったのですぐに応急処置を施したが、実は学校で有名な初風姉妹の末っ子とは知らずに―――。
少女への親切心がきっかけで始まる、コメディ系ハーレムストーリー。
……どうやら彼は鈍感なようです。
――――――――――――――――――――――――――――――
【作者より】
九十九恋の『恋』が、恋愛の『恋』と間違える可能性があるので、彼のことを指すときは『レン』と表記しています。
また、R15は保険です。
毎朝20時投稿!
【3月14日 更新再開 詳細は近況ボードで】
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
シチュボ(女性向け)
身喰らう白蛇
恋愛
自発さえしなければ好きに使用してください。
アドリブ、改変、なんでもOKです。
他人を害することだけはお止め下さい。
使用報告は無しで商用でも練習でもなんでもOKです。
Twitterやコメント欄等にリアクションあるとむせながら喜びます✌︎︎(´ °∀︎°`)✌︎︎ゲホゴホ
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
男女比がおかしい世界に来たのでVtuberになろうかと思う
月乃糸
大衆娯楽
男女比が1:720という世界に転生主人公、都道幸一改め天野大知。 男に生まれたという事で悠々自適な生活を送ろうとしていたが、ふとVtuberを思い出しVtuberになろうと考えだす。 ブラコンの姉妹に囲まれながら楽しく活動!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる