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第2章 少年期 剣術・魔術成長編
第12話 三歩前進
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辛い……辛い……辛いよぉ……
俺はお母さんの部屋のベッドで横になっていた。
治癒魔法を何度も使ってみたが、全然効果は無く、むしろ、悪化してきた気がする。
エイミーとリューネはこんなに辛かったのか……
俺がまた眠りにつこうと思った時、コンコンっとドアをノックする音が聞こえた。
ノックしたあと「グラリス様。エイミーです。今大丈夫ですか?」と、エイミーの声がした。
「……はい……大丈夫だよ……」
喋ると胃からなにかが出てきそうだったが、頑張って答えると、「失礼します」と言ってドアを開け、水とお粥を木のトレイに乗せて届けに来てくれた。
「……ありがとう……エイミー……」
俺は気持ち悪いがお腹は空いていた。頑張って起き上がり、俺はエイミーにお粥を食べさせてもらった。
「グラリス様。昨日はありがとうございました。うつしちゃったみたいですね.....今日はゆっくり休んでください」
「エイミーは……もう……大丈夫?」
「はい! 私はもう抗体完成しました! リューネ様はまだ少し悪いようですが、かなり良くなっていましたよ」
昨日俺がベットまで運んだリューネはかなり重症だったらしく、数日前からかなり無理をしていたらしい。
俺が気付いていなかったらかなり危ないところだったかもしれない。良かった良かった。少しは見直して貰いたいよ。
「……そういえばリューネ様、グラリス様のこと心配してましたよ。うつしてしまったんじゃないかって」
リューネが俺の心配を!?!? 遂に家族として認められたのか……泣けてくる……
「……そうなのか……俺は大丈夫って伝えといてくれ……」
エイミーは、「分かりました。それでは失礼しますね」と言って立ち上がって俺に背を向けた。
俺は「エイミー! 手……握って……」と言おうと頑張ったが、なぜだか恥ずかしくて言い出せなかった。
エイミーが昨日の話を出さないあたりも、より俺の羞恥心をくすぐった。
俺は諦めて眠りにつくことにした。体調悪い時に寝ると怖い夢ばっかり見るからちょっと嫌だなぁ、と思いながらも案外あっさり眠りについてしまった。
──────
「た……す……けて……」
俺は今、落ちている。高い高いところから。俺は必死に助けを呼んだ。手を伸ばし、待ち続ける。
そこに一つの手がさしのべられた。
「大丈夫。グラリス」
それを言った人物はリューネだった──
……は! ……夢か……
俺は案の定、怖い夢を見ていた。でも、あんまりどんな夢かは覚えていない。
意識が戻ってきたくらいに俺はあることに気がついた。
俺の右手には柔らかく、すべすべしたなにかが握られていた。俺は何度か親指でスリスリした。
うん。触り心地満点。
俺は左を向いていた顔を右に向けた。目の前にいたのはリューネだった。
そして、右手に握られているのはリューネの手だった。俺が握っている訳ではなく、リューネが握ってくれていたのだ。
その時、俺とリューネの目が合う。
「……!! グ、グラ、リス!! あなた起きてたのね!」
リューネは頬を赤らめて恥ずかしそうに右手を離しながらそう叫んだ。
「違う。今起きたんだ」
俺はかなり楽になった身体を起こし、リューネの方を向いた。
リューネは頬をまだ赤らめ、そっぽを向いていた。
そして俺は気が付いたんだ。リューネが俺の名前を呼んだ事を!! これはチャンスだ!!
「リューネ。俺の手、握っててくれたのか?」
「……ちょっと……昨日のことについてお礼が言いたくて……でも……ノックしても反応無いから……ちょっと覗いて見たらあなた……グラリスが! なにかに怯えてるみたいだったから……」
リューネはうねうねしながらまとまらない話を続けた。
「き、昨日は! ありがとう……ベッドまで運んでくれて……手……握ってくれて……」
……げ……手握ってたのバレてたのか……?
「……いやぁ、別にそれはいいんだけど……リューネの方こそ起きてたのか……?」
「.........何か悪いことでも?」
「ごめん。悪くない」
急にいつものリューネに戻り、少し安心した。
初めて俺は名前を呼ばれた。グラリス、と。
「リューネだって昨日、凄い息荒らげて辛そうだったんだからな!!??」
「だからその件はありがとうって言ったじゃない!! グラリスだっていまさっき助けてとか言ってたじゃないの!」
「そ、そんなこと、言ってない……言ってたのか?」
「ええ、言ってたわよ?」
そんなしょうもない言い合いをしていると、なんだか俺たちは面白くなってしまい、二人して大爆笑してしまった。
これで少しは認めて貰えたかな……家族として。
俺は心のどこかでリューネとの関係性を不安として持っていたのかもしれない。
このまま仲良くなれなかったら、本当に俺の事を嫌っていたら。俺はもういっその事このままでいいんじゃないかとも思い始めていた。
リューネはどうして、俺が手を握っている時に何も言わなかったのだろう。
リューネはどうして、俺の手を握ってくれたのだろう。
リューネはどうして、グラリスと呼んでくれたのだろう。
俺には何も分からない。
でも、ひとつ分かったことがあるとしたなら、握ってくれたリューネの手は、とっても温かかった。
──────
俺はそれからもう一日ゆっくり寝て、完全復活を遂げた。
今の時間は8時半。いつもよりは少し遅いが体調は万全。気分も何故か知らんが上々!!
良い気分で階段を駆け下り、リビングのみんなに「おはようございます!」と両手をバンザイしながら挨拶をした。
そこには顔馴染みのある、お母さん、エイミー、リューネの姿があった。
いつもならここで「あなた、遅いわね」と罵られるところなのだが……
「グラリス。おはよう。体調はもう大丈夫そう?」
「お、おう。もう元気だよ!」
一番初めに声をかけてくれたのはリューネだった。
俺もいつもと違う状況に少し戸惑い気味に返事をしてしまった。申し訳ないリューネ殿。
リューネが俺の事をグラリスと呼んだのを聞き、お母さんとエイミーは驚いた表情をしながら「おはよう」「おはようございますグラリス様」と答えてくれた。
一昨日のリューネとの談笑は夢でも嘘でもなく、現実だ。
一歩、いや……三歩くらい前進したかな!!
「よーし! リューネ! エイミー! ご飯食べたら久しぶりに魔法の練習だ!!」
俺がそう言うと二人は、「グラリス様! もちろんです!」「うん!」と答えてくれた。
グラリス・バルコット、これにて完全復活だ!!
俺はお母さんの部屋のベッドで横になっていた。
治癒魔法を何度も使ってみたが、全然効果は無く、むしろ、悪化してきた気がする。
エイミーとリューネはこんなに辛かったのか……
俺がまた眠りにつこうと思った時、コンコンっとドアをノックする音が聞こえた。
ノックしたあと「グラリス様。エイミーです。今大丈夫ですか?」と、エイミーの声がした。
「……はい……大丈夫だよ……」
喋ると胃からなにかが出てきそうだったが、頑張って答えると、「失礼します」と言ってドアを開け、水とお粥を木のトレイに乗せて届けに来てくれた。
「……ありがとう……エイミー……」
俺は気持ち悪いがお腹は空いていた。頑張って起き上がり、俺はエイミーにお粥を食べさせてもらった。
「グラリス様。昨日はありがとうございました。うつしちゃったみたいですね.....今日はゆっくり休んでください」
「エイミーは……もう……大丈夫?」
「はい! 私はもう抗体完成しました! リューネ様はまだ少し悪いようですが、かなり良くなっていましたよ」
昨日俺がベットまで運んだリューネはかなり重症だったらしく、数日前からかなり無理をしていたらしい。
俺が気付いていなかったらかなり危ないところだったかもしれない。良かった良かった。少しは見直して貰いたいよ。
「……そういえばリューネ様、グラリス様のこと心配してましたよ。うつしてしまったんじゃないかって」
リューネが俺の心配を!?!? 遂に家族として認められたのか……泣けてくる……
「……そうなのか……俺は大丈夫って伝えといてくれ……」
エイミーは、「分かりました。それでは失礼しますね」と言って立ち上がって俺に背を向けた。
俺は「エイミー! 手……握って……」と言おうと頑張ったが、なぜだか恥ずかしくて言い出せなかった。
エイミーが昨日の話を出さないあたりも、より俺の羞恥心をくすぐった。
俺は諦めて眠りにつくことにした。体調悪い時に寝ると怖い夢ばっかり見るからちょっと嫌だなぁ、と思いながらも案外あっさり眠りについてしまった。
──────
「た……す……けて……」
俺は今、落ちている。高い高いところから。俺は必死に助けを呼んだ。手を伸ばし、待ち続ける。
そこに一つの手がさしのべられた。
「大丈夫。グラリス」
それを言った人物はリューネだった──
……は! ……夢か……
俺は案の定、怖い夢を見ていた。でも、あんまりどんな夢かは覚えていない。
意識が戻ってきたくらいに俺はあることに気がついた。
俺の右手には柔らかく、すべすべしたなにかが握られていた。俺は何度か親指でスリスリした。
うん。触り心地満点。
俺は左を向いていた顔を右に向けた。目の前にいたのはリューネだった。
そして、右手に握られているのはリューネの手だった。俺が握っている訳ではなく、リューネが握ってくれていたのだ。
その時、俺とリューネの目が合う。
「……!! グ、グラ、リス!! あなた起きてたのね!」
リューネは頬を赤らめて恥ずかしそうに右手を離しながらそう叫んだ。
「違う。今起きたんだ」
俺はかなり楽になった身体を起こし、リューネの方を向いた。
リューネは頬をまだ赤らめ、そっぽを向いていた。
そして俺は気が付いたんだ。リューネが俺の名前を呼んだ事を!! これはチャンスだ!!
「リューネ。俺の手、握っててくれたのか?」
「……ちょっと……昨日のことについてお礼が言いたくて……でも……ノックしても反応無いから……ちょっと覗いて見たらあなた……グラリスが! なにかに怯えてるみたいだったから……」
リューネはうねうねしながらまとまらない話を続けた。
「き、昨日は! ありがとう……ベッドまで運んでくれて……手……握ってくれて……」
……げ……手握ってたのバレてたのか……?
「……いやぁ、別にそれはいいんだけど……リューネの方こそ起きてたのか……?」
「.........何か悪いことでも?」
「ごめん。悪くない」
急にいつものリューネに戻り、少し安心した。
初めて俺は名前を呼ばれた。グラリス、と。
「リューネだって昨日、凄い息荒らげて辛そうだったんだからな!!??」
「だからその件はありがとうって言ったじゃない!! グラリスだっていまさっき助けてとか言ってたじゃないの!」
「そ、そんなこと、言ってない……言ってたのか?」
「ええ、言ってたわよ?」
そんなしょうもない言い合いをしていると、なんだか俺たちは面白くなってしまい、二人して大爆笑してしまった。
これで少しは認めて貰えたかな……家族として。
俺は心のどこかでリューネとの関係性を不安として持っていたのかもしれない。
このまま仲良くなれなかったら、本当に俺の事を嫌っていたら。俺はもういっその事このままでいいんじゃないかとも思い始めていた。
リューネはどうして、俺が手を握っている時に何も言わなかったのだろう。
リューネはどうして、俺の手を握ってくれたのだろう。
リューネはどうして、グラリスと呼んでくれたのだろう。
俺には何も分からない。
でも、ひとつ分かったことがあるとしたなら、握ってくれたリューネの手は、とっても温かかった。
──────
俺はそれからもう一日ゆっくり寝て、完全復活を遂げた。
今の時間は8時半。いつもよりは少し遅いが体調は万全。気分も何故か知らんが上々!!
良い気分で階段を駆け下り、リビングのみんなに「おはようございます!」と両手をバンザイしながら挨拶をした。
そこには顔馴染みのある、お母さん、エイミー、リューネの姿があった。
いつもならここで「あなた、遅いわね」と罵られるところなのだが……
「グラリス。おはよう。体調はもう大丈夫そう?」
「お、おう。もう元気だよ!」
一番初めに声をかけてくれたのはリューネだった。
俺もいつもと違う状況に少し戸惑い気味に返事をしてしまった。申し訳ないリューネ殿。
リューネが俺の事をグラリスと呼んだのを聞き、お母さんとエイミーは驚いた表情をしながら「おはよう」「おはようございますグラリス様」と答えてくれた。
一昨日のリューネとの談笑は夢でも嘘でもなく、現実だ。
一歩、いや……三歩くらい前進したかな!!
「よーし! リューネ! エイミー! ご飯食べたら久しぶりに魔法の練習だ!!」
俺がそう言うと二人は、「グラリス様! もちろんです!」「うん!」と答えてくれた。
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