地獄▶︎転生 もう地獄を見たくない俺はこっちの世界で最強を目指します

橋本 悠

文字の大きさ
上 下
13 / 29
第2章 少年期 剣術・魔術成長編

第12話 三歩前進

しおりを挟む
 辛い……辛い……辛いよぉ……

 俺はお母さんの部屋のベッドで横になっていた。
 治癒魔法を何度も使ってみたが、全然効果は無く、むしろ、悪化してきた気がする。

 エイミーとリューネはこんなに辛かったのか……

 俺がまた眠りにつこうと思った時、コンコンっとドアをノックする音が聞こえた。

 ノックしたあと「グラリス様。エイミーです。今大丈夫ですか?」と、エイミーの声がした。

「……はい……大丈夫だよ……」

 喋ると胃からなにかが出てきそうだったが、頑張って答えると、「失礼します」と言ってドアを開け、水とお粥を木のトレイに乗せて届けに来てくれた。

「……ありがとう……エイミー……」

 俺は気持ち悪いがお腹は空いていた。頑張って起き上がり、俺はエイミーにお粥を食べさせてもらった。

「グラリス様。昨日はありがとうございました。うつしちゃったみたいですね.....今日はゆっくり休んでください」

「エイミーは……もう……大丈夫?」

「はい!  私はもう抗体完成しました!  リューネ様はまだ少し悪いようですが、かなり良くなっていましたよ」

 昨日俺がベットまで運んだリューネはかなり重症だったらしく、数日前からかなり無理をしていたらしい。

 俺が気付いていなかったらかなり危ないところだったかもしれない。良かった良かった。少しは見直して貰いたいよ。

「……そういえばリューネ様、グラリス様のこと心配してましたよ。うつしてしまったんじゃないかって」

 リューネが俺の心配を!?!?  遂に家族として認められたのか……泣けてくる……

「……そうなのか……俺は大丈夫って伝えといてくれ……」

 エイミーは、「分かりました。それでは失礼しますね」と言って立ち上がって俺に背を向けた。

 俺は「エイミー!  手……握って……」と言おうと頑張ったが、なぜだか恥ずかしくて言い出せなかった。

 エイミーが昨日の話を出さないあたりも、より俺の羞恥心をくすぐった。

 俺は諦めて眠りにつくことにした。体調悪い時に寝ると怖い夢ばっかり見るからちょっと嫌だなぁ、と思いながらも案外あっさり眠りについてしまった。

──────

「た……す……けて……」

 俺は今、落ちている。高い高いところから。俺は必死に助けを呼んだ。手を伸ばし、待ち続ける。

 そこに一つの手がさしのべられた。

「大丈夫。グラリス」

 それを言った人物はリューネだった──

 ……は!  ……夢か……

 俺は案の定、怖い夢を見ていた。でも、あんまりどんな夢かは覚えていない。

 意識が戻ってきたくらいに俺はあることに気がついた。

 俺の右手には柔らかく、すべすべしたなにかが握られていた。俺は何度か親指でスリスリした。

 うん。触り心地満点。

 俺は左を向いていた顔を右に向けた。目の前にいたのはリューネだった。

 そして、右手に握られているのはリューネの手だった。俺が握っている訳ではなく、リューネが握ってくれていたのだ。

 その時、俺とリューネの目が合う。

「……!!  グ、グラ、リス!!  あなた起きてたのね!」

 リューネは頬を赤らめて恥ずかしそうに右手を離しながらそう叫んだ。

「違う。今起きたんだ」

 俺はかなり楽になった身体を起こし、リューネの方を向いた。

 リューネは頬をまだ赤らめ、そっぽを向いていた。
 そして俺は気が付いたんだ。リューネが俺の名前を呼んだ事を!!  これはチャンスだ!!

「リューネ。俺の手、握っててくれたのか?」

「……ちょっと……昨日のことについてお礼が言いたくて……でも……ノックしても反応無いから……ちょっと覗いて見たらあなた……グラリスが!  なにかに怯えてるみたいだったから……」

 リューネはうねうねしながらまとまらない話を続けた。

「き、昨日は!  ありがとう……ベッドまで運んでくれて……手……握ってくれて……」

 ……げ……手握ってたのバレてたのか……?

「……いやぁ、別にそれはいいんだけど……リューネの方こそ起きてたのか……?」

「.........何か悪いことでも?」

「ごめん。悪くない」

 急にいつものリューネに戻り、少し安心した。
 初めて俺は名前を呼ばれた。グラリス、と。

「リューネだって昨日、凄い息荒らげて辛そうだったんだからな!!??」

「だからその件はありがとうって言ったじゃない!!  グラリスだっていまさっき助けてとか言ってたじゃないの!」

「そ、そんなこと、言ってない……言ってたのか?」

「ええ、言ってたわよ?」

 そんなしょうもない言い合いをしていると、なんだか俺たちは面白くなってしまい、二人して大爆笑してしまった。

 これで少しは認めて貰えたかな……家族として。

 俺は心のどこかでリューネとの関係性を不安として持っていたのかもしれない。

 このまま仲良くなれなかったら、本当に俺の事を嫌っていたら。俺はもういっその事このままでいいんじゃないかとも思い始めていた。

 リューネはどうして、俺が手を握っている時に何も言わなかったのだろう。
 リューネはどうして、俺の手を握ってくれたのだろう。
 リューネはどうして、と呼んでくれたのだろう。

 俺には何も分からない。
 でも、ひとつ分かったことがあるとしたなら、握ってくれたリューネの手は、とっても温かかった。

──────

 俺はそれからもう一日ゆっくり寝て、完全復活を遂げた。

 今の時間は8時半。いつもよりは少し遅いが体調は万全。気分も何故か知らんが上々!!

 良い気分で階段を駆け下り、リビングのみんなに「おはようございます!」と両手をバンザイしながら挨拶をした。

 そこには顔馴染みのある、お母さん、エイミー、リューネの姿があった。

 いつもならここで「あなた、遅いわね」と罵られるところなのだが……

「グラリス。おはよう。体調はもう大丈夫そう?」

「お、おう。もう元気だよ!」

 一番初めに声をかけてくれたのはリューネだった。
 俺もいつもと違う状況に少し戸惑い気味に返事をしてしまった。申し訳ないリューネ殿。

 リューネが俺の事をグラリスと呼んだのを聞き、お母さんとエイミーは驚いた表情をしながら「おはよう」「おはようございますグラリス様」と答えてくれた。

 一昨日のリューネとの談笑は夢でも嘘でもなく、現実だ。
 一歩、いや……三歩くらい前進したかな!!

「よーし!  リューネ!  エイミー!  ご飯食べたら久しぶりに魔法の練習だ!!」

 俺がそう言うと二人は、「グラリス様!  もちろんです!」「うん!」と答えてくれた。

 グラリス・バルコット、これにて完全復活だ!!
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

強奪系触手おじさん

兎屋亀吉
ファンタジー
【肉棒術】という卑猥なスキルを授かってしまったゆえに皆の笑い者として40年間生きてきたおじさんは、ある日ダンジョンで気持ち悪い触手を拾う。後に【神の触腕】という寄生型の神器だと判明するそれは、その気持ち悪い見た目に反してとんでもない力を秘めていた。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

やさしい魔法と君のための物語。

雨色銀水
ファンタジー
これは森の魔法使いと子供の出会いから始まる、出会いと別れと再会の長い物語――。 ※第一部「君と過ごしたなもなき季節に」編あらすじ※ かつて罪を犯し、森に幽閉されていた魔法使いはある日、ひとりの子供を拾う。 ぼろぼろで小さな子供は、名前さえも持たず、ずっと長い間孤独に生きてきた。 孤独な魔法使いと幼い子供。二人は不器用ながらも少しずつ心の距離を縮めながら、絆を深めていく。 失ったものを埋めあうように、二人はいつしか家族のようなものになっていき――。 「ただ、抱きしめる。それだけのことができなかったんだ」 雪が溶けて、春が来たら。 また、出会えると信じている。 ※第二部「あなたに贈るシフソフィラ」編あらすじ※ 王国に仕える『魔法使い』は、ある日、宰相から一つの依頼を受ける。 魔法石の盗難事件――その事件の解決に向け、調査を始める魔法使いと騎士と弟子たち。 調査を続けていた魔法使いは、一つの結末にたどり着くのだが――。 「あなたが大好きですよ、誰よりもね」 結末の先に訪れる破滅と失われた絆。魔法使いはすべてを失い、物語はゼロに戻る。 ※第三部「魔法使いの掟とソフィラの願い」編あらすじ※ 魔法使いであった少年は罪を犯し、大切な人たちから離れて一つの村へとたどり着いていた。 そこで根を下ろし、時を過ごした少年は青年となり、ひとりの子供と出会う。 獣の耳としっぽを持つ、人ならざる姿の少女――幼い彼女を救うため、青年はかつての師と罪に向き合い、立ち向かっていく。 青年は自分の罪を乗り越え、先の未来をつかみ取れるのか――? 「生きる限り、忘れることなんかできない」 最後に訪れた再会は、奇跡のように涙を降らせる。 第四部「さよならを告げる風の彼方に」編 ヴィルヘルムと魔法使い、そしてかつての英雄『ギルベルト』に捧ぐ物語。 ※他サイトにも同時投稿しています。

クラス召喚に巻き込まれてしまいました…… ~隣のクラスがクラス召喚されたけど俺は別のクラスなのでお呼びじゃないみたいです~

はなとすず
ファンタジー
俺は佐藤 響(さとう ひびき)だ。今年、高校一年になって高校生活を楽しんでいる。 俺が通う高校はクラスが4クラスある。俺はその中で2組だ。高校には仲のいい友達もいないしもしかしたらこのままボッチかもしれない……コミュニケーション能力ゼロだからな。 ある日の昼休み……高校で事は起こった。 俺はたまたま、隣のクラス…1組に行くと突然教室の床に白く光る模様が現れ、その場にいた1組の生徒とたまたま教室にいた俺は異世界に召喚されてしまった。 しかも、召喚した人のは1組だけで違うクラスの俺はお呼びじゃないらしい。だから俺は、一人で異世界を旅することにした。 ……この物語は一人旅を楽しむ俺の物語……のはずなんだけどなぁ……色々、トラブルに巻き込まれながら俺は異世界生活を謳歌します!

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

処理中です...