地獄▶︎転生 もう地獄を見たくない俺はこっちの世界で最強を目指します

橋本 悠

文字の大きさ
上 下
4 / 29
第1章 幼年期

第4話 おねしょ

しおりを挟む
 こっちの世界に来てから約2年が経ち、俺も晴れて二歳になった。俺がこっちの世界に転生してきた時、俺が生後何カ月かは分かってないのだが、俺がダンジョンで見つかった日を誕生日として育てられてきた。

「グラリス、誕生日おめでとう」

「おめでとう、グラリス」

「おめでとうございます。グラリス様」

 子ども用のケーキが用意され、俺の誕生日パーティが始まった。

「ママすき。パパすき。えいみぃすき!」

 こんな感じに二歳にもなると二語文ではあるが話せるようになってきた。まだお母さん、お父さんなどはレベルが足りてなくまだ話せない。

 更には二足歩行も確立され始めた。まだ安定はしていないが小走りくらいはできるまで成長した。

 人ってこんなにすぐ成長するんだなぁ。物心着いて赤ちゃんを過ごすとかなりそう感じる。

 この二年間、大して変わった事はなかったが、一歳を過ぎた頃から寝る前に沢山本を読み聞かせてくれるようになった。

 あの日以来、興味本位で何度か書斎に出向いていたのだが、ある時、それがエイミーに見つかってしまった。

 お母さんに「本を読みたそうにしています!」と伝えられ、「うちの子は天才なのかしら」と、ありとあらゆる本を読んできてもらった。

 魔法の使い方や、それを使う為に必要な魔力の話。魔力は人それぞれで、多ければ多いほどより多くの、より強力な魔法が使う事ができる。

 人の魔力量は先天的な物と後天的な物もあり、生まれつき魔力量が多い人少ない人、使えば使う程沢山増える人そんなに増えない人、という感じに差が生まれるらしい。

 また、魔力には種類があって、火、水、風、雷、闇、地、などその他多くの属性があり、それを魔力属性と呼ぶらしい。その属性にちなんだ魔法が使えるのだとか。

 魔力属性は四歳になると発現するらしいからまぁ気長に待つとしよう。魔法が使えるなら俺は何属性でも大歓迎だ!

 でも魔力が発生しない場合もあるらしいからそこはちょっと怖い点ではある。

 その他にもこの世界は中央大陸、熱大陸、寒大陸の三つの大陸があるという事。俺が住んでいるのは一番生活のしやすい中央大陸だ。

 さらには力で世界を治め恐れられていた魔王が存在していたと言う事。ちなみにその魔王はある勇者によって300年前に殺されたらしい。 

 そして最後に、額に三日月のような宝石が埋まっている種族がいるらしい。

 そいつらに関わると食べられてしまうらしい。
 ……まぁこれに関してはあんまり信じて居ないけどな。

 他にも色んな事を本から学ぶ事ができた。毎晩読み聞かせしてくれてありがとうお母さんandエイミー。

「グラリス様!  どんどん食べてくださいね!」

 お母さんが作ったケーキは死ぬほど美味しかった。最近使えるようになったフォークをうまく使い、無我夢中にケーキを食べ進めた。
 こうして俺の誕生日パーティは幕を閉じた。

 ──────

 パンパン……パンパン……パンパン……

「よ、よぉ。遅かったじゃねぇか」

 やめろ……やめてくれ……もうやめてくれ!!

「ばぁ!?」

 夢……か……。
 最近あののような日々の夢を見るようになった。もう思い出したくもないあの悪夢のような人生。

 いじめもろくに対処せず手に負えないワルは無視。いじめを見てもただのじゃれ合いだと言って教室に返される。

 そしてクラスの人たちはありもしない噂をすぐに信じる。

 世の中良い人なんかほとんど居ない。少なからず俺の周りには……俺の……周り……か……。

 俺は小さい瞳から大量の涙が溢れ出てきた。わんわん泣いた。まるで子どものように。いや、見かけは子どもなのか。

 彼女の存在。1番大切で1番信頼していた彼女。
 正直、今どう考えたって何も起きないし、俺のためにもならない。

 でも……でも。いくら思い出しても辛かった。

 その涙は悲しさか虚しさか何かよくわからなかった。でもその涙は止まらなかった。

「グラリス様!   どうされたのですか!」

 泣き声に気付いたエイミーが俺のいる部屋まで駆けつけてくれた。

 俺はそれでも涙を止めることが出来なかった。子どもだからか、それとも……いや、考えるのはもうやめにしよう。

 でも。この傷はしっかり胸に刻んでおこう。
 俺が正しい方向に迎えるために。

 昔の俺を考えるのをやめた時、俺はあることに気が付いた。

「グラリス様……初めてのおねしょを!?!?」

 そうだ。あまりの悪夢に俺の小さな膀胱は緩み、おねしょしてしまっていた。

 寝ていたシーツには少し黄色かかったシミが俺の腰あたりから拡がっていた。

 見た目は子どもだが中身は高校生だ。
 おねしょというものには抵抗があった。

 だから今まで意識的にオムツにしか用を足したことはなかった。それはそれで辛いものがあるのだがな……。

 だが……おねしょをしない俺を見てお母さん達は寝る時のオムツを付けるのをつい最近やめたばかりであった。

「い、今すぐ着替えを用意しますので!  お待ちくださいグラリス様!」

 焦った様子のエイミーを見て涙が止んだ俺は急に恥ずかしさを覚えた。
 ……もう絶対におねしょはしない。
 そして……こっちの世界で俺は地獄を見ないで最強になる。

 今俺に出来ることは精一杯生きることだけだ。

 そう心に決めた二歳の俺なのであった。

 ──────

 初めてのおねしょから数ヶ月が経った。
 俺は数ヶ月で目覚しい成長をした。二語文が三語文に進化したし、安定して走ることもできるようになった。

「エイミー、はっぱ、ある」

 こんな感じに今ではエイミーを連れて外へ散歩に行くのが毎日の日課だ。やっとエイミーちゃんとお話が出来る。嬉しい限りだ。

 俺はさっき言った植物の方へ走っていったその時、

 ドテッ

 痛たたたた……。
 俺は小石につまずいて盛大に転んでしまった。

「グラリス様!  大丈夫ですか!」

 エイミーは心配そうに走ってこっちに向かってきた。
 擦りむいた膝を俺がさすっていると……あれ?
 さっきまで擦りむいていた膝がみるみる元の状態へと回復して行った。

 ……魔法か?   いやにしては早すぎる。聞いた話によれば四歳頃からって話だったからな。まさかの2歳半で魔力獲得!!  的な?  最強までもしかしてすぐなのか?  
 はははまさか……なんて考えていると

 ドテッ!

 俺が転んだ時よりも盛大に転んだ音が聞こえた。音が聞こえる方に顔を向けると……まぁ、思った通りだ。

「いてててて……グラリス様はご無事でしょうか……」

 だから自分の心配を先にしなさい!  
 俺がこの家に来てからエイミーにはとてもお世話になっている。エイミー自身もかなり成長しているのが見て取れていた。だがこのドジな性格は治らないようだ。

「だいじょうぶ!  えいみぃ、だいじょうぶ?」

「……は、はい!  私は大丈夫です!」

 そう言ってエイミーはメイド服に付いた砂を払いこちらにまた向かってきた。
 俺はまだ背が低く、しかも今はお尻を着いて座っている。さらに俺は今まだ二歳半。何をしても許される時……!

 歩み寄ってくるエイミーのゆらゆら揺れるスカートの中にすかさず視線を向けた。……白だ。それだけでも大きな収穫だ。

 ニヤけるのを我慢しエイミーの手を借り、立ち上がった。俺の目線はちょうどエイミーの膝辺りに来るのだが、エイミーの膝からさっき転んだ怪我だろうか、かなり擦りむけ、血が出ていた。

「えいみぃ、けが、してる」

 俺がそう伝えると「大丈夫です!」と言って俺の頭を撫でてくれた。

「それにしてもグラリス様はお若いのに全然泣きませんね。これも天才だからでしょうか……」

 そんなこと言ってるエイミーを横目に俺はエイミーの傷口に手を当てた。すると小さく輝き、瞬く間に傷口が塞がり、出血も止まった。

 それに気が付いたエイミーは元傷口を何度も触り驚いたようにこっちを見てきた。

「……グラリス様……。やっぱりあなたは天才です!!  帰ったらすぐ報告しましょう!!」

 何だかこれから凄いことになりそうだ。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

強奪系触手おじさん

兎屋亀吉
ファンタジー
【肉棒術】という卑猥なスキルを授かってしまったゆえに皆の笑い者として40年間生きてきたおじさんは、ある日ダンジョンで気持ち悪い触手を拾う。後に【神の触腕】という寄生型の神器だと判明するそれは、その気持ち悪い見た目に反してとんでもない力を秘めていた。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

やさしい魔法と君のための物語。

雨色銀水
ファンタジー
これは森の魔法使いと子供の出会いから始まる、出会いと別れと再会の長い物語――。 ※第一部「君と過ごしたなもなき季節に」編あらすじ※ かつて罪を犯し、森に幽閉されていた魔法使いはある日、ひとりの子供を拾う。 ぼろぼろで小さな子供は、名前さえも持たず、ずっと長い間孤独に生きてきた。 孤独な魔法使いと幼い子供。二人は不器用ながらも少しずつ心の距離を縮めながら、絆を深めていく。 失ったものを埋めあうように、二人はいつしか家族のようなものになっていき――。 「ただ、抱きしめる。それだけのことができなかったんだ」 雪が溶けて、春が来たら。 また、出会えると信じている。 ※第二部「あなたに贈るシフソフィラ」編あらすじ※ 王国に仕える『魔法使い』は、ある日、宰相から一つの依頼を受ける。 魔法石の盗難事件――その事件の解決に向け、調査を始める魔法使いと騎士と弟子たち。 調査を続けていた魔法使いは、一つの結末にたどり着くのだが――。 「あなたが大好きですよ、誰よりもね」 結末の先に訪れる破滅と失われた絆。魔法使いはすべてを失い、物語はゼロに戻る。 ※第三部「魔法使いの掟とソフィラの願い」編あらすじ※ 魔法使いであった少年は罪を犯し、大切な人たちから離れて一つの村へとたどり着いていた。 そこで根を下ろし、時を過ごした少年は青年となり、ひとりの子供と出会う。 獣の耳としっぽを持つ、人ならざる姿の少女――幼い彼女を救うため、青年はかつての師と罪に向き合い、立ち向かっていく。 青年は自分の罪を乗り越え、先の未来をつかみ取れるのか――? 「生きる限り、忘れることなんかできない」 最後に訪れた再会は、奇跡のように涙を降らせる。 第四部「さよならを告げる風の彼方に」編 ヴィルヘルムと魔法使い、そしてかつての英雄『ギルベルト』に捧ぐ物語。 ※他サイトにも同時投稿しています。

クラス召喚に巻き込まれてしまいました…… ~隣のクラスがクラス召喚されたけど俺は別のクラスなのでお呼びじゃないみたいです~

はなとすず
ファンタジー
俺は佐藤 響(さとう ひびき)だ。今年、高校一年になって高校生活を楽しんでいる。 俺が通う高校はクラスが4クラスある。俺はその中で2組だ。高校には仲のいい友達もいないしもしかしたらこのままボッチかもしれない……コミュニケーション能力ゼロだからな。 ある日の昼休み……高校で事は起こった。 俺はたまたま、隣のクラス…1組に行くと突然教室の床に白く光る模様が現れ、その場にいた1組の生徒とたまたま教室にいた俺は異世界に召喚されてしまった。 しかも、召喚した人のは1組だけで違うクラスの俺はお呼びじゃないらしい。だから俺は、一人で異世界を旅することにした。 ……この物語は一人旅を楽しむ俺の物語……のはずなんだけどなぁ……色々、トラブルに巻き込まれながら俺は異世界生活を謳歌します!

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

処理中です...