上 下
1 / 29
プロローグ

第1話 目覚め

しおりを挟む
 真下にはあの忌々しい体育館倉庫が見える。

 俺のやってる事は最低で最悪だ。だから死んで全部終わらせる。周りに迷惑かけるのは申し訳ないけどもうこれで最後だから。

「おい!  何してる!  危ないから早く中に入りなさい!」

 いじめを見て見ぬふりをする教師たち。そんな彼らの声なんて俺の耳には届きもしなかった。

 俺は頭を下に向け地面へと向かった。
 こんな地獄……さっさと……

「痛.....」

 痛い。と言う暇もなく俺は頭から体育館倉庫の前に落ち、ぐちゃぐちゃになって死んだ。

 ──────

 あれ……?  ここは?

 俺は学校の屋上から飛び降りたあと白い光に包まれて気を失った。目覚めるはずない俺は今、目覚めてしまった。

 当たりを見渡すとRPGのような洞窟の中にいた。前方に分かれ道が2つあり、後ろを振り向くと青白く光る大きな宝石の塊のようなものがあった。

 なんだこれとその宝石の方へと何も考えずに近付いてみると、宝石に反射した俺の顔……と言うか全身が映し出された。

「ばぁぶぅぅぅぅう!!??」

 なんだこれ!!??  と言いたかったのだが俺は赤ん坊のような声しか出すことが出来なかった。

 今になって気がついたが、俺は四つん這いでさらに服を着ていなかった。急に恥ずかしい気持ちになる。

 どういうことだ?

 俺はおしりを付き、両手で自分のほっぺたを触りながら考えた。首はギリすわっている。

 走馬灯?  いやいや俺はこんな場面見たことがない。
 もしかして死んだのも夢でこれもまた夢?

 いやそんなことも無いはずだ。確実に俺は学校の屋上から飛び降りた。

 じゃこれって一体……

 色んなことをこの小さな赤ちゃんフォルムで考えていると、後ろから足音がした。

 四つん這いになり後ろを振り返って見ると、剣を持った男3人に魔法の杖のようなものを持った女が1人、こちらに向かって歩いてきた。

「ねぇあれ。赤ちゃんじゃない?」

 女が俺を指さしそう言った。すると1人の男が優しそうな顔をしながら、小走りでこちらに向かって来る。

 俺の目の前まで来ると男は俺を抱き抱え仲間の元へと戻った。

「最近赤子を育てられない人達がダンジョン内に捨てていくって噂本当だったのか」

「有り得ねぇとは思ってたけど本当みたいだなぁ。まだ生まれてまもないこんなちっさい子どもをよ」

 4人は俺をどうするか話し合いを始めた。その話し合いは意外とあっさり解決したようで、

「よし。俺が引き取るよ。こいつを俺が最強の息子にしてやる」

 初めに俺を抱き抱えてくれた男がそう言い放った。なんだか分からないがとりあえずいい人そうだ。

 そんなこんなで俺はこの男に引き取られることになった。

 ──────

 俺は引き取ってくれた男の家へと連れて行かれた。男の名前はグラディウス・バルコット。妻のラミリス・バルコットとメイドのエイミーの3人で暮らしているらしい。

 妻のラミリスはあまり身体が優れておらず、メイドを雇っているらしい。そのせいで子どもも授かることが出来ず、俺を引き取ったということだ。

「いないない……ばぁ!」

「ダメよあなた。こうやってするのよ。いないない……ばぁ!!」

「えははは!!」

「ほーら笑った!」

 赤子を演じるのは難しいものだ。これは夢なのか現実なのか。

「は、初めての子育てだからな。グラリス。お前はもう大切な家族だ!」

 そう言って俺はグラディウス、いや、お父さんに脇を持って抱えられて高く掲げられた。

 俺の名前はグラリスと付けられた。お母さんのラミリス、お父さんのグラディウスの文字をとって付けたらしい。グラリス・バルコット。俺はこれからそう名乗っていくらしいのだ。

 薄々気が付いてきた。俺はおそらく……
 ───異世界転生してしまったのだ。

 そう、いわゆる漫画とかラノベとかによくあるやつだ。

 もうこれは夢じゃない。こっちの世界に来て3日は経った。未だに信じられないが普通に生活している。

 いいじゃないか。とってもいいじゃないか。二度目の人生だ。二回目くらいは地獄見なくてもいいよな……いや……もう見てたまるか。こっちの世界で……最強になってやる!!

 小さいながらも俺はぎゅっ、と拳を握りしめた。

 ──────

 ある日のこと。お父さんは勇者パーティのリーダーを務めている。いつものようにお父さんはお金を稼ぐためにダンジョンに向かって家を出ていった。お母さんは部屋で本を読んでいた。

 俺は家の探索をしていた。まだまだ分からないことばかりだからな。

 お昼前の午前中。俺はキッチンの方へと四つん這いで探索をしていた。

 すると、ぺちゃぺちゃとなにか液体のようなものを触った気がした。なんだこれと見つめていると、

「あわわわわ、すみませんグラリス様~~!」

 慌てた様子で雑巾を持ってメイドのエイミーが走ってこっちに向かってきた。だが……

 ドンッ!!!

 エイミーは自分がこぼした液体に足を滑らせ盛大に転んでしまった。

「いてててて……」

 ぶつけた腰を擦りながら頑張って俺の方に向かい抱き抱えてくれた。

「お怪我はありませんかグラリス様」

 俺の心配する前に自分の心配をしてくれエイミーよ。

 そう。メイドエイミーはドジなのである。

 エイミーは言葉の話せない俺によく話しかけてきてくれる。エイミーはまだメイド試験とやらを受かったばかりで、バルコット家が初めての勤め先らしい。毎日毎日失敗をして俺に嘆いているのだ。

 俺は「ばぁぶはぁぶ」と答え、ベイビースマイルでにひひと笑った。俺の顔を見てエイミーは、ほっとするかのようにため息をついた。

 エイミーもなかなか美しい顔立ちをしている。美しいと言うよりかは可愛いと言うべきか。

「あらエイミー。大丈夫?  ものすごい音がしたけど」

 エイミーが転けた音で2階からお母さんが心配して降りてきた。

「は、はい……ラミリス様……申し訳ございません!  ラミリス様がお食事を作る時なんか楽にならないかなーと色々と片付けやら準備やらをしていたらあのー油をこぼしてしまって……申し訳ございません!」

 焦りすぎて2回謝ったよな。

 .....てかこれ油なのかよ!  落とすのにかなりの時間がかかるぞ……

 エイミーの謝罪を聞いてお母さんは一瞬ぽかんとしていたが「うふふ」と笑って

「大丈夫よエイミー。油はなかなか落ちないから着替えたらしっかり拭くのよ!  その間に私はグラリスをお風呂に入れてしまうから」

 お母さんはにっこり笑って優しく受け答え「申し訳ございません……」と何度も言うエイミーから俺を受け取った。

 なんていい家族なのだろう。一緒に過ごしていて凄い幸せを感じることが出来ている。

 そして俺も今、小さいながら幸せだ。

━━━━━━━━━━━━━━

あとがき
皆さん、地獄転生を見つけて頂きありがとうございます!!

こちらの作品は以前投稿させて頂いていたものを改変し投稿し直すことにしたものです!

応援よろしくお願いします!!
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

姫騎士様と二人旅、何も起きないはずもなく……

踊りまんぼう
ファンタジー
主人公であるセイは異世界転生者であるが、地味な生活を送っていた。 そんな中、昔パーティを組んだことのある仲間に誘われてとある依頼に参加したのだが……。 *表題の二人旅は第09話からです (カクヨム、小説家になろうでも公開中です)

転生した体のスペックがチート

モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。 目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい このサイトでは10話まで投稿しています。 続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

異世界転生漫遊記

しょう
ファンタジー
ブラック企業で働いていた主人公は 体を壊し亡くなってしまった。 それを哀れんだ神の手によって 主人公は異世界に転生することに 前世の失敗を繰り返さないように 今度は自由に楽しく生きていこうと 決める 主人公が転生した世界は 魔物が闊歩する世界! それを知った主人公は幼い頃から 努力し続け、剣と魔法を習得する! 初めての作品です! よろしくお願いします! 感想よろしくお願いします!

これダメなクラス召喚だわ!物を掌握するチートスキルで自由気ままな異世界旅

聖斗煉
ファンタジー
クラス全体で異世界に呼び出された高校生の主人公が魔王軍と戦うように懇願される。しかし、主人公にはしょっぱい能力しか与えられなかった。ところがである。実は能力は騙されて弱いものと思い込まされていた。ダンジョンに閉じ込められて死にかけたときに、本当は物を掌握するスキルだったことを知るーー。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

処理中です...