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第2章
第28話 誕生日と入学祝い
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獣の討伐後、俺はお母さんを抱え、お父さんと家に帰った。
「お母さん……もう大丈夫なの?」
「えぇ。大丈夫よ」
これは、ダンジョンで獣を討伐した日の夜のこと。無事、家に帰ることが出来た俺と2人だったが、お母さんは魔力の使いすぎで、1時間ほど意識がなかった。
「母さん無理するなよ。バッドの誕生日と入学祝いも明日でいいんじゃないのか?」
その時、フラフラと歩くお母さんは「そうね……そうしましょ」と部屋へと戻って行った。
俺は見事、最悪を回避することが出来た。でも、おれ一人じゃ何も出来なかった。
お父さんとお母さんが居なかったら、俺もモンスターに食われていたかもしれない。
「なぁ、バッド」
「どうしたの? お父さん」
少し暗い雰囲気を出しながら、話しかけてきたお父さん。でも、その表情は安堵であった。
「今日は……ありがとな。あと、すまなかった」
「なんで謝るの?」
「父さんの力不足でお前を危ない目に遭わせてしまったし……」
「でも、生きてるからいいじゃん!」
俺はお父さんに飛びついた。そして、ギュッ、と抱きしめた。
いつぶりだろうか、お父さんにこうやって抱きついたのは。
お父さんが震えてるのが伝わる。きっと、色々と思い詰めていたのだろう。
「そうだな……そうだよな……本当に皆……生きてて……良かった……!」
お父さんの涙につられて、俺の目からも涙が零れた。
あのレベルのモンスターは対峙した事無かったという。いつもと雰囲気が違ったと。
シュナを助けた時もそうだった。最近のモンスターは魔力量も知性も段違いだ。
人は魔力を使えば使う程、個人差はあるが増えると言われている。
モンスターもそうなのだろうか。
生前、俺が戦ってきたモンスターも魔力量と知性の高い奴らは多かった。
……もっと強くならなきゃ。守れるものも守れない。
でも……今は喜ぼう。大切な人が生きているのだから。
──────
「さぁ! 今日はバッドのお祝いの日よ~!」
翌日。俺の誕生日と入学祝いが始まった。
食卓には豪華な食事がズラっと並び、今にもヨダレが爆発しそうだった。
「バッド、今日は沢山食えよ! 母さんのフルコースだ」
「うん……! いただきます!」
俺と2人は、夕飯を食べ始めた。これは俺が経験したことの無い、あるはずではなかった景色。
「バッド!? どうしたの!?」
「美味しすぎて……涙が止まらないんだ……」
俺の感情は制御できていなかった。
死に戻りしてから、あまり何も考えず生活をしてきた。
お母さん達を助けなきゃ、とかは毎日思っていた。
でも、いざ目の前に生きている2人がいるとなると。こんなに嬉しいことは無かった。
「あら……そんなに美味しかったの? それは嬉しいわ!」
「うん……! 美味しいよ……!」
「はははは! バッドも素直になったな」
未来は変えられる。最悪な結末も。俺のやることは決まった。
ゴスイに入学して、いじめなんて受けず魔法科卒業して、ケイトとまた出会って……結婚して。
そして、もう、誰も辛い思いはさせない。俺は未来を知っているんだ。
神様がくれたチャンスなんだ。
俺だけが……俺だけが! だから……今だけは楽しもう。
俺は今日という初めての日を最高に楽しんだ。
食卓も片付き、お祝いが終了しようとしていたその頃だ。
「バッド。お母さんとお父さんからあなたにプレゼントがあるの」
「プレゼント……?」
すると、お母さんは部屋からある小さい箱を持ってきた。
静かに見守るお父さんと目を合わせたお母さんは、その箱を俺に渡した。
「開けてもいい?」
2人は笑顔で頷いた。
小さな箱を開けると、指輪が入っていた。
「これって……」
「魔法指輪だ」
「魔法指輪って……なに?」
「それは魔法とか魔力の放出を手助けしてくれる指輪よ。多分だけど、放出だけじゃなくて昨日のバッドみたいな魔力の使い方もしやすくなると思う」
「んで、これは父さんと母さんが特注したもんだ。俺たちの魔力も少し入ってる」
「って事は……」
「いつでもお前を見守って、守ってやるってことだ」
俺は涙を我慢しながら、その指輪をはめた。
はめた瞬間、魔力が身体の中に入ってくる感じがした。お父さんとお母さんの魔力だ。
試しに手に魔力を集めてみる。
……凄い、放出されないし、あの獣みたいに留まってる。
「お母さん……お父さん……ありがとう! 一生大切にする!!」
俺の両親は微笑んだ。そして、自然と俺も笑っていた。涙なんて流す余裕はなかった。
それほど、両親からのプレゼントは嬉しかった。
──────
その日の夜。俺の部屋でのこと。
「俺がこれからすべきことは……」
まずはいじめ問題だ。俺が虐められる理由は簡単で、魔法が使えないからだ。
恐らく、生前の調子で行けば、今年のゴスイの魔法科は10人もいない。かなり、珍しい学年だ。
その中で俺をいじめたやつは一人しかいなかった。でも、周りも俺と仲良くしてはくれなかった。
まぁ、それもそうだろう。いじめられっ子と仲良くしようとする人なんていない。誰も悪くないんだ。
正直、どんないじめをされて、どんなに嫌だったかは覚えていない。
「とりあえず魔法……か」
なんだかんだ俺はまだ、魔法を使ったことは無い。魔力の使い方だけ上手くなっていく一方で、魔法はダメダメだ。
15歳の目標はまず魔法だな。
それから頑張って卒業して……
「ケイト……会えるかな」
今日ももう疲れた。早く寝て明日はストローグさんとシュナのところにでも行こう。
俺は少し早めの就寝をした。
次回、第2章最終話
「お母さん……もう大丈夫なの?」
「えぇ。大丈夫よ」
これは、ダンジョンで獣を討伐した日の夜のこと。無事、家に帰ることが出来た俺と2人だったが、お母さんは魔力の使いすぎで、1時間ほど意識がなかった。
「母さん無理するなよ。バッドの誕生日と入学祝いも明日でいいんじゃないのか?」
その時、フラフラと歩くお母さんは「そうね……そうしましょ」と部屋へと戻って行った。
俺は見事、最悪を回避することが出来た。でも、おれ一人じゃ何も出来なかった。
お父さんとお母さんが居なかったら、俺もモンスターに食われていたかもしれない。
「なぁ、バッド」
「どうしたの? お父さん」
少し暗い雰囲気を出しながら、話しかけてきたお父さん。でも、その表情は安堵であった。
「今日は……ありがとな。あと、すまなかった」
「なんで謝るの?」
「父さんの力不足でお前を危ない目に遭わせてしまったし……」
「でも、生きてるからいいじゃん!」
俺はお父さんに飛びついた。そして、ギュッ、と抱きしめた。
いつぶりだろうか、お父さんにこうやって抱きついたのは。
お父さんが震えてるのが伝わる。きっと、色々と思い詰めていたのだろう。
「そうだな……そうだよな……本当に皆……生きてて……良かった……!」
お父さんの涙につられて、俺の目からも涙が零れた。
あのレベルのモンスターは対峙した事無かったという。いつもと雰囲気が違ったと。
シュナを助けた時もそうだった。最近のモンスターは魔力量も知性も段違いだ。
人は魔力を使えば使う程、個人差はあるが増えると言われている。
モンスターもそうなのだろうか。
生前、俺が戦ってきたモンスターも魔力量と知性の高い奴らは多かった。
……もっと強くならなきゃ。守れるものも守れない。
でも……今は喜ぼう。大切な人が生きているのだから。
──────
「さぁ! 今日はバッドのお祝いの日よ~!」
翌日。俺の誕生日と入学祝いが始まった。
食卓には豪華な食事がズラっと並び、今にもヨダレが爆発しそうだった。
「バッド、今日は沢山食えよ! 母さんのフルコースだ」
「うん……! いただきます!」
俺と2人は、夕飯を食べ始めた。これは俺が経験したことの無い、あるはずではなかった景色。
「バッド!? どうしたの!?」
「美味しすぎて……涙が止まらないんだ……」
俺の感情は制御できていなかった。
死に戻りしてから、あまり何も考えず生活をしてきた。
お母さん達を助けなきゃ、とかは毎日思っていた。
でも、いざ目の前に生きている2人がいるとなると。こんなに嬉しいことは無かった。
「あら……そんなに美味しかったの? それは嬉しいわ!」
「うん……! 美味しいよ……!」
「はははは! バッドも素直になったな」
未来は変えられる。最悪な結末も。俺のやることは決まった。
ゴスイに入学して、いじめなんて受けず魔法科卒業して、ケイトとまた出会って……結婚して。
そして、もう、誰も辛い思いはさせない。俺は未来を知っているんだ。
神様がくれたチャンスなんだ。
俺だけが……俺だけが! だから……今だけは楽しもう。
俺は今日という初めての日を最高に楽しんだ。
食卓も片付き、お祝いが終了しようとしていたその頃だ。
「バッド。お母さんとお父さんからあなたにプレゼントがあるの」
「プレゼント……?」
すると、お母さんは部屋からある小さい箱を持ってきた。
静かに見守るお父さんと目を合わせたお母さんは、その箱を俺に渡した。
「開けてもいい?」
2人は笑顔で頷いた。
小さな箱を開けると、指輪が入っていた。
「これって……」
「魔法指輪だ」
「魔法指輪って……なに?」
「それは魔法とか魔力の放出を手助けしてくれる指輪よ。多分だけど、放出だけじゃなくて昨日のバッドみたいな魔力の使い方もしやすくなると思う」
「んで、これは父さんと母さんが特注したもんだ。俺たちの魔力も少し入ってる」
「って事は……」
「いつでもお前を見守って、守ってやるってことだ」
俺は涙を我慢しながら、その指輪をはめた。
はめた瞬間、魔力が身体の中に入ってくる感じがした。お父さんとお母さんの魔力だ。
試しに手に魔力を集めてみる。
……凄い、放出されないし、あの獣みたいに留まってる。
「お母さん……お父さん……ありがとう! 一生大切にする!!」
俺の両親は微笑んだ。そして、自然と俺も笑っていた。涙なんて流す余裕はなかった。
それほど、両親からのプレゼントは嬉しかった。
──────
その日の夜。俺の部屋でのこと。
「俺がこれからすべきことは……」
まずはいじめ問題だ。俺が虐められる理由は簡単で、魔法が使えないからだ。
恐らく、生前の調子で行けば、今年のゴスイの魔法科は10人もいない。かなり、珍しい学年だ。
その中で俺をいじめたやつは一人しかいなかった。でも、周りも俺と仲良くしてはくれなかった。
まぁ、それもそうだろう。いじめられっ子と仲良くしようとする人なんていない。誰も悪くないんだ。
正直、どんないじめをされて、どんなに嫌だったかは覚えていない。
「とりあえず魔法……か」
なんだかんだ俺はまだ、魔法を使ったことは無い。魔力の使い方だけ上手くなっていく一方で、魔法はダメダメだ。
15歳の目標はまず魔法だな。
それから頑張って卒業して……
「ケイト……会えるかな」
今日ももう疲れた。早く寝て明日はストローグさんとシュナのところにでも行こう。
俺は少し早めの就寝をした。
次回、第2章最終話
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