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第2章

第20話 戦いのその後

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「勝った……のか……?」

 ゴブリンから吹き出した青黒い血を浴びた俺は、その場に立ち尽くしていた。

 剣を持っている右手がジリジリと痺れる。
 眉間から真っ二つに切り裂かれたゴブリンは目の前に倒れていた。

 ……久しぶりに死体見たな。もう慣れちまったと思ってたけど……そうでも無いみたいだ。

 シュナさんを外に連れていかなきゃ。あと、ストローグさんは大丈夫かな。

 いや、きっと大丈夫だ。ストローグさんは強い。俺が心配していいような人じゃ……あれ?

 シュナさんが倒れているところに1歩踏み出そうとした時だ。足が動かない。と、言うよりも動かした瞬間倒れてしまいそうだった。

 やばい……後先考えず魔力使っちまった……倒れる……いや、倒れるな……!

 フラフラとシュナさんの所へと向かう。
 ほんの数メートル。その数メートルが何百メートルかと思えるくらい、視界は歪んでいた。

 くっそ!  馬鹿野郎!  何回目だよこの馬鹿野郎!!

 目の前の敵を倒すことで精一杯になってた俺は、完全にキャパオーバーしてしまっていた。

 せめて……彼女を……外に……!

 1歩1歩俺は進んだ。何分経っただろうか。やっとの思いでシュナさんの目の前まで辿り着いた。

 視界はまだ揺らぐ。

 外に……連れていかなきゃ……

 俺が屈み、シュナさんを持ち上げようとしたその時だった。

 トンっ

「わ、わぁ……」

「おつかれさん」

 その声を聞いた瞬間、安心したのか、本能的に気を失ってしまった。

 ──────

「……わっ!!!」

 俺は飛び起きた。やばいやばい……どれくらい寝てたんだ……

「おぉ。意外と起きるの早かったな」

 そこには身体中に包帯を巻いたストローグさんがいた。

 そして、ここはストローグさんの家のベッドであった。服を貸した俺は、ブカブカのストローグさんの服を着させられていた。

「ストローグさん……ってか、大丈夫ですか!?」

「俺の心配なんてすんなバカ。お前の方こそ動けんのか」

 俺は手足を動かし、寝ていたベッドから出て立ち上がった。

「意外と行けますね……」

「なら良かった。んで、お前。あの力使ったのか?」

「は、はい……」

 ストローグさんはソファから立ち上がり、こちらに無言で近づいてきた。

 ごめんなさいごめんなさい!  元気だからって殴るのは……

「……!」

「アホ! ビビりすぎだ」

 ストローグさんの手は、俺の頭をわしゃわしゃと撫でていた。

「……よくやった。シュナちゃんは村長さんの治癒魔法のおかげで、安静にすれば命に別状は無いみたいだぞ」

「よかった……!」

 もし、あの時、ストローグさんが間に合っていなかったら。恐らく俺とシュナさんの命はなかっただろう。

 そして、この人がここまで強くなかったら。みんな死んでいただろう。

「でも、もっと使い方を考えろ。出し惜しみしなさすぎだ。魔力ゼロだったぞ」

「すいません……」

「今後も俺の前以外では使うの禁止だ。いいな?」

「はい……」

 コンコン

「ストローグよ。入るぞ」

「あ、村長さん。どうぞ」

 村長が玄関のドアを開け、中に入ってきた。
 俺は小さく会釈をし、会話を始めた。

「今回の件は本当に助かったぞ。ストローグ、バッド。ありがとう」

 俺の名前覚えてる……意外と出来てる人なんだな……

「いえいえ、シュナさんを助けたのは彼なんで。俺は簡単なモンスター討伐しただけっすよ」

「ほっほっほっ。わしが頼んだのはモンスター討伐だけじゃよ。にしても、その怪我もう一度見せろ。魔法かけ直しとくからのう」

 そう言われたストローグさんは、包帯をクルクルと解き始めた。

 包帯が解かれれば解かれるほど、俺は目を疑った。

「……血?」

 包帯が真っ赤に染っていた。ストローグさんの血で。

「ストローグさん!  本当に……大丈夫なんですか!?」

「あーうるさいって!  久しぶりにあのレベルのモンスターと対峙したから身体がなまってたんだよ」

 包帯が全て解けると、肩や腕、胸からお腹にかけてなど、たくさんの傷跡があった。

「ほれ、こっちに来い」

 ストローグさんは村長さんの所へと歩いていき、治癒魔法を受けた。

 村長さんが伸ばした両手から、小さい光が傷跡に入り込み、血がみるみるうちに止まっていく。

 そういえば、ケイトに治してもらった時もこんな感じだったな。

「ほれ、もう大丈夫そうじゃ。2回魔法かけてるから安静にしとけば傷口はもう開かん」

「ありがとうございます村長さん」

「じゃ、わしはもう行くぞい。今回は本当に2人ともありがとうな」

「い、いえ!  俺の方こそ……足でまといになっちゃってて……ストローグさんにも負担かけちゃって……俺……もっと強くなります!!」

「ほっほっほっ。そんなこと聞いてないぞ?  あと、リュナの所に顔だしてからかえってやれ。お礼がしたいと」

 リュナさんとは確か、シュナさんのお母さんだ。

「そういうことなら、俺がこいつ家まで届けるんでその途中にでも」

「ほな」

 そう言って村長さんは家を出ていった。

「家までなんて……大丈夫ですよ?」

「いーやだめだ。俺がお前を連れてって危険な目に遭わせてんだ。少しくらい話させろ」

 ストローグさんは意外としっかりしてる人なのかもしれない。なんだか勘違いしてたな。

「バッド。歩けるか?」

「はい。大丈夫です」

「そりゃそうだよ。村長さんがお前もさっき治癒してたんだからな。ははははは!」

「そ、そんな笑わなくてもいいじゃないですか!」

 俺はストローグさんのところまで走っていき、傷跡を殴るふりをした。

「ちょ、お前あぶねぇだろ!!」

「今の俺は……負けませんよ……!」

「うるせぇ。行くぞ」

 ポコン、と頭をぶたれた俺は、首根っこを掴まれ、外へと運ばれた。
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