上 下
16 / 49
第1章

第14話 嘆き

しおりを挟む
「ケイト!!  お前……!!!!」

 お父さんが怒鳴り散らかす。この時はもう俺も止める気力はなかった。

 理由は簡単。ケイトが加害者だからだ。そして、お父さんたちは今は被害者だ。

 重たい空気が流れる。
 すると、ケイトが泣きながら口を開く。

「いつもお前お前って……何様なの!!」

 ケイトの逆ギレだった。初めての事だったのか、お父さんも少し驚いた表情で静まり返る。

 ケイトの嘆きは続く。

「お父さんはほとんど家に居ないくせに……帰ってきたと思ったらお母さんに暴力ふるって……知らない女とえっちばっかして!  私の知らないところでたくさん子ども作って……!  血筋があるのはお母さん。お父さんがどれだけ知らない子ども作ったて跡継ぎにはならないのに……!」

 最悪だ。聞けば聞くほど最悪な父親だ。
 俺は膝から崩れ落ちたケイトに寄り添い、何も言わず背中を摩った。

「お母さんが妊娠できないって分かった途端このザマ……仕舞いにはどっかの知らない貴族の息子と私をやらせて……そんなに権力が大事なの?  跡継ぎは必要なの?」

 纏まらない話を、感情を吐き出すケイト。
 あの時の涙の理由がやっとわかった気がした。あの、俺の部屋での。

 彼女の嘆きは終わらない。

「でも……私はそれが普通だと思ってた。親って言うのはこういうものなんだって。小さい頃から2人は喧嘩ばっかで……外には自由に出させて貰えないし、他の人との交流は大体わたしの体目的。お父さんが周りと繋がり作るための道具。私の初めてだって……でも……仕方ないのかなって思ったよ……」

「……何をつらつら語っているんだ!」

 我に返ったのか、嘆くケイトを止めに入るお父さん。

 ちょうどその時、家の炎は消火され、骨組みだけが顕になった。

 場が静まる。

 もう、彼女は止まらなかった。

「でもね……バッド君と出会って気づいたの。バッド君はちゃんと両親に愛されて……私を友達にしてくれて……ちゃんと私の身体を守ってくれた」

 俺は涙が止まらなかった。涙の理由なんて分からない。色んなものが込み上げすぎた。

 もし、俺がいた過去にもこんなことがあったというのなら。何もしてやれなかった。

 あの時、本当はダンジョンではなくて彼女の手で両親を殺していたというのなら。

「う、うるさい!」

 そう言ってお父さんはケイトに近づき、腕を振り上げた。

 拳を握り、ケイトめがけて振り下ろす時、俺は間に入りその拳を受けた。

「バッド君!」

 絶対に倒れるな……!  ここで倒れたら……今、彼女の支えになれるのは……俺だけなんだ!

「話……聞いてなかったんですか」

「だから!  家族の話に入ってくるなと……」

「さっきの話!  ……本当なんですか?」

「本当だったらなんだって言うんだ!  ケイトのやった事は立派な犯罪なんだぞ!  殺人未遂だ!!」

 その時。後ろから足音が聞こえた。

「すいませんね。少し遠くから話は聞いていました」

「誰だよ!」

「中央警察です」

「……!」

 警察だ。事件現場に来たらしい。そして話を聞いていたらしい。

 どこからどこまで聞いていたのか分からない。でも、まぁ、魔法の世界だ。盗聴くらい容易いだろう。

 ……ケイトの罪は重い。決して庇えるものじゃない。

「……お話。ちゃんと聞いてあげてください」

 俺は警察にそう言い残した。そして最後にケイトに一言、言葉をかけて帰ろうとした。その時だった。

 あれ?  視界がぼやけて……

 バタン

 俺は魔力の使いすぎで気を失ってしまった。

 ──────

「ケイト!」

「バッド君!」

「ケーイートー!」

「バッドくーーん!」

 はっ!  ……夢か。

 ここはどこだ?

「目、覚めましたか」

「ここは……」

「病院ですよ。前も君いきなり来て入院して行ったよね」

 この看護師さん見たことあるな……

「あはは……痛!!」

「あんまり動かない方がいいですよ。骨盤の骨の骨折と全身軽い火傷ですから。上位魔法での治療は明日行います。あと、話は聞いてます」

 魔力を纏っていても火傷するのか……痛覚は無くなってたな。あんまり多用しすぎると良くなさそうだ。

 後は骨盤。恐らく2階から飛び降りた時、足にだけ魔力を集中させたが、着地の反動で骨盤にまで響いてしまったっぽいな。

 なんか、あの時は色々出すぎて痛みも感じなかったぬ……

 ……んなことよりケイトは!?

「バッド君……だよね。起きたとこいきなりごめんな」

 看護師と入れ替わるように入ってきた男性。その男性はカーテンを閉め、椅子に座った。

「どなた……ですか?」

「流石に覚えてないか。あの時現場にいた警察のスペルだ」

 警察……!  って事はこれ……事情聴取か!?

「え、えっと!  お疲れ様です!」

「なに、そんなに固くなくていいから。ちょっと伝えたいことがあるのと、お話を聞きたくてね」

「伝えたいこと?」

「あぁ」

「それはなんですか?」

「君に国から表彰があるって話とあの時現場にいたケイトって子の話だ」

 国から表彰!?!?!?  ……んな事よりケイトの話だケイト!!!!

「ケイトは!!  どうなったんですか!!」

「待て待て。まずは表彰だ。小さな街の領主だったが、君が命をかけて助けたってのは事実だ。そのことを踏まえてこの街を支配下に置いてる親国から報酬が出ている」

「報酬?」

「後で渡されるが……金貨100枚だ」

「金貨……100枚!?!?」

 ゴスイの学費を丸々払えてしまうくらいの大金を聞いた俺は、一瞬、時が止まったように感じた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

浮気したけど『ざまぁ』されなかった女の慟哭

Raccoon
恋愛
ある日夫——正樹が死んでしまった。 失意の中私——亜衣が見つけたのは一冊の黒い日記帳。 そこに書かれてあったのは私の罪。もう許されることのない罪。消えることのない罪。 この日記を最後まで読んだ時、私はどうなっているのだろうか。  浮気した妻が死んだ夫の10年分の日記読むお話。

冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい

一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。 しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。 家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。 そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。 そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。 ……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──

愛しい彼女に浮気され、絶望で川に飛び込んだ俺~死に損なった時に初めて激しい怒りが込み上げて来た~

こまの ととと
恋愛
休日の土曜日、高岡悠は前々から楽しみにしていた恋人である水木桃子とのデートを突然キャンセルされる。 仕方なく街中を歩いていた時、ホテルから出て来る一組のカップルを発見。その片方は最愛の彼女、桃子だった。 問い詰めるも悪びれる事なく別れを告げ、浮気相手と一緒に街中へと消えて行く。 人生を掛けて愛すると誓った相手に裏切られ、絶望した悠は橋の上から川へと身投げするが、助かってしまう。 その時になり、何故自分がこれ程苦しい思いをしてあの二人は幸せなんだと激しい怒りを燃やす。 復讐を決意した悠は二人を追い込む為に人鬼へと変貌する。

彼女の浮気相手からNTRビデオレターが送られてきたから全力で反撃しますが、今さら許してくれと言われてももう遅い

うぱー
恋愛
彼女の浮気相手からハメ撮りを送られてきたことにより、浮気されていた事実を知る。 浮気相手はサークルの女性にモテまくりの先輩だった。 裏切られていた悲しみと憎しみを糧に社会的制裁を徹底的に加えて復讐することを誓う。 ■一行あらすじ 浮気相手と彼女を地獄に落とすために頑張る話です(●´艸`)ィヒヒ

寝取られて裏切った恋人への復讐

音の中
恋愛
【あらすじ】 彼との出会いは中学2年生のクラス替え。 席が隣同士だったのがきっかけでお話をするようになったんだよね。 彼とはドラマ鑑賞という共通の趣味があった。 いつも前日に見たドラマの感想を話していたのが懐かしいな。 それから徐々に仲良くなって付き合えた時は本当に嬉しかったよ。 この幸せはずっと続く。 その時はそう信じて疑わなかったな、あの日までは。 【注意】 ・人を不快にさせる小説だと思います。 ・けど小説を書いてると、意外と不快にならないかも?という感覚になり麻痺してしまいます。 ・素読みしてみたら作者のくせに思った以上にダメージくらいました。(公開して3日目の感想) ・私がこの小説を読んでたら多分作者に怒りを覚えます。 ・ラブコメパートが半分を占めます。 ・エロい表現もあります。 ・ざまぁはありますが、殺したり、人格を壊して精神病棟行きなどの過激なものではありません。 ・された側視点ではハッピーエンドになります。 ・復讐が駆け足だと感じちゃうかも…… ・この小説はこの間初めて読んでみたNTR漫画にムカついたので書きました。 ・プロットもほぼない状態で、怒りに任せて殴り書きした感じです。 ・だからおかしいところが散見するかも……。 ・とりあえず私はもうNTR漫画とか読むことはないでしょう……。 【更新について】 ・1日2回投稿します ・初回を除き、『7時』『17時』に公開します ※この小説は書き終えているのでエタることはありません。 ※逆に言うと、コメントで要望があっても答えられない可能性がとても高いです。

仲間を庇って半年間ダンジョン深層を彷徨った俺。仲間に裏切られて婚約破棄&パーティー追放&市民権剥奪されたけど婚約者の妹だけは優しかった。

蒼井星空
恋愛
俺はこの街のトップ冒険者パーティーのリーダーだ。 ダンジョン探索は文字通り生死をかけた戦いだ。今日も俺たちは準備万端で挑む。しかし仲間のシーフがやらかしやがった。罠解除はお前の役割だろ?なんで踏み抜くんだよ。当然俺はリーダーとしてそのシーフを庇った結果、深層へと落ちてしまった。 そこからは地獄の日々だった。襲い来る超強力なモンスター。飢餓と毒との戦い。どこに進めばいいのかも分からない中で死に物狂いで戦い続け、ようやく帰っていた。 そこで待っていたのは、恋人とシーフの裏切りだった。ふざけんなよ?なんで俺が罠にかかって仲間を危険に晒したことになってんだ!? 街から出て行けだと?言われなくてもこっちから願い下げだよ! と思ったんだが、元恋人の妹だけは慰めてくれた。 あのあと、元仲間たちはダンジョンを放置したせいでスタンピードが起こって街もパーティも大変らしい。ざまぁ!!!! と思ってたら、妹ちゃんがピンチ……。 当然助けるぜ? 深層を生き抜いた俺の力を見せてやるぜ!

最愛の幼馴染みと親友に裏切られた俺を救ってくれたのはもう一人の幼馴染みだった

音の中
恋愛
山岸優李には、2人の幼馴染みと1人の親友がいる。 そして幼馴染みの内1人は、俺の大切で最愛の彼女だ。 4人で俺の部屋で遊んでいたときに、俺と彼女ではないもう一人の幼馴染み、美山 奏は限定ロールケーキを買いに出掛けた。ところが俺の凡ミスで急遽家に戻ると、俺の部屋から大きな音がしたので慌てて部屋に入った。するといつもと様子の違う2人が「虫が〜〜」などと言っている。能天気な俺は何も気付かなかったが、奏は敏感に違和感を感じ取っていた。 これは、俺のことを裏切った幼馴染みと親友、そして俺のことを救ってくれたもう一人の幼馴染みの物語だ。 -- 【登場人物】 山岸 優李:裏切られた主人公 美山 奏:救った幼馴染み 坂下 羽月:裏切った幼馴染みで彼女。 北島 光輝:裏切った親友 -- この物語は『NTR』と『復讐』をテーマにしています。 ですが、過激なことはしない予定なので、あまりスカッとする復讐劇にはならないかも知れません。あと、復讐はかなり後半になると思います。 人によっては不満に思うこともあるかもです。 そう感じさせてしまったら申し訳ありません。 また、ストーリー自体はテンプレだと思います。 -- 筆者はNTRが好きではなく、純愛が好きです。 なので純愛要素も盛り込んでいきたいと考えています。 小説自体描いたのはこちらが初めてなので、読みにくい箇所が散見するかも知れません。 生暖かい目で見守って頂けたら幸いです。 ちなみにNTR的な胸糞な展開は第1章で終わる予定。

悲しいことがあった。そんなときに3年間続いていた彼女を寝取られた。僕はもう何を信じたらいいのか分からなくなってしまいそうだ。

ねんごろ
恋愛
大学生の主人公の両親と兄弟が交通事故で亡くなった。電話で死を知らされても、主人公には実感がわかない。3日が過ぎ、やっと現実を受け入れ始める。家族の追悼や手続きに追われる中で、日常生活にも少しずつ戻っていく。大切な家族を失った主人公は、今までの大学生活を後悔し、人生の有限性と無常性を自覚するようになる。そんな折、久しぶりに連絡をとった恋人の部屋を心配して訪ねてみると、そこには予期せぬ光景が待っていた。家族の死に直面し、人生の意味を問い直す青年の姿が描かれる。

処理中です...