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第1章

第11話 遭遇

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 今、俺とケイトは座れる場所を探して歩いている。

「バッド君……何したらそんなんになるの?」

「ちょ、ちょっとね……」

 剣と魔法の修行をしているなんて言えない。
 なんでかって?  そりゃ恥ずかしいからだよ!  何となく!

「もしかして……他に友達が出来たの!?」

「え、え?」

「だから!  バッド君に新しい友達が!?!?」

「待って待って!  そんなことないから!」

 キラキラ目を輝かせながら、ケイトは俺に詰め寄ってきた。

 ケイトのやつ……俺が友達できるなんて奇跡だと思ってないか?  そんなに驚くことか?

 ……まぁ、できてないんだけどな。

「じゃーどうしてな……あ、ごめんなさい!」

 ケイトは俺の方を見ながら歩いていたせいか、前から来た男に激突してしまった。

「すいません」

 俺も謝る。でも、この男も避けようと思ったら良けれたはずだろう。なんか感じ悪いな。さっさと行こう……あれ?

 ケイトの様子を見ると、さっきとは打って変わって、恐怖に満ち溢れているような顔をしていた。

「ケイト。なぜこんなところにこんなやつといるんだ?」

 なんだ?  こいつケイトの名前を知ってるのか?
 話しかけられても黙り込んでいるケイトを見て、俺はアクションを起こす。

「ちょっと……あなたはケイトさんと、どんな関係性なので……」

「ちょっと君は黙っててくれ」

「はい……」

 負けた。圧で負けた。普通に負けた。

 でも、今ケイトは絶対に脅えている。この男に。

「ごめんね……バッド君……」

 震えた声を絞り出すように言ったケイトは、その男と目を合わせないように話し始めた。

「どうして……ここにいるの……」

「どうしててって、遠出から帰ってきただけだよ。ケイトこそ何をしてる」

「何って……私の勝手でしょ」

「少し見ない間に生意気になったものだ」

 この二人の関係。少しわかったかもしれない。恐らくだがこの二人……

「いつまでいるの……お父さん……」

「軽く一週間だ。明日から一週間、空けておくように」

 それを聞いた瞬間。ケイトは全てを悟ったように顔を引きつらせた。
 見たことの無いケイトの顔。俺の知らない、彼女の感情。

 ケイトの父と名乗る男は、ケイトと俺の間を割るように歩いて行った。

「大丈……」

「お母さんには!  お母さんには手出さないで……」

 声をかけようとした俺の声を遮るように、ケイトは男に向かって叫んだ。

「……それはまだ決められないな」

 お母さんには手を出すな。ケイトの家庭。想像もしたくないことがたくさん現れる。

 前世では両親が14歳で死ぬ、と言っていた。
 という事は、この男ももう時期死ぬ、ということだ。

 確定はしてないが恐らく、この男はDV野郎だ。でも、ケイトの身体に傷のようなものは無かった。

 少しの間、いなかったらしいから、治ってしまっただけなのかもしれない。自分で治癒魔法で治してしまったのかもしれない。
 でも、この状況……かなりまずい。

 聞こうにも聞けないし、この前俺の家であった一件にも関わってきていそうだ。

 あの時の涙と、もし、関係があるのなら。俺は放っておけない。

 だからといって今は絶対にでしゃばっては行けない。

 俺の記憶によると、ケイトの両親が亡くなるのは俺の両親が亡くなる一週間程前だ。

 俺がやるべきことはまず、ケイトの両親の死を回避すること……なのか?

 この男は生きてていいのか?  てか、未来って変わる可能性があるんだったら……今見てるこの光景も変化したあとなんじゃないのか?

 分からない分からない。どうしろって言うんだよ。

 てか、ケイトの両親はダンジョンで死んだんだろ?  この家族が夫婦仲良くダンジョンなんて行くのか……

「バッド君?」

 思考を遮ってきたのは、ケイトの声だった。
 気が付いたらあの男はもうおらず、ケイトの表情もさっきよりはマシになっていた。

「あ、ごめん……」

「こっちこそごめんね。なんか悪いとこ見せちゃったよね」

 今、俺は踏み込んでいいのか。ここで話を聞けば何か変わるのか。

 ……やめておこう。俺が聞いたところで何も変わらない……

「そんなことないよ。大丈夫。何かあったら……俺に出来ることだったら、何でもするから」

「……ありがとね」

 小さく呟いたケイトはどこか浮かない表情をしていた。

 ──────

 その日の夕方。

「今日は家まで送るよ」

「……いいの?」

「うん。いつもこっち来てもらってばっかな気がするし」

 これは建前で本当の狙いは、ケイトの家の場所を何となく理解することだ。

 ストーカー宣言では無い。普通に心配だからだ。本当だからな?  嘘じゃないぞ?

「じゃぁ……お言葉に甘えて」

 俺とケイトは街を出て歩き出した。

 10分くらい歩いた頃。

「あそこに見えるのが私の家」

「え……あれ?」

 指をさした方向を見てみると、俺の目に映ったのは確かに、大きな宮殿だった。

「あれはいつも会ってる街の隣街にある宮殿。隠しててごめん。私……ここの領主の娘なの」

 えー!?  まてまてまてまて!!  領主の娘!?!?
 俺そんなのと仲良くしてたのか!?!?
 前世の俺こんな御身分の人と結婚してたのか!?!?

 てかあの男……領主!?

「本当に……?  知らなかった……」

「そうよね。ごめんなさい」

「あ、謝らないでいいんだよ!」

「私の身分が分かっても……仲良くしてくれる?」

 少し寂しそうな顔をしたケイト。決まってる当たり前じゃないか。

「あぁ。もちろん」

「……ありがとね」

 ケイトはまっすぐ宮殿の方を見て、俺の方は見ない。

「じゃあ……さ。もし、来週、いつもの場所私が来なかったら……」

「……?」

「私のことは全部忘れて」

 ケイトのその発言は脳に直接届いたかのように、大きく聞こえた。

 俺はこれから起きることは全く分からなかった。でも、これから起きることは、決して良いことでは無いこと位は分かっていた。
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