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第1章

第6話 遅刻

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「とりあえず様子見で明日の昼までは入院ね」

 どうしてこうなった……
 俺はあの大男に無理やり連れて行かれた病院の病床で寝ている。

「明日の昼まで入院って……待ち合わせ間に合わない!?」

 そう。明日はケイトとの待ち合わせの日。
 明日行かなければ俺は確実に彼女と疎遠になる。

 やばいやばい!  決めたばかりじゃないか!
 あの男……許さん!  次会ったら鼓膜破れるまで説教してやるからな!!

「バッド!  大丈夫なの!?」

「あ、お母さん。俺は全然大丈夫だよ」

 話を聞き付けたお母さんがお見舞いに来てくれた。お見舞いと言っても俺は全然ピンピンなのにな。

 事情をオブラートに包みながら説明し、持ってきてくれたフルーツを食べた。

「じゃ、ここに着替え置いておくからね。明日気をつけて帰るんだよ」

「うん。ごめん迷惑かけちゃって。ありがとう」

 そうしてお母さんは帰って行った。
 はぁ……迷惑かけたなぁ……

 しかも、明日間に合うかなぁ……

「今グズグズしても仕方ないか。明日起きて考えよ」

 やることもない俺はかなり早めに眠りについた。

 ──────

 翌日。俺は退院した。
 そして、時間は無い。

「やばいやばいやばい!」

 手続きにてこずった俺は30分程遅れて病院を後にした。

 現在時刻は多分1時40分くらい。
 ただいま30分程遅刻している。

 走れ走れ俺!  会えさえすれば事情を話せる……ん?

 バゴーーン!!!

「うわぁ!!  なんだ!?」

 目の前に大きな砂煙が起こる。俺の目の前に何かが降ってきたのだ。

 それは……

「モン……スター?」

 気が付くと同時に周りから悲鳴が上がる。

「に、逃げろーーー!!!」

 俺と同じ方向に向かって歩いていた周りの人達は、すぐさま回れ右をして走り出した。

 でも俺はこんなとこで回れ右なんてできない。
 この道が彼女の所への最短距離だからだ。

「このクソモンスター!  邪魔だどけ!!!」

 モンスターに向かって走り出す。

「ぐへぇ」

 呆気なく尻尾で吹き飛ばされてしまった。
 クソ!  情けねぇ……痛てぇ……

 羽の付いた大型犬のようなモンスターは、俺を完全にロックオンした。

 やばい。逃げなきゃ。じゃないと死ぬ!  本能がそう言ってる。早く立たなきゃ!!!

「動け!  動けよ俺!!」

 完全に腰が抜けてしまっていた。痛むお腹を抑えることしか出来ない。

 そんな状況でも、モンスターは吠えながら近ずいてくる。

 あぁ……もう終わった。2回目もあっさり。

 振り下ろされた尻尾を確認してから俺は目を瞑った。

 ガキン!!

「!?」

 大きな金属音に驚き、目を開ける。
 そこには見覚えのある、あの大男がいた。

「あ、あんたなんか見た事あんな。忘れちまったけど」

 チラッと俺の方を見た大男はフッ、と尻尾を弾き、走り出した。

「おらよ!」

 ジャキン!  っと2つの羽を切り落とし、最後には首をスパン!  っと切り落とした。

 剣に付いたモンスターの血を払いながら大男は俺のほうに近づいてくる。

「あんた、大丈夫か……ってあんた昨日の子どもか!  あの汚ねぇ色した魔力の」

 あれ……?  俺バカにされてない?

「そうですけど……なんですかその汚ぇなんちゃらって」

「モンスターと同じ感じの色してんだよ、あんたの魔力」

 モンスターと同じ?  俺は人だぞ!  ひ!  と!

「それって……何が悪いことあるんですか?」

「多分だけど魔法を使うのは難しいだろうな。他の人と比べたら。あと、さっきのモンスターもあんたの魔力に釣られて来たと思うぜ」

 このモンスターはダンジョンから出てきてしまったモンスターらしい。クエストを放棄した冒険者が逃げ出し、それを追いかけて外に出て来てしまったという。

 そして俺はモンスターの魔力と同じ色?  本当にそんなことあるのか?

 でも、魔法を使えないって言われたってことは……一理あるな。

 そのせいで洞穴にもモンスターが湧かなかったのか?

 てか……この人強い。恐らくさっきの動きの中で見えていなかったが、魔法も使っていた。

 持っている剣の周りから感じる魔力。この人になら……

「どうされましたか!」

「あ、こいつ倒しといたから。後処理はよろしくねー」

 大男は遅れてやってきた警察にそう伝え、その場を去ろうとした。

 腰が抜けている俺は気合いで立ち上がり「待ってください!」と叫んだ。

 ピタリと大男は止まり振り返らずに待っている。

「俺に……俺に!  貴方の力教えてください!!」

「……」

 何も言わず振り返り、こちらに近づいてくる大男。

「……俺の名前はストローグだ。よろしくな」

 そう言って俺の頭をポンッと叩いた。

 適当な事言っちゃったけど……何とかなりそうだ。

「ば、バッドって言います!  よろしくお願いします!」

「ん、まぁ、俺もタダでとは言わねぇぞ……」

 あ、忘れてた。

「話は明日でお願いします!!!  ちょっと予定があって!!!  同じくらいの時間にまたここで!!!」

 俺はストローグさんを置いて走り出した。
 頼む頼む頼む……まだ居てくれよ……!!!

 ──────

 ここを曲ったら……

 ……あ!

「ケイト!!」

 もう帰ろうか、と言わんばかりに歩き始めていたケイトを見つけ、叫んだ。

 何度も何度も、ケイト、ケイトと叫び走った。

 周りからの目線が痛い。恥ずかしい。でも、これでいい。

 走ってケイトの元へとたどり着いた俺は、へとへとになって膝に手をついてしまっていた。

 はぁはぁ、と上がる息を何とか押さえ込み、驚いた表情で振り返ったケイトと目を合わせる。

「……もう。静かにしてよ。あと、遅刻した分、ちゃんと取り返してもらうからね」

 ケイトは安心したように微笑んだ。
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