幻影幽霊

少女の幽霊

　昔から僕は気が弱かった。理不尽な扱いを受けてもそれに反抗するどころか、不満の気持ちを誰かに吐き出すことさえ出来なかった。また、他人からどう思われるかを過度に気にしてしまう僕は、誰にも話せないまま様々な想いをかかえ、常に自分だけが違う世界にいるかのような孤独を感じていた。
　 そして、これからの人生に期待すらしていなかった。
　あの日が来るまでは。









　 僕の両親は仕事柄忙しく、僕は一人で過ごすことが多かった。そして、一人である程度生活できるようになったと同時に、両親はほとんど家に帰ってこなくなった。両親からのお金があり、経済的に困ることはなかったが、お金は僕の孤独を埋めてはくれなかった。

　 


　一人暮らしともいえる生活をしていた僕にとって今の状況は異常だった。
　 部屋の前に立った僕は、ドアノブを手にしながら身体を震わせる。

　 部屋の中から何かの気配がする。

　 何らかの気配を感じ取れるほどの力は僕にはなかったが、何故かその時ははっきりと感じられた。

　 “この中に何かがいる”

　 季節は夏。今日はクーラーを使用するほどの暑さでもなかったので使用していないはずだ。けれど、かすかに感じられる部屋から流れる冷気。

　 僕は怖くなった。

　 ドアノブを握る手に力が入る。

　 やるしかない。そう思った僕は勢いよくドアを開けた。

　 人がいる。少女だ。
　 それに気付いた僕は意外に落ち着いていた。ここにいるはずのない少女に対する恐怖心は不思議と湧き上がってこなかった。それよりもこれからのことを漠然と考えていた。
　 少女はこちらを見ずに、じっと窓の外を眺めているだけだった。
　 恐怖心が湧き上がってこなかったと言っても、全くという訳ではない。僕は少し怯えながらも少女に手を伸ばした。
　 少女に伸ばした手は空をきった。やはり彼女は幽霊なんだと実感した僕は彼女を見つめた。
　 彼女は、僕が想像していたような幽霊とは全く違っていた。僕の目に映った彼女は幽霊というよりも、儚い天使のようだった。僕には彼女がとても清く、美しいものに見えたのだ。