あの日振られた君へ

雨森

文字の大きさ
上 下
3 / 5

靄【二】

しおりを挟む
 それからの私は自然と北沢のことを避けるようになっていた。あの時の肯定が私にとって何故か引っかかるものだったからだ。悲しいような、裏切られたような不思議な情緒に陥った私には彼を前にして、以前の様に話す勇気がなかった。
  それでも放課後になると、二人になる時間は訪れてしまう。私は出来るだけ違和感がないように注意して話すようにした。
  私が彼を避けるようにする一方で、私と彼の距離は縮んでいった。彼が前よりも私に話しかけるようになったからだ。
  私は、他に好きな女の子がいるのに絡みにくる彼に、嫌悪感と嬉しい気持ちのどちらも存在するような不思議な情緒に再び陥ることになった。



  私の情緒がある程度落ち着き、以前と同じように話せるようになった頃。私は彼に漫画を貸してもらうほどの仲になり、漫画を取りに家まで行くこともよくあった。
  彼は私が帰ろうとすると、いつも私のことを引き留めた。まるでもう少し一緒に居たいとでも言うように。そう感じた瞬間、自分の自惚れを恥ずかしく思って早々と立ち去るのがいつもの流れになっていた。
  私はある日彼に言った。
「ごめん!もう借りにくるのやめる」
「え、なんで?」
 彼は不思議そうな顔をする。
「借りに来るのがちょっと…」
 最後まで言うのを躊躇った私は、気まずくなり、目を逸らした。
「面倒くさくなっちゃった?」
 私の性格をよく把握している彼からすれば、言い当てることは簡単だっただろう。私はさらに俯き、彼と目を合わすことをしなかった。いや、出来なかった。
「じゃあ、新山さんの家まで持っていくよ」
 予想外の言葉が飛んできた。驚いた私は一瞬顔を上げ、またすぐに俯いた。
「そんなの悪いから、いい。ごめんね、勝手なこと言って。この漫画はちゃんと返しにくるから。」
  そう言って引き留めようとする彼の手を振り切って帰った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

【完結】私の望み通り婚約を解消しようと言うけど、そもそも半年間も嫌だと言い続けたのは貴方でしょう?〜初恋は終わりました。

るんた
恋愛
「君の望み通り、君との婚約解消を受け入れるよ」  色とりどりの春の花が咲き誇る我が伯爵家の庭園で、沈痛な面持ちで目の前に座る男の言葉を、私は内心冷ややかに受け止める。  ……ほんとに屑だわ。 結果はうまくいかないけど、初恋と学園生活をそれなりに真面目にがんばる主人公のお話です。 彼はイケメンだけど、あれ?何か残念だな……。という感じを目指してます。そう思っていただけたら嬉しいです。 彼女視点(side A)と彼視点(side J)を交互にあげていきます。

好きな人がいるならちゃんと言ってよ

しがと
恋愛
高校1年生から好きだった彼に毎日のようにアピールして、2年の夏にようやく交際を始めることができた。それなのに、彼は私ではない女性が好きみたいで……。 彼目線と彼女目線の両方で話が進みます。*全4話

暴君幼なじみは逃がしてくれない~囚われ愛は深く濃く

なかな悠桃
恋愛
暴君な溺愛幼なじみに振り回される女の子のお話。 ※誤字脱字はご了承くださいm(__)m

リアンの白い雪

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
その日の朝、リアンは婚約者のフィンリーと言い合いをした。 いつもの日常の、些細な出来事。 仲直りしていつもの二人に戻れるはずだった。 だがその後、二人の関係は一変してしまう。 辺境の地の砦に立ち魔物の棲む森を見張り、魔物から人を守る兵士リアン。 記憶を失くし一人でいたところをリアンに助けられたフィンリー。 二人の未来は? ※全15話 ※本作は私の頭のストレッチ第二弾のため感想欄は開けておりません。 (全話投稿完了後、開ける予定です) ※1/29 完結しました。 感想欄を開けさせていただきます。 様々なご意見、真摯に受け止めさせていただきたいと思います。 ただ、皆様に楽しんでいただける場であって欲しいと思いますので、 いただいた感想をを非承認とさせていただく場合がございます。 申し訳ありませんが、どうかご了承くださいませ。 もちろん、私は全て読ませていただきます。 ※この作品は小説家になろうさんでも公開しています。

【完結】貴方の後悔など、聞きたくありません。

なか
恋愛
学園に特待生として入学したリディアであったが、平民である彼女は貴族家の者には目障りだった。 追い出すようなイジメを受けていた彼女を救ってくれたのはグレアルフという伯爵家の青年。 優しく、明るいグレアルフは屈託のない笑顔でリディアと接する。 誰にも明かさずに会う内に恋仲となった二人であったが、 リディアは知ってしまう、グレアルフの本性を……。 全てを知り、死を考えた彼女であったが、 とある出会いにより自分の価値を知った時、再び立ち上がる事を選択する。 後悔の言葉など全て無視する決意と共に、生きていく。

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語

六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。

旦那様の愛が重い

おきょう
恋愛
マリーナの旦那様は愛情表現がはげしい。 毎朝毎晩「愛してる」と耳元でささやき、隣にいれば腰を抱き寄せてくる。 他人は大切にされていて羨ましいと言うけれど、マリーナには怖いばかり。 甘いばかりの言葉も、優しい視線も、どうにも嘘くさいと思ってしまう。 本心の分からない人の心を、一体どうやって信じればいいのだろう。

処理中です...