195 / 225
第五章 明石
第45話 お役目
しおりを挟む「フルールさん、あちらにクレープがあってよ!」
「はい、お待ちください。アレクサンドラ様!」
私がパン屋さんで購入したメロンパンを袋に入れてもらっているとアレクサンドラ様が先に出て行ってしまう。もちろんすぐに殿下が追いかけて、その後ろにはエドガー様もいた。いつの間に!
「フルールちゃん、はいよ。本当にお貴族様になったんだねぇ。お友達も上品だよ」
パン屋のおじさんが感心したように頷いた。
「ええ、ありがとう。おじさん」
おじさんが差し出した袋を横からマルセルくんが受け取るとおじさんに向かって頷いた。
「ああ、すまない。ここのメロンパンは有名なのか?」
「へぇ。何年か前にブームになりまして。ただ、ここ最近はあまり人気とはいえないかね」
「どうしたんですか? マルセル様」
「あっいや、よく姉さんがメロンパンのことを知っていたなぁと思ってね」
「確かに! アレクサンドラ様は不思議な方ですよね」
「まぁ、また前の話かもしれないな。さあ、二人に追いつこう」
「はい!」
パン屋からマルセルくんと出たところで話しかけられた。
「フルール!」
「え? あっ」
先生がこちらを驚いたように見ていた。
「あの、すみません。マルセル様、先に行っていただけますか?」
「大丈夫かい? フルール」
マルセルくんはすこし体を私に寄せて囁いた。
「はい。大丈夫です。知り合いですので」
「ふーん。わかったよ。ではフルールあちらで待ってる」
そう言ってマルセルくんは軽く先生に黙礼をすると先に歩いて行ってくれた。
私は先生に駆け寄る。
「先生、この間はありがとうございました。なんだか、私、すみませんでした」
「あぁ、いや、私の方こそ気分を害してしまっただろう。本当に申し訳なかった。みんなもあの後かなり反省していたんだよ」
「そんな、私の方こそ自分のことばかりを考えてました。みんなが怒るのは当たり前です」
そういって肩を落とすと先生が昔のように私の頭を軽く撫でてくれる。
「そう言ってもらえると気が楽になるよ。今日はまたどうしたんだい? さっきの彼は?」
私は顔を上げて笑顔になった。
「あの方はお友達です! 公爵家の方なんですが仲良くしてくれています」
すると先生が少し目をすがめて繰り返した。
「友達かい」
「はい! 私は今の自分の幸運をしっかりと受け止めて貴族として恥ずかしくないように頑張るつもりです。あの方のように仲良くしてくれる方もいます。大丈夫です!!」
私は先生が心配する前に今の状況を前向きに語る。
「そうか、私はフルールが騙されないか心配だったんだよ。でも楽しそうで……よかったよ」
「ありがとうございます。それでは先生もお元気で! みんなにもよろしく伝えてください!」
私は軽く礼を取るとアレクサンドラ様達が待つ広場に向かった。
私の後ろで先生がポツリと「幸せそうだ」と呟いたことには気づかなかった。
その後に「君だけがね……」と言ったことにも……。
先生と別れて直ぐに誰かに手を掴まれた。小走りしていた私はガクンとなって振り返った。
「マルセル様!」
「本当に大丈夫だった?」
「はい、全然平気です。待っていてくれたんですか?」
「それはそうだよ。僕は君をエスコートしているんだ」
「でも、アレクサンドラ様が……」
「姉さんには殿下がついてる。色々不満はあるけど殿下はこと姉さんの安全に関しては信頼できるよ。それよりも君だよ。フルール」
「え? 私ですか?」
「あぁ、君はもう貴族だ。それはわかってるよね」
「はい」
「だったら、もっと警戒してくれ。確かにここに君は住んでいたし、慣れた場所かもしれない。でも、君が貴族になったことで周りの態度が変わるかもしれない。これからは絶対に一人になろうとしないでほしい」
どうやらマルセルくんは私が先に行くように言ったことが無用心だと言っているようだった。
「あの、もしかして、マルセル様が殿下をお誘いしたのは……」
「僕は一人で二人を守れるほど自惚れていないよ」
マルセルくんは私の手をしっかりと掴むと歩き出す。その背中が初めて大きく感じた。
マルセルくんの心配はアレクサンドラ様だけではなく、私にも向いていたという事実に心臓がバクバクと高鳴る。
「……はい、ありがとうございます」
小さな私の声に前を歩くマルセルくんは私の手をキュッと握りしめたのだった。
「フルールさーん! マルセール!」
広場に着くとアレクサンドラ様がブンブン手を振っているのが見えた。
「全く、全然忍んでないなぁ。姉さんは」
ブツブツいいながらも、いつものマルセルくんに戻っていた。
「さあ、行こう。フルール」
「はい!」
「遅かったじゃない。どうしたの?」
「あっ私が知り合い会ってしまって」
「そうなの? よかったわですわね。さぁ、マルセルそのメロンパンを寄こしなさい」
「え? まだ食べるのかお前。クレープを食べたばかりじゃないか?」
「わたくしはこのメロンパンを食べるためにここにいますのよ! 殿下はすっこんでらっしゃい」
「すっこんで……」
驚愕という殿下を見て
「しょうがないですねぇ」
マルセルくんは私の手を離してアレクサンドラ様に近づいてメロンパンを手渡した。
「まぁ、大きいのね。懐かしいわ」
アレクサンドラ様が大きな口を開けてパクリとメロンパンを食べる姿を見つめつつ私はさっきまで私の手を掴んでいたマルセルのことを考えていた。
(手を離されて……寂しい)
私は今浮かんだ考えをフルフルと打ち消した。
「ア、アレクサンドラ様。メロンパンはいかがですか?」
「とっても美味しいわ!」
幸せそうなアレクサンドラ様に抱いた感情は嫉妬だった。
「はい、お待ちください。アレクサンドラ様!」
私がパン屋さんで購入したメロンパンを袋に入れてもらっているとアレクサンドラ様が先に出て行ってしまう。もちろんすぐに殿下が追いかけて、その後ろにはエドガー様もいた。いつの間に!
「フルールちゃん、はいよ。本当にお貴族様になったんだねぇ。お友達も上品だよ」
パン屋のおじさんが感心したように頷いた。
「ええ、ありがとう。おじさん」
おじさんが差し出した袋を横からマルセルくんが受け取るとおじさんに向かって頷いた。
「ああ、すまない。ここのメロンパンは有名なのか?」
「へぇ。何年か前にブームになりまして。ただ、ここ最近はあまり人気とはいえないかね」
「どうしたんですか? マルセル様」
「あっいや、よく姉さんがメロンパンのことを知っていたなぁと思ってね」
「確かに! アレクサンドラ様は不思議な方ですよね」
「まぁ、また前の話かもしれないな。さあ、二人に追いつこう」
「はい!」
パン屋からマルセルくんと出たところで話しかけられた。
「フルール!」
「え? あっ」
先生がこちらを驚いたように見ていた。
「あの、すみません。マルセル様、先に行っていただけますか?」
「大丈夫かい? フルール」
マルセルくんはすこし体を私に寄せて囁いた。
「はい。大丈夫です。知り合いですので」
「ふーん。わかったよ。ではフルールあちらで待ってる」
そう言ってマルセルくんは軽く先生に黙礼をすると先に歩いて行ってくれた。
私は先生に駆け寄る。
「先生、この間はありがとうございました。なんだか、私、すみませんでした」
「あぁ、いや、私の方こそ気分を害してしまっただろう。本当に申し訳なかった。みんなもあの後かなり反省していたんだよ」
「そんな、私の方こそ自分のことばかりを考えてました。みんなが怒るのは当たり前です」
そういって肩を落とすと先生が昔のように私の頭を軽く撫でてくれる。
「そう言ってもらえると気が楽になるよ。今日はまたどうしたんだい? さっきの彼は?」
私は顔を上げて笑顔になった。
「あの方はお友達です! 公爵家の方なんですが仲良くしてくれています」
すると先生が少し目をすがめて繰り返した。
「友達かい」
「はい! 私は今の自分の幸運をしっかりと受け止めて貴族として恥ずかしくないように頑張るつもりです。あの方のように仲良くしてくれる方もいます。大丈夫です!!」
私は先生が心配する前に今の状況を前向きに語る。
「そうか、私はフルールが騙されないか心配だったんだよ。でも楽しそうで……よかったよ」
「ありがとうございます。それでは先生もお元気で! みんなにもよろしく伝えてください!」
私は軽く礼を取るとアレクサンドラ様達が待つ広場に向かった。
私の後ろで先生がポツリと「幸せそうだ」と呟いたことには気づかなかった。
その後に「君だけがね……」と言ったことにも……。
先生と別れて直ぐに誰かに手を掴まれた。小走りしていた私はガクンとなって振り返った。
「マルセル様!」
「本当に大丈夫だった?」
「はい、全然平気です。待っていてくれたんですか?」
「それはそうだよ。僕は君をエスコートしているんだ」
「でも、アレクサンドラ様が……」
「姉さんには殿下がついてる。色々不満はあるけど殿下はこと姉さんの安全に関しては信頼できるよ。それよりも君だよ。フルール」
「え? 私ですか?」
「あぁ、君はもう貴族だ。それはわかってるよね」
「はい」
「だったら、もっと警戒してくれ。確かにここに君は住んでいたし、慣れた場所かもしれない。でも、君が貴族になったことで周りの態度が変わるかもしれない。これからは絶対に一人になろうとしないでほしい」
どうやらマルセルくんは私が先に行くように言ったことが無用心だと言っているようだった。
「あの、もしかして、マルセル様が殿下をお誘いしたのは……」
「僕は一人で二人を守れるほど自惚れていないよ」
マルセルくんは私の手をしっかりと掴むと歩き出す。その背中が初めて大きく感じた。
マルセルくんの心配はアレクサンドラ様だけではなく、私にも向いていたという事実に心臓がバクバクと高鳴る。
「……はい、ありがとうございます」
小さな私の声に前を歩くマルセルくんは私の手をキュッと握りしめたのだった。
「フルールさーん! マルセール!」
広場に着くとアレクサンドラ様がブンブン手を振っているのが見えた。
「全く、全然忍んでないなぁ。姉さんは」
ブツブツいいながらも、いつものマルセルくんに戻っていた。
「さあ、行こう。フルール」
「はい!」
「遅かったじゃない。どうしたの?」
「あっ私が知り合い会ってしまって」
「そうなの? よかったわですわね。さぁ、マルセルそのメロンパンを寄こしなさい」
「え? まだ食べるのかお前。クレープを食べたばかりじゃないか?」
「わたくしはこのメロンパンを食べるためにここにいますのよ! 殿下はすっこんでらっしゃい」
「すっこんで……」
驚愕という殿下を見て
「しょうがないですねぇ」
マルセルくんは私の手を離してアレクサンドラ様に近づいてメロンパンを手渡した。
「まぁ、大きいのね。懐かしいわ」
アレクサンドラ様が大きな口を開けてパクリとメロンパンを食べる姿を見つめつつ私はさっきまで私の手を掴んでいたマルセルのことを考えていた。
(手を離されて……寂しい)
私は今浮かんだ考えをフルフルと打ち消した。
「ア、アレクサンドラ様。メロンパンはいかがですか?」
「とっても美味しいわ!」
幸せそうなアレクサンドラ様に抱いた感情は嫉妬だった。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
鎌倉最後の日
もず りょう
歴史・時代
かつて源頼朝や北条政子・義時らが多くの血を流して築き上げた武家政権・鎌倉幕府。承久の乱や元寇など幾多の困難を乗り越えてきた幕府も、悪名高き執権北条高時の治政下で頽廃を極めていた。京では後醍醐天皇による倒幕計画が持ち上がり、世に動乱の兆しが見え始める中にあって、北条一門の武将金澤貞将は危機感を募らせていく。ふとしたきっかけで交流を深めることとなった御家人新田義貞らは、貞将にならば鎌倉の未来を託すことができると彼に「決断」を迫るが――。鎌倉幕府の最後を華々しく彩った若き名将の清冽な生きざまを活写する歴史小説、ここに開幕!
旧式戦艦はつせ
古井論理
歴史・時代
真珠湾攻撃を行う前に機動艦隊が発見されてしまい、結果的に太平洋戦争を回避した日本であったが軍備は軍縮条約によって制限され、日本国に国名を変更し民主政治を取り入れたあとも締め付けが厳しい日々が続いている世界。東南アジアの元列強植民地が独立した大国・マカスネシア連邦と同盟を結んだ日本だが、果たして復権の日は来るのであろうか。ロマンと知略のIF戦記。
勇者の如く倒れよ ~ ドイツZ計画 巨大戦艦たちの宴
もろこし
歴史・時代
とある豪華客船の氷山事故をきっかけにして、第一次世界大戦前にレーダーとソナーが開発された世界のお話です。
潜水艦や航空機の脅威が激減したため、列強各国は超弩級戦艦の建造に走ります。史実では実現しなかったドイツのZ計画で生み出された巨艦たちの戦いと行く末をご覧ください。


魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。


俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる