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第3章 鎌倉の石
第32話 戦う姫君
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「姫御前です。お召しと聞き、参内いたしました」
挨拶をしたらアサ姫の返事があった。
戸を開けて中に顔を覗かせる。
「おかえりなさい、ヒメコ。比企の尼君はお変わりないかしら?」
問われ、はいと返す。
「姫はお陰で無事でした。その姫が、姫御前を小御所に早く戻せと言うので、急ぎ貴女を呼びに行かせたのよ。ごめんなさいね」
ヒメコは首を横に振った。頼朝はその場には居なかった。
「あの、御所様は」
「今は軍議に出てるけど平気よ。貴女が水を飲ませてくれたので姫が助かったのだと理解したから。これからも変わらずに姫の側に居て頂戴。姫が部屋で貴女を待ってるわ」
促されるようにして姫の部屋に上がる。
「姫御前です。姫さま、お加減はいかがでしょうか?」
声をかけたら、サッと戸が開けられ、八幡姫が姿を現した。
「まぁ、姫さま。お起きになって宜しいのですか?」
驚いて見上げる。
と、手を引っ張られた。
「さ、入って。待ってたのよ」
少ししゃがれてはいたが、力の入ったしっかりした声だった。
「姫さま、お熱は?」
「もう下がったわ。それより父上、母上には会った?」
「御所さまは軍議中とのことで、御台さまにだけご挨拶を」
答えたら、八幡姫は、そう、と呟いた。
「父上は鬼になるそうよ。母上も」
「鬼?」
八幡姫は頷いて、そっと笑った。
「だから私も鬼になることにしたわ。鬼夫婦の子どもですもの」
話が飲み込めず戸惑うヒメコ。八幡姫は両の口の端を持ち上げた。
「それで先ず、ヒメコ、あなたを呼び戻させたの。それから幸氏と重隆の命を保証させた。私も戦うわ」
「戦う?」
八幡姫は大きく頷いた。
「ええ。そうでなければ義高様に申し訳がないもの」
何と戦うのか、どう戦うのか。それは聞けず、ただ、八幡姫が懸命に生きようとしているのを感じてヒメコは黙って頷いた。
「では、早速出かけるから供をして」
「出かけるってどちらへ?それにその格好は」
八幡姫は髪を後ろで軽く束ね、水干を纏った童姿で立っていた。
「これは義高様のお着物よ。この方が動きやすいでしょう?」
明るい浅葱の水干。確かに見覚えがある。
「では、私も着替えて参ります」
言って、水干を羽織って戻る。姫にそれは誰の水干かと問われ、五郎君のですと答えたら、
「元は小四郎兄のだけどね。いや、もっと言ったら三郎兄上のかな」
答える声がして、振り向けば五郎が立っていた。
「久しぶり。姫も姫姉ちゃんも元気そうで何より」
「五郎!」
八幡姫が笑顔を見せる。久しぶりの笑顔に少しホッとする。
「あなた、ずっと顔も見せずに何処に居たの?」
八幡姫の問いに、五郎はチラと後ろの公文所に目を送った。
「新しく出来た公文所で、文の整理とかをさせられてた。早くからここで学んでおけって父上に放り込まれたのさ。でもあんまりにも退屈だからボーッと外を眺めてたら二人の姿が見えたから抜け出してきた。何処に行くの?俺が護衛に付いてやるよ」
すると八幡姫が答えた。
「それは丁度良かったわ。江間屋敷に行く所なの」
「江間屋敷?」
驚いて姫を見下ろせば、八幡姫はええと頷いた。
「海野幸氏や望月重隆は江間の屋敷に預けられてるのでしょう?彼らに会うの」
「それは、御所様や御台様には?」
「言えるわけないわ。だから抜け出してきたのよ」
会ってどうなさるのです?」
問うたら、八幡姫はさあ、と返した。
「会ってから決めるわ」
五郎が噴き出した。
「八幡は大姉上そっくりになって来たな」
笑い事ではないと思いつつ、先を歩く五郎に付いて江間屋敷に着く。戸を叩いたら藤五が顔を出した。
「ああ、姫御前殿」
そう迎えてくれつつ、ヒメコの後ろに隠れていた二人に鋭く目を飛ばす。
「おや、これは五郎君。どうされましたか?」
五郎が八幡姫の前に出た。
「兄上はおいでか?」
「いや、不在です」
「そうか。兄上から言付かって来たんだ。上がらせて貰うね」
そう言って、ズカズカと中へ入り込む。八幡姫とヒメコはそれに続いた。
「海野幸氏と望月重隆は何処に居る?」
五郎が問うた途端、藤五の目が険しくなった。
「裏の一間ですが、彼らに何用でしょうか?殿から出すなと言われております」
「一言二言話すだけだ。通してくれ」
藤五は不審な顔をしてヒメコを見た。ヒメコが言葉を継ぐ。
「五郎君は幸氏殿や重隆殿とは義高殿と共に碁を楽しまれた仲です。お二人をお慰めに参りました。私が付いております。もし何かありましたら直ぐに大声を上げますので、どうかお願いします」
そうとりなしたら、藤五はやっと関を外してその部屋に入れてくれた。
「五郎君!」
幸氏と重隆が駆け寄ってくる。
「やぁ、二人とも元気そうだな。良かった」
五郎が二人に笑顔を見せる。
「二人の様子を見て来いって、小四郎兄に言われて見に来たんだ。なんだ、まだ双六ばっかやってるのか」
「あ、いえ。江間殿が書物も沢山貸して下さいましたので、それらも読んでいます」
「じゃあ、久々に碁で勝負しよう」
「宜しいのですか?」
重隆の言葉に五郎は藤五を振り返った。
「一局くらいいいよな?」
藤五は、はいと返事をして戸を閉めた。皆で碁盤を囲んで座る。
「五郎君が黒石ですよね」
重隆の言葉に五郎が口を尖らせる。
「何だと?俺だって少しは上手くなってるぞ」
「では、どうぞ」
「おい、聞けってば。俺にも白石を持たせろ」
懐かしい掛け合い。
と、幸氏がそっと八幡姫に顔を寄せた。
「あの、まさか」
八幡姫が幸氏を見返して頷く。
「久しぶりね。不都合はない?」
「えっ、姫さま?こんな所に何故!」
重隆が声を上げるのを、しっと指で制して八幡姫は口を開いた。
「二人の様子を見に来たの」
そう言ってそっと頭を下げる。
「義高様を守れなくてごめんなさい」
途端に二人が慌てる。
「姫さまがそのようにお感じになることは何も御座いません。私どもこそ、若をお守り出来ず、身代わりにもなれず、申し訳のないことです」
そう言って床に頭を擦り付ける。
八幡姫は二人の肩に手を置いて続けた。
「貴方達のことは私が守るから。だから義高様の分も生きて。生きて、いつか平家を倒し、義高様が、またその父君が目指した国を造る手伝いをして欲しいの。今日はそれを伝えたくて来ました」
「国を造る?」
「武士が公家にへつらうことなく領土を守っていける武士の国よ」
「武士の国」
幸氏が繰り返す。八幡姫は頷いた。
「私も共に戦うから。戦って、いつか京をも動かせるようになって見せるから。だから貴方達はその日の為に生きて、生き延びて私を助けて」
その時、藤五が入って来た。
「殿のお戻りだ。早くここから出て金剛君の部屋へ隠れろ」
慌てて五郎と八幡姫と、金剛の部屋へと逃げ込む。
コシロ兄は荷物だけ取りに戻ったようで、奥には顔を見せずにまた出かけて行った。
「では、失礼します」
頭を下げて江間屋敷を出る。藤五が五郎に声をかけた。
「五郎君、姫君をお連れになるのはこれきりで頼みますぞ」
五郎が振り返って舌を出す。
「よくわかったね。コシロ兄はいい家人をお持ちだ」
藤五はニヤッと笑ってヒメコを見た。
「おかげさまで大分見慣れましたもので、童の変装には騙されぬようになりました」
フジが、隠していた三人の草履を出してくれる。
「お気を付けて。彼らはいい武将になりましょう。きっとすぐにお赦しが出ますよ」
ヒメコは深々と頭を下げて江間屋敷を出た。
挨拶をしたらアサ姫の返事があった。
戸を開けて中に顔を覗かせる。
「おかえりなさい、ヒメコ。比企の尼君はお変わりないかしら?」
問われ、はいと返す。
「姫はお陰で無事でした。その姫が、姫御前を小御所に早く戻せと言うので、急ぎ貴女を呼びに行かせたのよ。ごめんなさいね」
ヒメコは首を横に振った。頼朝はその場には居なかった。
「あの、御所様は」
「今は軍議に出てるけど平気よ。貴女が水を飲ませてくれたので姫が助かったのだと理解したから。これからも変わらずに姫の側に居て頂戴。姫が部屋で貴女を待ってるわ」
促されるようにして姫の部屋に上がる。
「姫御前です。姫さま、お加減はいかがでしょうか?」
声をかけたら、サッと戸が開けられ、八幡姫が姿を現した。
「まぁ、姫さま。お起きになって宜しいのですか?」
驚いて見上げる。
と、手を引っ張られた。
「さ、入って。待ってたのよ」
少ししゃがれてはいたが、力の入ったしっかりした声だった。
「姫さま、お熱は?」
「もう下がったわ。それより父上、母上には会った?」
「御所さまは軍議中とのことで、御台さまにだけご挨拶を」
答えたら、八幡姫は、そう、と呟いた。
「父上は鬼になるそうよ。母上も」
「鬼?」
八幡姫は頷いて、そっと笑った。
「だから私も鬼になることにしたわ。鬼夫婦の子どもですもの」
話が飲み込めず戸惑うヒメコ。八幡姫は両の口の端を持ち上げた。
「それで先ず、ヒメコ、あなたを呼び戻させたの。それから幸氏と重隆の命を保証させた。私も戦うわ」
「戦う?」
八幡姫は大きく頷いた。
「ええ。そうでなければ義高様に申し訳がないもの」
何と戦うのか、どう戦うのか。それは聞けず、ただ、八幡姫が懸命に生きようとしているのを感じてヒメコは黙って頷いた。
「では、早速出かけるから供をして」
「出かけるってどちらへ?それにその格好は」
八幡姫は髪を後ろで軽く束ね、水干を纏った童姿で立っていた。
「これは義高様のお着物よ。この方が動きやすいでしょう?」
明るい浅葱の水干。確かに見覚えがある。
「では、私も着替えて参ります」
言って、水干を羽織って戻る。姫にそれは誰の水干かと問われ、五郎君のですと答えたら、
「元は小四郎兄のだけどね。いや、もっと言ったら三郎兄上のかな」
答える声がして、振り向けば五郎が立っていた。
「久しぶり。姫も姫姉ちゃんも元気そうで何より」
「五郎!」
八幡姫が笑顔を見せる。久しぶりの笑顔に少しホッとする。
「あなた、ずっと顔も見せずに何処に居たの?」
八幡姫の問いに、五郎はチラと後ろの公文所に目を送った。
「新しく出来た公文所で、文の整理とかをさせられてた。早くからここで学んでおけって父上に放り込まれたのさ。でもあんまりにも退屈だからボーッと外を眺めてたら二人の姿が見えたから抜け出してきた。何処に行くの?俺が護衛に付いてやるよ」
すると八幡姫が答えた。
「それは丁度良かったわ。江間屋敷に行く所なの」
「江間屋敷?」
驚いて姫を見下ろせば、八幡姫はええと頷いた。
「海野幸氏や望月重隆は江間の屋敷に預けられてるのでしょう?彼らに会うの」
「それは、御所様や御台様には?」
「言えるわけないわ。だから抜け出してきたのよ」
会ってどうなさるのです?」
問うたら、八幡姫はさあ、と返した。
「会ってから決めるわ」
五郎が噴き出した。
「八幡は大姉上そっくりになって来たな」
笑い事ではないと思いつつ、先を歩く五郎に付いて江間屋敷に着く。戸を叩いたら藤五が顔を出した。
「ああ、姫御前殿」
そう迎えてくれつつ、ヒメコの後ろに隠れていた二人に鋭く目を飛ばす。
「おや、これは五郎君。どうされましたか?」
五郎が八幡姫の前に出た。
「兄上はおいでか?」
「いや、不在です」
「そうか。兄上から言付かって来たんだ。上がらせて貰うね」
そう言って、ズカズカと中へ入り込む。八幡姫とヒメコはそれに続いた。
「海野幸氏と望月重隆は何処に居る?」
五郎が問うた途端、藤五の目が険しくなった。
「裏の一間ですが、彼らに何用でしょうか?殿から出すなと言われております」
「一言二言話すだけだ。通してくれ」
藤五は不審な顔をしてヒメコを見た。ヒメコが言葉を継ぐ。
「五郎君は幸氏殿や重隆殿とは義高殿と共に碁を楽しまれた仲です。お二人をお慰めに参りました。私が付いております。もし何かありましたら直ぐに大声を上げますので、どうかお願いします」
そうとりなしたら、藤五はやっと関を外してその部屋に入れてくれた。
「五郎君!」
幸氏と重隆が駆け寄ってくる。
「やぁ、二人とも元気そうだな。良かった」
五郎が二人に笑顔を見せる。
「二人の様子を見て来いって、小四郎兄に言われて見に来たんだ。なんだ、まだ双六ばっかやってるのか」
「あ、いえ。江間殿が書物も沢山貸して下さいましたので、それらも読んでいます」
「じゃあ、久々に碁で勝負しよう」
「宜しいのですか?」
重隆の言葉に五郎は藤五を振り返った。
「一局くらいいいよな?」
藤五は、はいと返事をして戸を閉めた。皆で碁盤を囲んで座る。
「五郎君が黒石ですよね」
重隆の言葉に五郎が口を尖らせる。
「何だと?俺だって少しは上手くなってるぞ」
「では、どうぞ」
「おい、聞けってば。俺にも白石を持たせろ」
懐かしい掛け合い。
と、幸氏がそっと八幡姫に顔を寄せた。
「あの、まさか」
八幡姫が幸氏を見返して頷く。
「久しぶりね。不都合はない?」
「えっ、姫さま?こんな所に何故!」
重隆が声を上げるのを、しっと指で制して八幡姫は口を開いた。
「二人の様子を見に来たの」
そう言ってそっと頭を下げる。
「義高様を守れなくてごめんなさい」
途端に二人が慌てる。
「姫さまがそのようにお感じになることは何も御座いません。私どもこそ、若をお守り出来ず、身代わりにもなれず、申し訳のないことです」
そう言って床に頭を擦り付ける。
八幡姫は二人の肩に手を置いて続けた。
「貴方達のことは私が守るから。だから義高様の分も生きて。生きて、いつか平家を倒し、義高様が、またその父君が目指した国を造る手伝いをして欲しいの。今日はそれを伝えたくて来ました」
「国を造る?」
「武士が公家にへつらうことなく領土を守っていける武士の国よ」
「武士の国」
幸氏が繰り返す。八幡姫は頷いた。
「私も共に戦うから。戦って、いつか京をも動かせるようになって見せるから。だから貴方達はその日の為に生きて、生き延びて私を助けて」
その時、藤五が入って来た。
「殿のお戻りだ。早くここから出て金剛君の部屋へ隠れろ」
慌てて五郎と八幡姫と、金剛の部屋へと逃げ込む。
コシロ兄は荷物だけ取りに戻ったようで、奥には顔を見せずにまた出かけて行った。
「では、失礼します」
頭を下げて江間屋敷を出る。藤五が五郎に声をかけた。
「五郎君、姫君をお連れになるのはこれきりで頼みますぞ」
五郎が振り返って舌を出す。
「よくわかったね。コシロ兄はいい家人をお持ちだ」
藤五はニヤッと笑ってヒメコを見た。
「おかげさまで大分見慣れましたもので、童の変装には騙されぬようになりました」
フジが、隠していた三人の草履を出してくれる。
「お気を付けて。彼らはいい武将になりましょう。きっとすぐにお赦しが出ますよ」
ヒメコは深々と頭を下げて江間屋敷を出た。
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