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美人妻の心得
しおりを挟む「信じらんない! 女の子の髪の毛よ! フツー切る?!」
「いや、だから紐の方」
「ダメったらダメ! この紐は特別仕様なのよ! 今日のイベントの為に用意したのよ!」
困った。だが確かに妻としての真朝を思うと、もしここで切ったら後々までしつこく言われるだろう。
「わかった。じゃあ、頭を抑えてろ」
立ち上がる。髪の房と紐を受け取り、真朝の背に立つ。
「え……何する気よ」
「引っ張る」
「ぎゃー!! やめて! 力づくで言うことを聞かせるなんてひどい! エッチ! ヘンタイ!」
改めて言うが、卑猥なことは何もない。
開けた蔀戸から陽の光が入ってくる。大分日がのぼってしまった。姉の怒り顔が浮かぶ。それに御所のニヤニヤ顔も。遅刻したら絶対セクハラ&パワハラ発言をたっぷり頂戴することになる。冗談ではない。
「そろそろ参内しないとまずいんだ」
「だって朝餉もまだ食べてないのに」
小四郎は首を横に振った。
「今日は違う直垂で出かけるから、俺が出た後に……」
そう口にしかけた途端、真朝の眉が吊り上がった。
「ひどいわ! 今日の為に徹夜で準備した直垂なのに着てくれないなんてひどすぎる!」
そう、数日前から徹夜で懸命に縫っていた。それは知ってる。その分、昼間に寝ていた筈だが。そして昨晩お披露目してくれたのはいい。枕元に大事に置いて寝たのはいい。だが、そのせいで今この事態に陥っている。
「それに、こんな恥ずかしい状態の女の子を置き去りにするなんて、男として最低だと思わないの?」
重ねて言うが、卑猥なことは……
小四郎は深いため息を一つついた。小さく華やかな頭の上にぽんと手を起き、片膝を立てて真朝の脇に腰を下ろす。小さな白い手を上から大きく包みこみ、妻の瞳をじっとのぞき込む。
「お前はどうして欲しい」
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