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第1話 横顔
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横顔をそっと見つめる。
カッコいいな、素敵だな。男の子の横顔って、どうしてあんなにシャープで綺麗なんだろう。
ううん、男の子にも色々ある。ゴツいのとか丸いのとか。でも榎くんのは違う。ひたすらシャープで綺麗。
学年が上がってクラス替えで初めて同じクラスになった。出席番号順で並んで隣になり、ふとその美しさに気付いて見惚れてしまったのが最初。
「おい、大市。昼寝するなら口は閉じとけ。ヨダレが机にユーラシア大陸作ってるぞ」
地理のトミっさんの声に慌てて跳ね起きる。
「先生ひどい!そんなに大きくないです。オーストラリア大陸くらいって言って」
ドッと沸く教室に、またやってしまったと反省する。そっと隣を見たら、榎くんは我関せずな顔で向こうを向いてた。その視線の先には彼女、市川美花ちゃん。クラス一の美少女。三枚目役担当の私とは真反対で真面目で頭も良いけど、それをひけらかさない控え目でおっとりした性質。身体が弱いとかで体育の授業はいつでも見学。
透けるような白い肌がとっても綺麗。いかにも守ってあげたくなる風情に、クラスの男子どもは皆やられてた。そして榎くんも。だって、いつも彼女をじっと見てる。だから私は遠慮なくその横顔を眺められた。
でも、お昼だけは別。美花ちゃんは何故かお弁当を私と食べようとするのだ。曰く、私が前にいると食が進むのだそうだ。それは別にいいんだけど、おかげでお弁当が食べにくいことこの上ない。
見るな、見るなよ。こっちを見るなってーの。
そちらをジロリと睨んだら、榎くんがサッと目を落とした。
よし、今の内に。
パクパクパクッ!
三口でサンドイッチを口に押し込み、あとはモグモグと良く噛む。リスみたいだとよく言われる。口に入れられるだけ入れて、後からゆっくり食べるからだ。
そしたら、また視線を感じた。美花ちゃんはゆっくりお上品に小さなお弁当箱をつついている。やっぱり可愛い。到底自分には真似出来ない芸当だ。
みっちー、バスケしに行くよ」
隣のクラスのカッチーが呼びに来て、私はご馳走様と手を合わせて立ち上がった。
「美花ちゃん、ごめん。部活行ってくるわ」
声をかけたら美花ちゃんはにっこり笑って頷いた。
「うん、行ってらっしゃい、部長」
花のような、ってまさにこれ。可愛く小さく手を振られ、私は、おうよ、とガッツポーズを作った。それから、そちらに目を送る。
「榎、私の代わりにここ座っててあげてよ。一人で食べるんじゃ美花が寂しいからさ」
「え」
高い声が二つ、それに男子どもの騒めいた声が聞こえたけど、私はとっとと教室を飛び出した。
いいんだ、別に。私は榎の横顔のラインが好きなだけ。本人が好きなワケじゃない。だから榎が美花ちゃんとくっ付いて、心置きなくそっちを向いていてくれるなら、私も集中してその横顔を眺められるってもの。
その放課後、帰りしなに声をかけられた。
「おい!」
甲高い声にビクッとして振り返る。
榎くんだった。
「お、おお、おおい、チルチルミチル」
——は?チルチルミチル?
私の名前は大市みちる。確かに似てなくもないけど、フツーそう間違える?
からかわれてるんだろうか?
そう思って榎くんの顔を見てビックリした。榎くんは口を覆って横を向いていたけど、その横顔は耳まで真っ赤になっていた。
チルチルミチルって言ったのがそんなに恥ずかしかったのかな。
ま、童話のキャラクターだしね。
「何?青い鳥でも探してる?」
ノリでそう突っ込んだら、彼は首を傾げた。それから男子にしてはかなりトーンの高い声で
「つ、付き合って、くれ」
そう言った。
昼に美花ちゃんと座らせたこと
で何か言いたいのかも、と思う。
「いいよ。じゃあ、森にでも行きましょか」
フザケたノリのまんまそう答えたら、榎くんはホッとした顔をして歩き出した。
うちの学校には小さな森がある。そういう名がついてるだけのちょっと大き目の庭みたいなビオトープなんだけど、小さな滝があって水が流れてたりして、雰囲気は割といいから、昼休みにはカップルが待ち合わせしてたりする。でも放課後はカップルはいない。わざわざ学校の中に残る必要はないから外へ出るのだろう。だからあまり聞かれたくない話をするには打ってつけだった。
「で?美花ちゃんとはうまくいったの?」
単刀直入に聞く。そうしたら榎くんは口を真一文字に結んでこちらを睨んだ。
「ご、誤解するな。市川とはそんなんじゃない。母親同士が知り合いだから監視を頼まれてるだけだ」
あ、そう。
と軽く聞き流そうとして、物騒な言葉に顔を上げる。
「監視?何それ」
美花ちゃんの何を監視すると言うのか。あんないたいけな子を。
そう突っ込もうとした時、同時に榎くんが口を開いた。
「お、俺が護りたいのは、お前、だから」
「は?」
この人、何言ってんの?
「私を護るって言われても、私は見ての通り健康優良児だから護ってくれなくて構わないんだけど。美花ちゃんの話でここに来たんじゃないの?」
「だ、だからその、市川じやなくて、俺が好きなのは、お、大市、お前なんだけど」
甲高い声にそう言われて、暫しフリーズする。目の前には男子にしては線が細くて肌の白い、目の大きな人。
あれ?もしかしたら榎くんって女の子だったっけ?
ンなわけないか。私と同じくらい背があるし、体育は男子で参加してるし、下の名前は確か、輝明。
ん?今、好きって言われた?
ということは。
「あのさ。もしかして、さっき言った付き合って欲しいって、ちょっと話に付き合えって意味じゃなかったの?」
「ち、違う」
「え、付き合うって私に彼女になれってこと?美花ちゃんじゃないの?」
驚き過ぎたせいだろう。ストレートに返してしまう。榎くんはコクリと頷いた。
「だ、駄目か?他に好きなヤツいるのか?」
「他に、はいないけど」
「じゃあ」
パッと顔を上げる榎くん。細いようで意外にしっかりした首筋と喉元がセクシー。つい目がそこに釘付けになる。
「じ、じゃあ、つ、付き合ってくれるの?」
なんか問われたことに気付き、慌てて首元から目線を外す。
「え、付き合う?」
——付き合うって、私と榎が?
「いや、無理」
咄嗟にそう答えていた。
カッコいいな、素敵だな。男の子の横顔って、どうしてあんなにシャープで綺麗なんだろう。
ううん、男の子にも色々ある。ゴツいのとか丸いのとか。でも榎くんのは違う。ひたすらシャープで綺麗。
学年が上がってクラス替えで初めて同じクラスになった。出席番号順で並んで隣になり、ふとその美しさに気付いて見惚れてしまったのが最初。
「おい、大市。昼寝するなら口は閉じとけ。ヨダレが机にユーラシア大陸作ってるぞ」
地理のトミっさんの声に慌てて跳ね起きる。
「先生ひどい!そんなに大きくないです。オーストラリア大陸くらいって言って」
ドッと沸く教室に、またやってしまったと反省する。そっと隣を見たら、榎くんは我関せずな顔で向こうを向いてた。その視線の先には彼女、市川美花ちゃん。クラス一の美少女。三枚目役担当の私とは真反対で真面目で頭も良いけど、それをひけらかさない控え目でおっとりした性質。身体が弱いとかで体育の授業はいつでも見学。
透けるような白い肌がとっても綺麗。いかにも守ってあげたくなる風情に、クラスの男子どもは皆やられてた。そして榎くんも。だって、いつも彼女をじっと見てる。だから私は遠慮なくその横顔を眺められた。
でも、お昼だけは別。美花ちゃんは何故かお弁当を私と食べようとするのだ。曰く、私が前にいると食が進むのだそうだ。それは別にいいんだけど、おかげでお弁当が食べにくいことこの上ない。
見るな、見るなよ。こっちを見るなってーの。
そちらをジロリと睨んだら、榎くんがサッと目を落とした。
よし、今の内に。
パクパクパクッ!
三口でサンドイッチを口に押し込み、あとはモグモグと良く噛む。リスみたいだとよく言われる。口に入れられるだけ入れて、後からゆっくり食べるからだ。
そしたら、また視線を感じた。美花ちゃんはゆっくりお上品に小さなお弁当箱をつついている。やっぱり可愛い。到底自分には真似出来ない芸当だ。
みっちー、バスケしに行くよ」
隣のクラスのカッチーが呼びに来て、私はご馳走様と手を合わせて立ち上がった。
「美花ちゃん、ごめん。部活行ってくるわ」
声をかけたら美花ちゃんはにっこり笑って頷いた。
「うん、行ってらっしゃい、部長」
花のような、ってまさにこれ。可愛く小さく手を振られ、私は、おうよ、とガッツポーズを作った。それから、そちらに目を送る。
「榎、私の代わりにここ座っててあげてよ。一人で食べるんじゃ美花が寂しいからさ」
「え」
高い声が二つ、それに男子どもの騒めいた声が聞こえたけど、私はとっとと教室を飛び出した。
いいんだ、別に。私は榎の横顔のラインが好きなだけ。本人が好きなワケじゃない。だから榎が美花ちゃんとくっ付いて、心置きなくそっちを向いていてくれるなら、私も集中してその横顔を眺められるってもの。
その放課後、帰りしなに声をかけられた。
「おい!」
甲高い声にビクッとして振り返る。
榎くんだった。
「お、おお、おおい、チルチルミチル」
——は?チルチルミチル?
私の名前は大市みちる。確かに似てなくもないけど、フツーそう間違える?
からかわれてるんだろうか?
そう思って榎くんの顔を見てビックリした。榎くんは口を覆って横を向いていたけど、その横顔は耳まで真っ赤になっていた。
チルチルミチルって言ったのがそんなに恥ずかしかったのかな。
ま、童話のキャラクターだしね。
「何?青い鳥でも探してる?」
ノリでそう突っ込んだら、彼は首を傾げた。それから男子にしてはかなりトーンの高い声で
「つ、付き合って、くれ」
そう言った。
昼に美花ちゃんと座らせたこと
で何か言いたいのかも、と思う。
「いいよ。じゃあ、森にでも行きましょか」
フザケたノリのまんまそう答えたら、榎くんはホッとした顔をして歩き出した。
うちの学校には小さな森がある。そういう名がついてるだけのちょっと大き目の庭みたいなビオトープなんだけど、小さな滝があって水が流れてたりして、雰囲気は割といいから、昼休みにはカップルが待ち合わせしてたりする。でも放課後はカップルはいない。わざわざ学校の中に残る必要はないから外へ出るのだろう。だからあまり聞かれたくない話をするには打ってつけだった。
「で?美花ちゃんとはうまくいったの?」
単刀直入に聞く。そうしたら榎くんは口を真一文字に結んでこちらを睨んだ。
「ご、誤解するな。市川とはそんなんじゃない。母親同士が知り合いだから監視を頼まれてるだけだ」
あ、そう。
と軽く聞き流そうとして、物騒な言葉に顔を上げる。
「監視?何それ」
美花ちゃんの何を監視すると言うのか。あんないたいけな子を。
そう突っ込もうとした時、同時に榎くんが口を開いた。
「お、俺が護りたいのは、お前、だから」
「は?」
この人、何言ってんの?
「私を護るって言われても、私は見ての通り健康優良児だから護ってくれなくて構わないんだけど。美花ちゃんの話でここに来たんじゃないの?」
「だ、だからその、市川じやなくて、俺が好きなのは、お、大市、お前なんだけど」
甲高い声にそう言われて、暫しフリーズする。目の前には男子にしては線が細くて肌の白い、目の大きな人。
あれ?もしかしたら榎くんって女の子だったっけ?
ンなわけないか。私と同じくらい背があるし、体育は男子で参加してるし、下の名前は確か、輝明。
ん?今、好きって言われた?
ということは。
「あのさ。もしかして、さっき言った付き合って欲しいって、ちょっと話に付き合えって意味じゃなかったの?」
「ち、違う」
「え、付き合うって私に彼女になれってこと?美花ちゃんじゃないの?」
驚き過ぎたせいだろう。ストレートに返してしまう。榎くんはコクリと頷いた。
「だ、駄目か?他に好きなヤツいるのか?」
「他に、はいないけど」
「じゃあ」
パッと顔を上げる榎くん。細いようで意外にしっかりした首筋と喉元がセクシー。つい目がそこに釘付けになる。
「じ、じゃあ、つ、付き合ってくれるの?」
なんか問われたことに気付き、慌てて首元から目線を外す。
「え、付き合う?」
——付き合うって、私と榎が?
「いや、無理」
咄嗟にそう答えていた。
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