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第3章 隠者ブラックウッド

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 前王はある意味良い王だった。
 カリスマ性はない平凡な王だった。
 政治は他の者に任せて、遊んでいるように見えるバカ殿だった。
 ただ、人の話を聞く能力、良い人材を見抜ける能力に長けていた。
 彼は良い人材を側近として登用した。
 わたしはまあ例外だが。
 請われて魔導士団の長となった。
 王からの命令はこの国の魔導士軍を最強のものにしてくれということ。
 あと好きなようにやってくれということだった。
 かといって王の治世中は魔導士軍が戦争に派遣されたことはない。
 というか、戦争はなく。国境付近での小競り合いしか起きなかった。
 この間、国は栄え文化が発展した。
 
 ただ、前王が急死して、息子のゲルヘルム15世が後を継いでから雲行きがおかしくなった。
 自分の存在感を示したかったのだろう。
 政治にいろいろと口を出すようになった。
 それは近視的なろくでもない政策ばかりであった。
 もちろん前王が重用した臣はそれをお諫めした。
 だが、それをうっとおしく思った王は、旧王の臣たちを遠ざけ始めた。
 自分を持ち上げる太鼓持ちたちを採用し始めたのだ。
 旧臣たちは次々と姿を消し、残るはわし一人となった。
 
 わしもべつに地位に固執したわけではない。
 魔導士長なんて地位はいつでもくれてやると思っていた。
 しかし、若王もわしが怖かったんだろうな。
 王子のころからなにかと厳しく接していたからな。
 それにわしが抜けることで王国が誇る魔導士団が弱体化するのも避けたかったんだろう。

 わしも前国王には恩がある。
 魔法バカと言われたわしに地位を与え、自由に魔導の研究をさせてもらった。
 だから、自分の任務をまっとうしようとした。
 そして、若王にあえて苦言を呈してきた。
 しかし、そろそろ潮時だな。
 隠居して田舎でゆっくりと魔導の研究をするのもいいかもしれないな。

「それでは、デルモント公国への侵攻に反対の方」
 議長が決をとる。
 結論ありきの会議だ。くだらない。
 わしが一人だけ手をあげる。

「ブラックウッド師だけですね。
 それでは、デルモント公国への侵攻は可決ということでよろしいですね」
 全員が拍手をする。

 若王は満足そうにうなづく。
 そして会議はお開きになる。
 後ろの扉が開かれ、みんなたちあがり退出していく。
 その流れに反して衛兵たちが入ってくる。
 衛兵はわしのところに来る。

「なんじゃ。おまえたちは」

「ブラックウッド、お前を反逆罪で逮捕する」
 衛兵の長は逮捕状を広げ、衛兵はわしに手錠をかける。
 べつにこの程度跳ね返すのは簡単だ。しかし。
 わしは、とりあえずおとなしく衛兵に従うのだった。
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