転売スレイヤー ~この異世界から転売ヤーを絶滅させます~

natuumi

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2章 転売ギルド

海鳥のカッツ

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「で、どうだった?酔い惑う牡牛亭は?」
 夜、ポワルでリョーマがカイエン隊の宿舎で用意してくれた3畳の部屋で布団を敷いていると、開けていた窓にいつの間にか小柄な女性が座っていた。女性と言っても腕の代わりに翼が生え、足は巨大な鳥と変わらない鉤爪を持った、所謂鳥人だ。

「…カッツ姐さん…」

 彼女は『海鳥のカッツ』。荒波のリョーマ率いるカイエン隊の情報担当の鳥人だ。小柄だが、歳はリョーマ師匠より少し下程度、カイエン隊でも最古参の部類だ。

「おひさ~ヤミーくん!リョーマさんよりお目付役を頼まれてやってきたよ~」
「窓から入ってくるのはやめてくださいって前から言ってますよね」
「いいじゃんいいじゃ~ん。ボクとヤミーくんの仲なんだからさぁ~。2人で熱い夜を過ごしたの、忘れちゃったの~?」

 忘れるわけもない。見習い時代にリョーマ師匠の眼帯で遊ぶカッツ姐さんを止めようとしてとばっちりを受けた事を…!師匠の鞭で叩かれた臀部の熱さを…!

「で、話戻るけど、どうだった?酔い惑う牡牛亭は?」
「…そうですね。想定していた通りというか…」
「なんかあそこいい感じだよね!下町の酒場って感じで、その上人が一杯でさ~!やっぱお酒飲むなら周りのテンションとか雰囲気も大事!それにヤミーくん頼み損ねたかもしれないけど、メニューの一番右下にあるハムベリー・ジャムサンドが甘くて美味しい~の!ワインで使ってるのと同じ高品質のハムベリーと地元酪農家から取り寄せたミルクの生クリームが絶妙にマッチしててさぁ~!みんなも知らないだろうからこの前思わずカイエン隊の掲示板に食レポ書いて載せちゃったよ~!私もまた食べに行かなきゃな~!」

 勝手に店の感想言い始めてるけど、カッツ姐さん、転売ギルドの事を聞いてたんじゃないの?

「あの…姐さん、私は転売ギルドの調査しに行ったわけで…」
「ボク的にね、あの店はお酒やお肉よりもミルクを使った料理だとおもうんだよね~!あ~ジャムサンドだけじゃなくてパフェとかケーキとかも作ってくれないかな~!」
「あ、あの!話の本題はそっちじゃないですよね!カッツ姐さん!」
「あはは~そうだねごめんごめん」

 海鳥のカッツ…。彼女は海賊時代から荒波のリョーマの右腕として働く諜報活動の達人であり、その情報収集能力、コミュニティは目を見張るものがある。だがその裏返しか、おしゃべりで余計な事まで喋り倒すから、会議荒らしとして有名だ。

「じゃあ、もう一度仕切り直しますね」

 一度咳ばらいを入れて、私はカッツ姐さんに先程酔い惑う牡牛亭で聞いた話や、それに発覚した転売ギルドの正体を話した。

「う~ん、なるほどな~。ヤミーくんアッタマ良い~」
「でもカッツ姐さんならこのぐらい気づいていたんじゃないですか?相手が闇ギルドではないくらい」
「う~ん、それはどうだろう。ボクはポワルで聞き込みする所から始めたからな~。転売ギルドから買った人からも話しを聞いたんだけど、やっぱりギルドの人間だっていう商人から買ってるらしいんだよ~」
「それは一個人で売ってても信用力がなくて売れないから、ギルドの人間を名乗ってるだけなのでは?」
「そうなのかな~。でもさ~。キミの推論だと、ほぼ全員転売以外に本業を持ってるんだよね?それならその人達はいつ買ったものを売ってるのさ?本業の合間だけで店を開いたり、あるいは商談をもちかけるのかな?それだけでそんな大量の在庫をさばけるわけないよね~?」

「…!確かにその通りですね…」

 前世の転売ヤーと似た様なものだと思っていたが、一つ、前世とは決定的に違う事がある。それはネットが無い事だ。ネットがあるからこそ何時でも何処でも個人間のやり取りや売り買いが可能なわけで、この世界では買いに行くにも売りに行くにもそれなりに労力が必要なはずだ。その問題をどうやってクリアしているんだ…?

「ヤミーくんの考えが間違ってるとも思えないけど、やっぱりあの酒場にいる人たちはカモフラージュか何かをしていて、転売ギルドが何処かに存在してるんじゃないかな~?」

 もしかして本当に転売ギルドが存在していて、あの人達はカモフラージュをしていただけなのだろうか。それにしては跡形もなさすぎる…。

「品を売買している人間は?どうすれば会えるか知りませんか?」
「う~ん、売っている人間は品を必要としている店に直接商談に現れるらしくて、私達が会うなら長い事店にはりつかないといけないかもね~」

 そちら側からのアプローチも難しいか…。クソ、確かに存在はしているのに下手にオープンなだけにどう調べるべきか分からない。

「…そうですか…。こうなったら…実際に自分が酔い惑う牡牛亭で転売をして…」

 と言いかけた所で胃から何かが逆流し、喉までやってきたのを感じた。

「ウプッ…!」
「ん?あ、わ~ッ!ちょっとヤミーくん!?突然どうしたの!?吐くならトイレトイレ!」

 無理だ…!転売ヤーに家族と自分を殺され、転売を憎む私が転売をするなんて…!
 込み上げるものを窓枠にしがみつきながら必死に抑える。
 その背中をカッツ姐さんがしきりにさすってくれるおかげで、なんとか吐くのを堪えた。

「大丈夫?」
「は…はい…大丈夫です…ありがとうございます」

 多分そういう自分の表情は全く大丈夫ではなかったのだろう。

「今日は疲れたでしょ!今夜は寝て、また明日考えようか!」

 そう言って彼女は翼で私をベッドに誘導し座らせる。しかし依然として険しい顔のままの私を見かねて、彼女は努めて明るく話題転換をした。

「そうだ、ラベンナの花!あの花をカイエン隊の倉庫から持ってくるね~!あの花の香りには落ち着く作用があるって言われてるんだ~」
「…いや、大丈夫です」
「ラベンナは嫌だった~?他にもいろいろあるよ~。バイラ、ジャスティン、パシル…なんでもあるんだよ~」

 …なんか聞いたことのある様な名前の花ばっかだが、気のせいだろうか。
 
「…色々あるんですね。今花って売れるんですか?」
「まぁね~。今富裕層の間で色鮮やかな花を咲かせるのが流行ってるみたいでね~。今はユーリップなんかの色んな色になる花の球根が売れてるけど、そのうち香りの高い花も売れるんじゃないかってことでリョーマさんが仕入れてるんだ~。いや、もしかしたらあの人意外と花が好きで買ってたりするのかな~?」

 花が流行っている、か…。
 正直花に関しては全く詳しくないんだよなぁ。知っているのは小学校の夏休みに育てたアサガオと箱庭ゲームで交配躍起になったパンジーくらいで。
 それよりも元経済学部の男が花と聞いて詳しく話せる事といったらチューリップ・バブルくらいな物で…。

 …チューリップ・バブル…!

 その言葉を思い出し、突然私はベッドから飛び上がって口に手を当てた。

「どうしたの~?」

 と怪訝な顔でコチラを見つめるカッツ姐さんを他所に私は思案に耽った。

 チューリップ・バブル。
 17世紀にオランダでチューリップの値段が高騰することで起こった世界で初めてのバブルだ。当時は商人や富豪だけでなく、市民の間でも売買され、盛んに交配が行われるようになり、珍しい色のチューリップが生まれた際は通常の10倍以上の値段で取引されていたとも言われている。
 これは使えるかもしれない…!

「カッツ姐さん!今すぐ花を保管している倉庫まで連れて行ってくれ!」

 突然の私からのお願いに再び慌てるカッツ姐さん。

「え、ええ~?また突然どうしたの~‽今日は休みなよ~。情緒不安定にもほどが」
「いいから!やつらを潰す方法を思いついたんだ!」

 これで、あの酔い惑う牡牛亭の奴らも、正体不明の転売ギルドの中核を担う奴らも潰せる…!
 やってやるぞ…転売ヤー全滅すべし…!
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