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閑話 故郷
始まり
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「本当なのか…!?村を出て行くと!」
「はい、だからバレット村長に残りの魔石の在庫を引き取ってもらいたくて…」
「そ、そうか…」
翌日、朝一番で納屋から火の魔石の箱を運び出し、私は村長に商談を持ち掛けていた。
不思議そうに首を傾げるバレット村長。だが何か立ち会ってはならぬ事情があるのかと察したようだ。
「…君には世話になったからな、言い値で買わせてもらうよ」
「いえ、自分がトリスキンで仕入れた時の原価で売りますよ。その代わり条件があります」
「おお、何なりと言ってくれ」
「まず、支払いは私にではなくデント家に。そして売る時は自分が売ってた時と同じ値段でお願いします」
「それはいいが…君はいいのか?村を出るなら先立つ物が必要だろう。少しでも援助させてくれ」
「いえ、資金は十分用意があるので」
「…そうか、ならば確かに、お金はジョブスさんに後で渡そう」
そう言って村長に一瞥し、無事火の魔石の取引を終えた私は村長の邸宅を後にした。
「いつでも村に帰ってきていいからな。ご両親と何があったかは分からんが、ここが君の故郷であることはかわらん」
出ていく間際に、バレット村長は私の背中にそう投げかけた。
村の広場にでて、息を吸う。雪に洗われて澄んだ空気が鼻を抜ける。青空を見るのは久々だ。風も無く、山の向こうから鳥が飛んできている。こういう日は一日晴れると父は言っていた。
旅立ち日和、というやつか。
「ヤミー!」
遠くから声がする。声の主は幼馴染のキセラだった。
「ヤミー、本当に出て行っちゃうの?突然どうして?」
「家を追い出されたんだ。昨日、少し言い合いになってね」
「で、でもそれなら村を出ていくこともないじゃない。みんなヤミーが火の魔石を売ってくれてとても感謝しているの。なんだったらうちのパパに頼んでしばらくウチで雇う事だって」
「ありがとう。でも元々いずれは村を出るつもりだったんだ。一応トリスキンに身を寄せるアテもあるし、心配はいらない」
それでもキセラは引き留めたいのか、何かを言わんとしては口ごもる。
「もう決めたんだ。これ以上引き留めないでくれ」
「…もうオラガ村には帰ってこないの?」
「それは…わからない。帰る家もないし…」
二人で向き合って沈黙する。その間が耐えきれなくて、私は歩き始めた。
「そろそろ行くよ。火の魔石の残りは村長に引き取ってもらった。私と同じ値段で売ってくれるように頼んであるから安心してくれ」
キセラにそう言い渡し、私は村の入り口をくぐる。彼女もそれ以上はついてこなかった。
「じゃあな、キセラ。元気でな」
キセラに向けて手を振るが、彼女はうつむいてしまって何も返さない。まぁ、見送りだけで十分か。
そう思って歩み始めて少しすると、突然大声が背中を殴った。
「あなたはこの村の英雄よ!ここはあなたの故郷だから!いつ帰ってきてもいいからね!」
思わず振り返って彼女の姿を確認する。その顔は真っ赤で、目には涙を湛えている。
そしていつの間にか、村長を含めてオラガ村の村民が村の入り口に集まって俺を見送っていた。
そこには、私の両親の姿もあった。
私の目にも涙が浮かび、その涙に村で過ごした思い出が映る。駆け巡る思いに後ろ髪をひかれるも、それを振り払うように涙をぬぐうと、その手で彼らに手を振った。
「ああ、ここは俺の故郷だ!いつか、必ず帰ってくるからな!」
これが私の、ヤミー・デントの異世界での物語の始まりだ。
「はい、だからバレット村長に残りの魔石の在庫を引き取ってもらいたくて…」
「そ、そうか…」
翌日、朝一番で納屋から火の魔石の箱を運び出し、私は村長に商談を持ち掛けていた。
不思議そうに首を傾げるバレット村長。だが何か立ち会ってはならぬ事情があるのかと察したようだ。
「…君には世話になったからな、言い値で買わせてもらうよ」
「いえ、自分がトリスキンで仕入れた時の原価で売りますよ。その代わり条件があります」
「おお、何なりと言ってくれ」
「まず、支払いは私にではなくデント家に。そして売る時は自分が売ってた時と同じ値段でお願いします」
「それはいいが…君はいいのか?村を出るなら先立つ物が必要だろう。少しでも援助させてくれ」
「いえ、資金は十分用意があるので」
「…そうか、ならば確かに、お金はジョブスさんに後で渡そう」
そう言って村長に一瞥し、無事火の魔石の取引を終えた私は村長の邸宅を後にした。
「いつでも村に帰ってきていいからな。ご両親と何があったかは分からんが、ここが君の故郷であることはかわらん」
出ていく間際に、バレット村長は私の背中にそう投げかけた。
村の広場にでて、息を吸う。雪に洗われて澄んだ空気が鼻を抜ける。青空を見るのは久々だ。風も無く、山の向こうから鳥が飛んできている。こういう日は一日晴れると父は言っていた。
旅立ち日和、というやつか。
「ヤミー!」
遠くから声がする。声の主は幼馴染のキセラだった。
「ヤミー、本当に出て行っちゃうの?突然どうして?」
「家を追い出されたんだ。昨日、少し言い合いになってね」
「で、でもそれなら村を出ていくこともないじゃない。みんなヤミーが火の魔石を売ってくれてとても感謝しているの。なんだったらうちのパパに頼んでしばらくウチで雇う事だって」
「ありがとう。でも元々いずれは村を出るつもりだったんだ。一応トリスキンに身を寄せるアテもあるし、心配はいらない」
それでもキセラは引き留めたいのか、何かを言わんとしては口ごもる。
「もう決めたんだ。これ以上引き留めないでくれ」
「…もうオラガ村には帰ってこないの?」
「それは…わからない。帰る家もないし…」
二人で向き合って沈黙する。その間が耐えきれなくて、私は歩き始めた。
「そろそろ行くよ。火の魔石の残りは村長に引き取ってもらった。私と同じ値段で売ってくれるように頼んであるから安心してくれ」
キセラにそう言い渡し、私は村の入り口をくぐる。彼女もそれ以上はついてこなかった。
「じゃあな、キセラ。元気でな」
キセラに向けて手を振るが、彼女はうつむいてしまって何も返さない。まぁ、見送りだけで十分か。
そう思って歩み始めて少しすると、突然大声が背中を殴った。
「あなたはこの村の英雄よ!ここはあなたの故郷だから!いつ帰ってきてもいいからね!」
思わず振り返って彼女の姿を確認する。その顔は真っ赤で、目には涙を湛えている。
そしていつの間にか、村長を含めてオラガ村の村民が村の入り口に集まって俺を見送っていた。
そこには、私の両親の姿もあった。
私の目にも涙が浮かび、その涙に村で過ごした思い出が映る。駆け巡る思いに後ろ髪をひかれるも、それを振り払うように涙をぬぐうと、その手で彼らに手を振った。
「ああ、ここは俺の故郷だ!いつか、必ず帰ってくるからな!」
これが私の、ヤミー・デントの異世界での物語の始まりだ。
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