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鉄と蒸気の国、マキナガルド
ロキ
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解放された口から破裂する様に空気を吐く。本当に締め殺されるかと思った…。
辺りを見渡すと、そこは下層の裏路地だった。路地の汚れ具合や通りの方から見えるマキナ人の様相からそれがよくわかる。
どうやらロキと共に瞬間移動のようなものをしてきたようだ。
「ロキ、どう言うつもりだ…」
と振り向いて息を飲んだ。彼の鬼の形相は勿論の事、その傍らに巨大な黒い狼が喉を鳴らしていたからだ。
「それはこっちのセリフだよ、ショート。この有様、どう言うつもりなのか説明してくれよ」
ロキが表通りの方を指差す。
…ここは…どうやらただの下層の裏路地というわけではない、レジスタンスのアジトのすぐ近くのようだ。時々鉄の箱を押収していく重装兵が道を歩いているのが見える。
「…もしかして、出かけてた旅の仲間って…」
「そうだ、オモイカネだ。彼女はデウスからレジスタンスの情報を持った日本語を喋る男を見つけたと聞いてね。嫌な予感がすると思って君を探して後をつけてみたら案の定だ」
すると彼は静かにマキナ語を口にした。これは…雷の神術だ…!
ロキの手から何かが閃く。そこから何がどう来るかなんてわからないけど、とりあえず俺は身を反らした。
すると、直後にライフルをぶっ放したような空気の破裂音。目を開けると、背後の鉄壁に針を突いたような跡と焦げたメダルの残骸があった。
こ、これはレールガンって奴ですかね?ラノベに明るくない俺でも流石に知ってる。
「あんまり動かない方がいい。手が滑るまでは当てるつもり無いから」
そう言うロキの目は暗く、ポケットからもう一枚メダルを取り出して手癖のように手の上で転がす。
初めて体感する明確な殺意。現世でも人から怒りや反感を買うことはままあったものの、ここまで死をイメージさせられる事は無かった。
「ちゃんと聞こうか、なんでレジスタンスの情報をデウスに渡した?」
「なんでって…」
「そのままの意味だ」
手の中のコインが親指の上に装填される。これは取り繕う事は逆効果になりそうだ。
「…生きる為だ。ロキと約束した1週間を生き延びる為に、売ったんだ」
一度口に出すと、堰を切ったかのように次々と言葉が溢れてきた。
「だって仕方がないだろう?アンタと違って特殊な力も無いし、お友達のようなコネもない。何も持たずにこの過酷な世界に落とされたんだ。生きる為にはそれまでに手にした物を使うしかなかった。手段なんて選べる余裕は無かったんだ!」
「それが多くの命を奪う事になってもか!?」
「その通りだ!!!」
胸倉を掴んできた腕を振り解く。
「アンタがした事だって同じじゃないか!必需品を手に入れる為に神術を売った!それが戦争で使われたら多くのマキナ人の命を奪う!それに比べたらむしろ可愛いもんだ!」
「違う!私は成されるべき正義とここの人間の自由に手を貸したんだ!」
「その成されるべき正義はロキ、アンタが決める事なのか!?アンタは神にでもなったつもりか!?」
怒号と共に一歩踏み出す。すると彼は大狼と共に後退りをした。
「そうさ、この世に絶対の正義なんて無い!みんな自身の利害からそれを正当化する為のそれぞれの正義を掲げてるだけ!俺は自分が生きる為に寄り添う正義を選んだだけだ!デウスというこの世界の神の正義にな!」
言葉がこだまする。狼の唸りも、表の喧騒も、一瞬だけ鎮まり天使が通る。
ふと頭が冷えた。ロキも呆気に取られた様子からふと我に帰ってメダルを親指に装填し直す。そうだ、未だに俺の生殺与奪はこの男が握っているんだ。それをすっかり忘れていた。
だがロキは何が重い物を丸呑みするように一つ唾を飲むとそのままメダルを握り締めてこちらに背を向けた。
「フェンリル、帰るぞ」
狼は恨めしそうにコチラをしばらくこちらを睨むものの、結局ロキに引かれるまま踵を返した。
「まだ約束の1週間ではないが、ここで結論を出そう。君を私達の旅には連れて行けない」
「…っ!ちょっと待て!約束が違うだろ!1週間生き延びたら俺をアンタ達の一行に加えてくれるはずだろ!?」
ロキの肩を掴んで振り向かせようとする。しかしそれを狼が牙を剥いて止めた為、彼に身動ぎもさせられないまま手を離した。
「何もおかしい事はない。今君はこの場で私達と相入れない事を自ら宣言したのだからな」
ロキと狼の歩く先に黒い煙が立ち込める。あれは…瞬間移動の為のゲートか!
「待って!確かに俺達はマキナガルドでお互い相反する組織に与した。だが、たかだか一つの世界での意見の相違じゃないか。ここを出たら何もかも関係ない。うまくやっていけるよ」
俺は彼の服の袖を掴む。再び狼が威嚇するが今度は離すものか。しかしロキは依然こちらを見る素振りも無かった。
「俺は明日限りで組織の庇護から追い出される。マキナガルドはどこも緊張状態だし水もガスマスクもないから生きていけない。今ここでアンタ達に見捨てられたら俺は…!」
ドゥッ
音にならない衝撃が頭を反芻する。何ッ…殴られた…!?勢い余った俺はそのまま廃液の水溜りの上を転がった。
「その時はお前の信じる正義とやらに縋るんだな、ナガイ・ショート」
側頭部が痺れる。大した威力ではないハズなのだが、殴られるなんて久し振りの事で慣れない痛みに脳が回らない。
「お別れだ、ショート。二度と君の顔を見ない事を祈る」
ロキは一度だけ地面に転がる俺を冷たい眼差しで突き刺すと、狼と共に黒い煙の中へと埋もれて行った。
やがて黒い煙は彼らの姿と共に霧散し、仲間に見捨てられたら惨めな俺だけが残った。
俺がした事は何も間違ってない、間違ってないはずだ。だがロキも間違ってない。何も間違ってないんだ。
辺りを見渡すと、そこは下層の裏路地だった。路地の汚れ具合や通りの方から見えるマキナ人の様相からそれがよくわかる。
どうやらロキと共に瞬間移動のようなものをしてきたようだ。
「ロキ、どう言うつもりだ…」
と振り向いて息を飲んだ。彼の鬼の形相は勿論の事、その傍らに巨大な黒い狼が喉を鳴らしていたからだ。
「それはこっちのセリフだよ、ショート。この有様、どう言うつもりなのか説明してくれよ」
ロキが表通りの方を指差す。
…ここは…どうやらただの下層の裏路地というわけではない、レジスタンスのアジトのすぐ近くのようだ。時々鉄の箱を押収していく重装兵が道を歩いているのが見える。
「…もしかして、出かけてた旅の仲間って…」
「そうだ、オモイカネだ。彼女はデウスからレジスタンスの情報を持った日本語を喋る男を見つけたと聞いてね。嫌な予感がすると思って君を探して後をつけてみたら案の定だ」
すると彼は静かにマキナ語を口にした。これは…雷の神術だ…!
ロキの手から何かが閃く。そこから何がどう来るかなんてわからないけど、とりあえず俺は身を反らした。
すると、直後にライフルをぶっ放したような空気の破裂音。目を開けると、背後の鉄壁に針を突いたような跡と焦げたメダルの残骸があった。
こ、これはレールガンって奴ですかね?ラノベに明るくない俺でも流石に知ってる。
「あんまり動かない方がいい。手が滑るまでは当てるつもり無いから」
そう言うロキの目は暗く、ポケットからもう一枚メダルを取り出して手癖のように手の上で転がす。
初めて体感する明確な殺意。現世でも人から怒りや反感を買うことはままあったものの、ここまで死をイメージさせられる事は無かった。
「ちゃんと聞こうか、なんでレジスタンスの情報をデウスに渡した?」
「なんでって…」
「そのままの意味だ」
手の中のコインが親指の上に装填される。これは取り繕う事は逆効果になりそうだ。
「…生きる為だ。ロキと約束した1週間を生き延びる為に、売ったんだ」
一度口に出すと、堰を切ったかのように次々と言葉が溢れてきた。
「だって仕方がないだろう?アンタと違って特殊な力も無いし、お友達のようなコネもない。何も持たずにこの過酷な世界に落とされたんだ。生きる為にはそれまでに手にした物を使うしかなかった。手段なんて選べる余裕は無かったんだ!」
「それが多くの命を奪う事になってもか!?」
「その通りだ!!!」
胸倉を掴んできた腕を振り解く。
「アンタがした事だって同じじゃないか!必需品を手に入れる為に神術を売った!それが戦争で使われたら多くのマキナ人の命を奪う!それに比べたらむしろ可愛いもんだ!」
「違う!私は成されるべき正義とここの人間の自由に手を貸したんだ!」
「その成されるべき正義はロキ、アンタが決める事なのか!?アンタは神にでもなったつもりか!?」
怒号と共に一歩踏み出す。すると彼は大狼と共に後退りをした。
「そうさ、この世に絶対の正義なんて無い!みんな自身の利害からそれを正当化する為のそれぞれの正義を掲げてるだけ!俺は自分が生きる為に寄り添う正義を選んだだけだ!デウスというこの世界の神の正義にな!」
言葉がこだまする。狼の唸りも、表の喧騒も、一瞬だけ鎮まり天使が通る。
ふと頭が冷えた。ロキも呆気に取られた様子からふと我に帰ってメダルを親指に装填し直す。そうだ、未だに俺の生殺与奪はこの男が握っているんだ。それをすっかり忘れていた。
だがロキは何が重い物を丸呑みするように一つ唾を飲むとそのままメダルを握り締めてこちらに背を向けた。
「フェンリル、帰るぞ」
狼は恨めしそうにコチラをしばらくこちらを睨むものの、結局ロキに引かれるまま踵を返した。
「まだ約束の1週間ではないが、ここで結論を出そう。君を私達の旅には連れて行けない」
「…っ!ちょっと待て!約束が違うだろ!1週間生き延びたら俺をアンタ達の一行に加えてくれるはずだろ!?」
ロキの肩を掴んで振り向かせようとする。しかしそれを狼が牙を剥いて止めた為、彼に身動ぎもさせられないまま手を離した。
「何もおかしい事はない。今君はこの場で私達と相入れない事を自ら宣言したのだからな」
ロキと狼の歩く先に黒い煙が立ち込める。あれは…瞬間移動の為のゲートか!
「待って!確かに俺達はマキナガルドでお互い相反する組織に与した。だが、たかだか一つの世界での意見の相違じゃないか。ここを出たら何もかも関係ない。うまくやっていけるよ」
俺は彼の服の袖を掴む。再び狼が威嚇するが今度は離すものか。しかしロキは依然こちらを見る素振りも無かった。
「俺は明日限りで組織の庇護から追い出される。マキナガルドはどこも緊張状態だし水もガスマスクもないから生きていけない。今ここでアンタ達に見捨てられたら俺は…!」
ドゥッ
音にならない衝撃が頭を反芻する。何ッ…殴られた…!?勢い余った俺はそのまま廃液の水溜りの上を転がった。
「その時はお前の信じる正義とやらに縋るんだな、ナガイ・ショート」
側頭部が痺れる。大した威力ではないハズなのだが、殴られるなんて久し振りの事で慣れない痛みに脳が回らない。
「お別れだ、ショート。二度と君の顔を見ない事を祈る」
ロキは一度だけ地面に転がる俺を冷たい眼差しで突き刺すと、狼と共に黒い煙の中へと埋もれて行った。
やがて黒い煙は彼らの姿と共に霧散し、仲間に見捨てられたら惨めな俺だけが残った。
俺がした事は何も間違ってない、間違ってないはずだ。だがロキも間違ってない。何も間違ってないんだ。
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