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砂と骨の都市、サザノール
ドワーフの発掘家、ボンベ
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「邪魔するぜ」
そう言って新たに客が店に入ってきた。120cmほどの小柄だが屈強な体つきに無精髭、ドワーフだ。小麦色に焼けた肌に土で汚れた作業服となると、鉱夫だろうか。
彼はコチラを見るとフンと鼻息をついた。
「へぇ、余所者の客たぁ景気が良いじゃねぇか。案外まだこの店は保つみたいだな、えぇ!店長!」
「ええ、お陰様で」
店長がニッコリと微笑むとドワーフはドカッとのしかかるように私の隣の椅子に腰掛けた。
「誰かさんが椅子を壊したりしなけりゃあと30年はやっていけると思うよ」
「おお、これはこれはタダ飯食いのサザニアお嬢様。店の帳簿を悩ませてるのはどっちかな?」
皮肉を言い合う二人を脇目に、店主からサザンビアのジョッキがドワーフに差し出される。ドワーフはそれに少し口につけると今度はこちらに向き直った。
「俺はここで発掘をしてるボンベだ。旅の人、名前は?」
名前、かぁ…。
「すいません、私無いんですよ、名前。名前を与えられるような身分ではなかったもので」
「おや、そいつぁ奴隷って事か」
「ちょっと、ボンベさん言い方…」
「なんだよ別に良いだろ。俺も似たようなもんなんだからな」
見た目通り配慮のはの字も無い豪胆な男だな。まぁ今更そんな事で怒るようなタマでもない。
「似たようなもの、というと?」
「ああ、雇われ鉱夫ってこった。毎日金銀財宝掘ってんのに給料はその100分の1も来やしない。奴隷とおんなじだこんなもん」
「へぇ、金銀財宝。そんなものが埋まってるんですかここは」
「あぁ、大昔の巨人の遺物だ。とは言ってもデカさ桁違いだからほとんど分解しちまうんだがな。そいつを国外の雇い主に届けてんだ」
「町の外から来て古代の遺物を漁るなんて、そんな事許されてるんですか?」
「あぁ、サザノール人は掟で巨人の遺物を持ってはいけないんだとよ。奴らにとって巨人の文明は神に反逆した悪魔の文明だからな」
「そ。あんな邪悪な物掘ってるなんて、気が知れないわ。いつか絶対呪われる」
なるほど、サザノール人にとってはサザン以外の巨人は悪という認識なのか。ついでにサザニアとボンベも最高にソリが合わなそうだ。
「だがここの住人はやり手でな、お宝がそこに埋まってるのが分かってて放っておくのは勿体無いと思ったらしく、それを他の国々に広報して、集まってくる発掘家達から金を稼ぎ始めたんだ」
なるほどな。前近代的な生活様式の割に様々な人種がが多く集まってるのはそういう事か。
「旅の方はどうしてサザノールに?奴隷なのに遠出してるって事は逃げてきたんだろ?働き口が必要なら口利きしてやるが」
「いえ、お気遣いなく。お金ならあるので」
「じゃあどうしてサザノールに?」
「ちょっと、ボンベさん」
「いいじゃないか、減るもんじゃあるまいし」
うーん…そこまで執拗に聞かれると…誤魔化すのも面倒だなぁ…。
「すいません、それを聞くのは勘弁して貰えませんかね?別に悪い事ではないので」
「ボンベさん。ホントデリカシーないんだから…」
「あ?別にそこまでいうなら無理やり言わせる気もねぇよ」
そう言って彼は懐から財布を取り出し、名刺を差し出した。
『ゴールドマン財団サザノール支部 副主任 ボンベ・ルマンド』
世界を股にかける大手財閥支部の副主任…見かけによらず大人物じゃないか。
「まぁ10人程度の小さな支部だがな。金や寝床に困ったらここを頼ってくれ。ただとはいかないが協力してやる」
「ありがとうございます」
「よっ!流石ボンベの伯父貴!漢だねぇ!」
横でサザニアが手を叩いて囃し立てる。実際この申し出はとてもありがたい。
「ついでに言っておくが、もし宛もなく放浪してるなら、ここに住むのも悪くないぜ、旅の方。俺もここに住み込みで働くようになって15年になるが故郷に帰る気は更々起きないほど気に入ってるぜ」
「たまには良いこと言うじゃない、ボンベさん」
「お前はたまにも良いこと言わないがなサザニア」
仲良いなぁこの2人。
そういえば、サザニアに対するぼボンベの態度は大丈夫なのだろうか。サザニアは性格は庶民的だが店主の態度を見る限り身分の高い家の出のハズだ。その割にはボンベの態度はまるで子供扱いだ。まぁ、身長が倍ほども違う2人のやりとりは見てて飽きないが…。
ボンベがクビッとジョッキを傾け、爽快な息をつく。
「酒も飯も美味いし、なにより人が良い。俺もカーニバルさえ無ければ帰化しても…」
そこまで言いかけて澱ませる。急にどうしたのか、先ほどまでの緩んだ表情は引き締まり、ため息が漏れる。そして口籠らせた彼の視線の先にはサザニアがいた。
「…何よ」
「別に。そういや明後日だったなカーニバルは。用事を思い出した」
そう言うと半分残ったジョッキの中身を一気に飲み干し、紙幣を一枚捨てるように出した。
「ボンベさんはカーニバルに来る?」
「…いいや、雇い主に定期報告しに町をでなきゃならない」
「毎年毎年そればっか。今年こそ来てくれると思ったのに」
「今年だからだよ。お嬢ちゃん」
そうして寂しそうな背中を向けて戸口を開けるボンベ。まるで何かから逃げるようだ。
「…サザン・デ・トゥルティン」
ボンベが独り言のように呟く。あれは…行商人の老人からも聞いたカーニバルの合言葉だ。
「サザン・デ・トゥルティン」
それに対してサザニアと店主も返す。
そしてボンベは暖簾を潜り、夜の闇の中に消えていった。
一体、カーニバルには何があると言うのだろう。サザノールを知る外国人皆がカーニバルを避ける理由って…?
そう言って新たに客が店に入ってきた。120cmほどの小柄だが屈強な体つきに無精髭、ドワーフだ。小麦色に焼けた肌に土で汚れた作業服となると、鉱夫だろうか。
彼はコチラを見るとフンと鼻息をついた。
「へぇ、余所者の客たぁ景気が良いじゃねぇか。案外まだこの店は保つみたいだな、えぇ!店長!」
「ええ、お陰様で」
店長がニッコリと微笑むとドワーフはドカッとのしかかるように私の隣の椅子に腰掛けた。
「誰かさんが椅子を壊したりしなけりゃあと30年はやっていけると思うよ」
「おお、これはこれはタダ飯食いのサザニアお嬢様。店の帳簿を悩ませてるのはどっちかな?」
皮肉を言い合う二人を脇目に、店主からサザンビアのジョッキがドワーフに差し出される。ドワーフはそれに少し口につけると今度はこちらに向き直った。
「俺はここで発掘をしてるボンベだ。旅の人、名前は?」
名前、かぁ…。
「すいません、私無いんですよ、名前。名前を与えられるような身分ではなかったもので」
「おや、そいつぁ奴隷って事か」
「ちょっと、ボンベさん言い方…」
「なんだよ別に良いだろ。俺も似たようなもんなんだからな」
見た目通り配慮のはの字も無い豪胆な男だな。まぁ今更そんな事で怒るようなタマでもない。
「似たようなもの、というと?」
「ああ、雇われ鉱夫ってこった。毎日金銀財宝掘ってんのに給料はその100分の1も来やしない。奴隷とおんなじだこんなもん」
「へぇ、金銀財宝。そんなものが埋まってるんですかここは」
「あぁ、大昔の巨人の遺物だ。とは言ってもデカさ桁違いだからほとんど分解しちまうんだがな。そいつを国外の雇い主に届けてんだ」
「町の外から来て古代の遺物を漁るなんて、そんな事許されてるんですか?」
「あぁ、サザノール人は掟で巨人の遺物を持ってはいけないんだとよ。奴らにとって巨人の文明は神に反逆した悪魔の文明だからな」
「そ。あんな邪悪な物掘ってるなんて、気が知れないわ。いつか絶対呪われる」
なるほど、サザノール人にとってはサザン以外の巨人は悪という認識なのか。ついでにサザニアとボンベも最高にソリが合わなそうだ。
「だがここの住人はやり手でな、お宝がそこに埋まってるのが分かってて放っておくのは勿体無いと思ったらしく、それを他の国々に広報して、集まってくる発掘家達から金を稼ぎ始めたんだ」
なるほどな。前近代的な生活様式の割に様々な人種がが多く集まってるのはそういう事か。
「旅の方はどうしてサザノールに?奴隷なのに遠出してるって事は逃げてきたんだろ?働き口が必要なら口利きしてやるが」
「いえ、お気遣いなく。お金ならあるので」
「じゃあどうしてサザノールに?」
「ちょっと、ボンベさん」
「いいじゃないか、減るもんじゃあるまいし」
うーん…そこまで執拗に聞かれると…誤魔化すのも面倒だなぁ…。
「すいません、それを聞くのは勘弁して貰えませんかね?別に悪い事ではないので」
「ボンベさん。ホントデリカシーないんだから…」
「あ?別にそこまでいうなら無理やり言わせる気もねぇよ」
そう言って彼は懐から財布を取り出し、名刺を差し出した。
『ゴールドマン財団サザノール支部 副主任 ボンベ・ルマンド』
世界を股にかける大手財閥支部の副主任…見かけによらず大人物じゃないか。
「まぁ10人程度の小さな支部だがな。金や寝床に困ったらここを頼ってくれ。ただとはいかないが協力してやる」
「ありがとうございます」
「よっ!流石ボンベの伯父貴!漢だねぇ!」
横でサザニアが手を叩いて囃し立てる。実際この申し出はとてもありがたい。
「ついでに言っておくが、もし宛もなく放浪してるなら、ここに住むのも悪くないぜ、旅の方。俺もここに住み込みで働くようになって15年になるが故郷に帰る気は更々起きないほど気に入ってるぜ」
「たまには良いこと言うじゃない、ボンベさん」
「お前はたまにも良いこと言わないがなサザニア」
仲良いなぁこの2人。
そういえば、サザニアに対するぼボンベの態度は大丈夫なのだろうか。サザニアは性格は庶民的だが店主の態度を見る限り身分の高い家の出のハズだ。その割にはボンベの態度はまるで子供扱いだ。まぁ、身長が倍ほども違う2人のやりとりは見てて飽きないが…。
ボンベがクビッとジョッキを傾け、爽快な息をつく。
「酒も飯も美味いし、なにより人が良い。俺もカーニバルさえ無ければ帰化しても…」
そこまで言いかけて澱ませる。急にどうしたのか、先ほどまでの緩んだ表情は引き締まり、ため息が漏れる。そして口籠らせた彼の視線の先にはサザニアがいた。
「…何よ」
「別に。そういや明後日だったなカーニバルは。用事を思い出した」
そう言うと半分残ったジョッキの中身を一気に飲み干し、紙幣を一枚捨てるように出した。
「ボンベさんはカーニバルに来る?」
「…いいや、雇い主に定期報告しに町をでなきゃならない」
「毎年毎年そればっか。今年こそ来てくれると思ったのに」
「今年だからだよ。お嬢ちゃん」
そうして寂しそうな背中を向けて戸口を開けるボンベ。まるで何かから逃げるようだ。
「…サザン・デ・トゥルティン」
ボンベが独り言のように呟く。あれは…行商人の老人からも聞いたカーニバルの合言葉だ。
「サザン・デ・トゥルティン」
それに対してサザニアと店主も返す。
そしてボンベは暖簾を潜り、夜の闇の中に消えていった。
一体、カーニバルには何があると言うのだろう。サザノールを知る外国人皆がカーニバルを避ける理由って…?
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