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第2章 私はモブだったはずなのに

Ep.29 討伐作戦、開始

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 翌朝。まだ日も昇らない内に、作戦場所へと出発した。少数精鋭とはいえ馬に乗った隊員や荷車もあるにも関わらず、一切の音はガイアスの防音魔術により遮断されている。

「防音魔術って凄いんですね……」

「いやいや、このレベルを実現出来る魔術士はそう居ないって。普通は静止した状態での挟範囲にかけて盗み聞きとかを防ぐのが主流だから」

 最後尾でそうレイジと言葉を交わし、先頭に揺れる夫の黒髪を見やる。前衛組も何か確認をしているのか、リアーナとガイアスが顔を見合わせ言葉を交わしていた。

「噂には聞いていたが、黒の騎士は魔術の申し子の名に相応しいな」

「全くだ。しかし彼の祖国はまだ魔法の発展が浅いらしい。実に勿体ない……」

 ふと耳に入ったそれに心臓が嫌な音を立てる。が、上官の男が雑談を注意した為にその話をしていた二人はすぐに口を噤んだ。しかし、一度聞いてしまった言葉がどうしても、重い。

(“勿体ない”、か……。ガイア自身は、どう思ってるのかな)

 彼とて何の努力もなしにあの技量を身に着けたわけじゃない。羨望されるほどの実力の裏にどれほどの努力と、そして悲しみがあったかを知っている。
 しかし故郷アストライヤには、それを正しく評価される環境が無い。

(あぁ、駄目だな。思考が堂々巡りで迷子になっちゃって……)

 これから危険な討伐に向かうのに、集中出来ないのはよろしくない。気持ちを切り替えようと見上げた空は曇天で、分厚い雲の切れ目が一瞬キラリと光った。

「あれ……?」

「ん?どうかしたの?空見上げて。あぁなんだ、雪かぁ」

「え、あ、そうですね。山の標高も高いですし。道理で冷え込む訳です。(雪?いや、さっきのはもっと、硬度がある物に反射した光だったような……)」

 そう悩む間もなく、一行は作戦場所に到着した。前衛組が現地の面々と協力して戦いやすい土壌を整えている間に、後方支援組には身を守る為の結界玉等のいくつかの支給品が配られる。

「レイジ殿!隊長が一度確認したいことがあるとお呼びです!」

「わかった!セレスティアちゃんも、ちゃーんと装備もらってつけといてね。あと十数分で始まるから!」

 レイジは後方支援組の中でも能力が高いこともあり忙しそうだ。彼を見送り一人になったセレンに、国の使いである魔術士が支給品を渡してくれる。

「セレスティア・スチュアート様、こちらを」

「あ、ありがとうございます……」

 旧姓で呼ばれて怯んだが、この国でセレンとガイアの関係を知る者は少ないし、他意は無いのだろうと不満は呑み込んだ。
 ブレスレット状にいくつかの魔石が繋がったそれを光にかざすと、薄く紫色に見える。が、そこで気づいた。
 他の人がつけているものとは色味がずいぶんと違うことに。

「セレスティア様のお力については伺っております。その魔石は、貴方のお力の影響を受けない特別製です」

 首を傾ぐと、ブレスレットを渡してくれた魔術士が、用意していたかのようにつらつらと説明を告げて去っていった。

「後方支援組は固定結界の内に待機し、前衛は構えよ!これより、人面鳥討伐任務を開始する!!」

 隊長の高らかな声を合図に、上空に打ち上がるいくつかの大砲。中身は魔物を呼び寄せる、吸引性の煙だそうだ。

 打ち上げから間もなくして、山頂から劈くような奇声が響き渡る。

「うっわ、うるさっ!こりゃかなりの数だね……。前衛組ほどじゃないにしろ、俺たちも気合入れますか!」

「はっ、はい!頑張ります!」

 どうか、皆が無事に終わりますように。そんな祈りの中、戦闘が始まった。


   ~Ep.29 討伐作戦、開始~





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