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第2章 私はモブだったはずなのに
Ep.3 新婚旅行は波乱の幕開け
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「……いい加減、機嫌を直してくれないか」
若干しょんぼりしながらの夫のその言葉にそっぽを向く。朝からこれで10回目の同じやり取りだけど、やられっぱなしじゃ悔しいものは悔しいんだもの!
出勤してきた従者達が、妻の不機嫌に困り果てている主人の姿を微笑ましそうに見ている。
「あらあら、旦那様が奥さまに叱られておいでだわ。外ではあんなに優秀なお方なのに、お可愛らしいこと」
「無理もあるまい。まだ式から一年経たないと言うのに旦那様の奥さまへの溺愛は既に社交界中に知れ渡っているくらいだからな。それにほら、いつぞやの夜会で旦那様の前で奥さまに恋文を渡そうとした不届き者が現れた時なんて……」
「あっ!私もその話知ってます!旦那様が魔法で手紙を消し炭にした上で、そいつの前で奥さまに口付けして自分しか見てない奥さまの様子を見せつけたって!!」
って、なんか恥ずかしい話してるし!ひそひそしてたって全部聞こえてるんだからね!もう……!
ガイアも勿論聞こえていたらしく、少し気恥ずかしそうに笑いながら、私の腰かけている椅子の脇に膝をついた。
「……まぁ、執事達の言う通り、俺は君にだけは頭が上がらないんだ。夕べは意地悪して悪かった、許してもらえないか?」
「……っ!」
伺うような表情と、滅多にないガイアを見下ろすアングルにくらっときてしまった。赤くなった顔を見られないように顔は背けたまま、渋々うなずく。
ガイアは安堵したように笑い、見守りと言う名の野次馬で一部始終を聞いていた従者達は更に温かい眼差しになっていた。
(うぅぅ、完敗、悔しい……!)
いつか反撃してメロメロにしてやる!と決意しつつようやく朝食に手をつけた私を眺めながら、ガイアがふと次の話題を出した。
「そう言えば、刺繍の仕事の方はどうなんだ?最近は工房に連日出向いていたみたいだが」
「ーっ!えぇ、お陰で新しい桜のデザインのドレスとショールが仕上がったの!ちょっと時期外れかもと思ったけどたくさんの方から注文を頂いて、今は工房の皆さんが順次対応してくださってるわ」
「なら仕事自体は一段落ついたんだな?」
そうだけど、それがどうかした?と首を傾げば、ガイアが夕べやり終え今日王宮に提出する予定の書類の封筒を指先でトンと叩く。
「俺の方も、これが済めば少しだが余裕が出来そうなんだ。それで先日サフィール殿から聞いた話なんだが、異国には婚姻して間もない夫婦が2人で旅を楽しみ絆を深める風習があるそうでな」
「ーっ!じゃあ……!」
「セレンは学生の頃から家族の事が優先で、領地か王都以外の土地をよく知らないだろう?互いの仕事や領地の都合もあるから、異国……とまでは言わないが、またとない機会だ。少し、2人で遠出してみないか?まぁ完全な漫遊は無理だから、余所の土地の視察がてらってことで」
新婚旅行だ!この時間を作ってくれる為に仕事詰め込んでたんだ……!
「……っ、うん、行きたい!」
「よし、決まりだ。となると、まずはあの腹黒陛下に許可を得ないとな……」
--------------------
「視察を兼ねた新婚旅行?いいんじゃないかな」
多少はなにか言われる事を覚悟していたので、あまりにあっさり許可を出された私とガイアは顔を見合わせてしまった。そんな私達をよそに、ウィリアム陛下はさっさと話を進めていく。
「実はこちらから君達に行って貰いたい国の候補はいくつか話が出ていたんだ。魔法学校設立にあたって他の魔術国家を視察したいと以前話していただろう?その話を受けて試しに治安のよい国に打診をしてみたら、色好い返事を貰えた国がいくつかあってね」
なるけど、だからトントン拍子に話が進んだのね。納得しながら陛下の広げた地図を見ると、確かにいくつかの国に赤線で印がつけられていた。これらの国が候補と言うことだろう。
「とりあえず初の試みだからね。出来れば君達には現地の有力者と我が国の縁を結べるよう動いて貰いたい。結界を張り直したからゆくゆくは我が国でも魔力を持つ新たな命は生まれてくるだろうけれど、やはり早く魔術の知識や文化を国に根付かせるならば他国の魔導師の血を取り込むのが手っ取り早いからね」
にこやかにとんでもないこと言い出したぞこの人……。要は、『新婚旅行は行かせてやるから代わりに現地の有力者と仲良くなって、あわよくばこちらに嫁いでくださりそうなお嬢さんを見繕って来い』と。知っては居たけどこの方、実はかなりの曲者である。
「……確約は出来かねますが、善処いたします」
「はは、無理しなくていいよ。友としての本音は?」
「てめぇ足元見て無茶な要求してんじゃねぇよ。努力はするけど期待するなよ!?」
水を向けられガイアが本音をぶちまければ、ウィリアム陛下は楽しげに笑った。
「だよね。まぁ一応頼んだよ。と言うわけで候補なんだけど、せっかくの新婚旅行なら海が美しいここか、文化の発達が著しく娯楽の多さで有名なこちらか……」
提示された候補の中から、陛下の意向と私達の希望を擦り合わせた結果。行き先は我が国の南側に位置する大陸のロワゾーブルー王国に決定した。
「へーっ、新婚旅行?いいじゃない!旅先ならまたいつもと違ういい雰囲気も作れそうだし?どうせ夕べは楽しめなかったんでしょ」
「ーっ!?ちょっ、もう、からかわないで!!」
ガイアはまだ陛下と打ち合わせがあると言うことで、また待ち時間の間アイちゃんの部屋に通された私。新婚旅行の経緯を話せば、アイちゃんのテンションが一気に上がった。
楽しく何が見たいとかしたいとか、そんな事をしばらく話してから、ハッと気づいたようにアイちゃんが聞いてくる。
「って、そもそもどこ行くの?まさかオルテンシアじゃないでしょうね!?」
「へっ?いや、違うけど……。行くのはロワゾーブルー王国よ。この国の船では直に行けないから、一旦近場の国で船の乗り換えをして、そこから向かうみたい」
「そ、そう。ならいいけど……」
どこかぎこちなく引き下がったアイちゃんに、更に首をかしげた。
「……?そのオルテンシアって国に何かあるの?」
「へっ?あーいや、別に?何も!」
「でもアイちゃん、さっきから変よ。何か隠してない?」
「別に何もないって!それより、海外行くのは良いけどあんたも旦那も無駄にモテるんだから、変な奴らに横恋慕されないよう気を付けなさいよ!」
そう一息で言い切ったアイちゃんは、その後私がいくらオルテンシア公国の話を聞いてみても頑なに答えてくれなかった。
一週間後。予定どおりアストライヤ王国を出発し、一度乗り換えたロワゾーブルー王国行きの立派な客船のレストランで談笑をしてた時、私はなにげなく先日のアイちゃんとの会話をガイアにも話した。
「そんなことがあったのか……。俺も行ったことはないが、オルテンシアは良い評判しか聞かないがなぁ。義父上も悪い話はしてなかったろ?」
「えぇ。聞いてみたら交渉で尋ねた時はそちらの皇太子殿下に良くしていただいたみたい。それに刺繍関連で独自の文化が栄えていて、古来の衣装がとっても素敵なんですって!」
目を輝かせそう言えば、フォークを置いたガイアがやれやれと苦笑した。
「お前それ、そんな国に行ったら新婚旅行そっちのけで刺繍の勉強に夢中になるとでも思われたんじゃないか?」
「……っ!そうかも……きゃっ!?」
「ーっ!なんだ!?」
突然、鈍い振動と共に船そのものが大きく揺れた。窓の外が一瞬光り、遅れて耳を刺すように雷鳴が轟く。
床が動く状況でレストランは飛び交う危険物が多すぎるのと事態の把握の為にガイアに抱えられ甲板に出れば、そこはパニックになっていた。船の進行方向であるそこに、突発的な竜巻と雷雲が発生していたのだ。
本来ならこの辺りは常に凪いでいる海らしく、この船にはあそこまで荒れた海域を乗り切る対策はされていない。でも既に海流に巻き込まれ今さら進行方向は変えられないとパニックになっている船員達。そんな中、一際強く空を裂いた雷が船の後方を焼いた。
一気に上がる悲鳴と船の限界を受けて、ガイアが動く。私の周りに防護の魔法をかけてから安全そうな位置に下ろし。指を鳴らして水魔法で火の手を消したかと思えば、即座に竜巻の方へ向かい剣を構える。
「背に腹は変えられない。セレン!竜巻と雷雲は魔力で相殺する!そのまま船も何処かに着陸させるから、船員と協力して一番近い陸地を探してくれ!」
「わかったわ!」
その後、ガイアは膨大な魔力を使いこなし見事船を嵐から脱出させて。そして難を逃れたがぼろぼろな客船は魔法の波に導かれ、一番近くの国……オルテンシアへと不時着したのだった。
~Ep.3 新婚旅行は波乱の幕開け~
若干しょんぼりしながらの夫のその言葉にそっぽを向く。朝からこれで10回目の同じやり取りだけど、やられっぱなしじゃ悔しいものは悔しいんだもの!
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「あらあら、旦那様が奥さまに叱られておいでだわ。外ではあんなに優秀なお方なのに、お可愛らしいこと」
「無理もあるまい。まだ式から一年経たないと言うのに旦那様の奥さまへの溺愛は既に社交界中に知れ渡っているくらいだからな。それにほら、いつぞやの夜会で旦那様の前で奥さまに恋文を渡そうとした不届き者が現れた時なんて……」
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って、なんか恥ずかしい話してるし!ひそひそしてたって全部聞こえてるんだからね!もう……!
ガイアも勿論聞こえていたらしく、少し気恥ずかしそうに笑いながら、私の腰かけている椅子の脇に膝をついた。
「……まぁ、執事達の言う通り、俺は君にだけは頭が上がらないんだ。夕べは意地悪して悪かった、許してもらえないか?」
「……っ!」
伺うような表情と、滅多にないガイアを見下ろすアングルにくらっときてしまった。赤くなった顔を見られないように顔は背けたまま、渋々うなずく。
ガイアは安堵したように笑い、見守りと言う名の野次馬で一部始終を聞いていた従者達は更に温かい眼差しになっていた。
(うぅぅ、完敗、悔しい……!)
いつか反撃してメロメロにしてやる!と決意しつつようやく朝食に手をつけた私を眺めながら、ガイアがふと次の話題を出した。
「そう言えば、刺繍の仕事の方はどうなんだ?最近は工房に連日出向いていたみたいだが」
「ーっ!えぇ、お陰で新しい桜のデザインのドレスとショールが仕上がったの!ちょっと時期外れかもと思ったけどたくさんの方から注文を頂いて、今は工房の皆さんが順次対応してくださってるわ」
「なら仕事自体は一段落ついたんだな?」
そうだけど、それがどうかした?と首を傾げば、ガイアが夕べやり終え今日王宮に提出する予定の書類の封筒を指先でトンと叩く。
「俺の方も、これが済めば少しだが余裕が出来そうなんだ。それで先日サフィール殿から聞いた話なんだが、異国には婚姻して間もない夫婦が2人で旅を楽しみ絆を深める風習があるそうでな」
「ーっ!じゃあ……!」
「セレンは学生の頃から家族の事が優先で、領地か王都以外の土地をよく知らないだろう?互いの仕事や領地の都合もあるから、異国……とまでは言わないが、またとない機会だ。少し、2人で遠出してみないか?まぁ完全な漫遊は無理だから、余所の土地の視察がてらってことで」
新婚旅行だ!この時間を作ってくれる為に仕事詰め込んでたんだ……!
「……っ、うん、行きたい!」
「よし、決まりだ。となると、まずはあの腹黒陛下に許可を得ないとな……」
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「視察を兼ねた新婚旅行?いいんじゃないかな」
多少はなにか言われる事を覚悟していたので、あまりにあっさり許可を出された私とガイアは顔を見合わせてしまった。そんな私達をよそに、ウィリアム陛下はさっさと話を進めていく。
「実はこちらから君達に行って貰いたい国の候補はいくつか話が出ていたんだ。魔法学校設立にあたって他の魔術国家を視察したいと以前話していただろう?その話を受けて試しに治安のよい国に打診をしてみたら、色好い返事を貰えた国がいくつかあってね」
なるけど、だからトントン拍子に話が進んだのね。納得しながら陛下の広げた地図を見ると、確かにいくつかの国に赤線で印がつけられていた。これらの国が候補と言うことだろう。
「とりあえず初の試みだからね。出来れば君達には現地の有力者と我が国の縁を結べるよう動いて貰いたい。結界を張り直したからゆくゆくは我が国でも魔力を持つ新たな命は生まれてくるだろうけれど、やはり早く魔術の知識や文化を国に根付かせるならば他国の魔導師の血を取り込むのが手っ取り早いからね」
にこやかにとんでもないこと言い出したぞこの人……。要は、『新婚旅行は行かせてやるから代わりに現地の有力者と仲良くなって、あわよくばこちらに嫁いでくださりそうなお嬢さんを見繕って来い』と。知っては居たけどこの方、実はかなりの曲者である。
「……確約は出来かねますが、善処いたします」
「はは、無理しなくていいよ。友としての本音は?」
「てめぇ足元見て無茶な要求してんじゃねぇよ。努力はするけど期待するなよ!?」
水を向けられガイアが本音をぶちまければ、ウィリアム陛下は楽しげに笑った。
「だよね。まぁ一応頼んだよ。と言うわけで候補なんだけど、せっかくの新婚旅行なら海が美しいここか、文化の発達が著しく娯楽の多さで有名なこちらか……」
提示された候補の中から、陛下の意向と私達の希望を擦り合わせた結果。行き先は我が国の南側に位置する大陸のロワゾーブルー王国に決定した。
「へーっ、新婚旅行?いいじゃない!旅先ならまたいつもと違ういい雰囲気も作れそうだし?どうせ夕べは楽しめなかったんでしょ」
「ーっ!?ちょっ、もう、からかわないで!!」
ガイアはまだ陛下と打ち合わせがあると言うことで、また待ち時間の間アイちゃんの部屋に通された私。新婚旅行の経緯を話せば、アイちゃんのテンションが一気に上がった。
楽しく何が見たいとかしたいとか、そんな事をしばらく話してから、ハッと気づいたようにアイちゃんが聞いてくる。
「って、そもそもどこ行くの?まさかオルテンシアじゃないでしょうね!?」
「へっ?いや、違うけど……。行くのはロワゾーブルー王国よ。この国の船では直に行けないから、一旦近場の国で船の乗り換えをして、そこから向かうみたい」
「そ、そう。ならいいけど……」
どこかぎこちなく引き下がったアイちゃんに、更に首をかしげた。
「……?そのオルテンシアって国に何かあるの?」
「へっ?あーいや、別に?何も!」
「でもアイちゃん、さっきから変よ。何か隠してない?」
「別に何もないって!それより、海外行くのは良いけどあんたも旦那も無駄にモテるんだから、変な奴らに横恋慕されないよう気を付けなさいよ!」
そう一息で言い切ったアイちゃんは、その後私がいくらオルテンシア公国の話を聞いてみても頑なに答えてくれなかった。
一週間後。予定どおりアストライヤ王国を出発し、一度乗り換えたロワゾーブルー王国行きの立派な客船のレストランで談笑をしてた時、私はなにげなく先日のアイちゃんとの会話をガイアにも話した。
「そんなことがあったのか……。俺も行ったことはないが、オルテンシアは良い評判しか聞かないがなぁ。義父上も悪い話はしてなかったろ?」
「えぇ。聞いてみたら交渉で尋ねた時はそちらの皇太子殿下に良くしていただいたみたい。それに刺繍関連で独自の文化が栄えていて、古来の衣装がとっても素敵なんですって!」
目を輝かせそう言えば、フォークを置いたガイアがやれやれと苦笑した。
「お前それ、そんな国に行ったら新婚旅行そっちのけで刺繍の勉強に夢中になるとでも思われたんじゃないか?」
「……っ!そうかも……きゃっ!?」
「ーっ!なんだ!?」
突然、鈍い振動と共に船そのものが大きく揺れた。窓の外が一瞬光り、遅れて耳を刺すように雷鳴が轟く。
床が動く状況でレストランは飛び交う危険物が多すぎるのと事態の把握の為にガイアに抱えられ甲板に出れば、そこはパニックになっていた。船の進行方向であるそこに、突発的な竜巻と雷雲が発生していたのだ。
本来ならこの辺りは常に凪いでいる海らしく、この船にはあそこまで荒れた海域を乗り切る対策はされていない。でも既に海流に巻き込まれ今さら進行方向は変えられないとパニックになっている船員達。そんな中、一際強く空を裂いた雷が船の後方を焼いた。
一気に上がる悲鳴と船の限界を受けて、ガイアが動く。私の周りに防護の魔法をかけてから安全そうな位置に下ろし。指を鳴らして水魔法で火の手を消したかと思えば、即座に竜巻の方へ向かい剣を構える。
「背に腹は変えられない。セレン!竜巻と雷雲は魔力で相殺する!そのまま船も何処かに着陸させるから、船員と協力して一番近い陸地を探してくれ!」
「わかったわ!」
その後、ガイアは膨大な魔力を使いこなし見事船を嵐から脱出させて。そして難を逃れたがぼろぼろな客船は魔法の波に導かれ、一番近くの国……オルテンシアへと不時着したのだった。
~Ep.3 新婚旅行は波乱の幕開け~
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