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第1章 初恋の彼は、私の運命の人じゃなかった
Ep.96 証拠のお披露目
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おっとりだがどこか威厳ある声に人垣が避け、その合間を声の主が歩いてやって来る。審判者を買って出たのは、国立魔法研究所の長老だった。
「わたくしならば、権力に左右されず真実によって裁きを下す事の出来る地位も、魔法と言うものの知識もございます。他に適任もおりますまい。殿下、セレスティア嬢、如何ですかな?」
悠然とこちらを見上げた長老と目線が重なる。予想外だが願ってもない流れに、頷いた。
「はい、私は構いません」
「……ちっ、他に任せられる者も居ないしな。良いだろう、手短に済ませよ!」
第2王子のその物言いに長老の脇に控えていた研究者たちから呆れた様子が窺える。当然だ。国立魔法研究所は国の生活を支える魔導具から防衛の要たる結界の管理まで任されている謂わば最重要機関のひとつ。本来ならば、王族とて彼等には敬意を払わねばならないはずなのだ。それを一切理解していないその様子に、周りは困惑しているのだろう。
「有難き幸せに存じます、殿下。さぁセレスティア嬢、始めてください」
「そうですわね、皆様のお時間を無駄に頂くのは忍びないですし、手短に終わらせましょう」
こんな、茶番は。
「では皆様、まずはこちらをご覧くださいませ」
処刑場面を見せ占める為のスクリーンを利用し、手で掲げたそれを頭上に大きく拡大する。それは、王都の地下に造られた防災用貯水庫の見取り図であった。
「こちらは、大規模な水害時に溢れ出た分の水を一時的に蓄え被害を抑え、更に貯めた雨水は生活用水として使えるとキャンベル公爵家の発案で十数年前に建設された地下水庫です。管理はもちろん発案者であるキャンベル家が任されている。そうですね?」
「……そうですわね、民を思うお父様の素晴らしき発案ですわ。生憎建設以来我が国では大規模な水害はなく宝の持ち腐れになってしまっておりますが、点検は毎年欠かさず……」
ペラペラと雄弁に、聞いたこと以上の事を語りだすナターリエ様。得てして隠し事がある人間は、都合よく話を誘導する為雄弁になるものなのだ。それが却って墓穴を掘る羽目になるとも知らずに。
ひとしきりナターリエ様の嘘八百が並べ終わった辺りで、おっとりと一枚のコインを掲げて見た。
「あら……それは不思議ですわねぇ。既にこの空間は、全く別の目的に使われている様子でしたけれど」
キラリと光ったそれに、ナターリエ様と観客席の貴族の一部が狼狽えた。それに気が付かないふりで、ゆっくりのんびり、話を続ける。
「こちらは王都にあるとある賭場への入場証ですの。通常のルートでは手に入りませんわ。こちらはガイアス様が白竜騎士団としての調査の過程で入手していた物です」
「はっ、賭場だと!?馬鹿を言え、賭け事に厳しい我が国の王都にそんな場所が作れる筈がないだろう!」
「まぁ……殿下、今朝の新聞をご覧でないのですか?キャンベル公爵家が管理していた筈の地下水庫が違法物をやり取りする裏カジノになっていたと、城下はそのお話で持ち切りですのに……」
「なっ……!?」
驚愕した様子の第2王子に部下らしき男が新聞を差し出す。裏カジノの存在と、それを摘発した白竜騎士団の働きを讃えたその記事を王子は握りつぶしたが、紙を握りつぶしたって事実は揉み消せやしない。
本当は、あの裏カジノの制圧は私達が潜入したあの日にるー君が部下の皆様と済ませていたのだけれど。ここぞとばかりに明かす為、今日まで情報を伏せていたのだ。
「~~っ、だから何だと言うのだ!このカジノの話がナターリエと何の関係がある!」
「まぁ、直接的にはございませんわね。こちらはあくまでも父君であらせられるキャンベル公爵の落ち度ですわ」
「貴様、ぬけぬけと……!そもそも何故重要な証拠品を貴様のような取るに足らない娘が黒の騎士から預かっていたのだ!」
わざわざあちらから次に移る布石を打たれてしまった。若干拍子抜けしながら、次の資料を取り出す。
「それは、こちらの資料の復元の為ですわね」
掲げられたそれの表紙や紙質は、侯爵以上の爵位を賜る家にしか仕入れられない高価な物。更に、艷やかな黒色はキャンベル家にしか許されていない物である為、誰もがそれがどこに保管されていた物かわかっただろう。
それをパラパラとめくって見せると、青ざめていた第2王子が若干狼狽えながらも鼻を鳴らした。
「なんだ、ただの国の防衛ラインの詳細をまとめた資料ではないか。それが何の罪に……っ!」
捲り終えた最後のページ。そこに現れた魔術大国ヴァルハラの紋章に、第2王子の悪態が止んだ。
「確かにこれは、国内では何の価値も持たぬただの防衛記録でしょう。しかし一度これらの情報が我が国を狙う他国に渡ればどうなるか……流石に第2王子殿下とてお解りですね?」
口籠った第2王子が後ずさったその時、観客席の遥か後ろから紙飛行機が飛んできて私の手元に降りたった。それを投げたるー君が、隣に立つサフィールさんと女帝3人を指さしてから『準備完了』と口を動かすのが見える。
今しがた受け取ったソレと、持参した数枚の便箋を丁寧に開いた。
「魔術大国ヴァルハラ……、かつてこの地を支配し、しかし初代国王と救国の魔導師に敗れ去っていった支配者達です。当然、現在は国交などないこの国の紋章が、何故キャンベル公爵家の資料に記されていたのでしょうか?」
「そんな事……っ「わたくしは何も知りませんわ殿下!!」あぁ、わかっているとも!」
わぁぁっとウソ泣きで第2王子に縋り付くナターリエ様だけど、逃しはしない。最後にと、彼女に直接関わる証拠である便箋を掲げた。
「しらばっくれるのも大概になさいませ、ナターリエ公爵令嬢。こちらは貴女が書かれた物でしょう!」
それは、何とヴァルハラの王太子とナターリエ様の婚約を希望する旨の書状であった。と言っても、あくまで便箋に記されたもので正式な書状では無い。事前にする仮約束のような物だろうが、問題はそれを記した者が誰なのかと、何時頃発行されたものなのかである。
「~~っ!」
書き覚えがあるであろうそれを見たナターリエ様が人を殺せそうな眼差しでこちらを睨みつける。まさか取るに足らないモブがここまでの証拠を集めて反撃に出るだなんて、夢にも思わなかったのだろう。
もちろん、これらは総て私一人の力では到底集められなかったものばかりだけど。
「冤罪ですわ殿下!確かにインクと便箋はわたくしの気に入りの物と同じですが、自国に籠もっていた公爵令嬢があんな手紙を国外に出せるわけがございませんもの!第一彼女にわたくしの筆跡かどうかなど鑑定できませんでしょう!?酷い侮辱ですわ!!」
「そう仰られると思って比較対象もご用意致しました。ご覧下さい」
バッと掲げられたそれは、今しがた見せたヴァルハラ宛の手紙と全く同じ柄、紙質で、同じインクで同じ字体が使われた手紙。
「こちらは我が家に滞在していた当初、黒の騎士様宛にナターリエ様から届いたものです。こちらに公爵邸の印もきちんと押されておりますわ。ナターリエ様、こちらは流石に御自分が記されたものと認めてくださいますね?」
私の問にナターリエ様は押し黙るが、先程殿下に『ガイアスに出していた自分の手紙がセレスティア嬢に邪魔されていた』などと口から出任せを言ってしまった以上誤魔化せないだろう。
悔しげに彼女が頷いたのを見て、成り行きを見ていた女帝達がVサインをした。ご協力ありがとうございました、師匠。
「こちらの便箋は、王都で一番有名なリングベル商会が自社の特許品として売り出している大変な高級品。私のような辺境貴族にはまず手に入らない代物ですから、まず証拠の捏造など出来よう筈が御座いません」
「……っ、だから何だというの!貴女に用意出来なくても、ウィリアムを誘惑していたあのアバズレならば彼に頼んで便箋を手に入れる位出来たはずですわ!」
びっとアイちゃんを指さしながらのあまりに品のない物言いに、ぷつんと何かが切れる音がした。
「……どう足掻いても無駄だとご理解頂けないご様子ですので、物理的な証拠をお見せしましょう。第2王子殿下、何故この便箋が特許品なのかご存知ですか?」
「はっ、知るわけないだろう!興味もない!!」
「そうですか……。では、ウィリアム殿下は如何でしょうか?」
「ーっ!あっ、兄上がわかる筈がなかろう!」
「そう思われるなら、あの声封じを外して答えを聞いてみてはいかがです?まぁ、兄に敗北したくなければ止めた方が宜しいかと思いますが」
私の挑発に顔を真っ赤にした第2王子が怒り任せに声封じの鍵を取り出し、近くに控えていた兵に投げつける。
「おいお前!いますぐ罪人共の首輪を外せ!!」
もう逆らう気も起きないのか、兵士が素直に三人の喉から声封じを外す。数回息をついて喉の状態を確かめてから、ウィリアム王子は至極当然のように答えた。
「その便箋の柄は特殊な魔法薬をインクにし、各セットごとに技師の手書きで作られているからだろう?魔術に関わる物はどんなに些事でも次期国王として把握していなければならなかったからね、私も記憶しているよ」
「その通りです、流石は王太子殿下ですわ」
さぁ、悔しそうにしている第2王子がまた喚き出す前にトドメと参りましょうか。
「この便箋は、表紙に手書きした柄がセットの一番下まで転写される製法で作られているので、同じ柄でもセットが違えば当然差異が生じてしまいます。しかし……」
徐に、4枚の便箋を重ねれば、縁取りの繊細な蔦模様は色濃くなったのみで、寸分のズレなく綺麗に重なった。
「さぁ、これですべての便箋が同じセットの物だと確定しましたね」
第2王子もナターリエ様も何も答えない。最早言い訳すら出ないのか。
「以上の証拠から、キャンベル公爵家は娘であるナターリエ嬢をヴァルハラに嫁がせ、某国でより高い地位を得るべく我が国に攻め入りやすいよう情報を流そうとしていたと判明しております。私の主張、審判者様はどうお考えでしょうか!」
「ふむ……。セレスティア嬢の証拠はどれも信憑性が高く、逆に第2王子殿下とナターリエ嬢にはそれらを棄却できる証拠がない。これではどちらが信頼に値するかは明白、ですなぁ」
実に淡々と長老が告げた答えに第2王子は青ざめる。が、ナターリエ様が嫌らしく、歪な笑みを浮かべた。
「……あぁ、残念ですわ。叶うならば、わたくしを慕ってくれていた彼の証言は使いたくありませんでしたのに」
わざとらしく濡れていない目元にハンカチを当てたナターリエ様が、控えさせていた男のフードを下ろさせる。
現れたのは、光の無い虚ろな眼差しをしたレオだった。
~Ep.96 証拠のお披露目~
「わたくしならば、権力に左右されず真実によって裁きを下す事の出来る地位も、魔法と言うものの知識もございます。他に適任もおりますまい。殿下、セレスティア嬢、如何ですかな?」
悠然とこちらを見上げた長老と目線が重なる。予想外だが願ってもない流れに、頷いた。
「はい、私は構いません」
「……ちっ、他に任せられる者も居ないしな。良いだろう、手短に済ませよ!」
第2王子のその物言いに長老の脇に控えていた研究者たちから呆れた様子が窺える。当然だ。国立魔法研究所は国の生活を支える魔導具から防衛の要たる結界の管理まで任されている謂わば最重要機関のひとつ。本来ならば、王族とて彼等には敬意を払わねばならないはずなのだ。それを一切理解していないその様子に、周りは困惑しているのだろう。
「有難き幸せに存じます、殿下。さぁセレスティア嬢、始めてください」
「そうですわね、皆様のお時間を無駄に頂くのは忍びないですし、手短に終わらせましょう」
こんな、茶番は。
「では皆様、まずはこちらをご覧くださいませ」
処刑場面を見せ占める為のスクリーンを利用し、手で掲げたそれを頭上に大きく拡大する。それは、王都の地下に造られた防災用貯水庫の見取り図であった。
「こちらは、大規模な水害時に溢れ出た分の水を一時的に蓄え被害を抑え、更に貯めた雨水は生活用水として使えるとキャンベル公爵家の発案で十数年前に建設された地下水庫です。管理はもちろん発案者であるキャンベル家が任されている。そうですね?」
「……そうですわね、民を思うお父様の素晴らしき発案ですわ。生憎建設以来我が国では大規模な水害はなく宝の持ち腐れになってしまっておりますが、点検は毎年欠かさず……」
ペラペラと雄弁に、聞いたこと以上の事を語りだすナターリエ様。得てして隠し事がある人間は、都合よく話を誘導する為雄弁になるものなのだ。それが却って墓穴を掘る羽目になるとも知らずに。
ひとしきりナターリエ様の嘘八百が並べ終わった辺りで、おっとりと一枚のコインを掲げて見た。
「あら……それは不思議ですわねぇ。既にこの空間は、全く別の目的に使われている様子でしたけれど」
キラリと光ったそれに、ナターリエ様と観客席の貴族の一部が狼狽えた。それに気が付かないふりで、ゆっくりのんびり、話を続ける。
「こちらは王都にあるとある賭場への入場証ですの。通常のルートでは手に入りませんわ。こちらはガイアス様が白竜騎士団としての調査の過程で入手していた物です」
「はっ、賭場だと!?馬鹿を言え、賭け事に厳しい我が国の王都にそんな場所が作れる筈がないだろう!」
「まぁ……殿下、今朝の新聞をご覧でないのですか?キャンベル公爵家が管理していた筈の地下水庫が違法物をやり取りする裏カジノになっていたと、城下はそのお話で持ち切りですのに……」
「なっ……!?」
驚愕した様子の第2王子に部下らしき男が新聞を差し出す。裏カジノの存在と、それを摘発した白竜騎士団の働きを讃えたその記事を王子は握りつぶしたが、紙を握りつぶしたって事実は揉み消せやしない。
本当は、あの裏カジノの制圧は私達が潜入したあの日にるー君が部下の皆様と済ませていたのだけれど。ここぞとばかりに明かす為、今日まで情報を伏せていたのだ。
「~~っ、だから何だと言うのだ!このカジノの話がナターリエと何の関係がある!」
「まぁ、直接的にはございませんわね。こちらはあくまでも父君であらせられるキャンベル公爵の落ち度ですわ」
「貴様、ぬけぬけと……!そもそも何故重要な証拠品を貴様のような取るに足らない娘が黒の騎士から預かっていたのだ!」
わざわざあちらから次に移る布石を打たれてしまった。若干拍子抜けしながら、次の資料を取り出す。
「それは、こちらの資料の復元の為ですわね」
掲げられたそれの表紙や紙質は、侯爵以上の爵位を賜る家にしか仕入れられない高価な物。更に、艷やかな黒色はキャンベル家にしか許されていない物である為、誰もがそれがどこに保管されていた物かわかっただろう。
それをパラパラとめくって見せると、青ざめていた第2王子が若干狼狽えながらも鼻を鳴らした。
「なんだ、ただの国の防衛ラインの詳細をまとめた資料ではないか。それが何の罪に……っ!」
捲り終えた最後のページ。そこに現れた魔術大国ヴァルハラの紋章に、第2王子の悪態が止んだ。
「確かにこれは、国内では何の価値も持たぬただの防衛記録でしょう。しかし一度これらの情報が我が国を狙う他国に渡ればどうなるか……流石に第2王子殿下とてお解りですね?」
口籠った第2王子が後ずさったその時、観客席の遥か後ろから紙飛行機が飛んできて私の手元に降りたった。それを投げたるー君が、隣に立つサフィールさんと女帝3人を指さしてから『準備完了』と口を動かすのが見える。
今しがた受け取ったソレと、持参した数枚の便箋を丁寧に開いた。
「魔術大国ヴァルハラ……、かつてこの地を支配し、しかし初代国王と救国の魔導師に敗れ去っていった支配者達です。当然、現在は国交などないこの国の紋章が、何故キャンベル公爵家の資料に記されていたのでしょうか?」
「そんな事……っ「わたくしは何も知りませんわ殿下!!」あぁ、わかっているとも!」
わぁぁっとウソ泣きで第2王子に縋り付くナターリエ様だけど、逃しはしない。最後にと、彼女に直接関わる証拠である便箋を掲げた。
「しらばっくれるのも大概になさいませ、ナターリエ公爵令嬢。こちらは貴女が書かれた物でしょう!」
それは、何とヴァルハラの王太子とナターリエ様の婚約を希望する旨の書状であった。と言っても、あくまで便箋に記されたもので正式な書状では無い。事前にする仮約束のような物だろうが、問題はそれを記した者が誰なのかと、何時頃発行されたものなのかである。
「~~っ!」
書き覚えがあるであろうそれを見たナターリエ様が人を殺せそうな眼差しでこちらを睨みつける。まさか取るに足らないモブがここまでの証拠を集めて反撃に出るだなんて、夢にも思わなかったのだろう。
もちろん、これらは総て私一人の力では到底集められなかったものばかりだけど。
「冤罪ですわ殿下!確かにインクと便箋はわたくしの気に入りの物と同じですが、自国に籠もっていた公爵令嬢があんな手紙を国外に出せるわけがございませんもの!第一彼女にわたくしの筆跡かどうかなど鑑定できませんでしょう!?酷い侮辱ですわ!!」
「そう仰られると思って比較対象もご用意致しました。ご覧下さい」
バッと掲げられたそれは、今しがた見せたヴァルハラ宛の手紙と全く同じ柄、紙質で、同じインクで同じ字体が使われた手紙。
「こちらは我が家に滞在していた当初、黒の騎士様宛にナターリエ様から届いたものです。こちらに公爵邸の印もきちんと押されておりますわ。ナターリエ様、こちらは流石に御自分が記されたものと認めてくださいますね?」
私の問にナターリエ様は押し黙るが、先程殿下に『ガイアスに出していた自分の手紙がセレスティア嬢に邪魔されていた』などと口から出任せを言ってしまった以上誤魔化せないだろう。
悔しげに彼女が頷いたのを見て、成り行きを見ていた女帝達がVサインをした。ご協力ありがとうございました、師匠。
「こちらの便箋は、王都で一番有名なリングベル商会が自社の特許品として売り出している大変な高級品。私のような辺境貴族にはまず手に入らない代物ですから、まず証拠の捏造など出来よう筈が御座いません」
「……っ、だから何だというの!貴女に用意出来なくても、ウィリアムを誘惑していたあのアバズレならば彼に頼んで便箋を手に入れる位出来たはずですわ!」
びっとアイちゃんを指さしながらのあまりに品のない物言いに、ぷつんと何かが切れる音がした。
「……どう足掻いても無駄だとご理解頂けないご様子ですので、物理的な証拠をお見せしましょう。第2王子殿下、何故この便箋が特許品なのかご存知ですか?」
「はっ、知るわけないだろう!興味もない!!」
「そうですか……。では、ウィリアム殿下は如何でしょうか?」
「ーっ!あっ、兄上がわかる筈がなかろう!」
「そう思われるなら、あの声封じを外して答えを聞いてみてはいかがです?まぁ、兄に敗北したくなければ止めた方が宜しいかと思いますが」
私の挑発に顔を真っ赤にした第2王子が怒り任せに声封じの鍵を取り出し、近くに控えていた兵に投げつける。
「おいお前!いますぐ罪人共の首輪を外せ!!」
もう逆らう気も起きないのか、兵士が素直に三人の喉から声封じを外す。数回息をついて喉の状態を確かめてから、ウィリアム王子は至極当然のように答えた。
「その便箋の柄は特殊な魔法薬をインクにし、各セットごとに技師の手書きで作られているからだろう?魔術に関わる物はどんなに些事でも次期国王として把握していなければならなかったからね、私も記憶しているよ」
「その通りです、流石は王太子殿下ですわ」
さぁ、悔しそうにしている第2王子がまた喚き出す前にトドメと参りましょうか。
「この便箋は、表紙に手書きした柄がセットの一番下まで転写される製法で作られているので、同じ柄でもセットが違えば当然差異が生じてしまいます。しかし……」
徐に、4枚の便箋を重ねれば、縁取りの繊細な蔦模様は色濃くなったのみで、寸分のズレなく綺麗に重なった。
「さぁ、これですべての便箋が同じセットの物だと確定しましたね」
第2王子もナターリエ様も何も答えない。最早言い訳すら出ないのか。
「以上の証拠から、キャンベル公爵家は娘であるナターリエ嬢をヴァルハラに嫁がせ、某国でより高い地位を得るべく我が国に攻め入りやすいよう情報を流そうとしていたと判明しております。私の主張、審判者様はどうお考えでしょうか!」
「ふむ……。セレスティア嬢の証拠はどれも信憑性が高く、逆に第2王子殿下とナターリエ嬢にはそれらを棄却できる証拠がない。これではどちらが信頼に値するかは明白、ですなぁ」
実に淡々と長老が告げた答えに第2王子は青ざめる。が、ナターリエ様が嫌らしく、歪な笑みを浮かべた。
「……あぁ、残念ですわ。叶うならば、わたくしを慕ってくれていた彼の証言は使いたくありませんでしたのに」
わざとらしく濡れていない目元にハンカチを当てたナターリエ様が、控えさせていた男のフードを下ろさせる。
現れたのは、光の無い虚ろな眼差しをしたレオだった。
~Ep.96 証拠のお披露目~
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