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第1章 初恋の彼は、私の運命の人じゃなかった
Ep.84 特大バッドエンド
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「はい、イチャイチャタイムは一旦そこまでにして本題入りますよーっ!」
勢いよく開いた扉の音と声にビクッと肩が跳ねた。反射的にガイアの胸から飛び退いた私の顔にそのままるー君が何かをくるんだハンカチを押し付ける。驚くより先に、ひんやりしたそれを泣き腫らした目元に当てられた。
「ひゃっ!冷たい……!」
「貴族のお嬢さんがそんな泣き腫らした目元のままじゃみっともないでしょ!文句言わずさっさと冷やす!」
「それにしたって渡し方と言うものがあるだろう。伊達男の割には女性の扱いがなってないな」
氷の入ったハンカチをるー君の手から抜いたガイアに手招きされたので素直に駆け寄る。優しく目元を拭かれていたら、後ろでチッと舌打ちが聞こえた。
「るー君、どうしたの?」
「べっつにー?何でもないですけど?」
ツンっと顔を背けたるー君に今度はガイアが吹き出した。何かデジャブのような……。
「くくっ……、ははははっ!始めにセレンの保護を頼んだのは俺だが、ずいぶん馴染んだものだな。それにしてもまた、お前がそんな呼び方を許すとは……くくっ、駄目だ、笑いすぎて腹が痛い」
「馬鹿お前……っ、それ笑いすぎじゃなくて傷に響いてんだよ!」
『とにかく座れ!』って口調は乱暴だけどちゃんとガイアに肩を貸している辺りるー君はいい人だ。氷もありがとうございます、ひんやりして気持ちいいです。
「はは……悪い悪い。それで?わざわざ危険を犯してまで俺達を再会させる為だけに来た訳じゃないだろう。本題は何だ?るー君」
「お前……っ次その呼び方したら俺もガイアって呼ぶぞ!?」
「別に痛くも痒くもないが……」
「えっ」
「セレンが嫌そうな顔をしたので却下だ。ふざけていないでとっとと用件を言え」
「うわぁ最低。俺今回結構頑張ってるんですけど少しは労いとかない訳!?ちょっとセレンちゃん、お宅の旦那しつけがなってませんよ!!」
「だん……っ!?」
2人の軽口のテンポの良さについていけず流されていたら、最後のとんでもないひと言に当てられてしまった。ぼっと顔に熱が集まりバレてないかと隣を見ると、思い切りガイアと目が合ってしまう。パッとお互い顔を背けたら、またるー君が舌を鳴らした。
「白竜騎士団の騎士ともあろう者が舌打ちとは、しつけがなってないな」
「お前こら人の台詞もじってちゃっかりやり返しやがって……!これ以上馬鹿にした態度取ると本気でセレンちゃん口説くかんな!!?」
ズガン、と、重たい音がして、あれ程すごい剣幕だったるー君の声が一瞬で止んだ。
ダイヤの次に固いと言われる特殊な塔壁に風穴を開けたガイアが、煙の出ている拳を下ろしてゆっくり微笑む。
「今ずいぶんと質の悪い冗談が聞こえた気がしたが……俺の気のせいか!?」
「恐い恐い恐い、お前の殺気はマジで洒落にならない!!ごめん俺が悪かった!」
二度と言いませんと叫びながら柱の影に逃げたるー君にガイアがやれやれと肩を竦める。何か、男の子同士のこう言うやり取りしてるガイアは新鮮に感じるなー。
「全く……。ほら、真面目にいい加減本題に入ろう。長居をするとそれだけ危険も増える。もう怒っていないから戻ってこい」
「ーー……。お前と出会って早数年。入団式の夜に宴会に出ないで娼館行ったり、手頃そうな女の子口説いたら上司の想い人で同室者の連帯責任で左遷させられそうになったりして怒らせた事は多々あれど、お前から本気の殺意を向けられたのは今回が初めてだわ……」
るー君、貴方問題起こしすぎだよ……と苦笑していたら、るー君が自嘲気味に笑って『幻滅したでしょ?』と呟いた。
(幻滅……はしないかな。何か、今日まで見てきたるー君から考えると、そうでもしないといけない理由があってそうしたのかも知れないし)
小さく首を横に振ると、驚いたような顔をしてからまたさっきの笑みに戻る。
「全く……。本当、そう言うとこだよ」
よく聞き取れなかったけど、るー君がぽつりと呟いてから例の資料をガイアに渡す。事情を話そうと口を開くより先にガイアが指先を切り、一滴の血を文字化けしたページに垂らした。
「えっ……!」
その赤い雫はページに落ちるなり波紋状に広がって全体を包む。その波が消えると、あれ程読めなくなっていた資料はすっかり元通りになっていた。
改めて差し出されたそれを受け取りパラパラとページを捲る。どのページもちゃんと読める。良かった……!
「ガイア、ありがとう……!」
「はは、礼を言うべきは寧ろ俺なんだがな。しかし予想はしていたが、あの売国奴が……!」
呪いの解けた資料に目を向け忌々しげにガイアが呟く。
書かれていた内容は、この国の国防ラインの弱い部分や、王族に不満を持つ貴族達のリストが大半だった。こんな物が他国に渡ったりしたら、弱い所から切り込まれてあっという間に国が滅んでしまうわ……!
「まさかこの資料がこんな掘り出し物だったとはね……。この内容ならば十分武器になる、お手柄だね」
「う、うん、でも……」
中々に厚かった資料の最後は、何故だか建物の見取り図だった。これ、国立魔法研究所だわ。国の防衛にはあまり関わりない場所なのに、どうして……。
るー君に褒められたものの、なにかがおかしい。妙にひっかかる。と言うより、この内容と渡す相手であっただろう国の紋章に、何故だか既視感が……。
(思い出せ、皆の命がかかってるんだから……!)
『何が愛か、何が忌み子か。俺がお前達に何をした!?“原初の魔術師”がこの国に何をした!!!』
いっそこんな腐った国、壊れてしまえ。
耳奥に甦った、聞き慣れないガイアの声に……その悲痛な叫びにようやく頭の靄が晴れた。そうか、色々イレギュラーな事は多いけど、これはゲームの逆ハールート。
しかも、戦争で皆犠牲になって暴走したガイアが国を滅ぼす“特大バッドエンド”で起きる戦争の相手だわ……!
(ゲームの時期はとっくに終わった後だから油断してた。まさかこんな形で危険が残ってたなんて……!)
後悔しても仕方がない。私の曖昧な記憶では、ルートの細かい流れまではわからない。なら……!
「ーっ!どこに行くんだ!」
「隣の部屋!アイちゃんに聞きたいことがあるの!!」
ふざけないで、こんな今さら“ゲーム”の強制力なんかで私の大切な人達を犠牲にさせるもんですか!戦争なんて、暴走なんて……
「絶対、させない」
~Ep.84 特大バッドエンド~
勢いよく開いた扉の音と声にビクッと肩が跳ねた。反射的にガイアの胸から飛び退いた私の顔にそのままるー君が何かをくるんだハンカチを押し付ける。驚くより先に、ひんやりしたそれを泣き腫らした目元に当てられた。
「ひゃっ!冷たい……!」
「貴族のお嬢さんがそんな泣き腫らした目元のままじゃみっともないでしょ!文句言わずさっさと冷やす!」
「それにしたって渡し方と言うものがあるだろう。伊達男の割には女性の扱いがなってないな」
氷の入ったハンカチをるー君の手から抜いたガイアに手招きされたので素直に駆け寄る。優しく目元を拭かれていたら、後ろでチッと舌打ちが聞こえた。
「るー君、どうしたの?」
「べっつにー?何でもないですけど?」
ツンっと顔を背けたるー君に今度はガイアが吹き出した。何かデジャブのような……。
「くくっ……、ははははっ!始めにセレンの保護を頼んだのは俺だが、ずいぶん馴染んだものだな。それにしてもまた、お前がそんな呼び方を許すとは……くくっ、駄目だ、笑いすぎて腹が痛い」
「馬鹿お前……っ、それ笑いすぎじゃなくて傷に響いてんだよ!」
『とにかく座れ!』って口調は乱暴だけどちゃんとガイアに肩を貸している辺りるー君はいい人だ。氷もありがとうございます、ひんやりして気持ちいいです。
「はは……悪い悪い。それで?わざわざ危険を犯してまで俺達を再会させる為だけに来た訳じゃないだろう。本題は何だ?るー君」
「お前……っ次その呼び方したら俺もガイアって呼ぶぞ!?」
「別に痛くも痒くもないが……」
「えっ」
「セレンが嫌そうな顔をしたので却下だ。ふざけていないでとっとと用件を言え」
「うわぁ最低。俺今回結構頑張ってるんですけど少しは労いとかない訳!?ちょっとセレンちゃん、お宅の旦那しつけがなってませんよ!!」
「だん……っ!?」
2人の軽口のテンポの良さについていけず流されていたら、最後のとんでもないひと言に当てられてしまった。ぼっと顔に熱が集まりバレてないかと隣を見ると、思い切りガイアと目が合ってしまう。パッとお互い顔を背けたら、またるー君が舌を鳴らした。
「白竜騎士団の騎士ともあろう者が舌打ちとは、しつけがなってないな」
「お前こら人の台詞もじってちゃっかりやり返しやがって……!これ以上馬鹿にした態度取ると本気でセレンちゃん口説くかんな!!?」
ズガン、と、重たい音がして、あれ程すごい剣幕だったるー君の声が一瞬で止んだ。
ダイヤの次に固いと言われる特殊な塔壁に風穴を開けたガイアが、煙の出ている拳を下ろしてゆっくり微笑む。
「今ずいぶんと質の悪い冗談が聞こえた気がしたが……俺の気のせいか!?」
「恐い恐い恐い、お前の殺気はマジで洒落にならない!!ごめん俺が悪かった!」
二度と言いませんと叫びながら柱の影に逃げたるー君にガイアがやれやれと肩を竦める。何か、男の子同士のこう言うやり取りしてるガイアは新鮮に感じるなー。
「全く……。ほら、真面目にいい加減本題に入ろう。長居をするとそれだけ危険も増える。もう怒っていないから戻ってこい」
「ーー……。お前と出会って早数年。入団式の夜に宴会に出ないで娼館行ったり、手頃そうな女の子口説いたら上司の想い人で同室者の連帯責任で左遷させられそうになったりして怒らせた事は多々あれど、お前から本気の殺意を向けられたのは今回が初めてだわ……」
るー君、貴方問題起こしすぎだよ……と苦笑していたら、るー君が自嘲気味に笑って『幻滅したでしょ?』と呟いた。
(幻滅……はしないかな。何か、今日まで見てきたるー君から考えると、そうでもしないといけない理由があってそうしたのかも知れないし)
小さく首を横に振ると、驚いたような顔をしてからまたさっきの笑みに戻る。
「全く……。本当、そう言うとこだよ」
よく聞き取れなかったけど、るー君がぽつりと呟いてから例の資料をガイアに渡す。事情を話そうと口を開くより先にガイアが指先を切り、一滴の血を文字化けしたページに垂らした。
「えっ……!」
その赤い雫はページに落ちるなり波紋状に広がって全体を包む。その波が消えると、あれ程読めなくなっていた資料はすっかり元通りになっていた。
改めて差し出されたそれを受け取りパラパラとページを捲る。どのページもちゃんと読める。良かった……!
「ガイア、ありがとう……!」
「はは、礼を言うべきは寧ろ俺なんだがな。しかし予想はしていたが、あの売国奴が……!」
呪いの解けた資料に目を向け忌々しげにガイアが呟く。
書かれていた内容は、この国の国防ラインの弱い部分や、王族に不満を持つ貴族達のリストが大半だった。こんな物が他国に渡ったりしたら、弱い所から切り込まれてあっという間に国が滅んでしまうわ……!
「まさかこの資料がこんな掘り出し物だったとはね……。この内容ならば十分武器になる、お手柄だね」
「う、うん、でも……」
中々に厚かった資料の最後は、何故だか建物の見取り図だった。これ、国立魔法研究所だわ。国の防衛にはあまり関わりない場所なのに、どうして……。
るー君に褒められたものの、なにかがおかしい。妙にひっかかる。と言うより、この内容と渡す相手であっただろう国の紋章に、何故だか既視感が……。
(思い出せ、皆の命がかかってるんだから……!)
『何が愛か、何が忌み子か。俺がお前達に何をした!?“原初の魔術師”がこの国に何をした!!!』
いっそこんな腐った国、壊れてしまえ。
耳奥に甦った、聞き慣れないガイアの声に……その悲痛な叫びにようやく頭の靄が晴れた。そうか、色々イレギュラーな事は多いけど、これはゲームの逆ハールート。
しかも、戦争で皆犠牲になって暴走したガイアが国を滅ぼす“特大バッドエンド”で起きる戦争の相手だわ……!
(ゲームの時期はとっくに終わった後だから油断してた。まさかこんな形で危険が残ってたなんて……!)
後悔しても仕方がない。私の曖昧な記憶では、ルートの細かい流れまではわからない。なら……!
「ーっ!どこに行くんだ!」
「隣の部屋!アイちゃんに聞きたいことがあるの!!」
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