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第1章 初恋の彼は、私の運命の人じゃなかった
Ep.79 勝者が全て
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背の高い男性達を見上げた姿勢のまま固まる。冷や汗が止まらない。
(さっき見かけた人達とは別人みたいだけど仮面に蝶々がついてるってことはこの二人もナターリエ様側の人達ってことだよね!?どうしよう……!)
「ぶっ、ぶつかってしまい本当に申し訳ありませんでした!」
とりあえず顔を見られないようにしなきゃと、謝罪と共に深々と頭を下げる。しかしその拍子に見てしまった。片方の人が、私の姿絵を持っているのを!
(うわぁ、写真みたくそっくりー……じゃなく!これもう絶体絶命だよね!?)
なにあれ、何か絵の下に金額も書いてあるんだけどあれですか、指名手配的な感じですかね!?どうしよう、これは不味いぞ……!
「あぁ、こちらこそ申し訳ない。人を探して前を見ていなかったもので。お嬢さんこそ、怪我はありませんか?」
「……へ?あ、は、はい、大丈夫です」
しかし、私とぶつかった方の男性は、拍子抜けするくらい丁寧な仕草で微笑んだ。あ、あれ?
「ったく見つかんねーな。本当にこんな場所に伯爵家のお嬢様が居んのかよ?」
右に控えていたもう一人のその声に小さく肩が跳ねる。乱れた髪を直すフリをして咄嗟にまた、うつむいた。
(いくら仮面で目元を隠していても細部の特徴は誤魔化せない。しっかり観察されたらバレる……!)
そう冷や汗をかいたのだけれど。
「あの方が居ると仰るなら居るのでしょう。さぁ、文句を言わずに行きますよ。お嬢さんも、すみませんでしたね」
「いえ、こちらこそ大変失礼致しました」
さらっと別れの口上を述べたナターリエ様の子飼いの二人は、まるで私の存在を気に止めないまま人混みに消えていった。
ってことは、バレてない……?
「たっ……、助かったぁぁぁ……!」
安心のあまりよろよろと近くの建物の影に寄りかかる。その直後、明かりのあまり射さない路地の先に小さな人だかりが出来ているのが見えた。
(何だろう……?よくわかんないけど、あれだけ人がいたら何か情報とか手に入るかも)
足音を立てないよう近づいて、背伸びして中心の様子を伺ってみる。
そこには簡易なテーブルにカードやカラーボール、カップにステッキなど、現代で言う手品用具が色々並んでいた。周りの人達の会話から察するに、建物内でするより簡単な賭け事としてマジックの種を客が見破れるかどうかを対象にした賭けをしているみたい。
(なんだ、ただの手品かぁ……。残念)
やってるのは前世のテレビとかで散々種明かしを見てきた手品ばっかだし、ここじゃめぼしい情報は手に入らなそうだ。そう判断して踵を返そうとした時だ。
「いいや、絶対にボールを入れたカップは真ん中だった!」
そう怒鳴る声がして振り返る。そんなに言うならもう一回やりますかと、肩を竦めたマジシャンがテーブルに並べた3つのカラーカップのひとつにボールを入れ、高速シャッフルを始めるのを見た。
怒鳴っていた男性も周りの人達も、皆が真剣にカップの動きを見守る。
「さぁ、最後のチャンスです。ボールは一体どこでしょう?」
マジシャンの声に、男性が右端のカップに手を伸ばす。うん、確かに最初にボールが入ったカップはあれだ。だけど。
「あの…………これ、イカサマですよね?」
つい呟いてしまった言葉に、全員の目が私に集まる。これは、やっちゃったかもしれない……!
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「また下手に騒ぎに巻き込まれる前に先に言っとくけど……そもそも今回俺達が欲しい薬は海外でしか得られない禁忌物。普通の賭場にいくら潜入しても見つからないからね」
尾行されないよう敢えて選んだ見通しの悪い道に目を凝らしながら、数歩後ろを歩いているであろう彼女に釘を刺す。
たったの数回だが一緒に行動してわかった。彼女はかなりの不遇体質だ。これは下手に目を離せないと思う。ホント、色恋抜きで、真面目に。
(もうガイアスのこと過保護だなんて笑えないなー……)
なんて白けた笑みを浮かべている場合じゃない。時間は有限だ。一刻も早く、目当ての場に行く手がかりを掴まねば。
調べてきた通りなら、本当にヤバイ賭場に一番手っ取り早く入りたいなら、建物内のカジノでなく、辺りの道々で見かける簡易の賭け事を吹っ掛けてくる連中のカモになってやればいい。
彼等の狙いは、稀有な魔法具や薬を餌にして多額の金と権力をもつ高位貴族と有益な関係を結ぶこと。だが自身の保身に抜かりないお貴族様はまずそんな上手すぎる取引には乗って来ない。
そこで、まずは使い捨ての駒にされここに来た貴族の子飼いを罠にはめるのだ。『ちゃんとした賭場でやるより簡単でリスクの少ない“ゲーム”』を持ち掛けて。
(確かにゲーム内容は簡単なんだけどね……)
だが、その話に乗ったが最後。学の無い駒達はイカサマに気づかずはめられ、雇い主から預かった軍資金を奪われてしまう。そうして何度も同じ相手の駒を潰し、痺れを切らして乗り込んできたお貴族とまんまと取引を結ぶと言う訳だ。
だからこそ、多分俺自身が囮になっても彼等は声をかけては来ないだろう。ああいう連中は、『勝てない相手』の所作や雰囲気に敏感だ。まず見抜かれて、逃げられる。
(セレンちゃん一人で行って貰えばまだ可能性あるけど、そんな危険な真似はさせられないから)
彼女は、ずっと全てに欺かれ、嘲笑われ、奪われてきたガイアスがようやく掴んだ希望だ。こんな所で消えてしまっては困る。
せっかくこの一年間をお膳立てした自分の労力が水泡に帰すのは勘弁だ。
(帰ってきてすぐのあいつの話聞くに、ちゃんと初恋の記憶も戻ったみたいだし?まーったく手がかかるったら……)
「あ、そうだ。俺セレンちゃんに返さなきゃいけないものが………ーっ!?」
はたと思い出して振り返ったそこはもぬけの殻。どこを見渡しても目当ての主の姿がないその景色を見て、やっぱり親友の恋人だからなんて気を使わず手ぐらい掴んでおくんだったと頭を抱えざるを得なかった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「……突然ぶしつけなお嬢さんですね。貴女も見ていらしたでしょう?私がこの三つのカップの内ひとつにボールを入れシャッフルしたのを。そして、お客様はそのカップがどれか当てるだけ。こんなに単純明快な勝負のどこにイカサマの余地があると?」
口元に穏やかな笑みを称えたマジシャンが、仮面の奥から冷たい眼差しで私を見る。
確かに一見、そうだけど。現代日本で散々手品番組やらなんやらを見て育った側からしてみれば、それこそこんなにイカサマしやすいゲームは無い。
「確かにそうですね。そのカップに、本当に初めからボールが入っていたならばですけれど」
そう告げると、ピクリとマジシャンの眉が動いた。
周りの緊張した空気の中、徐にテーブルに近づいて三つのカップを同時にひっくり返す。そこにはボールの影も形もなく、固唾を飲んでみていた観客からざわめきが起こった。
「初めにボールを入れたと見せかけて、本当は入れずに空のカップをシャッフルしていたんでしょう?そうすれば、客側がどれを選んでも貴方は絶対負けないですものね。この国では貴族くらいしか手品に馴染みがないのでバレなかったんでしょうけど」
「…………やれやれ、まさかこんなお嬢さんに暴かれるとは。ついていませんね」
わざとらしく肩を竦めたマジシャンに、イカサマ被害にあったであろう人々が殺気立つ。それを一瞥し、マジシャンの顔から笑みが消えた。
「まぁ良いでしょう。仮にこのゲームがイカサマだったからと言って、何の問題が?」
音もなく静かに立ち上がったマジシャンの目に捉えられて、ゾクッと背筋が泡立った。この人、どう見てもまともじゃない。
一瞬で別人になったマジシャンの尋常じゃない雰囲気に、殺気立っていたはずの周りの人々は蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
「困るんですよねぇ、商売の邪魔をされては。ただでさえ、今は大切な勝負時だと言うのに」
後ずさろうとして、足が動かないことに気づいた。いつの間に投げたのかわからないけど、手品用の短刀でスカートの裾が地面に押さえられてしまっていたのだ。
「……っ。何が商売ですか!イカサマで客からお金を巻き上げるなんて詐欺じゃないですか!!」
怯えを悟られないよう声を張った私に、マジシャンの男が鼻を鳴らす。
「ハッ。だからなんだと言うのです?そんなの、見抜けない方が間抜けなんですよ。ここはカジノ。欲望渦巻く戦場です、勝利した者だけが全て正しいのですよ」
とんだ理屈だ。そう睨み付ける私の顎を、マジシャンの手が持ち上げる。
「人の賭けに横槍を入れたのですから、対価を払う覚悟位はおありですよね?よく見れば、愛らしい顔立ちをしてるじゃないですか。私の手を見抜いたその慧眼を称して、特別に我々の本部にご案内しましょう」
「本部……?」
「えぇ。大丈夫です、とっても良い物の取引が出来る場所ですから!但し、カジノでは勝者が全て。お嬢さんが負けたら……」
『わかってますよね?』と、いやらしい目付きで伸びてきたその手が、振り払うより先に他の誰かに捻り上げられる。ぎょっとする間もなくマジシャンの手から救出されて、引っ張られた勢いのままぽすんと真後ろに立つ誰かの胸板に寄りかかった。
「……?るー君!」
「やーっと見つけた……。本当、毎度毎度世話焼かせないでくれる!?……と、言いたい所だけど」
マジシャンの腕を捻り上げたるー君……ルドルフさんが、ニヤリと笑って私の頭を撫でる。
「今回ばかりはお手柄だね。ねぇ手品師さん?この子をどこに連れてく気だったのかな?」
「……賭けに敗北したわけでもないのに、お答えする義理はありませんね」
「ふぅん……そう。なら、勝負しようか?」
暴れた衝撃で散らばったカードを慣れた手付きで切ったるー君が、バンッとテーブルに右手をつく。
逆光の中勝ち気に笑うその姿は、一枚のスチル絵のようだった。
~Ep.79 勝者が全て~
『ここでは勝者がルールなんだろ?約束は守れよ』
(さっき見かけた人達とは別人みたいだけど仮面に蝶々がついてるってことはこの二人もナターリエ様側の人達ってことだよね!?どうしよう……!)
「ぶっ、ぶつかってしまい本当に申し訳ありませんでした!」
とりあえず顔を見られないようにしなきゃと、謝罪と共に深々と頭を下げる。しかしその拍子に見てしまった。片方の人が、私の姿絵を持っているのを!
(うわぁ、写真みたくそっくりー……じゃなく!これもう絶体絶命だよね!?)
なにあれ、何か絵の下に金額も書いてあるんだけどあれですか、指名手配的な感じですかね!?どうしよう、これは不味いぞ……!
「あぁ、こちらこそ申し訳ない。人を探して前を見ていなかったもので。お嬢さんこそ、怪我はありませんか?」
「……へ?あ、は、はい、大丈夫です」
しかし、私とぶつかった方の男性は、拍子抜けするくらい丁寧な仕草で微笑んだ。あ、あれ?
「ったく見つかんねーな。本当にこんな場所に伯爵家のお嬢様が居んのかよ?」
右に控えていたもう一人のその声に小さく肩が跳ねる。乱れた髪を直すフリをして咄嗟にまた、うつむいた。
(いくら仮面で目元を隠していても細部の特徴は誤魔化せない。しっかり観察されたらバレる……!)
そう冷や汗をかいたのだけれど。
「あの方が居ると仰るなら居るのでしょう。さぁ、文句を言わずに行きますよ。お嬢さんも、すみませんでしたね」
「いえ、こちらこそ大変失礼致しました」
さらっと別れの口上を述べたナターリエ様の子飼いの二人は、まるで私の存在を気に止めないまま人混みに消えていった。
ってことは、バレてない……?
「たっ……、助かったぁぁぁ……!」
安心のあまりよろよろと近くの建物の影に寄りかかる。その直後、明かりのあまり射さない路地の先に小さな人だかりが出来ているのが見えた。
(何だろう……?よくわかんないけど、あれだけ人がいたら何か情報とか手に入るかも)
足音を立てないよう近づいて、背伸びして中心の様子を伺ってみる。
そこには簡易なテーブルにカードやカラーボール、カップにステッキなど、現代で言う手品用具が色々並んでいた。周りの人達の会話から察するに、建物内でするより簡単な賭け事としてマジックの種を客が見破れるかどうかを対象にした賭けをしているみたい。
(なんだ、ただの手品かぁ……。残念)
やってるのは前世のテレビとかで散々種明かしを見てきた手品ばっかだし、ここじゃめぼしい情報は手に入らなそうだ。そう判断して踵を返そうとした時だ。
「いいや、絶対にボールを入れたカップは真ん中だった!」
そう怒鳴る声がして振り返る。そんなに言うならもう一回やりますかと、肩を竦めたマジシャンがテーブルに並べた3つのカラーカップのひとつにボールを入れ、高速シャッフルを始めるのを見た。
怒鳴っていた男性も周りの人達も、皆が真剣にカップの動きを見守る。
「さぁ、最後のチャンスです。ボールは一体どこでしょう?」
マジシャンの声に、男性が右端のカップに手を伸ばす。うん、確かに最初にボールが入ったカップはあれだ。だけど。
「あの…………これ、イカサマですよね?」
つい呟いてしまった言葉に、全員の目が私に集まる。これは、やっちゃったかもしれない……!
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「また下手に騒ぎに巻き込まれる前に先に言っとくけど……そもそも今回俺達が欲しい薬は海外でしか得られない禁忌物。普通の賭場にいくら潜入しても見つからないからね」
尾行されないよう敢えて選んだ見通しの悪い道に目を凝らしながら、数歩後ろを歩いているであろう彼女に釘を刺す。
たったの数回だが一緒に行動してわかった。彼女はかなりの不遇体質だ。これは下手に目を離せないと思う。ホント、色恋抜きで、真面目に。
(もうガイアスのこと過保護だなんて笑えないなー……)
なんて白けた笑みを浮かべている場合じゃない。時間は有限だ。一刻も早く、目当ての場に行く手がかりを掴まねば。
調べてきた通りなら、本当にヤバイ賭場に一番手っ取り早く入りたいなら、建物内のカジノでなく、辺りの道々で見かける簡易の賭け事を吹っ掛けてくる連中のカモになってやればいい。
彼等の狙いは、稀有な魔法具や薬を餌にして多額の金と権力をもつ高位貴族と有益な関係を結ぶこと。だが自身の保身に抜かりないお貴族様はまずそんな上手すぎる取引には乗って来ない。
そこで、まずは使い捨ての駒にされここに来た貴族の子飼いを罠にはめるのだ。『ちゃんとした賭場でやるより簡単でリスクの少ない“ゲーム”』を持ち掛けて。
(確かにゲーム内容は簡単なんだけどね……)
だが、その話に乗ったが最後。学の無い駒達はイカサマに気づかずはめられ、雇い主から預かった軍資金を奪われてしまう。そうして何度も同じ相手の駒を潰し、痺れを切らして乗り込んできたお貴族とまんまと取引を結ぶと言う訳だ。
だからこそ、多分俺自身が囮になっても彼等は声をかけては来ないだろう。ああいう連中は、『勝てない相手』の所作や雰囲気に敏感だ。まず見抜かれて、逃げられる。
(セレンちゃん一人で行って貰えばまだ可能性あるけど、そんな危険な真似はさせられないから)
彼女は、ずっと全てに欺かれ、嘲笑われ、奪われてきたガイアスがようやく掴んだ希望だ。こんな所で消えてしまっては困る。
せっかくこの一年間をお膳立てした自分の労力が水泡に帰すのは勘弁だ。
(帰ってきてすぐのあいつの話聞くに、ちゃんと初恋の記憶も戻ったみたいだし?まーったく手がかかるったら……)
「あ、そうだ。俺セレンちゃんに返さなきゃいけないものが………ーっ!?」
はたと思い出して振り返ったそこはもぬけの殻。どこを見渡しても目当ての主の姿がないその景色を見て、やっぱり親友の恋人だからなんて気を使わず手ぐらい掴んでおくんだったと頭を抱えざるを得なかった。
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「……突然ぶしつけなお嬢さんですね。貴女も見ていらしたでしょう?私がこの三つのカップの内ひとつにボールを入れシャッフルしたのを。そして、お客様はそのカップがどれか当てるだけ。こんなに単純明快な勝負のどこにイカサマの余地があると?」
口元に穏やかな笑みを称えたマジシャンが、仮面の奥から冷たい眼差しで私を見る。
確かに一見、そうだけど。現代日本で散々手品番組やらなんやらを見て育った側からしてみれば、それこそこんなにイカサマしやすいゲームは無い。
「確かにそうですね。そのカップに、本当に初めからボールが入っていたならばですけれど」
そう告げると、ピクリとマジシャンの眉が動いた。
周りの緊張した空気の中、徐にテーブルに近づいて三つのカップを同時にひっくり返す。そこにはボールの影も形もなく、固唾を飲んでみていた観客からざわめきが起こった。
「初めにボールを入れたと見せかけて、本当は入れずに空のカップをシャッフルしていたんでしょう?そうすれば、客側がどれを選んでも貴方は絶対負けないですものね。この国では貴族くらいしか手品に馴染みがないのでバレなかったんでしょうけど」
「…………やれやれ、まさかこんなお嬢さんに暴かれるとは。ついていませんね」
わざとらしく肩を竦めたマジシャンに、イカサマ被害にあったであろう人々が殺気立つ。それを一瞥し、マジシャンの顔から笑みが消えた。
「まぁ良いでしょう。仮にこのゲームがイカサマだったからと言って、何の問題が?」
音もなく静かに立ち上がったマジシャンの目に捉えられて、ゾクッと背筋が泡立った。この人、どう見てもまともじゃない。
一瞬で別人になったマジシャンの尋常じゃない雰囲気に、殺気立っていたはずの周りの人々は蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
「困るんですよねぇ、商売の邪魔をされては。ただでさえ、今は大切な勝負時だと言うのに」
後ずさろうとして、足が動かないことに気づいた。いつの間に投げたのかわからないけど、手品用の短刀でスカートの裾が地面に押さえられてしまっていたのだ。
「……っ。何が商売ですか!イカサマで客からお金を巻き上げるなんて詐欺じゃないですか!!」
怯えを悟られないよう声を張った私に、マジシャンの男が鼻を鳴らす。
「ハッ。だからなんだと言うのです?そんなの、見抜けない方が間抜けなんですよ。ここはカジノ。欲望渦巻く戦場です、勝利した者だけが全て正しいのですよ」
とんだ理屈だ。そう睨み付ける私の顎を、マジシャンの手が持ち上げる。
「人の賭けに横槍を入れたのですから、対価を払う覚悟位はおありですよね?よく見れば、愛らしい顔立ちをしてるじゃないですか。私の手を見抜いたその慧眼を称して、特別に我々の本部にご案内しましょう」
「本部……?」
「えぇ。大丈夫です、とっても良い物の取引が出来る場所ですから!但し、カジノでは勝者が全て。お嬢さんが負けたら……」
『わかってますよね?』と、いやらしい目付きで伸びてきたその手が、振り払うより先に他の誰かに捻り上げられる。ぎょっとする間もなくマジシャンの手から救出されて、引っ張られた勢いのままぽすんと真後ろに立つ誰かの胸板に寄りかかった。
「……?るー君!」
「やーっと見つけた……。本当、毎度毎度世話焼かせないでくれる!?……と、言いたい所だけど」
マジシャンの腕を捻り上げたるー君……ルドルフさんが、ニヤリと笑って私の頭を撫でる。
「今回ばかりはお手柄だね。ねぇ手品師さん?この子をどこに連れてく気だったのかな?」
「……賭けに敗北したわけでもないのに、お答えする義理はありませんね」
「ふぅん……そう。なら、勝負しようか?」
暴れた衝撃で散らばったカードを慣れた手付きで切ったるー君が、バンッとテーブルに右手をつく。
逆光の中勝ち気に笑うその姿は、一枚のスチル絵のようだった。
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