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第1章 初恋の彼は、私の運命の人じゃなかった
Ep.71 用意周到な男達
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『けじめをつけに来た』
ガイアの腕の中で、その凛とした決別の声を聞いていた。安心してしまったせいか痛みと疲労で自由が利かない身体をどうにか動かして辺りの様子を伺えば、さっきまで姿が無かったはずの刺客らしき人達まで辺りの地面に突っ伏している様子が見える。
「この……っ、一人も始末出来ずに引き下がれるものか!!」
「ーっ!しまっ……っ!?」
そんな死屍累々の中、起き上がった比較的若そうな刺客の男がアイちゃんに背後から剣を振り下ろした。咄嗟に自分の剣で男の武器を防いだアイちゃんだけど、圧されているのは素人目にも明らかで。
けど、『逃げて』と叫ぶより先にパチンと言う音がして。次の瞬間には刺客の若い男は突風に拐われ天高く舞っていた。
「ホンット魔法って便利よね、助かったわ」
「どういたしまして。しかし女性一人で公爵家の暗部相手にここまで持つとは大したものだ。それ程の実力を持ちながら何故か弱いフリを?」
「だってぇ、大概の男はこーゆう馬鹿っぽくて頼りない弱い女が好きでしょ?あんた達ウィルに私の本性バラしたらただじゃおかないわよ。……それより良いの?あの女、許す訳じゃないわよね」
一瞬だけ学生の頃みたいなぶりっ子をしてから、真顔になったアイちゃんがそう呟くと、ガイアも頷いてナターリエ様に向き直った。
「……っ、なんですの?まさか私を捕まえるおつもり?この公爵令嬢足る私を、一介の騎士である貴方が!」
未だ意識のないウィリアム王子を抱き締めながら、威嚇するようにナターリエ様が喚く。それを冷めきった目で見据えたガイアが軽く地面を蹴る。次の瞬間には、数メートルあったナターリエ様との距離が縮まっていた。
「けじめをつけに来たと言ったろう?まさか何の手札もなくこのような場にくるとお思いか?」
「なっ……!」
「ナターリエ・キャンベル公爵令嬢。貴女には法により禁忌となった古代魔法を用い国の要人達の子息を“魅了”し使役した嫌疑がかかっている。その様子を見るに、第一王子殿下をも毒牙にかけたようだな」
「……っ、証拠はあるのかしら?禁忌魔法自体一般には認識が無いもの。そんな不確かな物絡みで公爵家を陥れようだなんて片腹痛いわね」
『いや、誰がどう見たって現行犯だろう』
そんな意を込めた目差しを一斉に受けながらもツンとナターリエ様がそっぽを向く。……けれど、それをガイアは許さずナターリエ様の顔面に一枚の書状を突き付けた。
「では、こちらはどうだ?」
「……っ!」
ハッと目を見開いたその顔色が、目に見えて変わった。王立魔法研究所の印が印されたそれを指差して彼に訪ねる。
「ガイア、それは……?」
「ナターリエ公爵令嬢を始め、キャンベル公爵家が国宝たる竜玉を私的に用い破損させた旨を示したものだ。この印の効力を知らないほど馬鹿ではないだろう?」
「そんな、嘘よ。不正だわ……!偽造よそんなもの!貴方に調べられる訳がない!!」
「何を馬鹿なことを。国内のありとあらゆる者達への捜査権限を持つとされる白竜騎士団に俺を入れたのは、他ならない貴女達だろう」
「なっ……!」
「自分に溺れかせた男ならば、無能で恐れるに足らないとでも思ったか?……油断して俺に力を与えたのは失敗だったな」
嘲笑を浮かべたガイアの声が、ナターリエ様に引導を渡す。だけど、悪女と言うものは、どんな世界でも往生際が悪いもので。
「認めない……!そんな書状一枚が何だと言うの?“影”!こいつらを全員消して書状を処分なさい!!」
誰も居ない暗闇へナターリエ様が癇癪気味に叫ぶ。まさかまだ刺客が居るの!?と身構える私とアイちゃんに振り返って、ガイアが『心配するな』と微笑んだ。
そのままカンカンとガイアがブーツのかかとを鳴らすと、暗闇の中心にまとめて気絶させられ簀巻きになった刺客の姿が現れる。先に倒した上で、幻術で見えなくしていたのだ。
「今貴女が呼んだのはこいつらか?残念だったな」
「…………っ!!」
とうとう万策尽きたらしいナターリエ様がその場にしゃがみ込んだ瞬間、縛られていた縄から一人、一番手練れそうな刺客が飛び出してきた。
「油断したな黒の騎士よ、その書状は渡してもら……ーっ!!」
一瞬の出来事だった。剣すら抜かないままガイアの腕が刺客の胸ぐらを掴んで、そのまま地面に叩きつけたのは。
「なっ、がっ……!」
痛みに呻く刺客の顔すれすれを狙って、ガイアが剣を地面に突き立てる。
「貴方も仮にも武を嗜んできた者ならば、挑まずとも相手の力量くらいは見抜けるようになった方が良い。でないと痛い目を見るぞ」
「ひっ……!」
小さく喉を鳴らした刺客は、そのままナターリエ様を置いて逃げ出してしまった。まあ然り気無くガイアが発信器をつけてたから、どうせすぐ捕まるだろうけど。
「……さて、これで貴女の味方は居なくなってしまったわけだが、どうするお嬢様?愛しの親衛隊にでも泣き付くか?」
ぎゅうっとナターリエ様が自分のドレスの裾を握り締め……
「馬鹿にしないで頂戴!」
そのままナイフを使い、ドレスの裾を膝上辺りで盛大に切り裂いた。驚く私達を他所に、ナターリエ様は走りにくいヒールも脱ぎ捨てて、そのままウィリアム王子を叩き起こす。
「起きなさいこの役立たず!」
「っ……!」
「ぼさっとしてないで、そこのヒロインを人質にしてそいつらを足留めしなさい!私の姿が見えなくなるまでよ、良いわね!」
まだ意識が曖昧なんだろう。頭を抱えながら起き上がったウィリアム王子は、ナターリエ様から押し付けられたナイフを手にし、そのままアイちゃんの方を向く。
ナターリエ様は妖しく口角をあげた後、一目散に走り出していた。
(相手がウィリアム様じゃ抵抗出来るわけない……!)
「アイちゃ……っ!!」
「落ち着け、彼女は大丈夫だ」
ビクッとしたアイちゃんを助けに行こうとしたら、何故かガイアに止められた。そのままウィリアム王子はアイちゃんの後ろに回り……
「すまない、目を覚ますのが遅れて君に辛い思いをさせてしまったね」
「……っ!ウィ、ル……?」
ポカンとするアイちゃんを抱き締め甘く微笑むウィリアム王子は、スチルと見紛う美しさだ。腐ってもメインヒーローと言うか、何と言うか。いや、それよりも!
「って、ナターリエ様逃げちゃったよ!?大丈夫なの!?」
「問題ない。俺が追えば小走りでもすぐに追い付くし……殿下も仕掛けをしているだろう」
「え?……え??」
ガイアとウィリアム王子が一回目配せをした後、王子が鳴らした指笛を合図に少し離れた場所から悲鳴が聞こえた。ナターリエ様だ。
足元から生えた白いイバラのようなもので縛り上げられたナターリエ様がガイアを見て喚く。
「何なのよこれは!!!」
「魔力を持たない我が国の王家の方が唯一扱うことが出来る拘束魔法、イノセントローズだよ。浅学な君は知らなかったのだろうけれど……、先ほど僕に足を触らせたでしょ?それが君の敗因だよ」
ニコッと、爽やかすぎて逆に腹黒い雰囲気で王子が笑う。初めから全部演技だったのね、この人、策士だ……!
「そしてイノセントローズは、国家に対し反逆の意があるものにしか作動しない。この意味がわかるな?貴女の罪は逃れようがない。潔く諦めるんだな!」
「そんな……嘘……、嘘よぉぉぉぉぉっ!!!」
耳を割くようなナターリエ様の叫びが静寂を切り裂く中、遠くの空が朝日で白く霞み始めていた。
~Ep.71 用意周到な男達~
『今こそゲームの枠を越えた、真の断罪の時』
ガイアの腕の中で、その凛とした決別の声を聞いていた。安心してしまったせいか痛みと疲労で自由が利かない身体をどうにか動かして辺りの様子を伺えば、さっきまで姿が無かったはずの刺客らしき人達まで辺りの地面に突っ伏している様子が見える。
「この……っ、一人も始末出来ずに引き下がれるものか!!」
「ーっ!しまっ……っ!?」
そんな死屍累々の中、起き上がった比較的若そうな刺客の男がアイちゃんに背後から剣を振り下ろした。咄嗟に自分の剣で男の武器を防いだアイちゃんだけど、圧されているのは素人目にも明らかで。
けど、『逃げて』と叫ぶより先にパチンと言う音がして。次の瞬間には刺客の若い男は突風に拐われ天高く舞っていた。
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「どういたしまして。しかし女性一人で公爵家の暗部相手にここまで持つとは大したものだ。それ程の実力を持ちながら何故か弱いフリを?」
「だってぇ、大概の男はこーゆう馬鹿っぽくて頼りない弱い女が好きでしょ?あんた達ウィルに私の本性バラしたらただじゃおかないわよ。……それより良いの?あの女、許す訳じゃないわよね」
一瞬だけ学生の頃みたいなぶりっ子をしてから、真顔になったアイちゃんがそう呟くと、ガイアも頷いてナターリエ様に向き直った。
「……っ、なんですの?まさか私を捕まえるおつもり?この公爵令嬢足る私を、一介の騎士である貴方が!」
未だ意識のないウィリアム王子を抱き締めながら、威嚇するようにナターリエ様が喚く。それを冷めきった目で見据えたガイアが軽く地面を蹴る。次の瞬間には、数メートルあったナターリエ様との距離が縮まっていた。
「けじめをつけに来たと言ったろう?まさか何の手札もなくこのような場にくるとお思いか?」
「なっ……!」
「ナターリエ・キャンベル公爵令嬢。貴女には法により禁忌となった古代魔法を用い国の要人達の子息を“魅了”し使役した嫌疑がかかっている。その様子を見るに、第一王子殿下をも毒牙にかけたようだな」
「……っ、証拠はあるのかしら?禁忌魔法自体一般には認識が無いもの。そんな不確かな物絡みで公爵家を陥れようだなんて片腹痛いわね」
『いや、誰がどう見たって現行犯だろう』
そんな意を込めた目差しを一斉に受けながらもツンとナターリエ様がそっぽを向く。……けれど、それをガイアは許さずナターリエ様の顔面に一枚の書状を突き付けた。
「では、こちらはどうだ?」
「……っ!」
ハッと目を見開いたその顔色が、目に見えて変わった。王立魔法研究所の印が印されたそれを指差して彼に訪ねる。
「ガイア、それは……?」
「ナターリエ公爵令嬢を始め、キャンベル公爵家が国宝たる竜玉を私的に用い破損させた旨を示したものだ。この印の効力を知らないほど馬鹿ではないだろう?」
「そんな、嘘よ。不正だわ……!偽造よそんなもの!貴方に調べられる訳がない!!」
「何を馬鹿なことを。国内のありとあらゆる者達への捜査権限を持つとされる白竜騎士団に俺を入れたのは、他ならない貴女達だろう」
「なっ……!」
「自分に溺れかせた男ならば、無能で恐れるに足らないとでも思ったか?……油断して俺に力を与えたのは失敗だったな」
嘲笑を浮かべたガイアの声が、ナターリエ様に引導を渡す。だけど、悪女と言うものは、どんな世界でも往生際が悪いもので。
「認めない……!そんな書状一枚が何だと言うの?“影”!こいつらを全員消して書状を処分なさい!!」
誰も居ない暗闇へナターリエ様が癇癪気味に叫ぶ。まさかまだ刺客が居るの!?と身構える私とアイちゃんに振り返って、ガイアが『心配するな』と微笑んだ。
そのままカンカンとガイアがブーツのかかとを鳴らすと、暗闇の中心にまとめて気絶させられ簀巻きになった刺客の姿が現れる。先に倒した上で、幻術で見えなくしていたのだ。
「今貴女が呼んだのはこいつらか?残念だったな」
「…………っ!!」
とうとう万策尽きたらしいナターリエ様がその場にしゃがみ込んだ瞬間、縛られていた縄から一人、一番手練れそうな刺客が飛び出してきた。
「油断したな黒の騎士よ、その書状は渡してもら……ーっ!!」
一瞬の出来事だった。剣すら抜かないままガイアの腕が刺客の胸ぐらを掴んで、そのまま地面に叩きつけたのは。
「なっ、がっ……!」
痛みに呻く刺客の顔すれすれを狙って、ガイアが剣を地面に突き立てる。
「貴方も仮にも武を嗜んできた者ならば、挑まずとも相手の力量くらいは見抜けるようになった方が良い。でないと痛い目を見るぞ」
「ひっ……!」
小さく喉を鳴らした刺客は、そのままナターリエ様を置いて逃げ出してしまった。まあ然り気無くガイアが発信器をつけてたから、どうせすぐ捕まるだろうけど。
「……さて、これで貴女の味方は居なくなってしまったわけだが、どうするお嬢様?愛しの親衛隊にでも泣き付くか?」
ぎゅうっとナターリエ様が自分のドレスの裾を握り締め……
「馬鹿にしないで頂戴!」
そのままナイフを使い、ドレスの裾を膝上辺りで盛大に切り裂いた。驚く私達を他所に、ナターリエ様は走りにくいヒールも脱ぎ捨てて、そのままウィリアム王子を叩き起こす。
「起きなさいこの役立たず!」
「っ……!」
「ぼさっとしてないで、そこのヒロインを人質にしてそいつらを足留めしなさい!私の姿が見えなくなるまでよ、良いわね!」
まだ意識が曖昧なんだろう。頭を抱えながら起き上がったウィリアム王子は、ナターリエ様から押し付けられたナイフを手にし、そのままアイちゃんの方を向く。
ナターリエ様は妖しく口角をあげた後、一目散に走り出していた。
(相手がウィリアム様じゃ抵抗出来るわけない……!)
「アイちゃ……っ!!」
「落ち着け、彼女は大丈夫だ」
ビクッとしたアイちゃんを助けに行こうとしたら、何故かガイアに止められた。そのままウィリアム王子はアイちゃんの後ろに回り……
「すまない、目を覚ますのが遅れて君に辛い思いをさせてしまったね」
「……っ!ウィ、ル……?」
ポカンとするアイちゃんを抱き締め甘く微笑むウィリアム王子は、スチルと見紛う美しさだ。腐ってもメインヒーローと言うか、何と言うか。いや、それよりも!
「って、ナターリエ様逃げちゃったよ!?大丈夫なの!?」
「問題ない。俺が追えば小走りでもすぐに追い付くし……殿下も仕掛けをしているだろう」
「え?……え??」
ガイアとウィリアム王子が一回目配せをした後、王子が鳴らした指笛を合図に少し離れた場所から悲鳴が聞こえた。ナターリエ様だ。
足元から生えた白いイバラのようなもので縛り上げられたナターリエ様がガイアを見て喚く。
「何なのよこれは!!!」
「魔力を持たない我が国の王家の方が唯一扱うことが出来る拘束魔法、イノセントローズだよ。浅学な君は知らなかったのだろうけれど……、先ほど僕に足を触らせたでしょ?それが君の敗因だよ」
ニコッと、爽やかすぎて逆に腹黒い雰囲気で王子が笑う。初めから全部演技だったのね、この人、策士だ……!
「そしてイノセントローズは、国家に対し反逆の意があるものにしか作動しない。この意味がわかるな?貴女の罪は逃れようがない。潔く諦めるんだな!」
「そんな……嘘……、嘘よぉぉぉぉぉっ!!!」
耳を割くようなナターリエ様の叫びが静寂を切り裂く中、遠くの空が朝日で白く霞み始めていた。
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