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第1章 初恋の彼は、私の運命の人じゃなかった

Ep.57 モテ期とチャラ男と、思わぬ修羅場!?

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 拝啓、領地に残してきたお父様と弟、妹達。まだまだ寒い日が続きますが、お元気でしょうか?お姉ちゃんは今……

「サンドウィッチごちそうさまです!差し入れのお礼によろしければ鍛練場をご案内しますよ!」

「いやいや、貴族のお嬢様に剣の稽古見学なんて退屈だろ。ちょうど恋華祭りの飾りで中庭の花が見物なので見に行きませんか!?」 

「いーや、外は冷えるし身体によくない。近場に良い店がありますのでお食事でもいかがです!?」

「え、えぇっと、あの……!お、お気遣いなく……!」

「「「そんな!ご遠慮なさらずに!!!」」」

  王宮の敷地内にある騎士団の鍛練場でたくさんの騎士様方に詰め寄られて居ます。

(ひーっ、何言っても退いてくれないよーっ!どうしてこうなっちゃったのーっ!!?)

 若いとはいえ常日頃鍛えている騎士達の体つきは屈強だ。そんなガタイの良い男性に一斉に囲まれながら、私は記憶をさかのぼる。

 そう、事の始まりは一時間程前の事……。






 この日、私とガイアは謁見の間と呼ばれる立派な部屋で国王陛下に対面。そしてキラービー討伐の褒美として、私は領地への多額の寄付金を、ガイアは、『王の剣』と言う、国王直々に実力を認められた者にしか与えられない称号と、一本の宝刀を授かった。

 『時を待て』と言うサフィールさんの遺言(いや、死んでないけど)に従い、所長と副所長の死亡事件については、何一つ言及しなかった。



 そして、ガイアはスチュアート伯爵領に居た一年弱の期間休んでいた仕事の引き継ぎと、陛下から新たな称号を頂いたことを報告する為に騎士団に顔を出してくると言うから、一旦別れて私だけ用意してもらったお部屋に向かうことにした。





「わぁ……!素敵なお部屋!!」


 用意されたお部屋は白とピンクを基調にしたお姫様みたいに可愛くて、ベッドもふかふか。広さも実家のリビング三つぶん並みで申し分無い。嬉々として部屋中探検して、探検しつくした結果、一時間後の私は……。

「あぁぁぁ……、暇……!」


 天蓋つきの純白のベッドに転がって、暇を持て余していたのでした。

 国王陛下直々に招かれた来客と言うことで、かなりいい対応をしては貰ってる。だから勿論お部屋にはちゃーんと娯楽も用意はされてたんだけど……何分貴族の娯楽って、正直もとド庶民には崇高過ぎて楽しめないんですよ!古語で記された詩集とか、チェスとか、歴代の吟遊詩人が歌った物語を書き記した伝記とか、ただの女子高生に読めと?無理です、すぐ寝ちゃいます。

 ふと備え付けの振り子時計を見る。時刻は丁度お昼過ぎだった。

『下級兵の鍛練は成果第一で生活は不規則だからな、一日に正しい時間に食事を三回摂れることは少ないんだ』

 うちに来て一緒にご飯を食べるのが当たり前になった頃、ガイアがそう言っていたことを思い出す。さっき別れる時、『長く留守にしていたから引き継ぎに時間がかかるし、今日は俺も帰れないかもしれない』とも言われた。
 昨日街を散歩した時の口振りからしても、この時期の騎士団はすごく多忙なんだろうと思う。


「……よし!」

 よく弾む高級ベッドから飛び起きて、エプロン片手に飛び出した。







「あの……、失礼致します。少しだけ、食材と厨房を使わせていただけませんか?」

 私が訪れたのは、数ある王宮厨房の中のひとつだ。陛下から、『重要な機密に関わる部屋以外ならば好きに使用してかまわない』と寛大なお言葉と一緒に貰った許可証のお陰で難なく許可を貰い、激しい運動後に食べても胃もたれしなさそうな食材でサンドウィッチをこしらえる。
 それを可愛いバスケットに詰めて、いざガイアの所属してる騎士団の鍛練場にレッツゴー!


 ……と、勇んでやって来た鍛練場。そこでは上官からの叱責と厳しい修行に疲れ果てた様子の一般兵の人達が地面に座り込んでいた。

「ご、ごきげんよう」

「「「「「ーっ!」」」」」

「ひゃっ!」

 控えめに声を掛けたら全員が一斉に振り返った。お、思った以上に大人数だ。サンドウィッチ少なかったかな……。

「え、ええと、休憩中にお邪魔して申し訳ありません」

「いえ、それは構いませんが……貴女のような貴族のお嬢様がこんな場所に何のご用で?」

 対応してくれた兵士さんの問いの返答に困ってしまう。要はガイアを迎えに来ただけなんだけど、彼と私の関係を何と言ったら良いのか。“恋人”にはなれてないし、かといって友人でもない。従者?いやいや、それもしっくり来ないな。うん、やっぱり、ここは……

「“家族”がこちらに勤めておりますのでご挨拶に来たんです。それから、騎士様は多忙でお食事もゆっくりと摂れないと伺いましたので、気持ちばかりですが差し入れを」

 持ってきたバスケットを前に出して、そっと蓋を開く。途端に、辺りに居た兵士さん達も一斉に集まってきた。何と言うか、公園で鳩にエサやりをしてる気分です。

「こ、これをいただいて良いのですか?我々は、まだ名のついた役職すら無い下級兵ですが……」

「地位なんて関係ありません。こうして最前線に立つべく努力をして下さる皆様が居るからこそ、私達は安心して日常を送れるのですから。だからこそ、たまにはご自分のことも大切にしてくださいね」

「……っ!なんと、お優しいお言葉……!」

「天使だ、天使がいらっしゃったぞ……!!!」

「……?よ、よくわかりませんが、皆様お疲れなのですね。さぁ、召し上がってください」

 バスケットを差し出すと、皆一斉にサンドウィッチに手を伸ばす。大きなバスケット二つ分のサンドウィッチはあっという間にはけていった。
 皆さんいい食べっぷりです、作った甲斐がありました。

 でも、ここにはガイアは居ないみたいね……。違う場所で書類仕事でもしてるのかな。


「では、私は失礼致しますね。ごきげんよ……『『お待ちください!』』きゃっ!」

「「「「「「頂きっぱなしでは道理が通りません、是非お礼をさせてください!!!」」」」」」」

「えっ、ええぇ……?」

 そうして一斉に兵士さん達に囲まれてしまい、立ち去りそこねたまま話は冒頭に戻ります。











「あの、サンドウィッチは私が自分でこしらえた簡単なものですし本当にお気になさらないでください」

「いいえ、女性に頂いた好意に何も返さないなど騎士の名折れです!!どうかお礼にご案内を!」

「いえ、中庭の散歩を!」

「いいや、お食事を!」

「ち、ちょっと……!痛っ!」

 もうこうなったら無理にでも逃げちゃおうとしたら、特に積極的だった三人に腕を掴まれてしまった。乱暴とまでは言わないけど、腕力が強い男性に一斉に詰め寄られて身体に触れられたらやっぱり恐い。ど、どうしよう……!

 振り払おうにもびくともしなくて、身を縮こまらせて目をぎゅっと閉じる。

「はいはーい、お痛はそこまでにしときなー」

「「「痛たたたたたたっ!」」」

「ーっ!?あ、あれ……?」

 軽ーい感じの声が聞こえたと思ったら、ふっと掴まれていた手が離れていった。恐る恐る目を開けると、私に詰め寄ってた三人の腕を後ろから誰かが捻り上げている。
 その相手の顔をみて、思わず空になったバスケットをその場に落としてしまった。
 目を見開いた兵士さんの一人がすっとんきょうな声をあげる。

「る、ルドルフ第一隊長!」

「まーったく、ちょっと可愛い娘に優しくされたからってそんな必死になっちゃって、チョロい奴らだな。女に現抜かして鍛練に身が入らないなんて騎士失格だぞー?」

「「「ーっ!!?」」」

 ……、助けて貰っておいて何ですが、私には今聞こえました。
 兵士さん達の『女好きの代名詞である貴方がそれを言うのか!』と言う心の叫びが……!


 いやいや、でも結果的に助けられたのにお礼ひとつ言わないのはよくないよね。って言うか、この人ナターリエ様の従順な部下なのによく助けてくれたな……?

「あ、あの、ルドルフさん、ありがとうございま……」

「あー、そう言うのいいからいいから」

「え?でもお礼くらい……」

「だーからそう言うの要らないってば。そもそも、俺は君じゃなくてこいつ等を助ける為に止めたんだし?」

「へ?」

「だってお前等、この娘が誰の連れかわかってんの?命知らずだね」

 わ、訳がわからない。
 私は勿論、兵士さん達もそう首を傾げた瞬間、鍛練場に直通している騎士団の宿舎の玄関が勢いよく開いた。単に開けたのではなく力業でぶっ壊したらしく、濛々と煙は立ち込めているわ。勢いが強すぎて、両開きの扉は片方が留め具が壊れてプラプラと揺れているわ……。い、一体何事?

「……部屋に先に行ってろと言ったよな?ここで一体何をしてたのか、じっくり教えて貰おうか。なぁ、“セレスティア”?」

 ゆっくり収まる煙の中から現れたガイアの、荒々しく扉を破壊した態度とは真逆の静かすぎる微笑みに一瞬で空気が凍る。

 隣でルドルフさんの『俺知ーらない』と言う無情な一言が聞こえた。



   ~Ep.57 モテ期とチャラ男と、思わぬ修羅場!?~

『何が引き金かわからないまま、マジで修羅場る5秒前です……!』


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