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第1章 初恋の彼は、私の運命の人じゃなかった
Ep.44 各々の思惑
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時は遡り、セレンが屋敷の庭で拐われる数時間前。
ガシャンと、主人の部屋から聞こえた何度目になるかわからないグラスを叩き割る物音に、ルドルフはやれやれと肩を竦めた。
「その辺りで止めた方がいいですよ姫さん、このままじゃ別邸の食器が全て砕けて炊事係の侍女が困っちゃうし。そんな癇癪起こしちゃ社交界の金色《こんじき》の薔薇と名高いナターリエ公爵令嬢の名が泣きますって」
『怪我したらどうすんのさ』と、わざと砕けた態度のルドルフがワイングラスを振りかぶるナターリエの右手を背後から掴んだ。邪魔するなとばかりにナターリエに睨まれたルドルフは、動じもせず慣れた手付きで彼女からグラスを取り上げ横抱きに抱え上げる。不意打ちのお姫様抱っこに一瞬毒気が抜かれたのか、ソファーにゆっくり下ろされたナターリエはため息交じりに暴れるのを止めた。
「そうね、グラスが無くなっては喉が乾いたときに困る物ね。ちょっとそこの貴女!この部屋片付けておいて頂戴!」
「はっ、はい!ですが、お掃除用のホウキと塵取りもお嬢様が先日壊されてしまいましたので、すぐには………」
「そんなもの、ガラスの破片位手で集めれば良いでしょう!主の命令が聞けないのかしら!?」
「もっ、申し訳ございません!仰せの通りにいたします!」
ナターリエに怒鳴り付けられた年若い侍女が、青ざめた顔でガラス片まみれの床に膝をつこうとする。雇われて居る身である侍女は、主君であるナターリエには逆らえないのだ。それがどんなに理不尽な命であっても。
それがわかっているから、ナターリエはガラス片が刺さる痛みに顔をしかめる侍女に『もたもたしてないで早く片しなさいよ、ノロマな子ね!』などと心ない言葉をかけられるのだろう。
「ちょっと姫さん、いくら作戦が失敗して機嫌悪いからって流石にやりすぎじゃ……」
しかし、そうルドルフが苦言を呈そうとしたのと同時に、涙目になっていた侍女を背後からひょいと誰かが抱え上げた。
「こらこら、そんなガラスまみれの床に膝をついていたら破片で足が傷だらけになってしまいますよ。いけませんねぇ、年頃のお嬢さんがこんな自らを痛め付けるような真似をしては」
穏やかながらどこか嫌味を感じさせる大人の男の声。ナターリエがそれに反応して乱暴に立ち上がった。
「貴方、よくわたくしの前にのうのうと顔を出せたものね……サフィール!」
「これはこれは、ご機嫌麗しく存じます。ナターリエお嬢様」
「ちっとも麗しくないわよこの詐欺師が!何が『殺害は隠蔽が面倒なのでガイアス様の記憶を消して昔の”貴女専用”の騎士に戻しましょう』よ。あのアホ所長に禁呪を込めた札まで持たせて記憶を消したのに、ガイアスは帰ってこなかったじゃないの!!一体どうなってるのよ!」
そう、ナターリエがセレンを始末する計画を立てた際、ルドルフを経由して彼女に『ガイアスにセレスティアのことを忘れさせれば彼を取り返せる。だから、わざわざ殺す必要は無い』と別案を提示した人間こそ、サフィールだったのだ。
「この私がわざわざ迎えに行って上げたのに、あの男、一緒に帰る気は無いって言ったのよ!あんたの術、本っっ当に役に立たないわね!」
それどころか、全てを忘れ去って尚、ガイアスはナターリエよりセレンを選んだのだ。あの、自分のきらびやかな美貌には足元にも及ばない地味なモブ娘に向ける彼の眼差しに、抑えきれない強い熱が秘められていたのを確かに見た。
その事実が、ナターリエのプライドを痛く傷つけたのだ。
「まぁまぁ落ち着いて。記憶を奪ったからと言って、あの禁呪は相手の心までを思いどおりに出来るものではありません。“一度彼に禁呪をかけたことがある貴女なら”、ご存知だった筈でしょう?」
「~~っ!わかってるわよ!だから余計に腹立たしいんじゃない。わざわざリスクを犯してまでガイアスを孤独にして、長年かけてじっくり私の魅力に溺れさせて来たのに……あのモブのせいで全部台無しだわ!」
ルドルフがその言葉にピクリと眉を動かし、サフィールは鞄の底に隠した黒表紙の魔法の本を握りしめた。
だが、全ての感情を無にして社交界の裏側を知る者達から“強欲の悪女”と名高い公爵令嬢に微笑んでやる。まだだ、自分の目的を、理不尽な運命の歯車に抱き込まれ無念の死をとげた友の最後の願いを果たす為には、今は彼女に手を出す時では無い。
ひとつ小さく息をついたサフィールの吐息にかき消されたが、カチリと小さなスイッチ音が鳴った。
「……なるほど、わざわざ国事の闇を司ると噂の公爵家の子飼いを使ってまでガイアスさんの祖父の屋敷を襲わせたのはそれが目的だった訳ですか。いやはや恐ろしい女性ですね、いつかバチが当たりますよ?」
「あら、バチなんか当たらないわよ!私の騎士を孫だなんて言って引き取って閉じ込めてたあの年寄りは、ガイアスが幼い時に強盗に襲われて死ぬのが初めから決まっていたの!そしてひとりぼっちになったガイアスは、孤独を癒してくれる美しい令嬢に出会い、生涯の忠誠と一生胸に秘めた恋心を捧げるのよ!幸せにはなれないけれど、“忌み子”という化け物から一人の人間になれた彼は確かに救われる!それがガイアスの運命で唯一の幸せなの!初恋の思い出なんて、人間以下の化け物には必要ないから消してあげたのよ。全てはこの世界の運命《シナリオ》で定まってた事なの、逆らおうとしてる奴等がバグなのよ。私は運命《シナリオ》を修正してあけたんだから、寧ろ神様に感謝してもらいたい位だわ!」
高らかに胸を張って捲し立てた彼女の言う運命《シナリオ》とやらはよくわからないが、証拠はこれで十分だ。
サフィールはわざとらしく『おぉ怖い』と肩を竦めて見せ、暗雲の立ちこめる夜の森へと視線を投げた。
「過去の話はさておき、もう今更ガイアスさんを連れ戻すのは無理ではないですかねぇ。どうです?貴女には他にも見目麗しい王子様方がたくさんいらっしゃるわけですし、彼一人位解放して差し上げては?いい加減面倒臭いでしょう」
「嫌よ!あいつは元々私かヒロインが手に入れるべき男なのよ、なのにあんなモブのゴミキャラに取られたら、私があんな女に負けたみたいじゃない。そんなの認めないわ!」
「とは言え、打てる策はもう皆打ったじゃん。どうすんの?姫さん」
然り気無く侍女を部屋から避難させ、代わりにガラス片を一欠片も残さずに片し終えたルドルフがそう訪ねる。
ナターリエは、艶やかな黒色の扇で口元を覆って笑みを浮かべた。
「『行方不明』なら、証拠を消す手間もないでしょう?貧乏伯爵令嬢はもちろん、左遷間近の馬鹿な所長なんてだ~れも探さないでしょうね?だから、一緒に消えてもらうことにしたの」
「……?暗殺は止めたんじゃなかったの?」
「ーっ!その空箱はまさか……、竜玉をマークス所長に与えたのですか!?」
「そうよ?お父様に頼み込んで我が家がこっそり保管してたのを持ち出したの。黒竜の瞳のような、真っ黒な魔力の玉をね」
幾重にも魔力封じのかけられたその小箱の様子から、どれほどの物がしまわれていたのかがわかる。動揺したサフィールは、息を落ち着けようと荒く深呼吸を繰り返す。ルドルフだけは話がわからないのか、2人を交互に見て首を傾げている。
「……この際、何故公爵家にそれがあったのかは聞きません。お嬢様、竜玉は正に魔力の爆弾。取り扱う資質(=魔力)の無い者に、加工すらしていないそれを与えれば、膨大な魔力に耐えきれず精神汚染を起こすでしょう。その行く末がどうなるか……貴女はご存知なのですね?」
「えぇ、もちろん。だからこそあの男に竜玉を与えて、スチュアート家に送り込んでやったんだもの」
あぁ楽しみだわ、と恍惚の表情を浮かべたその姿は、とても年若い娘には見えない。サフィールは白衣をはためかせ踵を返した。
「あら、どこへ行く気かしら?」
「……阿保で変態で役立たずのお荷物でも、所長の失態は我々の責になりますからね。下手に騒ぎが大きくならないように、後始末に行ってきます♪」
だから、マークスがセレンを拐い何処に行ったのか教えろ。そう要求したら、ナターリエは案外すんなりと応じた。
「後処理をしてくれるのは結構だけど、貴方ではあの場所には入れはしないわよ。まさかおかしなことを考えてないわよね?サフィール·ネクロフィア副所長?そんなことしたらみーんなに話しちゃうから。貴女のひ・み・つ」
ゾワリと絡みついてくるような、甘さを含んだ女の声に鳥肌が立った。答えないサフィールに痺れを切らしたのか、ルドルフが口を挟む。
「若作りしてるだけのじいさんに姫さんを出し抜くなんて出来るわけないじゃん、杞憂だよ。それより、俺もちょっと出てきていい?
他から横槍が入んないようにちょっと見てくるわ」
『邪魔さえしないなら好きになさい』と、ナターリエがまるでペットでも見送るように許可を出す。私服のまま三階の窓から飛び降りたルドルフの影は、薄暗い森の中にすぐ消えていく。ナターリエはさも興味無さげにあくびを噛み殺していた。
(……恐ろしい指示を出した自覚がないのか?どちらが化け物だかわからないな)
誰にでもなく心の中で毒づいて、サフィールもその場を後にした。
~Ep.44 各々の思惑~
ガシャンと、主人の部屋から聞こえた何度目になるかわからないグラスを叩き割る物音に、ルドルフはやれやれと肩を竦めた。
「その辺りで止めた方がいいですよ姫さん、このままじゃ別邸の食器が全て砕けて炊事係の侍女が困っちゃうし。そんな癇癪起こしちゃ社交界の金色《こんじき》の薔薇と名高いナターリエ公爵令嬢の名が泣きますって」
『怪我したらどうすんのさ』と、わざと砕けた態度のルドルフがワイングラスを振りかぶるナターリエの右手を背後から掴んだ。邪魔するなとばかりにナターリエに睨まれたルドルフは、動じもせず慣れた手付きで彼女からグラスを取り上げ横抱きに抱え上げる。不意打ちのお姫様抱っこに一瞬毒気が抜かれたのか、ソファーにゆっくり下ろされたナターリエはため息交じりに暴れるのを止めた。
「そうね、グラスが無くなっては喉が乾いたときに困る物ね。ちょっとそこの貴女!この部屋片付けておいて頂戴!」
「はっ、はい!ですが、お掃除用のホウキと塵取りもお嬢様が先日壊されてしまいましたので、すぐには………」
「そんなもの、ガラスの破片位手で集めれば良いでしょう!主の命令が聞けないのかしら!?」
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しかし、そうルドルフが苦言を呈そうとしたのと同時に、涙目になっていた侍女を背後からひょいと誰かが抱え上げた。
「こらこら、そんなガラスまみれの床に膝をついていたら破片で足が傷だらけになってしまいますよ。いけませんねぇ、年頃のお嬢さんがこんな自らを痛め付けるような真似をしては」
穏やかながらどこか嫌味を感じさせる大人の男の声。ナターリエがそれに反応して乱暴に立ち上がった。
「貴方、よくわたくしの前にのうのうと顔を出せたものね……サフィール!」
「これはこれは、ご機嫌麗しく存じます。ナターリエお嬢様」
「ちっとも麗しくないわよこの詐欺師が!何が『殺害は隠蔽が面倒なのでガイアス様の記憶を消して昔の”貴女専用”の騎士に戻しましょう』よ。あのアホ所長に禁呪を込めた札まで持たせて記憶を消したのに、ガイアスは帰ってこなかったじゃないの!!一体どうなってるのよ!」
そう、ナターリエがセレンを始末する計画を立てた際、ルドルフを経由して彼女に『ガイアスにセレスティアのことを忘れさせれば彼を取り返せる。だから、わざわざ殺す必要は無い』と別案を提示した人間こそ、サフィールだったのだ。
「この私がわざわざ迎えに行って上げたのに、あの男、一緒に帰る気は無いって言ったのよ!あんたの術、本っっ当に役に立たないわね!」
それどころか、全てを忘れ去って尚、ガイアスはナターリエよりセレンを選んだのだ。あの、自分のきらびやかな美貌には足元にも及ばない地味なモブ娘に向ける彼の眼差しに、抑えきれない強い熱が秘められていたのを確かに見た。
その事実が、ナターリエのプライドを痛く傷つけたのだ。
「まぁまぁ落ち着いて。記憶を奪ったからと言って、あの禁呪は相手の心までを思いどおりに出来るものではありません。“一度彼に禁呪をかけたことがある貴女なら”、ご存知だった筈でしょう?」
「~~っ!わかってるわよ!だから余計に腹立たしいんじゃない。わざわざリスクを犯してまでガイアスを孤独にして、長年かけてじっくり私の魅力に溺れさせて来たのに……あのモブのせいで全部台無しだわ!」
ルドルフがその言葉にピクリと眉を動かし、サフィールは鞄の底に隠した黒表紙の魔法の本を握りしめた。
だが、全ての感情を無にして社交界の裏側を知る者達から“強欲の悪女”と名高い公爵令嬢に微笑んでやる。まだだ、自分の目的を、理不尽な運命の歯車に抱き込まれ無念の死をとげた友の最後の願いを果たす為には、今は彼女に手を出す時では無い。
ひとつ小さく息をついたサフィールの吐息にかき消されたが、カチリと小さなスイッチ音が鳴った。
「……なるほど、わざわざ国事の闇を司ると噂の公爵家の子飼いを使ってまでガイアスさんの祖父の屋敷を襲わせたのはそれが目的だった訳ですか。いやはや恐ろしい女性ですね、いつかバチが当たりますよ?」
「あら、バチなんか当たらないわよ!私の騎士を孫だなんて言って引き取って閉じ込めてたあの年寄りは、ガイアスが幼い時に強盗に襲われて死ぬのが初めから決まっていたの!そしてひとりぼっちになったガイアスは、孤独を癒してくれる美しい令嬢に出会い、生涯の忠誠と一生胸に秘めた恋心を捧げるのよ!幸せにはなれないけれど、“忌み子”という化け物から一人の人間になれた彼は確かに救われる!それがガイアスの運命で唯一の幸せなの!初恋の思い出なんて、人間以下の化け物には必要ないから消してあげたのよ。全てはこの世界の運命《シナリオ》で定まってた事なの、逆らおうとしてる奴等がバグなのよ。私は運命《シナリオ》を修正してあけたんだから、寧ろ神様に感謝してもらいたい位だわ!」
高らかに胸を張って捲し立てた彼女の言う運命《シナリオ》とやらはよくわからないが、証拠はこれで十分だ。
サフィールはわざとらしく『おぉ怖い』と肩を竦めて見せ、暗雲の立ちこめる夜の森へと視線を投げた。
「過去の話はさておき、もう今更ガイアスさんを連れ戻すのは無理ではないですかねぇ。どうです?貴女には他にも見目麗しい王子様方がたくさんいらっしゃるわけですし、彼一人位解放して差し上げては?いい加減面倒臭いでしょう」
「嫌よ!あいつは元々私かヒロインが手に入れるべき男なのよ、なのにあんなモブのゴミキャラに取られたら、私があんな女に負けたみたいじゃない。そんなの認めないわ!」
「とは言え、打てる策はもう皆打ったじゃん。どうすんの?姫さん」
然り気無く侍女を部屋から避難させ、代わりにガラス片を一欠片も残さずに片し終えたルドルフがそう訪ねる。
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「『行方不明』なら、証拠を消す手間もないでしょう?貧乏伯爵令嬢はもちろん、左遷間近の馬鹿な所長なんてだ~れも探さないでしょうね?だから、一緒に消えてもらうことにしたの」
「……?暗殺は止めたんじゃなかったの?」
「ーっ!その空箱はまさか……、竜玉をマークス所長に与えたのですか!?」
「そうよ?お父様に頼み込んで我が家がこっそり保管してたのを持ち出したの。黒竜の瞳のような、真っ黒な魔力の玉をね」
幾重にも魔力封じのかけられたその小箱の様子から、どれほどの物がしまわれていたのかがわかる。動揺したサフィールは、息を落ち着けようと荒く深呼吸を繰り返す。ルドルフだけは話がわからないのか、2人を交互に見て首を傾げている。
「……この際、何故公爵家にそれがあったのかは聞きません。お嬢様、竜玉は正に魔力の爆弾。取り扱う資質(=魔力)の無い者に、加工すらしていないそれを与えれば、膨大な魔力に耐えきれず精神汚染を起こすでしょう。その行く末がどうなるか……貴女はご存知なのですね?」
「えぇ、もちろん。だからこそあの男に竜玉を与えて、スチュアート家に送り込んでやったんだもの」
あぁ楽しみだわ、と恍惚の表情を浮かべたその姿は、とても年若い娘には見えない。サフィールは白衣をはためかせ踵を返した。
「あら、どこへ行く気かしら?」
「……阿保で変態で役立たずのお荷物でも、所長の失態は我々の責になりますからね。下手に騒ぎが大きくならないように、後始末に行ってきます♪」
だから、マークスがセレンを拐い何処に行ったのか教えろ。そう要求したら、ナターリエは案外すんなりと応じた。
「後処理をしてくれるのは結構だけど、貴方ではあの場所には入れはしないわよ。まさかおかしなことを考えてないわよね?サフィール·ネクロフィア副所長?そんなことしたらみーんなに話しちゃうから。貴女のひ・み・つ」
ゾワリと絡みついてくるような、甘さを含んだ女の声に鳥肌が立った。答えないサフィールに痺れを切らしたのか、ルドルフが口を挟む。
「若作りしてるだけのじいさんに姫さんを出し抜くなんて出来るわけないじゃん、杞憂だよ。それより、俺もちょっと出てきていい?
他から横槍が入んないようにちょっと見てくるわ」
『邪魔さえしないなら好きになさい』と、ナターリエがまるでペットでも見送るように許可を出す。私服のまま三階の窓から飛び降りたルドルフの影は、薄暗い森の中にすぐ消えていく。ナターリエはさも興味無さげにあくびを噛み殺していた。
(……恐ろしい指示を出した自覚がないのか?どちらが化け物だかわからないな)
誰にでもなく心の中で毒づいて、サフィールもその場を後にした。
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