上 下
40 / 147
第1章 初恋の彼は、私の運命の人じゃなかった

Ep.35 秘密の花は地下に咲く・前編

しおりを挟む
 目が覚めたらそこは、満開の桜の木の下だった。



(わぁ、絶景……。空も快晴だし、お昼寝日よりだなぁ……。花弁だけじゃなく本も気持ち良さそうに空を飛んでて……ってちょっと待って!!?)



 私はついさっきまでガイアのお祖母さんの寝室に居たし、しかもこの国に桜は存在しない筈では!!?

 第一、いくらファンタジー世界でも本がページを羽みたいにパタパタさせて飛んでるとかあり得ないから!!と驚いてガバッと起き上がった。



「……っ!!」



「ーっ!気がついたか!?無理に動くな、結構な高さから落ちたからな。どこか痛めていてもおかしくない」



「ガイア……!」



 起き上がった瞬間くらりと目眩がしてよろけた私をガイアが受け止めてくれた。そうだ、さっき妙な魔方陣で飛ばされたときに助けに飛び込んできてくれたからガイアも一緒にここに……。



「ーー……」



 サフィールさんに『ガイアのこと全部受け止めます!』とか言っといて自分が受け止められてどうする……!とか反省に浸る間もなく、また一冊の分厚い本が桜吹雪の中を突っ切ってパタパタと目の前を飛んでいった。

 うん、とりあえず、色々と言いたいことはあるけれど。



「ねぇガイア、この部屋……何?」



 そう、まずハッキリ言っておくけど、ここは多分“室内”だ。しかも、体育館とか屋内スケート場みたいな、広くて壁から天井がドーム状になっている。

 パッと見でわからなかったのは、天井にまるで青空みたいに雲が流れ、床には芝生が生い茂り、何より、部屋の中央に立派な桜の大木が鎮座してるからだろう。



 そもそも、本があちこちを自力で飛んでいる時点で普通の部屋な訳がない。本当になんなのだ、ここは。



「……ここは、さっきまで居たお祖父様の屋敷の地下だ。室内は異常だが、奥に上へ繋がる隠し階段があった。間違いない」



 ため息混じりに返されたその答えに目をパチパチと瞬かさせる。地下!?なんなら天井ガラス張りなのかってくらいに明るいのに、ここ地下なの!?それに……



「ガイア、お屋敷に地下室はなかったって言ってなかったっけ……?」



「あぁ……、俺“は”そう思ってたし、実際、当時この屋敷に居た使用人たちもこの場所のことは知らなかっただろう。いや、知りようがなかった……と言ったが正しいな」



「『知りようがなかった』?」



「あぁ。この部屋は言わば“牢”の様なものだ。部屋その物に厳重な魔力の膜が貼られてる。“適合しない者”は、入る所か出入り口すら見つけられないようにな。」



「なるほど、それなら納得かも……。じゃあ、地下なのに外みたいに明るかったり花が咲いてたり、ついでに本がいっぱい飛んでるのも……」



「あぁ、この部屋にかかった魔術の効力だろうな。景色は幻術と植物育成の術、本は恐らく、空を飛ばせたかった訳じゃなく、中身を不適合な者に読まれないよう自力で逃げるよう命を組み込んでああなったんだろう。でもまさか、ここがあの研究者……サフィール・ネクロフィアが言っていたお祖父様の隠し部屋なのか……。しかも、術の要になっているのは中央の木に咲いたあの花だ。俺のハンカチーフに刺繍されていたのと同じ。だとしたら、」



 言葉にはしなかったけれど、困惑した様子のガイアが言いたいことはわかる。

 誰にも知られず、侵入もされず、出入りもままならない結界の張られた部屋。彼はこの部屋を、『牢屋のようだ』と言った。だからきっとこう思ってるのだ。



 『お祖父様は、誰を捕らえる為にこんな場所を作ったのだろう』と。結界の軸が、自分の思い入れがある花だったから尚更。



(でも……とても悪意で誰かを閉じ込める為に作られたお部屋には見えないけどな)



 寧ろ、穏やかな春の日だまりのような。ただ居るだけで気持ちが落ち着く場所だ……と、私は感じるけれど、果たしてこれをそのまま言って救いになるんだろうか。



「ガイア、あの……あいたぁっ!!」



「ーっ!?どうした!?」



 桜の刺繍のハンカチを握りしめて項垂れているガイアに話しかけようとしたその時。急に飛ぶ進路を変えた一冊の本が、私の額にクリーンヒットした。



    ~Ep.35 秘密の花は地下に咲く・前編~

 
しおりを挟む
感想 140

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!

たぬきち25番
恋愛
 気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡ ※マルチエンディングです!! コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m 2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。 楽しんで頂けると幸いです。

我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。 しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。 そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。 ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。 というか、甘やかされてません? これって、どういうことでしょう? ※後日談は激甘です。  激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。 ※小説家になろう様にも公開させて頂いております。  ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。  タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~

私はモブ嬢

愛莉
恋愛
レイン・ラグナードは思い出した。 この世界は前世で攻略したゲーム「煌めく世界であなたと」の世界だと! 私はなんと!モブだった!! 生徒Aという役もない存在。 可愛いヒロインでも麗しい悪役令嬢でもない。。 ヒロインと悪役令嬢は今日も元気に喧嘩をしておられます。 遠目でお二人を眺める私の隣には何故貴方がいらっしゃるの?第二王子。。 ちょ!私はモブなの!巻き込まないでぇ!!!!!

【二部開始】所詮脇役の悪役令嬢は華麗に舞台から去るとしましょう

蓮実 アラタ
恋愛
アルメニア国王子の婚約者だった私は学園の創立記念パーティで突然王子から婚約破棄を告げられる。 王子の隣には銀髪の綺麗な女の子、周りには取り巻き。かのイベント、断罪シーン。 味方はおらず圧倒的不利、絶体絶命。 しかしそんな場面でも私は余裕の笑みで返す。 「承知しました殿下。その話、謹んでお受け致しますわ!」 あくまで笑みを崩さずにそのまま華麗に断罪の舞台から去る私に、唖然とする王子たち。 ここは前世で私がハマっていた乙女ゲームの世界。その中で私は悪役令嬢。 だからなんだ!?婚約破棄?追放?喜んでお受け致しますとも!! 私は王妃なんていう狭苦しいだけの脇役、真っ平御免です! さっさとこんなやられ役の舞台退場して自分だけの快適な生活を送るんだ! って張り切って追放されたのに何故か前世の私の推しキャラがお供に着いてきて……!? ※本作は小説家になろうにも掲載しています 二部更新開始しました。不定期更新です

生前はライバル令嬢の中の人でしたが、乙女ゲームは詳しくない。

秋月乃衣
恋愛
公爵令嬢セレスティアは、高熱を出して数日寝込んだ後に目覚めると、この世界が乙女ゲームであるという事を思い出す。 セレスティアの声を担当していた、彼氏いない歴=年齢の売れない声優こそが前世の自分だった。 ゲームでは王太子の婚約者になる事が決まっているセレスティアだが、恋愛経験もなければ乙女ゲームの知識すらない自分がヒロインに勝てる訳がないと絶望する。 「王太子妃になれなくて良いから、とにかく平穏無事に生き延びたい……!」

異世界細腕奮闘記〜貧乏伯爵家を立て直してみせます!〜

くろねこ
恋愛
気付いたら赤ん坊だった。 いや、ちょっと待て。ここはどこ? 私の顔をニコニコと覗き込んでいるのは、薄い翠の瞳に美しい金髪のご婦人。 マジか、、、てかついに異世界デビューきた!とワクワクしていたのもつかの間。 私の生まれた伯爵家は超貧乏とか、、、こうなったら前世の無駄知識をフル活用して、我が家を成り上げてみせますわ! だって、このままじゃロクなところに嫁にいけないじゃないの! 前世で独身アラフォーだったミコトが、なんとか頑張って幸せを掴む、、、まで。

転生したら乙ゲーのモブでした

おかる
恋愛
主人公の転生先は何の因果か前世で妹が嵌っていた乙女ゲームの世界のモブ。 登場人物たちと距離をとりつつ学園生活を送っていたけど気づけばヒロインの残念な場面を見てしまったりとなんだかんだと物語に巻き込まれてしまう。 主人公が普通の生活を取り戻すために奮闘する物語です 本作はなろう様でも公開しています

無事にバッドエンドは回避できたので、これからは自由に楽しく生きていきます。

木山楽斗
恋愛
悪役令嬢ラナトゥーリ・ウェルリグルに転生した私は、無事にゲームのエンディングである魔法学校の卒業式の日を迎えていた。 本来であれば、ラナトゥーリはこの時点で断罪されており、良くて国外追放になっているのだが、私は大人しく生活を送ったおかげでそれを回避することができていた。 しかしながら、思い返してみると私の今までの人生というものは、それ程面白いものではなかったように感じられる。 特に友達も作らず勉強ばかりしてきたこの人生は、悪いとは言えないが少々彩りに欠けているような気がしたのだ。 せっかく掴んだ二度目の人生を、このまま終わらせていいはずはない。 そう思った私は、これからの人生を楽しいものにすることを決意した。 幸いにも、私はそれ程貴族としてのしがらみに縛られている訳でもない。多少のわがままも許してもらえるはずだ。 こうして私は、改めてゲームの世界で新たな人生を送る決意をするのだった。 ※一部キャラクターの名前を変更しました。(リウェルド→リベルト)

処理中です...