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第1章 初恋の彼は、私の運命の人じゃなかった
Ep.35 秘密の花は地下に咲く・前編
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目が覚めたらそこは、満開の桜の木の下だった。
(わぁ、絶景……。空も快晴だし、お昼寝日よりだなぁ……。花弁だけじゃなく本も気持ち良さそうに空を飛んでて……ってちょっと待って!!?)
私はついさっきまでガイアのお祖母さんの寝室に居たし、しかもこの国に桜は存在しない筈では!!?
第一、いくらファンタジー世界でも本がページを羽みたいにパタパタさせて飛んでるとかあり得ないから!!と驚いてガバッと起き上がった。
「……っ!!」
「ーっ!気がついたか!?無理に動くな、結構な高さから落ちたからな。どこか痛めていてもおかしくない」
「ガイア……!」
起き上がった瞬間くらりと目眩がしてよろけた私をガイアが受け止めてくれた。そうだ、さっき妙な魔方陣で飛ばされたときに助けに飛び込んできてくれたからガイアも一緒にここに……。
「ーー……」
サフィールさんに『ガイアのこと全部受け止めます!』とか言っといて自分が受け止められてどうする……!とか反省に浸る間もなく、また一冊の分厚い本が桜吹雪の中を突っ切ってパタパタと目の前を飛んでいった。
うん、とりあえず、色々と言いたいことはあるけれど。
「ねぇガイア、この部屋……何?」
そう、まずハッキリ言っておくけど、ここは多分“室内”だ。しかも、体育館とか屋内スケート場みたいな、広くて壁から天井がドーム状になっている。
パッと見でわからなかったのは、天井にまるで青空みたいに雲が流れ、床には芝生が生い茂り、何より、部屋の中央に立派な桜の大木が鎮座してるからだろう。
そもそも、本があちこちを自力で飛んでいる時点で普通の部屋な訳がない。本当になんなのだ、ここは。
「……ここは、さっきまで居たお祖父様の屋敷の地下だ。室内は異常だが、奥に上へ繋がる隠し階段があった。間違いない」
ため息混じりに返されたその答えに目をパチパチと瞬かさせる。地下!?なんなら天井ガラス張りなのかってくらいに明るいのに、ここ地下なの!?それに……
「ガイア、お屋敷に地下室はなかったって言ってなかったっけ……?」
「あぁ……、俺“は”そう思ってたし、実際、当時この屋敷に居た使用人たちもこの場所のことは知らなかっただろう。いや、知りようがなかった……と言ったが正しいな」
「『知りようがなかった』?」
「あぁ。この部屋は言わば“牢”の様なものだ。部屋その物に厳重な魔力の膜が貼られてる。“適合しない者”は、入る所か出入り口すら見つけられないようにな。」
「なるほど、それなら納得かも……。じゃあ、地下なのに外みたいに明るかったり花が咲いてたり、ついでに本がいっぱい飛んでるのも……」
「あぁ、この部屋にかかった魔術の効力だろうな。景色は幻術と植物育成の術、本は恐らく、空を飛ばせたかった訳じゃなく、中身を不適合な者に読まれないよう自力で逃げるよう命を組み込んでああなったんだろう。でもまさか、ここがあの研究者……サフィール・ネクロフィアが言っていたお祖父様の隠し部屋なのか……。しかも、術の要になっているのは中央の木に咲いたあの花だ。俺のハンカチーフに刺繍されていたのと同じ。だとしたら、」
言葉にはしなかったけれど、困惑した様子のガイアが言いたいことはわかる。
誰にも知られず、侵入もされず、出入りもままならない結界の張られた部屋。彼はこの部屋を、『牢屋のようだ』と言った。だからきっとこう思ってるのだ。
『お祖父様は、誰を捕らえる為にこんな場所を作ったのだろう』と。結界の軸が、自分の思い入れがある花だったから尚更。
(でも……とても悪意で誰かを閉じ込める為に作られたお部屋には見えないけどな)
寧ろ、穏やかな春の日だまりのような。ただ居るだけで気持ちが落ち着く場所だ……と、私は感じるけれど、果たしてこれをそのまま言って救いになるんだろうか。
「ガイア、あの……あいたぁっ!!」
「ーっ!?どうした!?」
桜の刺繍のハンカチを握りしめて項垂れているガイアに話しかけようとしたその時。急に飛ぶ進路を変えた一冊の本が、私の額にクリーンヒットした。
~Ep.35 秘密の花は地下に咲く・前編~
(わぁ、絶景……。空も快晴だし、お昼寝日よりだなぁ……。花弁だけじゃなく本も気持ち良さそうに空を飛んでて……ってちょっと待って!!?)
私はついさっきまでガイアのお祖母さんの寝室に居たし、しかもこの国に桜は存在しない筈では!!?
第一、いくらファンタジー世界でも本がページを羽みたいにパタパタさせて飛んでるとかあり得ないから!!と驚いてガバッと起き上がった。
「……っ!!」
「ーっ!気がついたか!?無理に動くな、結構な高さから落ちたからな。どこか痛めていてもおかしくない」
「ガイア……!」
起き上がった瞬間くらりと目眩がしてよろけた私をガイアが受け止めてくれた。そうだ、さっき妙な魔方陣で飛ばされたときに助けに飛び込んできてくれたからガイアも一緒にここに……。
「ーー……」
サフィールさんに『ガイアのこと全部受け止めます!』とか言っといて自分が受け止められてどうする……!とか反省に浸る間もなく、また一冊の分厚い本が桜吹雪の中を突っ切ってパタパタと目の前を飛んでいった。
うん、とりあえず、色々と言いたいことはあるけれど。
「ねぇガイア、この部屋……何?」
そう、まずハッキリ言っておくけど、ここは多分“室内”だ。しかも、体育館とか屋内スケート場みたいな、広くて壁から天井がドーム状になっている。
パッと見でわからなかったのは、天井にまるで青空みたいに雲が流れ、床には芝生が生い茂り、何より、部屋の中央に立派な桜の大木が鎮座してるからだろう。
そもそも、本があちこちを自力で飛んでいる時点で普通の部屋な訳がない。本当になんなのだ、ここは。
「……ここは、さっきまで居たお祖父様の屋敷の地下だ。室内は異常だが、奥に上へ繋がる隠し階段があった。間違いない」
ため息混じりに返されたその答えに目をパチパチと瞬かさせる。地下!?なんなら天井ガラス張りなのかってくらいに明るいのに、ここ地下なの!?それに……
「ガイア、お屋敷に地下室はなかったって言ってなかったっけ……?」
「あぁ……、俺“は”そう思ってたし、実際、当時この屋敷に居た使用人たちもこの場所のことは知らなかっただろう。いや、知りようがなかった……と言ったが正しいな」
「『知りようがなかった』?」
「あぁ。この部屋は言わば“牢”の様なものだ。部屋その物に厳重な魔力の膜が貼られてる。“適合しない者”は、入る所か出入り口すら見つけられないようにな。」
「なるほど、それなら納得かも……。じゃあ、地下なのに外みたいに明るかったり花が咲いてたり、ついでに本がいっぱい飛んでるのも……」
「あぁ、この部屋にかかった魔術の効力だろうな。景色は幻術と植物育成の術、本は恐らく、空を飛ばせたかった訳じゃなく、中身を不適合な者に読まれないよう自力で逃げるよう命を組み込んでああなったんだろう。でもまさか、ここがあの研究者……サフィール・ネクロフィアが言っていたお祖父様の隠し部屋なのか……。しかも、術の要になっているのは中央の木に咲いたあの花だ。俺のハンカチーフに刺繍されていたのと同じ。だとしたら、」
言葉にはしなかったけれど、困惑した様子のガイアが言いたいことはわかる。
誰にも知られず、侵入もされず、出入りもままならない結界の張られた部屋。彼はこの部屋を、『牢屋のようだ』と言った。だからきっとこう思ってるのだ。
『お祖父様は、誰を捕らえる為にこんな場所を作ったのだろう』と。結界の軸が、自分の思い入れがある花だったから尚更。
(でも……とても悪意で誰かを閉じ込める為に作られたお部屋には見えないけどな)
寧ろ、穏やかな春の日だまりのような。ただ居るだけで気持ちが落ち着く場所だ……と、私は感じるけれど、果たしてこれをそのまま言って救いになるんだろうか。
「ガイア、あの……あいたぁっ!!」
「ーっ!?どうした!?」
桜の刺繍のハンカチを握りしめて項垂れているガイアに話しかけようとしたその時。急に飛ぶ進路を変えた一冊の本が、私の額にクリーンヒットした。
~Ep.35 秘密の花は地下に咲く・前編~
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