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第1章 初恋の彼は、私の運命の人じゃなかった
Ep.29 弟様はお怒りです
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サフィールさんが立ち去ったあとも、ガイアはしばらくぼんやりと森の中に佇んだままだった。手を繋いだまま見上げた端正な横顔は、いつもより少し寂しそうに見えた。
(亡くなったお祖父さんのこと考えてるのかな……)
「……っ、セレン……?」
ただ彼の手に添えてるだけだった手に少しだけ力を込めて握り直す。振り返り、虚空を見ていたガイアの瞳が私を捉えた。揺れているその瞳の中で、ふわりと微笑む。
「もう夕方だね、早く晩御飯用意しなきゃ皆帰ってきちゃうわ。だから……」
『一緒に帰ろう』と言うと、繋いだ手をぎゅっと握り返される。そのことにひとまず安心した。
私は、ガイアのお祖父様については何も知らない。だから、さっきのサフィールさんの心無い言葉を否定してあげることは出来ないけど、せめて今は、今だけは、彼が少しでも寂しくなくなればいいなと、繋いだ手は離さないまま、二人で帰り道を歩き出した。
「そう言えば、そのウサギは連れて帰る気なのか?」
「うん、怪我の具合も心配だし一旦屋敷まで一緒に行こうかなって。それに、ルカ達がウサギさんに会ったら喜ぶかなーって」
「あぁ、そうだな。子供はこう言うモフっとした生き物が好きだから……あっ!」
「ひゃっ!あら、行っちゃった……」
ガイアが手を伸ばした途端、ウサギは私の腕から逃げ出して森へと走り去ってしまった。もう少しあのモフモフを堪能してたかったのに……と残念がる私の隣では、ガイアが『やっぱり俺に触られるのは嫌みたいだな』と肩を竦めていた。
「あれ?そう言えばガイアってもしかして生まれてこのかた動物のモフモフに触ったこと無い?」
「あぁ、無いな。まぁとっくに諦めたさ」
ガイアは慣れたもんだよと笑ってるけど、可愛い動物をモフモフする幸せを知らないなんて勿体無い!それに、今のガイアにはそれこそ生き物とのふれあい的な癒しが必要なんじゃないかなー……。
(でもうちにはペットとかも居ないし……、あ!良いこと思い付いた!)
確か、ふわふわの毛足が長い布地が私の裁縫部屋にたくさんあった筈!あれを使えば……!
「ふふふ……」
「何ニヤニヤしてんだ?」
「ふふ、ガイアにはまだ内緒!」
帰ったら早速取りかかりたいけど、まずは夕飯の用意が先ね。遭難したせいで私もお腹ペコペコだし、ガイアもきっと疲れてるだろうから、美味しいものたくさん作るぞー!
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「よーし、完成!」
帰宅後、二時間かけて誕生日の時以上のたくさんの料理を仕込んだリビングは美味しい匂いでいっぱいになっていた。あぁ、お腹空いたぁ……。
「それにしても遅いなぁ、ソレイユ……」
ご飯は出来るだけ全員揃って食べたいから、つまみ食いもせず我慢してるのに。あ、味見は別よ?味の微調整のためには味見は不可欠なのです。
「……でもチマチマお腹に入れちゃったせいで余計にお腹空いたよーっ!ソレイユったらこんな帰りが遅いなんてもー、不良なんだから!」
「不良はあなたでしょうが、この馬鹿姉上がぁぁぁぁっ!!!」
「きゃーっ!!」
「おっ、おい待てソレイユ落ち着け!」
いきなりバーンっと開いた扉から飛び込んできた弟の剣幕にビビる。え、な、なに!?
ガイアに羽交い締めにされたソレイユが、それを振りほどいて私に怒鳴った。
「落ち着いていられるものですか!ガイアさんからウサギを追いかけて勝手に遭難したことは全て聞きましたよ……!」
静かだけど、ゴゴゴゴゴ……と音がするほどの圧を感じて思わずひぃっと身を縮こまらせる。ガイアがソレイユの背後で『ごめん』と手を合わせているのが見えた。じゃあなんで話しちゃったの!
「ご、ごめんなさい!でもあれには訳が……!」
「問答無用。しかも探しに来てくれたガイアさんに、怪我した足を見せるの拒否したらしいじゃないですか」
「だっ、だって恥ずかしかったんだもの!」
「やかましい!恥ずかしさで人は死にやしませんよ!!」
「そんなこと無いもん!乙女心への強いダメージは時に死に匹敵するんだからね!?」
思わず言い返してからハッと我に帰る。ソレイユの纏うオーラが禍々しくなったからだ。
「はぁ……、わかりました。反省していないようなので、姉上は明日の朝食まで一切の飲食を禁止とします!!」
「ーっ!!?えっ、私まだお夕飯食べてないんだけど……」
「勿論、夕飯も抜きです」
パパッと手早い動きでソレイユが私の席を片す。そ、そんなぁ……!だってそのお料理は……!
「ぜ、全部私が作ったのにぃぃぃっ!!!」
切実な叫びの裏で、私のお腹の虫が小さく鳴いた。
~Ep.29 弟様はお怒りです~
(亡くなったお祖父さんのこと考えてるのかな……)
「……っ、セレン……?」
ただ彼の手に添えてるだけだった手に少しだけ力を込めて握り直す。振り返り、虚空を見ていたガイアの瞳が私を捉えた。揺れているその瞳の中で、ふわりと微笑む。
「もう夕方だね、早く晩御飯用意しなきゃ皆帰ってきちゃうわ。だから……」
『一緒に帰ろう』と言うと、繋いだ手をぎゅっと握り返される。そのことにひとまず安心した。
私は、ガイアのお祖父様については何も知らない。だから、さっきのサフィールさんの心無い言葉を否定してあげることは出来ないけど、せめて今は、今だけは、彼が少しでも寂しくなくなればいいなと、繋いだ手は離さないまま、二人で帰り道を歩き出した。
「そう言えば、そのウサギは連れて帰る気なのか?」
「うん、怪我の具合も心配だし一旦屋敷まで一緒に行こうかなって。それに、ルカ達がウサギさんに会ったら喜ぶかなーって」
「あぁ、そうだな。子供はこう言うモフっとした生き物が好きだから……あっ!」
「ひゃっ!あら、行っちゃった……」
ガイアが手を伸ばした途端、ウサギは私の腕から逃げ出して森へと走り去ってしまった。もう少しあのモフモフを堪能してたかったのに……と残念がる私の隣では、ガイアが『やっぱり俺に触られるのは嫌みたいだな』と肩を竦めていた。
「あれ?そう言えばガイアってもしかして生まれてこのかた動物のモフモフに触ったこと無い?」
「あぁ、無いな。まぁとっくに諦めたさ」
ガイアは慣れたもんだよと笑ってるけど、可愛い動物をモフモフする幸せを知らないなんて勿体無い!それに、今のガイアにはそれこそ生き物とのふれあい的な癒しが必要なんじゃないかなー……。
(でもうちにはペットとかも居ないし……、あ!良いこと思い付いた!)
確か、ふわふわの毛足が長い布地が私の裁縫部屋にたくさんあった筈!あれを使えば……!
「ふふふ……」
「何ニヤニヤしてんだ?」
「ふふ、ガイアにはまだ内緒!」
帰ったら早速取りかかりたいけど、まずは夕飯の用意が先ね。遭難したせいで私もお腹ペコペコだし、ガイアもきっと疲れてるだろうから、美味しいものたくさん作るぞー!
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「よーし、完成!」
帰宅後、二時間かけて誕生日の時以上のたくさんの料理を仕込んだリビングは美味しい匂いでいっぱいになっていた。あぁ、お腹空いたぁ……。
「それにしても遅いなぁ、ソレイユ……」
ご飯は出来るだけ全員揃って食べたいから、つまみ食いもせず我慢してるのに。あ、味見は別よ?味の微調整のためには味見は不可欠なのです。
「……でもチマチマお腹に入れちゃったせいで余計にお腹空いたよーっ!ソレイユったらこんな帰りが遅いなんてもー、不良なんだから!」
「不良はあなたでしょうが、この馬鹿姉上がぁぁぁぁっ!!!」
「きゃーっ!!」
「おっ、おい待てソレイユ落ち着け!」
いきなりバーンっと開いた扉から飛び込んできた弟の剣幕にビビる。え、な、なに!?
ガイアに羽交い締めにされたソレイユが、それを振りほどいて私に怒鳴った。
「落ち着いていられるものですか!ガイアさんからウサギを追いかけて勝手に遭難したことは全て聞きましたよ……!」
静かだけど、ゴゴゴゴゴ……と音がするほどの圧を感じて思わずひぃっと身を縮こまらせる。ガイアがソレイユの背後で『ごめん』と手を合わせているのが見えた。じゃあなんで話しちゃったの!
「ご、ごめんなさい!でもあれには訳が……!」
「問答無用。しかも探しに来てくれたガイアさんに、怪我した足を見せるの拒否したらしいじゃないですか」
「だっ、だって恥ずかしかったんだもの!」
「やかましい!恥ずかしさで人は死にやしませんよ!!」
「そんなこと無いもん!乙女心への強いダメージは時に死に匹敵するんだからね!?」
思わず言い返してからハッと我に帰る。ソレイユの纏うオーラが禍々しくなったからだ。
「はぁ……、わかりました。反省していないようなので、姉上は明日の朝食まで一切の飲食を禁止とします!!」
「ーっ!!?えっ、私まだお夕飯食べてないんだけど……」
「勿論、夕飯も抜きです」
パパッと手早い動きでソレイユが私の席を片す。そ、そんなぁ……!だってそのお料理は……!
「ぜ、全部私が作ったのにぃぃぃっ!!!」
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