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第1章 初恋の彼は、私の運命の人じゃなかった

Ep.26 ガイアの実力  “後編”

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 三匹の中でも一番大きなキラービーが、その太い毒針を構えてガイアに突っ込む。ひらりと軽やかな動きでガイアがかわした事で、代わりに毒針に当たった巨大な岩が粉々に砕け散った。
 例えハチの見た目でもやっぱり魔物なんだ、力が強すぎる!こんな怪力の魔物を一気に三匹も相手にするなんて、ガイア本当に大丈夫かな……!

 怯えたウサギが私の腕の中で小さく鳴くと、一匹のキラービーの目がこちらに向いた。まずい、見つかった!

「中々の馬鹿力だな、久しぶりにいい訓練になりそうだ」

 でも、すぐにガイアが私達の方を向いたキラービーを剣の鞘でぶっ飛ばした。更に、間髪いれずに他の二匹のキラービーから振り下ろされた二本の毒針を剣で弾き返して余裕綽々に笑う。怒ったキラービー達の羽根音が更に激しくなった。

(もう、ガイアったら!私たちからキラービーの意識を逸らす為にわざと挑発なんかして……!)

 ハチなのに連携が取れるのか、三匹のキラービーが三角にガイアの周りに陣形を取ってビュンビュンと攻撃をかます。攻撃自体は速すぎて見えないけど、毒針こそ剣で軽くいなしつつもガイアの服が何ヵ所か破かれていくのは見えた。
 心配で今すぐ駆け寄りたい衝動をぐっと堪える。

(感情だけで突っ走っちゃ駄目だ、元はと言えば私が勝手な真似したからこんなことになっちゃったんだから……!)

 それに、魔力も武力も何もない私じゃ、駆けつけたってただの足手まといだ。考えなきゃ、ここからでも彼の助けになれる方法を!

(大きくたって所詮はハチでしょ?なんか弱点とかないかな)

 そうだ、前世のうちの庭にスズメバチの巣が出来ちゃった時に確かお母さんが『スズメバチの羽根は水に弱いから』って言ってた!
 丁度私の手元にはさっき泉で汲んだお水がたっぷり入った水筒があるし、今ならキラービー達は完全にガイアだけに気を向けてるからこちらには無防備だ。やるなら今しかない!
 草影に隠れて、三匹のキラービーがまとめてこっちに無防備な羽根を晒すタイミングを見計らう。

「さてと、大分剣の勘も戻ったし、そろそろお遊びは終わりに……」

「ガイア、動かないで!!」

「ーっ!セレン!?」

 数分後、待ちに待ったそのタイミングで草むらから飛び出して蓋を開けた水筒をえいっとキラービー達に投げつけてやった。水筒から飛び出した水でびしょ濡れになったことで明らかに飛ぶスピードが落ちている。やった、大成功!と喜んでたら、駆け寄ってきたガイアにひょいと抱き上げられる。

「またお前は危ない真似を……!」

「だってガイアが傷ついてるのに黙って下がってるなんて出来ないよ!それに、今回はちゃんと考えてから動いたもん!!」

「……っ!気持ちはわかったよ。でも……」

 『誰が傷ついてるって?』と、ガイアがキラービーの攻撃であちこち切り裂かれた上着を脱ぎ捨てる。露になったTシャツ一枚の彼の上半身には、切り傷ひとつついてなかった。

「嘘……!でも、よかったぁ、怪我してなくて……」

 唖然となってペタペタと体を触って確かめる私を抱えたまま、ガイアがクスリと笑う。

 同時に最後の抵抗で一斉に飛びかかってきたキラービーを踏み台にして高らかに飛び上がった。
 振り落とされないようにガイアの背中に腕を回してぎゅうっとしがみつく。

(ちょっ、高い高い高い!この人こんなに怪力だったの!?)

 振り上げられたガイアの大剣が日光でキラリと光る。
 一気に振り下ろされた一太刀でキラービー達は切り裂かれてシュワッと泡みたいに消えていった。正に瞬殺である。

「だから言ったろ?すぐに済むって」

 そう言ったガイアは霧散したキラービー達の居た場所にコロンと転がり落ちた赤い珠を拾い、『見直したか?』と微笑んだ。


    ~Ep.26 ガイアの実力  “後編”~
    
  『見直したどころか、惚れ直しちゃったじゃないですか……!!』



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