18 / 22
第18話 星巡りの唄
しおりを挟む
「そちらは、妹が逃げるに当たって訪れそうな地や使う可能性の高い道を書き出した資料です」
シエルの話では、ミーティアに潜入していた者達の半数を妹の捜索に当ててくれたとのこと。なので、少しでも手がかりになればと書き出した次第だった。
丁寧に記された表紙の地図を見て、リオンが繋がった点を指でなぞる。
「これって、もしかして……」
「はい、星巡りです。随分むかしになりますが、父に連れられて家族で星巡りをした時期がありまして」
「マジで!?すっげぇじゃないすか、星巡りっつったら各国の王族か四国全部の教会の頂点であるエスポワール神殿に認められた魔導士の……何でしたっけ!?」
「“ゾディアック”ですね」
「そう、それ!そのゾディなんちゃらにしか資格が与えられない魔法地巡りの旅っすよね!星の加護がある各地の泉に入るには、特別な唄を知らないと駄目だとか!」
そう。星巡りは、初代大聖女が各地に遺した力の泉12箇所を巡り水浴びをすることで加護を得る、神聖な旅路。
泉には当然結界が張られており、それをくぐるには特別な唄を奏でなければならない。それを、“星巡りの唄”と言う。
「あの時は、母が歌ってくれました。まだ私が5つの頃の話ですが……」
セレーネの両親は、ふたりとも“ゾディアック”だった。資格を得る定義はセレーネは知らないが、父は環境を扱う魔道士として、母は優秀な治癒術士として認められた故の称号であったという。
当時は、飢饉やら異常気象やらで小競り合いが多発していた。そのせいでずいぶんと荒んでいた各地を掛け寝なく周り、人々を助けたいと考えていた両親は、期間中ならばどの国にも検査無く出入りする資格を得られる星巡りの旅をすることにしたのだった。
「当時、私達は幼かったですが、両親との数少ない記憶であることもあり、旅の記録については成長後も何度も祖母から聞かされました。もしステラがひとりで私を探してくれているとすれば、きっと……」
この旅路の何処かに向かうだろう。
「人間、心細い状況下では無意識に馴染みある道や地を目指すと言います。ステラさんがこの道のいずれかを使っている確率は確かに高い。すぐに捜査隊に伝えましょう」
話を聞き終えたシエルがしっかりと頷き、そう言ってくれた。
『伝達してきます』と席を外したシエルを見送り、クラウスも護衛を連れて自分の部屋に戻ると、リオンが菓子を頬張りながらなんの気無しに話し始める。
「いやぁ、やっぱ聖女様ともなると過去からしてすごいっすねぇ。俺、5~6歳っつったら孤児になったばっかでスラムで喧嘩三昧だった歳っすよ」
「まぁ……、そんなに幼い頃からお一人で?」
「そうっすね。まぁその後数年で、たまたま視察に来た司祭様の財布スろうとしたら捕まって、なんでだか気に入られちまった結果いまに繋がる訳っすけど」
シエルがリオンを引き取ったという話は聞いていたが、彼等の過去もなかなか複雑そうだ。下手に質問出来ず困ってしまったセレーネに、当のリオンはあっけらかんと笑う。
「まっ!俺スラムに来る前の記憶まるでねーし、今の暮らし気に入ってるんで全然いいんですけどね。それより、聖女様は当時から癒やしの力が使えたんすか?」
「あ、いえ。実は当時は私も妹も魔力の覚醒前で……。私が癒やしの魔力を初めて使ったのは、旅の終盤だったかと思います」
確か、たまたま仲良くなった友人の大怪我を救おうとして火事場の馬鹿力的に発揮したのではなかったか。しかし。
「そのすぐ後に、旅路の事故で両親が帰らぬ人となりまして……当時の記憶が、あまり定かではないのです」
崖から馬車ごと転落し、発見されたのは3日後だった。自分と妹を庇って、両親は落下後すぐに事切れてしまっていた。
「その後は祖母に引き取られまして、治癒術で細々と生計を立てておりました。そんな私を見て見様見真似で、妹も力を覚醒させて……」
評判を聞きつけたスピカ大聖堂から、案内状と言う名の地獄への招待を受けてしまったのだった。
「成る程……、大変だったんすねぇ」
『妹さん、早く見つかるといいっすね』と言うリオンの言葉に深く頷く。どうか、無事で。今願うのはそれだけだ。
「あ、そうだ。星巡りって言えば、司祭様もちっこい頃行ってたらしいんすけど」
「ーっ!」
「なんでも途中で凶暴化した魔物の触手で心臓ギリギリの所穿たれて、あわや大惨事だったらしいすよ。ほら、胸に傷跡残ってたでしょ?」
クラーケンを退治した後、溶かされた服の隙間から覗いていた痛々しげな傷があったのを思い出す。恥ずかしくてすぐに目を逸らしてしまったのでわからなかったが、あれがそうだったのか。
「当時は魔物の凶暴化なんて今ほど頻繁では無かったでしょうに、災難でしたね……」
「確かにそうっすね。でも、たまたま居合わせた治癒術一家に助けられて奇跡的に生きながらえたらしいっす」
その恩人とも言える家族とは結局それきりで、探しても名前すらわからなかったそうだ。
「聖女様との出会いの日のタイミングと言い、全く不運なんだが強運なんだかわかんねー人っすよね」
「そうだったんですか……。ですが、司祭様が例え危険に身を投じても必ず救いを得られるのは、神があの方を愛しておられるのだと思います。司祭様は、本当にお心が優しくていらっしゃいますから」
「いやいやいや!騙されちゃ駄目っすよ~聖女様。男の優しさには下心がつきものなんで!……ま、でも確かに…」
『俺ももし当時司祭様を助けてくれたって人たちに会えたらひとことお礼がしたいです』と、リオンが琥珀色の瞳を柔らかく細めて笑った。
シエルの話では、ミーティアに潜入していた者達の半数を妹の捜索に当ててくれたとのこと。なので、少しでも手がかりになればと書き出した次第だった。
丁寧に記された表紙の地図を見て、リオンが繋がった点を指でなぞる。
「これって、もしかして……」
「はい、星巡りです。随分むかしになりますが、父に連れられて家族で星巡りをした時期がありまして」
「マジで!?すっげぇじゃないすか、星巡りっつったら各国の王族か四国全部の教会の頂点であるエスポワール神殿に認められた魔導士の……何でしたっけ!?」
「“ゾディアック”ですね」
「そう、それ!そのゾディなんちゃらにしか資格が与えられない魔法地巡りの旅っすよね!星の加護がある各地の泉に入るには、特別な唄を知らないと駄目だとか!」
そう。星巡りは、初代大聖女が各地に遺した力の泉12箇所を巡り水浴びをすることで加護を得る、神聖な旅路。
泉には当然結界が張られており、それをくぐるには特別な唄を奏でなければならない。それを、“星巡りの唄”と言う。
「あの時は、母が歌ってくれました。まだ私が5つの頃の話ですが……」
セレーネの両親は、ふたりとも“ゾディアック”だった。資格を得る定義はセレーネは知らないが、父は環境を扱う魔道士として、母は優秀な治癒術士として認められた故の称号であったという。
当時は、飢饉やら異常気象やらで小競り合いが多発していた。そのせいでずいぶんと荒んでいた各地を掛け寝なく周り、人々を助けたいと考えていた両親は、期間中ならばどの国にも検査無く出入りする資格を得られる星巡りの旅をすることにしたのだった。
「当時、私達は幼かったですが、両親との数少ない記憶であることもあり、旅の記録については成長後も何度も祖母から聞かされました。もしステラがひとりで私を探してくれているとすれば、きっと……」
この旅路の何処かに向かうだろう。
「人間、心細い状況下では無意識に馴染みある道や地を目指すと言います。ステラさんがこの道のいずれかを使っている確率は確かに高い。すぐに捜査隊に伝えましょう」
話を聞き終えたシエルがしっかりと頷き、そう言ってくれた。
『伝達してきます』と席を外したシエルを見送り、クラウスも護衛を連れて自分の部屋に戻ると、リオンが菓子を頬張りながらなんの気無しに話し始める。
「いやぁ、やっぱ聖女様ともなると過去からしてすごいっすねぇ。俺、5~6歳っつったら孤児になったばっかでスラムで喧嘩三昧だった歳っすよ」
「まぁ……、そんなに幼い頃からお一人で?」
「そうっすね。まぁその後数年で、たまたま視察に来た司祭様の財布スろうとしたら捕まって、なんでだか気に入られちまった結果いまに繋がる訳っすけど」
シエルがリオンを引き取ったという話は聞いていたが、彼等の過去もなかなか複雑そうだ。下手に質問出来ず困ってしまったセレーネに、当のリオンはあっけらかんと笑う。
「まっ!俺スラムに来る前の記憶まるでねーし、今の暮らし気に入ってるんで全然いいんですけどね。それより、聖女様は当時から癒やしの力が使えたんすか?」
「あ、いえ。実は当時は私も妹も魔力の覚醒前で……。私が癒やしの魔力を初めて使ったのは、旅の終盤だったかと思います」
確か、たまたま仲良くなった友人の大怪我を救おうとして火事場の馬鹿力的に発揮したのではなかったか。しかし。
「そのすぐ後に、旅路の事故で両親が帰らぬ人となりまして……当時の記憶が、あまり定かではないのです」
崖から馬車ごと転落し、発見されたのは3日後だった。自分と妹を庇って、両親は落下後すぐに事切れてしまっていた。
「その後は祖母に引き取られまして、治癒術で細々と生計を立てておりました。そんな私を見て見様見真似で、妹も力を覚醒させて……」
評判を聞きつけたスピカ大聖堂から、案内状と言う名の地獄への招待を受けてしまったのだった。
「成る程……、大変だったんすねぇ」
『妹さん、早く見つかるといいっすね』と言うリオンの言葉に深く頷く。どうか、無事で。今願うのはそれだけだ。
「あ、そうだ。星巡りって言えば、司祭様もちっこい頃行ってたらしいんすけど」
「ーっ!」
「なんでも途中で凶暴化した魔物の触手で心臓ギリギリの所穿たれて、あわや大惨事だったらしいすよ。ほら、胸に傷跡残ってたでしょ?」
クラーケンを退治した後、溶かされた服の隙間から覗いていた痛々しげな傷があったのを思い出す。恥ずかしくてすぐに目を逸らしてしまったのでわからなかったが、あれがそうだったのか。
「当時は魔物の凶暴化なんて今ほど頻繁では無かったでしょうに、災難でしたね……」
「確かにそうっすね。でも、たまたま居合わせた治癒術一家に助けられて奇跡的に生きながらえたらしいっす」
その恩人とも言える家族とは結局それきりで、探しても名前すらわからなかったそうだ。
「聖女様との出会いの日のタイミングと言い、全く不運なんだが強運なんだかわかんねー人っすよね」
「そうだったんですか……。ですが、司祭様が例え危険に身を投じても必ず救いを得られるのは、神があの方を愛しておられるのだと思います。司祭様は、本当にお心が優しくていらっしゃいますから」
「いやいやいや!騙されちゃ駄目っすよ~聖女様。男の優しさには下心がつきものなんで!……ま、でも確かに…」
『俺ももし当時司祭様を助けてくれたって人たちに会えたらひとことお礼がしたいです』と、リオンが琥珀色の瞳を柔らかく細めて笑った。
0
お気に入りに追加
32
あなたにおすすめの小説
【完結】「私は善意に殺された」
まほりろ
恋愛
筆頭公爵家の娘である私が、母親は身分が低い王太子殿下の後ろ盾になるため、彼の婚約者になるのは自然な流れだった。
誰もが私が王太子妃になると信じて疑わなかった。
私も殿下と婚約してから一度も、彼との結婚を疑ったことはない。
だが殿下が病に倒れ、その治療のため異世界から聖女が召喚され二人が愛し合ったことで……全ての運命が狂い出す。
どなたにも悪意はなかった……私が不運な星の下に生まれた……ただそれだけ。
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します。
※他サイトにも投稿中。
※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」
※小説家になろうにて2022年11月19日昼、日間異世界恋愛ランキング38位、総合59位まで上がった作品です!

王家の面子のために私を振り回さないで下さい。
しゃーりん
恋愛
公爵令嬢ユリアナは王太子ルカリオに婚約破棄を言い渡されたが、王家によってその出来事はなかったことになり、結婚することになった。
愛する人と別れて王太子の婚約者にさせられたのに本人からは避けされ、それでも結婚させられる。
自分はどこまで王家に振り回されるのだろう。
国王にもルカリオにも呆れ果てたユリアナは、夫となるルカリオを蹴落として、自分が王太女になるために仕掛けた。
実は、ルカリオは王家の血筋ではなくユリアナの公爵家に正統性があるからである。
ユリアナとの結婚を理解していないルカリオを見限り、愛する人との結婚を企んだお話です。

【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~
紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。
※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。
※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。
※なろうにも掲載しています。

絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

働かなくていいなんて最高!貴族夫人の自由気ままな生活
ゆる
恋愛
前世では、仕事に追われる日々を送り、恋愛とは無縁のまま亡くなった私。
「今度こそ、のんびり優雅に暮らしたい!」
そう願って転生した先は、なんと貴族令嬢!
そして迎えた結婚式――そこで前世の記憶が蘇る。
「ちょっと待って、前世で恋人もできなかった私が結婚!?!??」
しかも相手は名門貴族の旦那様。
「君は何もしなくていい。すべて自由に過ごせばいい」と言われ、夢の“働かなくていい貴族夫人ライフ”を満喫するつもりだったのに――。
◆メイドの待遇改善を提案したら、旦那様が即採用!
◆夫の仕事を手伝ったら、持ち前の簿記と珠算スキルで屋敷の経理が超効率化!
◆商人たちに簿記を教えていたら、商業界で話題になりギルドの顧問に!?
「あれ? なんで私、働いてるの!?!??」
そんな中、旦那様から突然の告白――
「実は、君を妻にしたのは政略結婚のためではない。ずっと、君を想い続けていた」
えっ、旦那様、まさかの溺愛系でした!?
「自由を与えることでそばにいてもらう」つもりだった旦那様と、
「働かない貴族夫人」になりたかったはずの私。
お互いの本当の気持ちに気づいたとき、
気づけば 最強夫婦 になっていました――!
のんびり暮らすつもりが、商業界のキーパーソンになってしまった貴族夫人の、成長と溺愛の物語!


聖女のわたしを隣国に売っておいて、いまさら「母国が滅んでもよいのか」と言われましても。
ふまさ
恋愛
「──わかった、これまでのことは謝罪しよう。とりあえず、国に帰ってきてくれ。次の聖女は急ぎ見つけることを約束する。それまでは我慢してくれないか。でないと国が滅びる。お前もそれは嫌だろ?」
出来るだけ優しく、テンサンド王国の第一王子であるショーンがアーリンに語りかける。ひきつった笑みを浮かべながら。
だがアーリンは考える間もなく、
「──お断りします」
と、きっぱりと告げたのだった。
【完結】「神様、辞めました〜竜神の愛し子に冤罪を着せ投獄するような人間なんてもう知らない」
まほりろ
恋愛
王太子アビー・シュトースと聖女カーラ・ノルデン公爵令嬢の結婚式当日。二人が教会での誓いの儀式を終え、教会の扉を開け外に一歩踏み出したとき、国中の壁や窓に不吉な文字が浮かび上がった。
【本日付けで神を辞めることにした】
フラワーシャワーを巻き王太子と王太子妃の結婚を祝おうとしていた参列者は、突然現れた文字に驚きを隠せず固まっている。
国境に壁を築きモンスターの侵入を防ぎ、結界を張り国内にいるモンスターは弱体化させ、雨を降らせ大地を潤し、土地を豊かにし豊作をもたらし、人間の体を強化し、生活が便利になるように魔法の力を授けた、竜神ウィルペアトが消えた。
人々は三カ月前に冤罪を着せ、|罵詈雑言《ばりぞうごん》を浴びせ、石を投げつけ投獄した少女が、本物の【竜の愛し子】だと分かり|戦慄《せんりつ》した。
「Copyright(C)2021-九頭竜坂まほろん」
アルファポリスに先行投稿しています。
表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
2021/12/13、HOTランキング3位、12/14総合ランキング4位、恋愛3位に入りました! ありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる