落ちこぼれ聖女は腹黒司祭様の優秀な手駒にジョブチェンジしました

弥生 真由

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第18話 星巡りの唄

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「そちらは、妹が逃げるに当たって訪れそうな地や使う可能性の高い道を書き出した資料です」

 シエルの話では、ミーティアに潜入していた者達の半数を妹の捜索に当ててくれたとのこと。なので、少しでも手がかりになればと書き出した次第だった。
 丁寧に記された表紙の地図を見て、リオンが繋がった点を指でなぞる。

「これって、もしかして……」

「はい、星巡りです。随分むかしになりますが、父に連れられて家族で星巡りをした時期がありまして」

「マジで!?すっげぇじゃないすか、星巡りっつったら各国の王族か四国全部の教会の頂点であるエスポワール神殿に認められた魔導士の……何でしたっけ!?」

「“ゾディアック”ですね」

「そう、それ!そのゾディなんちゃらにしか資格が与えられない魔法地巡りの旅っすよね!星の加護がある各地の泉に入るには、特別な唄を知らないと駄目だとか!」

 そう。星巡りは、初代大聖女が各地に遺した力の泉12箇所を巡り水浴びをすることで加護を得る、神聖な旅路。
 泉には当然結界が張られており、それをくぐるには特別な唄を奏でなければならない。それを、“星巡りの唄”と言う。

「あの時は、母が歌ってくれました。まだ私が5つの頃の話ですが……」

 セレーネの両親は、ふたりとも“ゾディアック”だった。資格を得る定義はセレーネは知らないが、父は環境を扱う魔道士として、母は優秀な治癒術士として認められた故の称号であったという。
 当時は、飢饉やら異常気象やらで小競り合いが多発していた。そのせいでずいぶんと荒んでいた各地を掛け寝なく周り、人々を助けたいと考えていた両親は、期間中ならばどの国にも検査無く出入りする資格を得られる星巡りの旅をすることにしたのだった。

「当時、私達は幼かったですが、両親との数少ない記憶であることもあり、旅の記録については成長後も何度も祖母から聞かされました。もしステラがひとりで私を探してくれているとすれば、きっと……」

 この旅路の何処かに向かうだろう。

「人間、心細い状況下では無意識に馴染みある道や地を目指すと言います。ステラさんがこの道のいずれかを使っている確率は確かに高い。すぐに捜査隊に伝えましょう」

 話を聞き終えたシエルがしっかりと頷き、そう言ってくれた。
 『伝達してきます』と席を外したシエルを見送り、クラウスも護衛を連れて自分の部屋に戻ると、リオンが菓子を頬張りながらなんの気無しに話し始める。

「いやぁ、やっぱ聖女様ともなると過去からしてすごいっすねぇ。俺、5~6歳っつったら孤児になったばっかでスラムで喧嘩三昧だった歳っすよ」

「まぁ……、そんなに幼い頃からお一人で?」

「そうっすね。まぁその後数年で、たまたま視察に来た司祭様の財布スろうとしたら捕まって、なんでだか気に入られちまった結果いまに繋がる訳っすけど」

 シエルがリオンを引き取ったという話は聞いていたが、彼等の過去もなかなか複雑そうだ。下手に質問出来ず困ってしまったセレーネに、当のリオンはあっけらかんと笑う。

「まっ!俺スラムに来る前の記憶まるでねーし、今の暮らし気に入ってるんで全然いいんですけどね。それより、聖女様は当時から癒やしの力が使えたんすか?」

「あ、いえ。実は当時は私も妹も魔力の覚醒前で……。私が癒やしの魔力を初めて使ったのは、旅の終盤だったかと思います」

 確か、たまたま仲良くなった友人の大怪我を救おうとして火事場の馬鹿力的に発揮したのではなかったか。しかし。

「そのすぐ後に、旅路の事故で両親が帰らぬ人となりまして……当時の記憶が、あまり定かではないのです」

 崖から馬車ごと転落し、発見されたのは3日後だった。自分と妹を庇って、両親は落下後すぐに事切れてしまっていた。

「その後は祖母に引き取られまして、治癒術で細々と生計を立てておりました。そんな私を見て見様見真似で、妹も力を覚醒させて……」

 評判を聞きつけたスピカ大聖堂から、案内状と言う名の地獄への招待を受けてしまったのだった。



「成る程……、大変だったんすねぇ」

 『妹さん、早く見つかるといいっすね』と言うリオンの言葉に深く頷く。どうか、無事で。今願うのはそれだけだ。




「あ、そうだ。星巡りって言えば、司祭様もちっこい頃行ってたらしいんすけど」

「ーっ!」

「なんでも途中で凶暴化した魔物の触手で心臓ギリギリの所穿たれて、あわや大惨事だったらしいすよ。ほら、胸に傷跡残ってたでしょ?」

 クラーケンを退治した後、溶かされた服の隙間から覗いていた痛々しげな傷があったのを思い出す。恥ずかしくてすぐに目を逸らしてしまったのでわからなかったが、あれがそうだったのか。

「当時は魔物の凶暴化なんて今ほど頻繁では無かったでしょうに、災難でしたね……」

「確かにそうっすね。でも、たまたま居合わせた治癒術一家に助けられて奇跡的に生きながらえたらしいっす」

 その恩人とも言える家族とは結局それきりで、探しても名前すらわからなかったそうだ。

「聖女様との出会いの日のタイミングと言い、全く不運なんだが強運なんだかわかんねー人っすよね」

「そうだったんですか……。ですが、司祭様が例え危険に身を投じても必ず救いを得られるのは、神があの方を愛しておられるのだと思います。司祭様は、本当にお心が優しくていらっしゃいますから」

「いやいやいや!騙されちゃ駄目っすよ~聖女様。男の優しさには下心がつきものなんで!……ま、でも確かに…」


 『俺ももし当時司祭様を助けてくれたって人たちに会えたらひとことお礼がしたいです』と、リオンが琥珀色の瞳を柔らかく細めて笑った。
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