あなたの想い、お預かりします。

ハルノ シオリ

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1.ヒーローになりたい

1.ヒーローになりたい①

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ピピピッ!ピピピッ!

一睡もできなかった僕は意味のないアラームを止める。
しわくちゃになったスーツを申し訳なさ程度に手で伸ばす。
そして床に置きっぱなしになっているごみを足でどけながら家を出た。



僕は何をしに会社に行くのか。

行きたくもない会社へ、ただ怒られに行くだけなのに。

僕はなんでこんなにも朝早くに起きて、
行きたくない仕事なんかに向かっているのだろう。


僕は、なんのためにこんなに頑張っているのだろう。





「長谷川!!」
「はい!」


上司が僕の名を呼ぶたびに鼓動が早くなる。


『お前はどれだけ僕の足を引っ張れが気が済むんだ!僕のこと嫌いか?』
『へ~、大した仕事もやってねえくせに一丁前に飯は食うんだな』
『生きる価値すらないお前を使ってやってんだから感謝しろ!』


たいていのパワハラ発言は網羅した自信がある。
そして僕の作った資料を机に一定のリズムで叩きつけながら、
最後には僕に向かって投げつけるまでが一連の流れ。


一度紙が目に入ってからは来ると思った瞬間に目を閉じるようにしている。

そして、散らばった資料を拾い集め自分の席へ戻る。




仕事中は感情を忘れるようにしている。
怒り、悲しみ、悔しさ、喜び。

全ての感情をなくし、ただ山積みになった仕事をこなす。




「10時かあ…」


この時間になると誰も人がいなくなる。
僕は容量が悪く仕事もできないため、いつも最後まで残らないと仕事が終わらない。

そーゆーところも上司のターゲットになりやすい一つの要因だろう。



家に着くと時計の針は11時を指していた。

ご飯も食べる気が起きないため、一度ベッドに横たわってみる。



前まではベッドに入ればすぐに爆睡していたが、最近では仕事のことを考えて寝れなくなる。

病院でもらった睡眠薬も最初は効いていたが
慣れてしまったのか全くと言っていいほど効かなくなってしまった。





ピピピッ!ピピピッ!




2回アラームが鳴った時点で止める。

「今日も一睡もできなかったな…」


そしてまた同じ日常を繰り返す。




いつになったらこの生活から抜け出せるのか。

僕は60歳になるまでこの生活を続けることになるのか。

いやもう定年は60歳じゃないか。




電車のホームで待っているとき、
急に霧がかかったように視界がぼやけていった。
すると、ジェットコースターに乗っているときのようにグラグラとし始め、急に真っ暗になった。








次に目が覚めたときには
家とは少し違う白い天井に薄緑色のカーテンが見えた。


「あ!目覚めました?電車のホームで倒れちゃって運ばれてきたんですよ」



そっか。
僕倒れてたんだ。



「心配されていたんだと思うんですが同じ方からお電話が何回もなってましたよ。
お部屋出ていただいて右手側に待合室があるので、
早めにご連絡したいようでしたらそちらをご利用くださいね。」


そういって点滴の様子を確認し、看護師さんが部屋を出ていった。

心配なんて愛のあるもんじゃないよ。
悲しいことに。




久々にこんなに寝れたなあ。
いつぶりだろこんなに寝れたのは。



携帯を手に取ると、着信が35件ほど入っていた。
案の定、すべてがパワハラ上司からの着信だった。






僕は、30分ほど天井を見つめていた。

何を考えるわけでもない。

ただただ、ぼーっと。





そして、僕はベッドから起き上がり、
少しふらつくのを点滴スタンドに支えられながら看護師さんに教えてもらった待合室へ向かった。





僕は携帯をポッケから取り出し、
フーっと大きく息を吐いた。




僕は電話を掛けた。








「すみません、退職代行をお願いしたいです…」
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