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しおりを挟む(旅行の最終日)
「はぁ~・・・癒やされるなぁ・・・」と私は思わず呟いてしまうほど満足していた。
「・・・さて、そろそろ帰ろうかな」と言って私が帰路につこうとした時、ふと目に留まったものがあったのだ。
それは丘の上にあるやたら敷地が広い神社だった。地元の氏神を祀る神社だろうか?
(へぇ~・・・面白そう)と思った私は興味本位で行ってみることにしたのだった。
たまにはああいう所に願掛けをしに行ってもいいだろう。
「・・・おじゃましまーす・・・」と言いながら、私は神社の中に足を踏み入れる。
するとそこには巫女さんが一人立っていたのだ。どうやらこの神社の人みたいだ。
(うわっ・・・凄い綺麗な人・・・)とその巫女さんの美貌に私は思わず見とれてしまった。
その巫女さんは20代前半くらいだろうか?とても綺麗な人で身長もスラリと高く、スタイルも良い人だった。
私と同じモデルだと言われても全然違和感ない。
長い黒髪が後ろで綺麗に結わえられており、清楚さとどこか神秘的な印象を兼ね備えた大人の魅力に満ちた人だった。
「・・・あら?お客さんかしら?」と彼女が私に話しかけてきたので、私も慌てて返事をすることにした。
「あ・・・はい!そうです!」と言うと、彼女は優しく微笑んでくれた。
「ふふっ、ようこそお参りくださいました」と言って丁寧にお辞儀をする彼女を見て、私は少し緊張してしまう。
「えっと、おみくじ引きたいんですけど?」と私は彼女に尋ねた。
すると彼女は「はい!大丈夫ですよ」と言って私に微笑みかけてくれた。
「・・・じゃあ、お願いします!」と言って私が財布を取り出すと、彼女はおみくじの紙を手渡してくれたのだ。
そして、私はおみくじを開くと不思議なことが起こる。
「あ、あれ・・・?」と私は首を傾げてしまう。
おみくじには何も書かれていなかった。真っ白だったのだ。
・・・これはどういう事だろう?と不思議に思っていると、巫女さんも私の様子がおかしいことに気づいたらしく、「どうしました?」と聞いてきた。
なので、私は正直に言うことにする。
「・・・あの・・・おみくじが真っ白で読めないんですが・・・」と私が言うと彼女も真っ白になったおみくじを見て眉をひそめる。
「本当ですね・・・申し訳ありません。こちらのおみくじを代わりに差し上げます」と言って、他のおみくじを渡してきた。
私は「ありがとうございます」と言いながらそれを受け取る。
そして、代わりのおみくじを私は開くのだが・・・。
「・・・え?これも真っ白・・・?」と私は思わず呟いてしまった。
巫女さんも今度こそそれを聞いて驚いたようだ。
「えっ・・・嘘!」と彼女は驚きの声を上げる。
そして、私のおみくじを覗き込んできて、それが真っ白であることを確認した後、今度は私の顔をじぃーーと見てきた。
私がそれを不思議に思っていると、彼女は驚いた表情をしながら「・・・凄い・・・」と言ってきた。
「え・・・?何ですか?」と私は聞き返すのだが、彼女はそのまま黙り込んでしまった。
「・・・あ、あのぉ~・・・」と言って私は彼女を伺う。
するとようやく我に返ったようで慌てて謝ってきた。
「ご、ごめんなさい!ちょっと驚いてしまったものでして・・・」と言う彼女はおほん!と咳払いをした。
そして、続けて言ってくる。
「・・・貴方様にちょっと試していただきたい事があるのです」
「すみませんが・・・ご足労願えますでしょうか?」
と彼女は真剣な表情で私に言ってきたのだった。
「・・・え?私・・・ですか?」と私は思わず聞き返してしまった。
だって、急にそんなことを言われても困るし・・・。
しかし、彼女の真剣な眼差しを見ると断るわけにもいかなかった。
私は素直に彼女について行くことにしたのだった。
そして、神社の本殿の裏手側に広がる林の中に私と巫女さんが足を踏み入れる。
そこには小さな池があって、鯉や亀などが泳いでいた。とても綺麗な場所だ。
「・・・それで?私に試したい事って何ですか?」と私は巫女さんに尋ねるが彼女は「もう少し先です・・・」と言うだけだった。
そして、しばらく歩くとそこには驚きの光景が広がっていた。
「これは・・・凄いわね・・」と私は感嘆の声を上げた。
そこにはとてつもなく大きな一枚岩が眼前に広がっていた。
学校の体育館と同じくらい大きい。縦、横、高さはそれぞれ20~30メートルはあるんじゃないだろうか?
岩の周りには注連縄が張られており、これがただの岩じゃないことがひと目で分かった。
「この岩をご存知ですか?」と巫女さんが私に聞いてくるので、私は「いえ・・」と首を振った。
すると、彼女は大岩について説明を始める。
「この岩は”契約の岩”と呼ばれております」
「契約の岩・・・?」と私は聞き返してしまった。
彼女は私の言葉にコクンと頷くと、私の方に向き直った。
真剣な表情で私を見つめてくる。
「今から突拍子もない事を話しますが、どうか冗談と思わずに聞いてほしいのです・・・」
「はい・・・分かりました」
と私は素直に返事をする。
すると彼女は語り始めたのだった。
「・・・この岩には不思議な力がありまして・・・」と言って彼女は大岩に手を触れた。
「この岩に願掛けをすると願いが叶うという言い伝えがあるのです」と言う彼女の言葉に私は驚いた。
だって、そんなおとぎ話みたいな話があるなんて思わなかったからだ。
「え!?そうなんですか!?」と思わず大きな声を出してしまう私だったが、彼女は気にせず続ける。
「・・・ただ・・・その叶え方がまさに”悪魔のそれ”なのです」
「・・・私は既に両親を亡くしています。信じられないかもしれませんが、私も含め、私の一族は30歳までしか生きられないのです・・・この岩の呪いで・・・」
彼女の言葉に私は軽く衝撃を受けた。
「・・・っ!?」と声にならない声を上げて、私は呆然としてしまう。
そして、彼女は更に続ける・・・。
「私の一族は代々この神社の神職を務めておりますが、それはこの岩に自らの寿命を捧げるために存在しているのです・・・」
「かつて、何百年も前はこの地域は寂れた土地でした。それを領主が憂い、この岩に自らの領地の繁栄を願ったのです」
「そして、岩はそれを叶え、この地域は見違えるほどになりました。今では産業が栄え、観光地として多くの方々がこの地域を訪れるようになっています」
「しかし、岩は領主に願いを叶える代償を要求しました・・・。そして、あろうことか領主は自らの命を捧げる代わりに、私達一族の寿命を捧げると岩に誓ったのです・・・!」
「・・・その結果、私達一族は先祖代々30歳までしか生きられない呪いにかかってしまったのです・・・」
「領主も、そして土地の人々も・・・誰もそんな私達の事を救おうとはしませんでした・・・」
「私達は『贄の一族』として、蔑まれ・・・この地に今も縛られ続けてしまっているのです・・・」
と彼女は涙を流しながら言うのだった。
私はそんな彼女を見て何も言えなかった。・・・何て言えばいいのか分からなかったからだ。
「・・・すみません!急にこんな話をしても混乱するだけですよね!」と言って彼女は慌てて涙を拭った。
そして、笑顔を見せる。その笑顔はとても痛々しかった。まるで無理して笑っているみたいで・・・。
そんな彼女の様子を見ていると私まで切なくなってきてしまうほどだ。
「申し遅れました・・・わたくし『千条春江』と申します。あなた様のお名前を伺ってもよろしいでしょうか・・・?」と彼女は私に尋ねてきた。
私は少し戸惑いながらも自分の名前を名乗ることにする。
「・・・えっと、私は神楽美鈴と言います」と言うと、春江さんは「ありがとうございます」と言って微笑んだ。
そして、彼女は続けて言うのだった・・・。
「美鈴様・・・先ほどはまさかと思いましたが、貴方様からは信じられない程の力が感じられます・・・」
「それこそ、神仏に相当するほどの・・・。美鈴様だったらもしかしたらこの呪いを打ち破れるかもしれません・・・!」
春江さんはそう言うと、私に深々とお辞儀をしてきた。
「・・・美鈴様!どうかお願いいたします!!」
「どうか、貴方様の力で、この岩を破壊していただけませんでしょうか!?」
「もし、叶えてくださった暁には、私の全てを貴方様に捧げることを誓います!!ですからどうか・・・どうかお願いいたします!!!」
と言って彼女は再び深々とお辞儀をしたのだった。
私はそんな春江さんを見て、ただ呆然とするだけだった・・・。
「・・・えっと・・・でも、私はただの女子高生で・・・そんな岩を破壊するなんて・・・」と私は戸惑いながら言う。
しかし、春江さんは真剣な眼差しで私を見つめてきて言ったのだ。
「美鈴様・・・貴方様には何か特別な力があるはずです!それは間違いありません!」
「・・・ですので、試して頂けるだけで構いません!・・・どうかお願いします!」と言って彼女は再び頭を下げたのだった。
「・・・っ」と私は言葉に詰まってしまう。だって、こんな頼まれ方したら断れる訳ないじゃない・・・!
出来るか出来ないかはともかく、この人を助けないと私の夢見が悪くなりそうだ。
「分かりました・・・やってみます・・・」と私は渋々了承したのだった・・・。
「・・・ありがとうございます!」と彼女は嬉しそうに言う。
そして、私は大岩の前まで進むと、岩に手を触れて念じてみる。
(・・・・壊れろ!!)・・・と。
しかし、何も起こらなかった。当然といえば、当然だが、こんな大岩が念じるだけで壊れる訳もなかった。
もう一回試しに念じてみても、それは変わらなかった。私は静かに首を振って春江さんの方に向き直る。
「・・・駄目・・・ですか・・・?」と春江さんは残念そうに呟いた。
「ごめんなさい・・・やっぱり私には無理みたいです・・・」と言って私は頭を下げるしかなかった。
「・・・そうですよね・・・すみません!無理なお願いをしてしまいました!」と彼女は慌てて謝ってくる。
そして、彼女は私に近づいてくると私の手を優しく握ってきた。
「・・・美鈴様・・・本当にありがとうございます」と言う彼女の目には涙が浮かんでいた。
そんな春江さんを見て、私の胸がきゅっと締め付けられる。
彼女を助けたいと思う・・・しかし、私にはこれ以上どうしようもなかった。壊れないものは壊れないのだ。
春江さんは私から一歩下がると、再度深々とお辞儀をしてきた。
「ご足労をお掛けして申し訳ありません・・・美鈴様には改めてお礼をさせて頂きます」
「美鈴様のご住所を教えていただいてもよろしいでしょうか?」
と言ってきたので、私は頷くと私の自宅の住所を書いたメモを彼女に渡す。
すると彼女はそれに軽く目を通した後、私に微笑みかけてきた。
「ありがとうございます・・・美鈴様」と彼女は寂しそうに笑った。
そして、春江さんは最後にもう一度頭を下げると神社の方に歩いて行き、そのまま帰って行ってしまったのだった。
私はその後ろ姿をただ見つめることしかできなかった・・・。
(うぅ・・・)と私は心の中で思わず呟いてしまう。
あんな表情を見せられたら私まで悲しい気分になってしまう。とはいえ、私にはどうすることもできなかった。
私は「はぁ・・・」とため息を付いて、神社を出た。
そのまま新幹線に乗り込み、自宅への帰路につく。
しかし、その間ずっと春江さんの切なそうな表情が私の頭から離れなかった・・・。
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