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本編
壁際の野良猫
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「貴様ほどの異常者を表現する言葉が見つからない」
と僕を表して、山村くんは空になった器の乗ったトレイをぐいっと僕に押し付けた。明確な拒絶の意志を感じる。
そんなにあからさまに嫌な顔されると流石にちょっと悲しい。
「好きな人とキスしたいって思うのは異常なこと?」
徹頭徹尾それに尽きるんだけどこれがもう全く信用してくれなくて、山村くんは今も猜疑心に満ちた目で僕を睨みつけている。
この1か月。僕は顔を合わせる度に君に好きだって伝えた。温いとか甘いとか、時間の無駄だとか言う周りを黙らせたり、他にも色々君の見えない所で君の為に結構頑張てきた。
僕にも、ご褒美があってもいいんじゃない?
受け取ったトレイをそのまま横に置いて、お互い膝を突き合わせるくらいの距離までにじり寄りながら僕は改めて山村くんに提案した。
「山村くん。ハニートラップは得意なんでしょ? 相手がどんなに気に食わなくてもフレンチキスなんてお手のモノじゃないの? 別に特別な意味もない、軽く皮膚を触れ合わせるだけで僕は君にご褒美をあげるって言ってるんだ」
じり……と寄れば、じり……と下がる山村くんを、壁際まで追い詰める。
「……それ以上近寄るな。現時点で攻撃手段はいくらでもあるぞ」
「してみなよ。一瞬で致命傷なんて無理なんだから2人で仲良く寝るだけだ。その後の君がどうなるかは知らないけどね」
いつもと様子の違う僕に対して最大限の警戒心を露わにして見せながら、追い詰められた山村くんは「ぎりっ」と音が聞こえるくらい奥歯を噛みしめた。
「わかった。してやる。してやるから離れろ。気味が悪い」
仕方なく。と言うのがありありと見て取れるような態度ではあるけど、言質は取った。安心して言いつけ通り少し距離を置くと、山村くんは相変わらず困惑と警戒を滲ませた表情で僕を睨む。
「その手は通用しないと常々言っているはずだが?」
「本気だって毎日伝えてるはずだよ?」
「悪趣味な兵糧攻めをしながらな。下らんごっこ遊びに付き合わせるな」
ごっこ遊びだなんて、酷いこと言う。食事についてはぐぅの音も出ないけど、これは君を僕に夢中にさせるために必要なことだしお互いの立場をちょっとは汲んで欲しい。前任から受けていた扱いを忘れちゃったんだろうか。
あんまりにも報われない僕の恋に力が抜けてしまって、ぺたんと床に尻をついて山村くんをじっとりと睨み返した。彼も視線を逸らすでもなく、お互い一歩も譲らない睨み合いが暫く続く。
……まぁ、いいや。恋に傷心はつきものだ。最終的に君が僕に落ちてくれればそれでいい。
ため息をついて気を取り直して、拗ねてるぞってアピールで唇を突き出してとんとんと人差し指で叩いて見せた。
山村くんはいよいよ気味悪げに僕を眺めて、その視線で僕の真意を探っている。
「君がおかゆを食べてるのを見てちょっとそういう気分になっちゃっただけだよ」
「それはそれで気色が悪い」
どうとでも言えばいいよ。言質は取ったんだ。良かろうと悪かろうと君は僕にキスして、ご褒美をもらって、そのうち自分からキスしたくて仕方なくなるんだから。
「……」
かわいこぶって人差し指を唇に当てたまま、じぃ、と見つめれば、やがて「ちっ」とお手本のような舌打ちをかまして山村くんは僕に向き直った。
「……正座で座って手を頭の後ろで組め」
「もぉお……」
あまりの往生際の悪さに思わず大げさなくらい大きなため息が零る。それでも山村くんはむっすりと不機嫌な顔のまま、僕が指示に従うのを頑として待つ姿勢を崩さない。
埒が明かないので大人しく指示に従って「ん」とキス待ちの体勢を取ったところで、ようやく彼はにじにじと僕ににじり寄ってきた。
——野良猫?
そう思えば馬鹿みたいに警戒されてることだって許しちゃうんだから、確かに僕は甘いのかもしれない。
流石に目を閉じるわけにはいかない。お互い視線を合わせたまま触れ合った唇は思ったよりしっとりと柔らかくて、緊張のせいか少し冷たかった。
と僕を表して、山村くんは空になった器の乗ったトレイをぐいっと僕に押し付けた。明確な拒絶の意志を感じる。
そんなにあからさまに嫌な顔されると流石にちょっと悲しい。
「好きな人とキスしたいって思うのは異常なこと?」
徹頭徹尾それに尽きるんだけどこれがもう全く信用してくれなくて、山村くんは今も猜疑心に満ちた目で僕を睨みつけている。
この1か月。僕は顔を合わせる度に君に好きだって伝えた。温いとか甘いとか、時間の無駄だとか言う周りを黙らせたり、他にも色々君の見えない所で君の為に結構頑張てきた。
僕にも、ご褒美があってもいいんじゃない?
受け取ったトレイをそのまま横に置いて、お互い膝を突き合わせるくらいの距離までにじり寄りながら僕は改めて山村くんに提案した。
「山村くん。ハニートラップは得意なんでしょ? 相手がどんなに気に食わなくてもフレンチキスなんてお手のモノじゃないの? 別に特別な意味もない、軽く皮膚を触れ合わせるだけで僕は君にご褒美をあげるって言ってるんだ」
じり……と寄れば、じり……と下がる山村くんを、壁際まで追い詰める。
「……それ以上近寄るな。現時点で攻撃手段はいくらでもあるぞ」
「してみなよ。一瞬で致命傷なんて無理なんだから2人で仲良く寝るだけだ。その後の君がどうなるかは知らないけどね」
いつもと様子の違う僕に対して最大限の警戒心を露わにして見せながら、追い詰められた山村くんは「ぎりっ」と音が聞こえるくらい奥歯を噛みしめた。
「わかった。してやる。してやるから離れろ。気味が悪い」
仕方なく。と言うのがありありと見て取れるような態度ではあるけど、言質は取った。安心して言いつけ通り少し距離を置くと、山村くんは相変わらず困惑と警戒を滲ませた表情で僕を睨む。
「その手は通用しないと常々言っているはずだが?」
「本気だって毎日伝えてるはずだよ?」
「悪趣味な兵糧攻めをしながらな。下らんごっこ遊びに付き合わせるな」
ごっこ遊びだなんて、酷いこと言う。食事についてはぐぅの音も出ないけど、これは君を僕に夢中にさせるために必要なことだしお互いの立場をちょっとは汲んで欲しい。前任から受けていた扱いを忘れちゃったんだろうか。
あんまりにも報われない僕の恋に力が抜けてしまって、ぺたんと床に尻をついて山村くんをじっとりと睨み返した。彼も視線を逸らすでもなく、お互い一歩も譲らない睨み合いが暫く続く。
……まぁ、いいや。恋に傷心はつきものだ。最終的に君が僕に落ちてくれればそれでいい。
ため息をついて気を取り直して、拗ねてるぞってアピールで唇を突き出してとんとんと人差し指で叩いて見せた。
山村くんはいよいよ気味悪げに僕を眺めて、その視線で僕の真意を探っている。
「君がおかゆを食べてるのを見てちょっとそういう気分になっちゃっただけだよ」
「それはそれで気色が悪い」
どうとでも言えばいいよ。言質は取ったんだ。良かろうと悪かろうと君は僕にキスして、ご褒美をもらって、そのうち自分からキスしたくて仕方なくなるんだから。
「……」
かわいこぶって人差し指を唇に当てたまま、じぃ、と見つめれば、やがて「ちっ」とお手本のような舌打ちをかまして山村くんは僕に向き直った。
「……正座で座って手を頭の後ろで組め」
「もぉお……」
あまりの往生際の悪さに思わず大げさなくらい大きなため息が零る。それでも山村くんはむっすりと不機嫌な顔のまま、僕が指示に従うのを頑として待つ姿勢を崩さない。
埒が明かないので大人しく指示に従って「ん」とキス待ちの体勢を取ったところで、ようやく彼はにじにじと僕ににじり寄ってきた。
——野良猫?
そう思えば馬鹿みたいに警戒されてることだって許しちゃうんだから、確かに僕は甘いのかもしれない。
流石に目を閉じるわけにはいかない。お互い視線を合わせたまま触れ合った唇は思ったよりしっとりと柔らかくて、緊張のせいか少し冷たかった。
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