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アナザーストーリー
赤のシクラメン
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そわそわする。
主税が出かけてかれこれ2時間くらいになる。そろそろ帰ってきてもいい頃なんじゃないか?
さっきチャットアプリで連絡を取ったけど、主税は移動中あんまりスマホは見ないから多分気付いてないんだろう。
結構がっつり切ってやったから大分すっきりしてると思うんだけど。
切ったらすぐ写真送ってこいって言っとけばよかった。
連絡が来てないかもう一度スマホを見て、ふと不安が過った。
『僕、男前だから、前髪切ると知らない人まで僕に言い寄ってくるよ?』
…まさか言い寄られてるのか?嘘だろ?
いや、そうだ。アイツ背は高いし服はおしゃれに着てるし、顔はキツいけど雰囲気が柔らかいからそのちぐはぐな感じが気になって目が離せなくなるんだ。キツくても文句なしの男前だし。眼鏡がダサいだけじゃ虫除けにならない。きっとあそこの駅前とかで声掛けられてるんだ。それで主税は「その、…困ったな」とか曖昧なことを言いながらあの困った風な笑顔で声を掛けてきた相手を見るんだ。
ダメだ、そんな顔されたら絶対落ちる。男も女も。
わかってる。そんなことで主税と俺がどうこうなるわけじゃないってことはちゃんとわかってる。そんなことで疑える程、俺に向けられてる主税の気持ちは軽くない。
でも単純に俺が嫌なんだ。俺以外がアイツに色目を使ってるのが許せない。アイツを可愛がっていいのは俺だけだ。
俺がアイツを自慢するって言うのは、俺が隣に居ることが前提の考えだったことに今更気付いた。
今はどうだ。アイツは1人でその辺をほろほろほっつき歩いてて、俺は部屋でアイツの帰りを待ちながら悶々としている。
胸の奥がモヤモヤと曇った。
迎えに行こうと思って玄関まで来たものの、アイツが今どこに居るのかわからない。
電話に出ろ。今すぐ。そこまで行くから蹲ってろ。
チャットアプリから通話を掛けるのとほぼ同時に、かちゃんと鍵の開く音がした。
「ただいま。あれ、電話」
耳元の発信音と主税の持ったスマホの着信音が重なる。
顔を上げた先に居た主税は、見違えるほど
「かっこいい…」
ヤバ、腰にキた。
予想以上、それ以上にばっさり切った髪型にどきどきと胸が跳ねた。
前髪だけでよかったのに、そんなに全部さっぱりかっこよくなられるなんて思ってなかった。直視できない。いい意味で思ってたのと違う結果に胸が苦しくなる。
心臓が持たない。主税が強すぎる。
「か、薫くん、いたんだね」
玄関先でいきなり鉢合わせたことに驚いたように主税から動揺した声が漏れた。
それから、スマホの発信もそのままで固まってる俺を見て、おろおろと目を泳がせる。
「ご、ごめん。変だよね。でももう戻せないって言われちゃって…」
そりゃ、切った髪は戻せないだろうよ。
主税が自分からこんな髪型を要求するとは思えない。俺は主税の担当に猛烈に嫉妬した。お前主税のこと大好きだろ。じゃないとこんなに似合う髪型提案できない。ダメだからな。コイツは俺のだからな。
会ったこともない理容師にさえ嫉妬を感じるくらい、主税がかっこいい。
俺は通話を終了するのも忘れて主税に駆け寄ってキスをした。
条件反射のようにすぐに腰と首の後ろを支えられて抱き寄せられる。
「ん、ふ、…主税、かっこいい。好き」
息継ぎの合間に囁いて目を合わせると、主税は蕩けたように目を細めて俺を見た。
「僕も好きだよ。君が喜んでくれてよかった」
ちゅ、ちゅ、と何度もキスをして、身体が段々と熱くなってくるのを感じた。
駄目だ。ここは玄関先。まだ夕方になったばかりと言うくらいの時間。
理性を総動員して、ゆっくりと唇を離して囁いた。
「ベッド、行こ」
俺の理性なんて、そんなもんだ。
主税が出かけてかれこれ2時間くらいになる。そろそろ帰ってきてもいい頃なんじゃないか?
さっきチャットアプリで連絡を取ったけど、主税は移動中あんまりスマホは見ないから多分気付いてないんだろう。
結構がっつり切ってやったから大分すっきりしてると思うんだけど。
切ったらすぐ写真送ってこいって言っとけばよかった。
連絡が来てないかもう一度スマホを見て、ふと不安が過った。
『僕、男前だから、前髪切ると知らない人まで僕に言い寄ってくるよ?』
…まさか言い寄られてるのか?嘘だろ?
いや、そうだ。アイツ背は高いし服はおしゃれに着てるし、顔はキツいけど雰囲気が柔らかいからそのちぐはぐな感じが気になって目が離せなくなるんだ。キツくても文句なしの男前だし。眼鏡がダサいだけじゃ虫除けにならない。きっとあそこの駅前とかで声掛けられてるんだ。それで主税は「その、…困ったな」とか曖昧なことを言いながらあの困った風な笑顔で声を掛けてきた相手を見るんだ。
ダメだ、そんな顔されたら絶対落ちる。男も女も。
わかってる。そんなことで主税と俺がどうこうなるわけじゃないってことはちゃんとわかってる。そんなことで疑える程、俺に向けられてる主税の気持ちは軽くない。
でも単純に俺が嫌なんだ。俺以外がアイツに色目を使ってるのが許せない。アイツを可愛がっていいのは俺だけだ。
俺がアイツを自慢するって言うのは、俺が隣に居ることが前提の考えだったことに今更気付いた。
今はどうだ。アイツは1人でその辺をほろほろほっつき歩いてて、俺は部屋でアイツの帰りを待ちながら悶々としている。
胸の奥がモヤモヤと曇った。
迎えに行こうと思って玄関まで来たものの、アイツが今どこに居るのかわからない。
電話に出ろ。今すぐ。そこまで行くから蹲ってろ。
チャットアプリから通話を掛けるのとほぼ同時に、かちゃんと鍵の開く音がした。
「ただいま。あれ、電話」
耳元の発信音と主税の持ったスマホの着信音が重なる。
顔を上げた先に居た主税は、見違えるほど
「かっこいい…」
ヤバ、腰にキた。
予想以上、それ以上にばっさり切った髪型にどきどきと胸が跳ねた。
前髪だけでよかったのに、そんなに全部さっぱりかっこよくなられるなんて思ってなかった。直視できない。いい意味で思ってたのと違う結果に胸が苦しくなる。
心臓が持たない。主税が強すぎる。
「か、薫くん、いたんだね」
玄関先でいきなり鉢合わせたことに驚いたように主税から動揺した声が漏れた。
それから、スマホの発信もそのままで固まってる俺を見て、おろおろと目を泳がせる。
「ご、ごめん。変だよね。でももう戻せないって言われちゃって…」
そりゃ、切った髪は戻せないだろうよ。
主税が自分からこんな髪型を要求するとは思えない。俺は主税の担当に猛烈に嫉妬した。お前主税のこと大好きだろ。じゃないとこんなに似合う髪型提案できない。ダメだからな。コイツは俺のだからな。
会ったこともない理容師にさえ嫉妬を感じるくらい、主税がかっこいい。
俺は通話を終了するのも忘れて主税に駆け寄ってキスをした。
条件反射のようにすぐに腰と首の後ろを支えられて抱き寄せられる。
「ん、ふ、…主税、かっこいい。好き」
息継ぎの合間に囁いて目を合わせると、主税は蕩けたように目を細めて俺を見た。
「僕も好きだよ。君が喜んでくれてよかった」
ちゅ、ちゅ、と何度もキスをして、身体が段々と熱くなってくるのを感じた。
駄目だ。ここは玄関先。まだ夕方になったばかりと言うくらいの時間。
理性を総動員して、ゆっくりと唇を離して囁いた。
「ベッド、行こ」
俺の理性なんて、そんなもんだ。
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