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ピンクのカスミソウの花
53.ワスレナグサ
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「おつかれさま~!」
広い宴会場でめいめいグラスを掲げる。
会社全体が浮かれていた。
特に開発部門の浮かれっぷりは凄い。狂気的なものまで感じる。
先日ようやく例のシステムが納品されて、無事稼働しているのも確認が取れた。
あとは保守するだけだから基本は俺たち営業の仕事だ。俺が窓口になって、トラブル対応にあたる。でも向こうも大きい会社だから詳しい人間はいるだろう。さほど問い合わせもないと思う。それでもどうにもならないような専門的な所は開発に任せることにはなるんだけど、今までの地獄のような日々からしたら、そんなの月の上で酒でも飲んでるくらいの気分だろう。
「白鳥くん、あとはよろしくね?僕らもサポートするから」
隣で部長が恵比須顔で言う。
いや、アンタにサポートしてもらうなんてことあっちゃ駄目だろ。それは深刻なクレームの時だ。こわ。
とは言え、ここでようやく一区切りだ。俺も肩の荷が下りた。
あぁ、頑張ったなぁ。
緊張が解けて思わず笑みが零れる。
見渡せば周りもみんな笑顔でお互いを称え合っていた。
「白鳥さん、お疲れ様です」
声を掛けられて顔を上げると、営業サポート主任の女性が立っていた。彼女は俺の隣に座ってグラスを掲げる。
俺もそれに倣って、かちんと小さな音を立てて乾杯した。
彼女にも本当に世話になった。俺がT社にかかりっきりになってた間ずっと他の顧客を回してくれてた凄腕サポートだ。
日本人形みたいに整えられたロングヘアーに、セルフレームのスクエアの黒縁眼鏡をしている。可愛らしい子だ。
「正木さんも。ホント助けられてばっかだった。ありがとう」
ホントに。彼女が居なかったら俺は開発部に引けをとらないくらい忙殺されていたかもしれない。それくらい色々としてもらった。
「いえ、それが仕事なんで。お客さんとのやりとり、好きなんで、楽しかったですよ」
そう言って俯いてはにかむ姿に、ほんの少し、主税が重なった。
主税と会わなくなってもう半年くらいになる。
アイツはどうしてるだろう。相変わらず長い前髪とダサい眼鏡で居るんだろうか。
それとも案外イメチェンして、あの人柄を好いてくれた子と一緒に居たりするんだろうか。
そういうパーティーで会ったんだから、そういうこともあってもおかしくないよな。
じゃあ、もう俺の事なんて忘れてるかな。
そう思うと胸がずき、と痛んだ。
駄目だな。まだ引きずってるらしい。とっとと次に行きたいのに。
「あの、白鳥さん。それで」
思考を引き戻されて慌てて彼女の顔に焦点を合わせる。
「ん。なに?」
しまった、前の会話を全く覚えてないぞ。俺もどう受け答えしてたのかわからない。
顔を見ると彼女はちょっと目尻を赤く染めた。
「その、こ、このあと、良ければ、他のお店に…」
あぁ、そういうことね。
いいけど俺女は抱けないよ?ってね。
正木さんは縋るように、いかにも必死ですって表情で俺を見つめている。
可愛いなぁ。俺もこんな風に可愛げがあったらもっと上手に甘えられるんだろうか。
もっと甘えてたら、結果は違っただろうか。
「ごめんね。俺、好きな子いるんだ」
また、主税の顔が思い浮かんだ。
広い宴会場でめいめいグラスを掲げる。
会社全体が浮かれていた。
特に開発部門の浮かれっぷりは凄い。狂気的なものまで感じる。
先日ようやく例のシステムが納品されて、無事稼働しているのも確認が取れた。
あとは保守するだけだから基本は俺たち営業の仕事だ。俺が窓口になって、トラブル対応にあたる。でも向こうも大きい会社だから詳しい人間はいるだろう。さほど問い合わせもないと思う。それでもどうにもならないような専門的な所は開発に任せることにはなるんだけど、今までの地獄のような日々からしたら、そんなの月の上で酒でも飲んでるくらいの気分だろう。
「白鳥くん、あとはよろしくね?僕らもサポートするから」
隣で部長が恵比須顔で言う。
いや、アンタにサポートしてもらうなんてことあっちゃ駄目だろ。それは深刻なクレームの時だ。こわ。
とは言え、ここでようやく一区切りだ。俺も肩の荷が下りた。
あぁ、頑張ったなぁ。
緊張が解けて思わず笑みが零れる。
見渡せば周りもみんな笑顔でお互いを称え合っていた。
「白鳥さん、お疲れ様です」
声を掛けられて顔を上げると、営業サポート主任の女性が立っていた。彼女は俺の隣に座ってグラスを掲げる。
俺もそれに倣って、かちんと小さな音を立てて乾杯した。
彼女にも本当に世話になった。俺がT社にかかりっきりになってた間ずっと他の顧客を回してくれてた凄腕サポートだ。
日本人形みたいに整えられたロングヘアーに、セルフレームのスクエアの黒縁眼鏡をしている。可愛らしい子だ。
「正木さんも。ホント助けられてばっかだった。ありがとう」
ホントに。彼女が居なかったら俺は開発部に引けをとらないくらい忙殺されていたかもしれない。それくらい色々としてもらった。
「いえ、それが仕事なんで。お客さんとのやりとり、好きなんで、楽しかったですよ」
そう言って俯いてはにかむ姿に、ほんの少し、主税が重なった。
主税と会わなくなってもう半年くらいになる。
アイツはどうしてるだろう。相変わらず長い前髪とダサい眼鏡で居るんだろうか。
それとも案外イメチェンして、あの人柄を好いてくれた子と一緒に居たりするんだろうか。
そういうパーティーで会ったんだから、そういうこともあってもおかしくないよな。
じゃあ、もう俺の事なんて忘れてるかな。
そう思うと胸がずき、と痛んだ。
駄目だな。まだ引きずってるらしい。とっとと次に行きたいのに。
「あの、白鳥さん。それで」
思考を引き戻されて慌てて彼女の顔に焦点を合わせる。
「ん。なに?」
しまった、前の会話を全く覚えてないぞ。俺もどう受け答えしてたのかわからない。
顔を見ると彼女はちょっと目尻を赤く染めた。
「その、こ、このあと、良ければ、他のお店に…」
あぁ、そういうことね。
いいけど俺女は抱けないよ?ってね。
正木さんは縋るように、いかにも必死ですって表情で俺を見つめている。
可愛いなぁ。俺もこんな風に可愛げがあったらもっと上手に甘えられるんだろうか。
もっと甘えてたら、結果は違っただろうか。
「ごめんね。俺、好きな子いるんだ」
また、主税の顔が思い浮かんだ。
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