【本編完結】ブーゲンビリアの花束を

いろあす

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モモの花

28.嬉しい知らせ

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 新しいシステムを作る時は、まずは古いシステムを解析するところから始める。
 要望だけを纏めて新たに作成していきなりガラッと変えてしまうこともできるけど、そうなると必ず「前の方が良かった」なんて意見が頻出するからだ。
 僕みたいなアドバイザーを雇うくらい大きい案件を担当しているような世代のお方々は、特にそういう傾向にある。下手なクレームに繋がるような仕事はできない。
 古いシステムを解析した上で、何を残したいのか、何が必要ないのか、どういう風に、どういう機能を追加したいのか、クライアントの要望を営業担当が持って帰って来て、その要望をエンジニアが設計図に落とし込む。それを僕らプログラマーが形にする。
 エンジニアが営業をしてる場合も多いけど、薫くんの会社は多分そうじゃない。まぁ、相応の知識はあるだろうけど。彼にはエンジニア特有の、プログラマーに対して見下したような険がなかった。どちらかというと一定の敬意を感じた。
 システムの側の動作を見れば大体どういうプログラムが組まれてるかはわかるけど、開いてみたらそこに製作者のクセとかもあって、これが結構大変だったりする。
Cobolコボルかぁ…」
 今回僕が弄る…、弄るのは向こうがやるんだけど、僕が携わるシステムに使われている言語を見てうんざりした。
 こいつはとにかく長い。話が長い。
 最近の言語が物語のあらすじを纏めて教えてくれるのものだとすると、こいつは「1章ではこういう事件がありました。そこで主人公は…」「2章では…」と、欲しい情報をもったいぶって長々と説明して、最終章の説明まで読んでようやくあらすじが理解できる。といった具合だ。どれだけもったいぶるかは製作者のクセによるところが大きい。
 かなり古い言語だから調べるのにも結構手間がかかる上に、こいつを新しい言語で組みなおすのがまた大変。古文を現代文に訳すみたいに。
 これは、大変だ。僕は弄らないけど。
 クライアントのプログラマーさんに同情した。今はもうないけど最近まで試験があったはずだから、知識のある人がいるのを願うばかりだ。そうでないと僕の仕事が増える。
「IDENTIFICATION DIVISION、ってね」
 マウスのホイールを繰りながらプログラムの中を確認する。
 ここは問い合わせがあるだろうな、とか、ここは改善提案を出した方がいいだろうな、とか考えながら、黒い画面を睨んで膨大な量の英数字を解析する。それが僕の仕事のひとつだ。


 詰めていた息を大きく吸って、深呼吸しながら肩と首を伸ばす。
 顔を上げた先には青紫の花が揺れていた。そろそろ、新しい花と変える頃だろうか。
『いい便りがくるといいですね』
 花屋さんの奥さんに言われた言葉を思い出す。
 あの花を飾った後、薫くんからのメッセージに気付いた。花言葉は侮れない。
 ちょっと期待してスマホを確認する。
『明日、楽しみ』
「っ…!」
 彼からのメッセージが2時間も前に届いていて、胸がきゅんと疼いた。楽しみだなんて、嬉しくて、可愛くて。
 同時に気持ちが急いた。
 大変だ。とても待たせてしまった。
 初めてお誘いのメッセージを送った時の自分の気持ちを思い出して慌てる。
 じっくり考える余裕なんてなくて『僕もです』とだけ返して、またそっけない返信をしてしまったことを悔いた。
 彼と関わる時はいつもこうだ。
 自分が自分じゃなくなったみたいに思考が乱れて、最低限の知能しか持ってないようなダメな男になってしまう。仕事をしてる時みたいに、いろんな方面から物事を考えるような思考がまるでできなくなる。
 現在時刻は昼を大幅に回った頃。仕事にも一区切りついたし、昼食をとりに行こう。
 彼と行った洋食屋さんに行って、彼が頼んだオムライスを食べて、それからテーラーに行こう。
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