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アカンサスの花

20.断ち難い想い

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 やっぱり、困らせてしまっただろうか。
 そりゃあそうだ。部屋に呼んだら花束なんて、自分で考えても重すぎる。
 ましてや彼が花言葉を知っていたらどうしよう。僕はもう恥ずかしすぎて二度と顔が見れない。
 お互いぎこちない空気のまま、案内されるがままに部屋へと入る。「座っといて」と促されて、普段はベッドなんだろう、畳まれたソファに座った。彼の寝床に腰かけているということに、ぞわ、と背筋が粟立つ。
 白主体のキッチンと、全体的に濃い茶色で纏められた落ち着いた雰囲気の部屋。ローテーブルの上にはお菓子がたくさん置いてある。
 僕が来るのに合わせて準備してくれたんだろうか。僕も自分で準備しちゃったけど、歓迎されているようで嬉しい。
「なに飲む?ジュースとか酒とか色々買ってきてるけど」
 薫くんがキッチンで花束の包装を解きながら問いかけてきた。心なしか、頬が赤い気がするのは気のせいだろうか。
 少しでも彼の心を乱してるといいな、と思った。
 大ぶりなマグカップに入れられて、猫っぽいなにかのぬいぐるみの横に置かれた花をぼんやりと見上げる。
『花言葉は、「この恋に気付いて」』
 花屋の奥さんの言葉を思い出して胸が詰まった。気付いて欲しい、でも、気付いて欲しくない。期待と不安を抱えながら、花の置かれた棚の向こうに立つ彼を見上げた。
「か、薫くんが嫌いじゃなかったら、お酒、飲みたい」
 正直、ドアが開いた先に薫くんが居た時から限界だった。心臓が煩くて、疼いて。とても素面じゃいられない。
 そう答えた僕に少しだけホッと息を吐いて、彼は冷蔵庫からビールを取り出した。
「よかった。俺も飲みたかったから。ビールでいい?」
 頷くと、2本の銀色の缶とコリンズグラスを持って彼がソファの横に座る。
 ふんわりと柑橘系の爽やかな香りが漂ってきて余計に心が乱された。
「あれ、なんて花?イベントの時以外で花束なんて初めて貰ったからびっくりした」
 初めて。薫くんの初めてを貰ってしまった。些細なことだけど心が躍った。
「リ…、リナリアって言うんだって。その、僕も詳しくないんだけど、家の1階に花屋さんがあって、時々買うんだ」
 …花言葉は「この恋に気付いて」、って、言うんだって。
 彼は「へぇ」と相槌を打って立ち上がった。玄関に掛けてあったカバンから手帳を出して何やらメモを取る。そのまま手帳をテーブルに置いて改めてソファに腰かけた。
 マメな性格なんだな。興味が引けたことが嬉しい。
「ごめん、仕事柄、初めて知ったことはできるだけ全部メモってるの。何が会話の種になるかわからないから」
 言いながら、「プシッ」と軽い音を立ててビールの缶を開ける。
 それを僕の前にあるグラスに注いで、僕にもそれを促すように「ん」とグラスを差し出した。
 その仕草がまた可愛いくてドキドキする。彼はきっと甘え上手だ。
 差し出されたグラスにビールを注いで、薫くんがグラスを掲げるのに合わせて自分のグラスを掲げる。
「それじゃ、今日は来てくれてありがとう」
「こ、こちらこそ、呼んでくれてありがとう」
「「乾杯」」とグラス同士を軽く合わせると、チン、と澄んだ音がした。
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