上 下
6 / 77
スイセンの花

6.当惑

しおりを挟む
 仕事柄ほとんど家に居る僕にとって、外界との繋がりはこの前のパーティーの時のような不測の事態を除けば、趣味でやってるゲームくらいだ。
 TRIUMPHトライアンフ
 3人1チーム、複数のチームで最後の1チームになるまで銃撃戦を行う。バトルロイヤル形式の一人称視点シューティングFPS
 仕事が一区切りついて、次の仕事を始めると多分結構時間を取られる。そういうちょっとだけ息抜きしたい時に一戦単位でプレイできるから気に入っている。
「あ、今出ない方がいい」
 VCボイスチャットを繋いで、誰とも知らない相手に言いながら戦況を見る。了解の意を表すエモート。
 こっちが喋ってるのに相手が無言だと、少し気まずい。気まずいし、戦況共有ができないのは結構辛い。でも勝ちたいのはみんな一緒だろうし、必要なことは喋るよ、僕は。
 数少ない他人との会話の機会でもあるし。
 他人と話すことなんて、下の花屋さんと、クライアントとたまにオンラインで打ち合わせするくらい。大概がメールとチャットで済んでしまう。
 それ以外にコミュニケーションをとることがあまりにもなさ過ぎて、言葉を忘れてしまいそうになる。だからこうして喋る機会を設けているんだ。自分なりに。
 たまには外に出ないといけないとは思うんだけど、用事もないし、理由もない。
 仕事柄、勤め人のように定時という時間的拘束がないかわりに休みという概念もない。
 こうして引きこもって仕事なのかプライベートなのか線引きがあやふやな生活を続けていると、どんどん世俗と距離が離れてきて、余計に出るのが面倒になるという悪循環が続いている。
 まぁ、生来の出不精だし、自分の知識だけで生きていく分は稼げているんだから必要性も感じていないというのが正直なところだ。
「ごめん、フォロー厳しい」
 チームメイトが突出して遠方でダウンしてしまった。
 助けに行きたいけれど、それを許してくれるほど甘くない相手。助けに行ってたら多分、僕はともかくもう一人が囲まれて二次災害が起こる。
 結局、地形と数の優位を取られて膠着している内に後方から挟み撃ちにあってなし崩し的に負けてしまった。
 ランキングは8位。上から数えた方が早いけど、優勝には程遠い。
 まぁ、こんなことはざらにある。
 マッチ画面に戻って、いつもはプレイを振り返ってのほんの少しの雑談があったりするんだけど、最初に聞こえてきたのは「ちっ」というあからさまな舌打ちだった。
レジェのくせにフォローもできねぇのかよ』
 突出してダウンした彼は一言そう言ってマッチから抜けてしまった。ダウンして以降、回線を切断もせずに彼は僕かもう一人の目線から戦況を見てたはずだから、状況はわかってたと思うんだけど、それを覆すだけの力が僕一人にあるとよほど期待していてくれていたらしい。
「うん、ごめんね」
 もう居ない相手に謝っても仕方ないんだけど、ついそう返して「ふぅ」と短くため息を吐く。
 もう一人の人も「また良ければ」と短く挨拶だけして退出してしまって、僕は一人だけマッチ画面に残された。VCの意味、とは…。
 このままにしておいたらまた次のプレイヤーとマッチングしてしまう。
 もやもやしたものを抱えたままメニューに戻ってヘッドセットを外した。
 固まっていた筋肉をほぐすように伸びをする。
 こういうことも、まぁ、ざらにある。顔も名前も知らない相手だから。
 フォローに行けなかったのは事実だし。
 自分に言い聞かせて顔を上げると、先日買った白い花が目に入った。
 紐づけられたようにあの花を見かけた時の感情が思い出されて、無性に彼に会いたくなった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

異世界転移して岩塩を渇望していたらイケメン冒険者がタダでくれたので幸せです

緑虫
BL
#食欲の秋グルメ小説・イラスト企画 用に書き始めたら何故か岩塩メインになった短編(多分)です 母親の葬儀の後、空っぽになったイクトは目が覚めると異世界転移をしていた。異世界転移先で監督者のおじさんローランとスローライフを送っていたが、塩の入手が困難で実はかなり塩味に飢えていた。 そんな時、ローランの息子で冒険者のユージーンがふらりと立ち寄り……? エロなしです!

平凡腐男子なのに美形幼馴染に告白された

うた
BL
平凡受けが地雷な平凡腐男子が美形幼馴染に告白され、地雷と解釈違いに苦悩する話。 ※作中で平凡受けが地雷だと散々書いていますが、作者本人は美形×平凡をこよなく愛しています。ご安心ください。 ※pixivにも投稿しています

【完結】運命さんこんにちは、さようなら

ハリネズミ
BL
Ωである神楽 咲(かぐら さき)は『運命』と出会ったが、知らない間に番になっていたのは別の人物、影山 燐(かげやま りん)だった。 とある誤解から思うように優しくできない燐と、番=家族だと考え、家族が欲しかったことから簡単に受け入れてしまったマイペースな咲とのちぐはぐでピュアなラブストーリー。 ========== 完結しました。ありがとうございました。

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

フローブルー

とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。 高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。

俺にはラブラブな超絶イケメンのスパダリ彼氏がいるので、王道学園とやらに無理やり巻き込まないでくださいっ!!

しおりんごん
BL
俺の名前は 笹島 小太郎 高校2年生のちょっと激しめの甘党 顔は可もなく不可もなく、、、と思いたい 身長は170、、、行ってる、、、し ウルセェ!本人が言ってるんだからほんとなんだよ! そんな比較的どこにでもいそうな人柄の俺だが少し周りと違うことがあって、、、 それは、、、 俺には超絶ラブラブなイケメン彼氏がいるのだ!!! 容姿端麗、文武両道 金髪碧眼(ロシアの血が多く入ってるかららしい) 一つ下の学年で、通ってる高校は違うけど、一週間に一度は放課後デートを欠かさないそんなスパダリ完璧彼氏! 名前を堂坂レオンくん! 俺はレオンが大好きだし、レオンも俺が大好きで (自己肯定感が高すぎるって? 実は付き合いたての時に、なんで俺なんか、、、って1人で考えて喧嘩して 結局レオンからわからせという名のおしお、(re 、、、ま、まぁレオンからわかりやすすぎる愛情を一思いに受けてたらそりゃ自身も出るわなっていうこと!) ちょうどこの春レオンが高校に上がって、それでも変わりないラブラブな生活を送っていたんだけど なんとある日空から人が降って来て! ※ファンタジーでもなんでもなく、物理的に降って来たんだ 信じられるか?いや、信じろ 腐ってる姉さんたちが言うには、そいつはみんな大好き王道転校生! 、、、ってなんだ? 兎にも角にも、そいつが現れてから俺の高校がおかしくなってる? いやなんだよ平凡巻き込まれ役って! あーもう!そんな睨むな!牽制するな! 俺には超絶ラブラブな彼氏がいるからそっちのいざこざに巻き込まないでくださいっ!!! ※主人公は固定カプ、、、というか、初っ端から2人でイチャイチャしてるし、ずっと変わりません ※同姓同士の婚姻が認められている世界線での話です ※王道学園とはなんぞや?という人のために一応説明を載せていますが、私には文才が圧倒的に足りないのでわからないままでしたら、他の方の作品を参照していただきたいです🙇‍♀️ ※シリアスは皆無です 終始ドタバタイチャイチャラブコメディでおとどけします

ホントの気持ち

神娘
BL
父親から虐待を受けている夕紀 空、 そこに現れる大人たち、今まで誰にも「助けて」が言えなかった空は心を開くことができるのか、空の心の変化とともにお届けする恋愛ストーリー。 夕紀 空(ゆうき そら) 年齢:13歳(中2) 身長:154cm 好きな言葉:ありがとう 嫌いな言葉:お前なんて…いいのに 幼少期から父親から虐待を受けている。 神山 蒼介(かみやま そうすけ) 年齢:24歳 身長:176cm 職業:塾の講師(数学担当) 好きな言葉:努力は報われる 嫌いな言葉:諦め 城崎(きのさき)先生 年齢:25歳 身長:181cm 職業:中学の体育教師 名取 陽平(なとり ようへい) 年齢:26歳 身長:177cm 職業:医者 夕紀空の叔父 細谷 駿(ほそたに しゅん) 年齢:13歳(中2) 身長:162cm 空とは小学校からの友達 山名氏 颯(やまなし かける) 年齢:24歳 身長:178cm 職業:塾の講師 (国語担当)

処理中です...