【R18】BL短編集

【完結】頭が痛いと言ってくれ！【閲覧注意/催眠】

1

頭が痛い。
「今度のプロジェクトは難しすぎて頭が痛いよ」とか、そういうんじゃない。
物理的に、頭が痛いんだ。
社会人になって少しして、くらいからだったと思う。
なんとなく頭が痛い日が続くなぁって所から、なんだかんだで彼是数年の付き合いになる頭痛は、程度の差こそあれほとんど毎日俺の頭の中に居座っている。もはや相棒と言ってもいいくらい俺の生活に馴染んでしまった存在だ。
痛い。毎日痛い。重いだけの日はまだ救いがあると思えるくらい、毎日痛い。
当然色んな病院にも行ったし、きちんとした検査も受けた。でもどこの病院でも「異常なし」「おそらく心的要因」「自律神経が」と言うような診断で痛み止めを処方されるだけで、根本的な解決はできないみたいだった。
心的要因を解消するような科にも一時期通ったけど、良くならない頭痛と、それを訴えると増えたり変わったりする薬の副作用との二重苦になっただけだったので通うのをやめた。
それにしても、今日は特に酷い。
手元の書類に集中しようとしても、左側から脳を無理矢理押し潰してしまおうとするような重い痛みのせいで集中力が霧散してしまう。
「高坂、どう思う？」
チームミーティング中。かろうじて呼ばれたことには気が付いてのろのろと顔を上げたものの、これまでの話が全く入ってきていなかったせいで返答が出来なかった。
言い淀んでいる俺を今回のプロジェクトの責任者である江國課長が怪訝そうに見ている。
申し訳ないなと思う反面、これに呆れてプロジェクトから外して貰えるかもしれないという期待も込み上げてきて、複雑な気持ちのまま「…熟考してからお返事したいです」と曖昧な返事を返してしまった。
「なら、また聞かせてくれ」
そう声を掛けられたのが期待されていると感じて嬉しい反面、こんな状態ではきっと期待には応えられないと恐ろしくもあった。




「高坂。お前、大丈夫か？」
ミーティング後の喫煙室。
心配気に眉尻を下げた表情で課長がタバコを持っていない方の手を俺の額に当てた。別に熱があるわけではないはずなのに、その手はひんやりと気持ち良くてほんの少しだけ頭痛が和らぐ気がする。
「熱はなさそうだが…無理をしてるだろう。最近ずっと調子が悪そうだ」
確かに、ここの所特に辛い日が続いてる。もう何年も付き合ってるせいで痛み止めもあまり効かなくなってきてるから今日みたいな日は確かに無理してるとは思う。
けど、頭痛が原因で休んでしまったら、その先もうずっと仕事に来れなくなるような気がして怖いんだ。だって毎日痛いんだから。
「…また頭痛か？」
以前ほんの軽く頭痛について話してしまったせいで、課長は殊更俺のことを気に掛けてくれている。ただただ申し訳ない。何で話しちゃったんだろう。
「顔色も良くない。食事はちゃんととれているのか？」
がんがん響く頭に課長の涼やかな声が気持ちいい。ずっと喋っててほしい。
でも会話を繋げる気力もなくて、苦笑いで「大丈夫です」とだけ答えると、課長はほんの少し悲しそうに目を細めて小さくため息を吐いた。
沈黙が落ちて意識するところが無くなるといよいよ頭痛の自己主張が激しくなってくる。がんがんがぐわんぐわんになって、あまりの痛みにぐらぐらと眩暈がし始めた。
「うﾞ…」
ちょっと、…まずいかもしれない。
足元がずぶずぶ沈んでいくような錯覚を覚えて、慌てて何か縋るものを探して手を伸ばす。
「おい、高坂？おい！」
課長が咄嗟に身体を支えてくれたおかげでみっともなく倒れ込むということは免れた。
けど、冷や汗が噴き出すほどの激痛と眩暈にまともに立つことすらできなくて、前触れもなく身体を預けてしまったせいでそのまま課長を下敷きにするみたいな形でずるずると喫煙所の床に座り込んでしまった。
「すみませ…っ」
スーツが汚れる…っ
「いい、喋るな…っ」
ぎゅ、と視界を遮るように肩に頭を抱き込まれた所で、意識が途絶えた。