【R18】BL短編集

【完結】部屋とワセリンと鋏【甘め/鏡】

21*

「―――――…ッ！！」
脳が痺れて、耳の奥で「ばちん！」と派手な音がした。
あ゛、のーみそわれたぁ…
目の前が真っ白になって、肌の境が曖昧になって、全身が膨張してしまったみたいに意識があやふやに膨らむ。
あれだけ暴れていた身体がくしゃくしゃにしたシーツを縋るように搔き抱いて硬直する。
息が止まって、声を出すことも、動くこともできない。口だけがただ酸素を求めてはくはくと震えている。
「…ッ、く…‼いぬづか…ッ!!」
一番奥だと思っていた、擽られるだけで身体が跳ねてしまうような壁を穿ったそのさらに奥に及川が居る。中でびくびく震えて絶え間なく快感を送り込んでくる。
「!!…ッ！……！―――!!」
つらいっ、きもち、よすぎて…ッおかしくなる…!!
及川に「抜いて」とか「動かすな」とか、とにかく制止の言葉が掛けたいのに声が出ない。逃げようにも腰は押さえつけられているし、なにより身体が動かない。
「………ッ、……っ」
犬塚の声が聞こえる。でも何て言ってるのか理解できない。
快感が強すぎるせいか、酸素不足のせいかくらくらと眩暈がし始めて、突然、意識がふわっと浮き上がるような浮遊感に包まれた。
「はひ…ッ」
込み上げてくる快感の濁流が背筋を駆け上がり、ぼやけた脳の中を無遠慮にかき混ぜる。
一頻り高い所まで放り投げられた意識がぱちんっ、と弾けた瞬間、置いてけぼりになっていた思考が急にクリアになって、全身がぎくんっと強張った。
遅れて、がくがくと全身が痙攣し始める。
「あ゛アア゛!!あ゛！ああぁアア゛!!あぁア゛ア゛!!」
胸の辺りで堰き止められていた声がようやく解放されて絶叫が迸った。
突然の浮遊感に、不随意に跳ねて自由にならない身体を必死に動かしてシーツを掻き抱く。
まくら、まくらどこだ、まくら…！
「ああ゛！あ゛ひッ、こわ…ッ！こわい゛！！おぢるぅ゛!!」
もう、気持ちいいとかじゃない。こんな、頭の中どろどろのぐちゃぐちゃにかき混ぜられて、脳みそ放り投げられて。
「…ッ、だいじょうぶ…ッ！くッ、落ちない。犬塚、落ちない…！」
過ぎた快感に恐怖すら感じてなりふり構わず縋るものを探す俺の右腕を、及川が後ろから捕まえた。後ろに引き上げられて、身動きが取れなくなって、もうそれに縋るしかない状態。
俺は快感の奔流に流されないよう、腕を掴む及川の肘の辺りに爪を立てて反対の腕ではくしゃくしゃになったシーツを抱え込んだ。
「…は、いぬづか、かわい…っ」
花火みたいにぱちぱち頭の中で弾ける快感の隙間に、熱に浮かされたような湿っぽい声が滑り込んでくる。半ば半狂乱になって何かに縋ろうとしている俺のが姿がお気に召したらしい。相変わらずびくびく跳ねている腹の奥がぐりっと抉られて、冷気を纏ったような鋭い快感が脊椎を駆け上がった。
「ひぁ゛ア！」
性急に込み上げてくる絶頂の一番高い所で、また、パッと手が離されたような浮遊感。血の気が引くように頭の芯がひんやりと冷えるのに、身体はどんどん熱くなって腹から耐え難い快感が湧き出してくる。
降りれない。
気持ち良すぎて、気持ちいいしか考えられない。気持ちよすぎて怖い。ずっと落ちてるのにずっと浮いてる。怖いのにずっとイッてる。
いよいよ脳みそがバグって腹の底から「あへっ」とはしたない笑いが込み上げた所で、あろうことか及川は俺を滅茶苦茶にしてる奥の所をぐぽぐぽと抉るように抽挿を始めた。