【R18】BL短編集

いろあす

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【完結】開発事業は突然に【鬼畜/視姦】

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 抱きしめられたまましばらく二人ではぁはぁと息を落ち着かせて、ようやく呼吸が正常になって来たところで、高峰がぽつりと呟いた。
「…やっと手に入れた」
 落ちてきたその呟きに、すっかり活躍の場を無くしていた思考能力が「はい?」と顔を出した。まだ正常ではなさそうだけど。
「…最初は偶然だった。狭い部屋に住みたくて、開発予定地区の調査も兼ねてあの部屋を借りた」
 突然始まった独白に興味を引かれて、先を促すように高峰の腕の中からその顔を見上げる。震える身体の動作チェックは後回しにすることにした。
「正直、あの地区まで手を広げるかは悩んでいたんだが…。お前を初めて見た瞬間、手に入れたいと思った。私のものにしたいと」
 抱き寄せた俺の頭のてっぺんを嗅ぐように顔を埋めながら高峰が囁く。
 ん?それは、土地の話?じゃないよな。
 俺の勘違いじゃなかったら、それって遠回しに俺に一目ぼれしたって言ってない?気付いてないのこの人。
 高峰は指先で俺の頬を撫でて、額にちゅ、と唇を押し付けた。それがちょっとくすぐったくて身を捩ると、俺を抱き込む腕に少しだけ力が籠る。
「…狭い部屋に住みたいって…。矛盾してませんか?こんな豪邸建てといて」
 怖いもの見たさですか。あぁそうですか。お気に召しましたかね。
 いや、そう言えば高峰はもう5年くらいあそこを借りてくれていたはずだ。興味本位ならそんなに長いこと借りる必要ないだろ。
 …ということは俺5年も前から狙われてたの?え、怖い。
「見栄がものを言う商売だからな。開発屋が下手な家に住むわけにはいかない。こんな家に一人で住む侘しさが想像できるか?」
 抱き込まれた胸の鼓動が徐々に落ち着いてきて、どくどくと煩かった心音の代わりに高峰の声がはっきりと聞こえるようになった。
 それは、そうかもしれない。8畳の部屋で十分暮らしている俺からするとこの家は確かに、持て余す。
「まぁ、そう、ですね。…それで、俺を家なき子にしてあんな無茶な契約結んで手に入れて、満足ですか?」
 おまけに手籠めにもされた。最高の人生の転機だ。
 腕の中でもがいてやりながらその目を睨みつけると、高峰はちょっと困った風に眉尻を下げてその視線を受け止めた。
「満足だ。契約でもしないとお前を縛れないだろう。本当は仕事も辞めさせて閉じ込めておきたい。お前たち一家を養うなど、簡単なことだ」
 閉じ込められると精神衛生上困ると思うので勘弁してください。よかった、問答無用で辞めさせられなくて。
 それにしても、高峰が俺と弟妹達をセットで考えてくれているのは意外だった。俺一人の事しか考えてないのかと。
 どうやら、根っからの鬼畜ではないらしい。
「お前が私を見送って、出迎える。それだけで私はこの家に帰ってくる意味を見出せる」
 高峰は腕を緩めて少しだけ身体を離して、目を細めてうっとりと微笑んで俺を見た。
 初めて見る表情に、どきっと胸が跳ねた。
 そ、そんな、今日の幸せ全部詰め込みましたみたいな顔しないでくれ。
「し、ばる、とか…。そういうんじゃなくてもっと別方面から攻めて欲しかったです。これじゃまるで奴隷ですよ」
 動揺を悟られないように目を逸らして捲し立てると、高峰は「ふむ」と息を吐いて考えるように視線を彷徨わせた。
「だが、生憎私は他の方法を知らない。契約が全てだし、契約のない関係を知らない」
 …なんだそれ、寂しすぎないか?
 普通契約のない関係が当たり前なんじゃないの?まぁ、だからこそ抉れたり面倒なことになることだってあるけど、人間関係って、書面の上でやるもんじゃないだろ。ないからこそ自発的に相手に利の有る行動を取ろうとするのが思いやりとか、そういうので。だからこそ温かい気持ちになれるんだ。
 高峰はそれを知らないんだろうか。
 その心中を想像して、胸が疼く。
 …教えてやりたいな。
「まぁ、とりあえず契約には従いますよ。でも、「命令」じゃなくて「お願い」が聞きたいです。…なにかありませんか?」
 手始めにそう聞いてみた。
 高峰は難しい顔をして黙り込んだ。口の中で「おねがい、おねがい」と呟いている。
 抱き込まれた胸から聞こえるとくとくという規則正しい音が少し早くなった。
 少しの間沈黙が降りて、高峰が伺うように俺と目を合わせる。
「……笑わないか?」
 …ごめん、今笑いそうだ。
 さっきまで自信満々というか、泰然自若というか、怖いものなんてありませんみたいな顔してたやつが何言ってんだ。
 眉をハの字に下げて少し不安気に言う高峰に、ちょっとだけ悪戯心が芽生えた。
「どうでしょう。確約はできませんね」
 なんせ下手な口約束して思わず笑ったりした日には、それでもう契約違反だからな。
 に、と口の端を引き上げて返すと高峰はくす、と苦笑いをした。
「賢くなったな。私に感謝しろ」
 いや、ホント。もっと優しく教えてくれたなら感謝もするんだけどな。ちょっとスパルタすぎなんだよ。
「凝りましたよ。…それで?」
 促すと、高峰は苦笑いを引っ込めて少し緊張したような顔をしてこくん、と音をたてて唾を飲み込んだ。
 たっぷりの沈黙の後、
「…、「いってらっしゃい」と、「おかえり」のキスをし…て、欲しい」
「…っ!!」
 今、「しろ」って言いかけたのは置いといて、ちょっと想定外の“お願い”に胸がきゅぅんと締め付けられた。
 か、可愛い…!
 こいつ鬼畜のくせに、ペース乱されたらこんな風になるのか。ギャップが凄まじい。
 いや、むしろ契約契約言ってる時気を張ってるだけで、案外こっちが素なのかもしれない。そうなら、俺は断然こっちの方が好きだ。
「そんなことならいくらでも。何なら「おはようございます」と「おやすみなさい」もつけますよ」
 高峰のキスは、嫌いじゃない。
 優しくて、気持ち良くて、身体の力がとろんと抜けてしまうみたいな。
 いや、「おかえりなさい」はともかく、「いってらっしゃい」ってあんなとろとろにされるキスした後出勤して、俺使い物になるか?これは、要相談だ。
 俺の言葉に高峰は顔を輝かせて、ぎゅうっと俺を抱く腕に力を込めた。
 肌と肌が密着してお互いの鼓動をとくとくと感じる。
「では、「抱きたい」もキスで“お願い”することにしていいか?」
 悪戯っぽい、それでいて伺うような声色。腕の中から見上げると、じっとこちらを見下ろす目と目が合った。
 それいいよって言っちゃうと俺多分毎日どろどろにされないか?いや、高峰だけ「抱きたい」だなんて一方的だろ。
「それはフェアじゃないです。「抱きたい」をつけるんだったら「抱いて」もつけ…」
 ちょっと待った!ちょ、考えてからものを言えよ俺!
 これじゃまるで俺の方から「抱いて」ってお願いする気がありますよって言ってるようなもんじゃないか。
 言い淀んで口を噤んだ俺を抱く腕にぎゅっと力が籠って、高峰はちょっと強引なキスをしてきた。
 ぢゅっ、と唇を吸われて、背中を搔き抱かれて、満身創痍で脱力していた身体がぎくんっと強張った。
「ん、っン!…ぷぁ、ッ、“おやすみなさい”!」
 あとはもう明日だ!



 次の日、高峰は真剣な顔をして新しい契約書を持って帰って来た。
「8条を更新したい。確認してくれ」

 第8条 その他の規定
 8.1 甲乙双方は、お互いの理解に務め、協力し、できる限りお互いの要望を叶えることを目指します。双方は円満な関係を築くために必要な対話と調整を行い、問題が発生した場合には相互に寛容な態度を持ちます。

「要約すると、お互い尊重し合って、話し合いをしよう、と…」
 ちょっと不安気に俺を見る高峰にまた胸がときめいた。
 なんかもう絆されちゃって、契約書とかいいんだけど、これがこの人なりの築き方なんだろう。
 ちょっとずつ更新して、最後は約束で契約を破棄したいなと思う。


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