ガンズ・アンド・シッスル

前原博士

文字の大きさ
上 下
8 / 27

インターミッション Bullet for My Birthday

しおりを挟む
「まァその、なんトいうカ、簡単に言うとダ サプラーイズ?」
「…………」
 さてリベルタの混乱はいかばかりだろうか、客から宝探しの依頼を受け、謎のネイティブニンジャに追いかけられ、ニンジャマスターに指を詰められ、挙句に逃げ込んだ遺跡船の中でハッピーバースデー?

「もー!頭がおかしくなりそう!だいたい、誕生日はもうとっくに過ぎてるし!どうなってるの!?」
「落ケ着けってリベルタ 俺ダってコんな形でココに来るコとニなるとハ思ってモ無かっタ ほら、アいツが死ぬ直前に連絡がアっだろう?
 この星ニ来なさイって アイツはこの場所ガいたく気にイってなぁ コこでパーティーを開コうって言イ出しタんだよ」

「はぁー…… イカれてるけどパパらしいわ……」
「7つのお祝イの時ハ無人島で暴風雨ノ中で祝ったナぁ!」
「8才の時なんか戦場でケーキを焼いたわ 火炎放射器の燃料で」
「良イ思いでダ」
 少女は沈黙と憮然とした表情で答えを返した。
「マァマァ、ふテくされるナよ 今回のハまぁマシな方だろ?」
「外でニンジャが私を狙ってなければね それで、あいつらも狙ってたお宝ってなに?」

 格納庫の一部のライトが出し抜けに点灯し、一箇所にスポットライトが当たる。
 そこにはマルティニのオフィスで見たピラミッド型の物体が鎮座しており、手書きの文字で''ドレッドホークより、リベルタへ''と書かれていた。
 リベルタが手を触れようとしたとき、かすかなアコースティックギターの音と共に音声が流れ始めた。
<<あー、あー うっ、ううんっ よし、もう回ってるな?
 あーこの音声は念のために録って置いたものだ 
 念のためってのは……ほら、俺はガンマンでいつ死ぬか判らないだろ?
 ガンマンってのは突然死ぬもんだ

 撃たれたりとか銃の暴発とか、崖から落ちるとか、酒の飲みすぎとか性病とかで簡単に死ぬ
 あー、最後のは無しだ 聞かなかったことにしてくれ>>

 流れ出した声は伝説的ガンマンでリベルタの父親であるドレッドホークの声だった。
 少女は驚きのあまり口を両手で塞いだまま硬直していた。

<<あーそうだこれ言っておかないとな この音声を聞いてるって事は多分俺は死んだんだろう
 だがリベルタ、君には強く生きてほしい……これって最初にいれるべきだったか?
 とにかくだ、俺がいつも言ってるようにお前は誰よりも強くなってほしい
 強いってのは単に撃ちあいで負けないって事じゃない
 誰かを助けたりとか何か世の中のためになる事をするのも強さだ 

 パパはお前をいつも助けてる もちろんお前だってパパのことを助けている
 だから俺たちは強いんだ
 ええと、何を言いたかったんだっけ? そうそう、誕生プレゼントなんだがな
 毎年銃だのミサイルだのってんじゃ面白くないからな
 今年は取って置きのを入れて置いた 空けてびっくりしてくれよ そしてそれを…… 
 良いことのために使え、リベルタ それじゃぁな、ドレッドホーク、アウト>>

「パパ……」
 神妙な面持ちで聞いていた少女の瞳が潤み、涙が頬に橋を作る。
 小さくえづきつつもそっとピラミッドに手を伸ばした。

<<そうそう、一応銃のほうが良かったって言われたときのために銃も用意してあるぞ、心配するなよ!
 ああ、あと俺が居なくてもちゃんと歯は磨いて、髪の毛も毎日梳かすこと、いいな? よしそれじゃぁ今度こそ…>>

「パ、パパ……」
<<最後にもうひとつ!実はお前の隠してたババロアケーキを食べたの俺なんだ すまない!許してくれ!! レッドホークアウト!>>

「…………パパ」
「あーそノ何ダ…… まぁ奴ハあマリ良イ父じゃぁ無いナ……」
「最悪」

 Beep!Beep!Beep!船内のブザーが突然鳴り始めた。同時に船がかすかに振動する。
「外壁のドアガ開いてテる! クそっやっパりか!」
「閉じられないの!?」
「ダメだ 精一杯妨害はしてるが、マスターキーが使わレてル、すぐにコこに来るゾ 忘レたノか? そもソモ、この船の持ち主ハあいつラなんだ」
「ねぇパパが言ってた銃って?」
「アレだ」

 その言葉と同時に少女の居る貨物室の壁が音を立ててスライドしていく。
 そこはウエポンラックとなっており10丁ほどの銃器やナイフ、それに新品のカウボーイハットまでが、まるで工芸品の用に美しく飾られていた。
「わお…… これなら軍隊とだって戦えるわ」
 まだ血の流れ出る指の断面をテープで巻き、帽子を新品に交換した。ブーツの紐を結びなおし、ソードオフショットガンを背中につるし、ナイフを胸ポケットに突っ込み、そして自分の身長ほどもある巨大なキャノン砲を抱え上げる。
 砲のエンジンを温め、今まさに開こうとしているドアの前に少女は仁王立ちで構えた。

「さぁ来なさい、何人でも! 一人残らずぶっ殺す!」
「ま、まってくれお姉さん! 戦うつもりは無いんだ」
「はぁ?」

 小柄な三人のニンジャ達がサイバーヘルメットを外す。
 まだ幼さのこる少年……そう、昨晩スラムのはずれで出会った物売りの少年たちだ。
 さらに奥に居たボロを被った人物は故買商の老人であった。

「あんたたち、どうして?」
「僕らと長老は止めに来たんだ!ZEROや皆の事を!」「争って奪い合っても何も解決にならない」
「それじゃぁマルティニの連中と一緒だって!」

 リベルタはめまいを覚えた。一体何がどうなっているのか理解の範疇を超えていた。
 どうしてこいつらは自分の誕生日プレゼントを奪い合ってるのだろうか。
「はぁ……もう全然わかんない事だらけなんだけど…… アレは私の誕生日プレゼントよ!?パパは一体何をしてくれたわけ?」
「…… プレゼントだと…… そうか、自分の目で確かめると良い」
 と足を引きずり、ボロボロのスーツでZERO-NEMOが促した。
 リベルタはいぶかしみつつもキャノンを向けたまま下がり、例のピラミッドの位置まで来た。
 はたしてその中身とは……

 ジャジャーン!!
 安っぽい電子ファンファーレに一瞬体を振るわせつつも中身を確認する。中には一枚の紙が入っておりこう書かれていた。

---- 株式会社 マルティニ・ウェポン・ホールディングス ----
       壱百万株  IC第04786号
      本株券は当会社の定款により
      この株券所持者が上記株数
      の株主であること証する
 株式会社 
マルティニ・ウェポン・ホールディングス 
   代表取締役 マルティニ・ラッセル

「何コレ」
「見テの通り、株券ダな しカも百万株だ!ソんだケあリゃァ、あのクそ髭のおっさンも土下座するダロウな」
「弾一発分も興味ない はぁ~こんなもんのために争ってたわけ?ばっかじゃないのっ!?」
「我々には意味がある」
 ZERO-NEMOが続ける。

「それがあればマルティニの支配から抜け出すことが出来る」
「でもそれって結局マルティニの庇護下に居るってことでしょ?」
「仕方が無い タタラ社は我々を解雇した ワタシは戦士だが多くの者は違う 彼らを生かすのが戦士の使命だ」

 沈黙が訪れた。リベルタはそこらの荷物の上に座り込み、大きくため息をついて空を見上げた。
「あーもー ……パパ、あんたのせいでなんかもう滅茶苦茶よ……」
 心底疲れ果てた様子でやっとこ腰を上げリベルタは髪の毛をかきむしりながら、もう一度、これ見よがしに大きくため息をついた。
「パパの遺言でよいことのために使えって言ってたもんね それにあのウィリアムとかいう親父の土下座も見たいし」

「じゃ、じゃぁ!」「僕たちを助けてくれるのお姉さん!?」
 固唾を呑んで押し黙っていた少年たちの顔が明るくなった。驚きと喜びの混じった複雑な表情だ。
「ま、まぁ…… 仕方ないじゃん それとあたしはリベルタだよ」
「ありがとうリベルタ!」「これで皆が助かる!」「ありがとう!ありがとう!」
「あたしからも礼を言うよリベルタ」
「あー、あなた故買商の…?」
「その人は僕らの長老だよ 長老は紙切れのために争うなってみんなを説得してたんだけど皆出ていちゃって……」

「……」 
「何とか言いなさいよZERO-NEMOー」
 そっぽ向き、腕を組んで押し黙ったままのニンジャにリベルタが追い討ちを掛ける。
 この騒動の首謀者は間違いなくこの男だ。

「ワタシはすべきことしただけだ…… その、すまない
 私が知っていたのは中身のことだけだったのだ まさかお前の物だとは……」
「まぁいいよ もうどうでも良くなって来ちゃった さっさと帰って終わりにしよう」

<<<BEEEP!BEEEP!BEEEP!BEEEP!>>>
「な、何事!?」
 突如船内に赤い警告灯がともり、非常を告げる不穏な電子が響いた。
<<<コウゲキテキ エネルギー ハンノウ ケンチ コウゲキテキ エネルギー ハンノウ ケンチ >>>
<<<BEEEP!BEEEP!BEEEP!BEEEP!>>>

 衝撃音と共に船が大きく揺れた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

続・歴史改変戦記「北のまほろば」

高木一優
SF
この物語は『歴史改変戦記「信長、中国を攻めるってよ」』の続編になります。正編のあらすじは序章で説明されますので、続編から読み始めても問題ありません。 タイム・マシンが実用化された近未来、歴史学者である私の論文が中国政府に採用され歴史改変実験「碧海作戦」が発動される。私の秘書官・戸部典子は歴女の知識を活用して戦国武将たちを支援する。歴史改変により織田信長は中国本土に攻め入り中華帝国を築き上げたのだが、日本国は帝国に飲み込まれて消滅してしまった。信長の中華帝国は殷賑を極め、世界の富を集める経済大国へと成長する。やがて西欧の勢力が帝国を襲い、私と戸部典子は真田信繁と伊達政宗を助けて西欧艦隊の攻撃を退け、ローマ教皇の領土的野心を砕く。平和が訪れたのもつかの間、十七世紀の帝国の北方では再び戦乱が巻き起ころうとしていた。歴史を思考実験するポリティカル歴史改変コメディー。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【VRMMO】イースターエッグ・オンライン【RPG】

一樹
SF
ちょっと色々あって、オンラインゲームを始めることとなった主人公。 しかし、オンラインゲームのことなんてほとんど知らない主人公は、スレ立てをしてオススメのオンラインゲームを、スレ民に聞くのだった。 ゲーム初心者の活字中毒高校生が、オンラインゲームをする話です。 以前投稿した短編 【緩募】ゲーム初心者にもオススメのオンラインゲーム教えて の連載版です。 連載するにあたり、短編は削除しました。

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

処理中です...