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チャプター2 犬たちと横になれば、 ノミとともに目を覚ます #2
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暗い路地裏に響く断末魔の声。
あまりにもありがちな展開だ。だからリベルタもさほど驚くこともなく、むしろ愉快気に路地を覗きこんだ。
こんな所で殺されるまぬけはどんな奴だろうか?
まず目に入ったのは暗がりの中、空中に浮かび上がり、手足をバタつかせるスーツの男。
何かに串刺しにされ腹から血を垂れ流している。身なりからして先ほどのマルティニ社の兵士のようだ。
闇によく目を凝らすと、影に溶け込むように黒い流線型の人型が浮かび上がる。
スキューバダイバーの様にメタリックな質感で、それがボディスーツのようなものなのか、それとも全身にサイボーグ手術を施した人物なのかは判別が付かない。
このメカニカルニンジャは手にした刀で人間を串刺しにして吊り上げているのだ。
「わお超クール!」
「あリャァタタラ社の装備ダな、しかモ高級品だ あー、データを照会シたぞ コいつが例の殺人鬼に間違イなサそうだ」
「本物のニンジャ初めて見た!」
はしゃぐ少女を尻目に、ニンジャは事切れた男を放り捨てる。
見れば周囲にはさらに数人の死体と破壊されたマルティニ社の四脚兵器が転がっていた。
ほとんど反撃した様子もない所をみると奇襲をかけられたのだろうか。
「どうスんダ? ここデヤるのか?」
「さぁ、あいつの出方次第!」
恐るべき殺戮の惨状をみても余裕の顔で腰の銃に手をかける。この世界でガンマンを名乗るからにはそれなりの腕と行動が必要なのだ。
「マルティニの者ではないな? ワタシの邪魔をするな」
おそらくは肉声ではなくスピーカーか何かを通しているのだろう、機械的な、抑揚の無い冷たい声だった。
ニンジャは横たえた死体の首を切り落とし、さらに頭の皮を剥ぎ取った。
「なにしてんのあれ……」
流石の少女ガンマンも引き気味だ。
「アー、マルティニ社の社員は頭部皮下にライン端末を着けテるカらそれヲ奪ってるんジャないカ?」
「もう一度だけ言う ワタシの邪魔をするなカウガール」
「ねぇ、あんた名前は?」
少女の問いかけに初めて男は顔をコチラに向けた。明らかに人間の首の稼動域を超えている。
しかもそこに顔は無く、赤く尾を引いて光るモノアイがあるだけだ。
「名を聞かれるのは初めてだ ワタシはZERO…… ZERO-NEMOだ」
ニンジャはそれだけ言うと、屈伸するように刀を構え、傍らの建物に通る汚れたパイプを切りつける。
猛烈な蒸気が噴出し、狭い路地を満たすとすぐにニンジャの姿は見えなくなってしまった。
「すごっーい! 煙幕! 煙幕だよ!」
「違うンじゃないカナ……」
----------------------
それからリベルタは路地裏を離れ、マルティニ社中央オフィスのある巨大なビルへと入っていった。
外観は無数の尖塔と、偏執的なほどに刻まれた彫刻に彩られたヴィクトリア様式で、百億の歯車と星を何週も出来るほどのパイプをつなげて作った巨大な城だ。
ビルの頂上付近にはサッカーコートほどもある巨大な時計がついており、なんとも親切な事に10km先からでも時間を確認できる。
これから会う人物はその中央部のオフィスで待っているはずだ。
古風なメーターの付いたエレヴェーターはリベルタが入ると、なんの指示もすることなく瞬時に目標の階層へと少女を転送させた。
着いた先はそのフロアが丸ごとオフィスであるらしい。緻密な刺繍のされた巨大な絨毯の敷かれた、広々とした空間に出た。
珍しい調度品を納めた2メートルはあるマホガニー製のショーケースが並び、巨大な黒檀のオフィステーブルの上には真空管の中に納められた、赤ん坊の握りこぶしほどのサイズの鉱石、アーチファッソルが収められている。
これは実際に動作しているようでプラズマボールのように赤く輝いていた。
そのサイズでこの建物全体を100年は動かせるはずだ。
そしてそのテーブルに腰かけ葉巻を吸う、金のモノクルを掛けた口ひげの男がこの星のボスであるマルティニ社部長のウィリアムだ。
「やっと来たか待ちかねていたよ」
上質な灰色のスーツに着けた、品の良いクリムゾンカラーの蝶ネクタイを直しつつウィリアムは葉巻を灰皿に押し付ける。
「私は先のシェイズ戦争では、君のお父上のドレッドホーク君と共に戦ったよ 彼は本物の英雄だ 実に誇らしいよ」
「あたしもパパと一緒に居たんだけど」
「おおぅ、ハハハハ…… そうか、それじゃぁ私たちは戦友というわけだ、素晴らしい! さて早速だが本題に移らせてもらおう」
「確かお宝探しって聞いたけど」
「そう、君にはアナグマになってもらう 56時間前にとある信憑性の高い噂を耳にした」
「は?アナグマ?」
「ふむ、気にしないでくれ」
彼流の何かのジョークだったのだろう。まるで理解していない様子のリベルタに口ひげをひと撫でして早口で続けた。
「郊外にある前住民の遺跡の中に、ある重要なものが隠されている可能性があるんだ それがこれだ」
ウィリアムのもつ小さな端末からホログラム映像が浮かび上がる。
不鮮明だが何か文字のようなものが書かれた三角形のピラミッドのような形をした物体だ。
「……それ何?」
「ああ、われわれにとっては重要なものとだけ言って置こう 詮索はなしだ、君にはまったく関係ないことだからね」
「ふーん、それでどうしてわざわざ私を使うの?あの古臭いスーツの兵士を使えばいいじゃん」
リベルタはもっともな質問をした
「残念ながら洗練された我が兵士たちは皆、もうすぐ行われる作戦でふさがっていてね
あの忌々しいスラムに居座る、不法居住者を排除するんだ」
「スラムってあの?大勢人が居るのに?」
「やつらは人じゃぁない むしろ人の形をしたネズミか何かだ
早急に対策をするように、株主からも散々言われているのだよ
それに、仇敵のダレル社の連中もきな臭い動きを見せているからな ささっと済ませてしまいたいんだ」
「へぇー まぁどうでもいいけど…… ところで報酬は?」
「よく聞いてくれた!わが社の株を進呈しよう! なんと、100株!」
「……?? それって多いの?少ないの?っていうかその株とかっていうの興味ないんだけど
お金にしてよお金に もしくはあそこにあるでっかい石とか!」
ウィリアムは額に手を当てて大げさに首を横に降った。
「まったく、株の大事さを理解できないとは…… わが社においては株主様こそが特権者であり貴族であるのだよ!
貴族であるからには土地の所有権もある! ちなみに私も1万株を所有している そしてあの石は私の年収より高い」
「はぁ…… 土地とか権利とか言われてもぜんぜん興味ないんですけど」
「ふむ、仕方ない、では相応の金を用意しよう さ、さっさと行って必ず持ち帰りたまえリトルレディホーク」
----------------------
「やれやれー なんていうかめんどくさそうな仕事だねグリップ君」
リベルタはがたがたと揺れる馬車の中で朝日を浴びつつレーズン入りのパンにかじりついていた。
彼女は名もない星でバレットトゥースというお尋ね者にスリーポイントシュートを決め、この星に来てからは薄汚い路地を歩き、ニンジャと出会い、そしてマルティニ社のオフィスで気障な口ひげ男の話を聞き、そのまま一睡もせずにまた馬車に揺られていた。
ガンマンの暮らしとはそういうものだ。タフでなければ勤まらない。
「仕事なンてものはミンなそうサ 悔しイけど仕方ないンだ とこロで遺跡ノ位置なんダが……」
「ん?なに?」
「実ハ以前に行った事ガあルんだ ドレッドホークと一緒にネ」
「へー!お宝探しに?」
「イや宝探しトいうカ…… まぁその、着いてのお楽しミだ」
「………さっきもだけど」
言いかけた所で馬車が不意に止まった。乗り合いの馬車に新しい客が二人。
片腕をガトリングガンに換装した上半身裸の大男と、背にディンキーギターをかついだ痩身の男が加わった。
二人ともあまり良い人相をしていない。
「……なんだか嫌な予感がする」
男二人に左右を挟まれた少女はひとりごちた。
あまりにもありがちな展開だ。だからリベルタもさほど驚くこともなく、むしろ愉快気に路地を覗きこんだ。
こんな所で殺されるまぬけはどんな奴だろうか?
まず目に入ったのは暗がりの中、空中に浮かび上がり、手足をバタつかせるスーツの男。
何かに串刺しにされ腹から血を垂れ流している。身なりからして先ほどのマルティニ社の兵士のようだ。
闇によく目を凝らすと、影に溶け込むように黒い流線型の人型が浮かび上がる。
スキューバダイバーの様にメタリックな質感で、それがボディスーツのようなものなのか、それとも全身にサイボーグ手術を施した人物なのかは判別が付かない。
このメカニカルニンジャは手にした刀で人間を串刺しにして吊り上げているのだ。
「わお超クール!」
「あリャァタタラ社の装備ダな、しかモ高級品だ あー、データを照会シたぞ コいつが例の殺人鬼に間違イなサそうだ」
「本物のニンジャ初めて見た!」
はしゃぐ少女を尻目に、ニンジャは事切れた男を放り捨てる。
見れば周囲にはさらに数人の死体と破壊されたマルティニ社の四脚兵器が転がっていた。
ほとんど反撃した様子もない所をみると奇襲をかけられたのだろうか。
「どうスんダ? ここデヤるのか?」
「さぁ、あいつの出方次第!」
恐るべき殺戮の惨状をみても余裕の顔で腰の銃に手をかける。この世界でガンマンを名乗るからにはそれなりの腕と行動が必要なのだ。
「マルティニの者ではないな? ワタシの邪魔をするな」
おそらくは肉声ではなくスピーカーか何かを通しているのだろう、機械的な、抑揚の無い冷たい声だった。
ニンジャは横たえた死体の首を切り落とし、さらに頭の皮を剥ぎ取った。
「なにしてんのあれ……」
流石の少女ガンマンも引き気味だ。
「アー、マルティニ社の社員は頭部皮下にライン端末を着けテるカらそれヲ奪ってるんジャないカ?」
「もう一度だけ言う ワタシの邪魔をするなカウガール」
「ねぇ、あんた名前は?」
少女の問いかけに初めて男は顔をコチラに向けた。明らかに人間の首の稼動域を超えている。
しかもそこに顔は無く、赤く尾を引いて光るモノアイがあるだけだ。
「名を聞かれるのは初めてだ ワタシはZERO…… ZERO-NEMOだ」
ニンジャはそれだけ言うと、屈伸するように刀を構え、傍らの建物に通る汚れたパイプを切りつける。
猛烈な蒸気が噴出し、狭い路地を満たすとすぐにニンジャの姿は見えなくなってしまった。
「すごっーい! 煙幕! 煙幕だよ!」
「違うンじゃないカナ……」
----------------------
それからリベルタは路地裏を離れ、マルティニ社中央オフィスのある巨大なビルへと入っていった。
外観は無数の尖塔と、偏執的なほどに刻まれた彫刻に彩られたヴィクトリア様式で、百億の歯車と星を何週も出来るほどのパイプをつなげて作った巨大な城だ。
ビルの頂上付近にはサッカーコートほどもある巨大な時計がついており、なんとも親切な事に10km先からでも時間を確認できる。
これから会う人物はその中央部のオフィスで待っているはずだ。
古風なメーターの付いたエレヴェーターはリベルタが入ると、なんの指示もすることなく瞬時に目標の階層へと少女を転送させた。
着いた先はそのフロアが丸ごとオフィスであるらしい。緻密な刺繍のされた巨大な絨毯の敷かれた、広々とした空間に出た。
珍しい調度品を納めた2メートルはあるマホガニー製のショーケースが並び、巨大な黒檀のオフィステーブルの上には真空管の中に納められた、赤ん坊の握りこぶしほどのサイズの鉱石、アーチファッソルが収められている。
これは実際に動作しているようでプラズマボールのように赤く輝いていた。
そのサイズでこの建物全体を100年は動かせるはずだ。
そしてそのテーブルに腰かけ葉巻を吸う、金のモノクルを掛けた口ひげの男がこの星のボスであるマルティニ社部長のウィリアムだ。
「やっと来たか待ちかねていたよ」
上質な灰色のスーツに着けた、品の良いクリムゾンカラーの蝶ネクタイを直しつつウィリアムは葉巻を灰皿に押し付ける。
「私は先のシェイズ戦争では、君のお父上のドレッドホーク君と共に戦ったよ 彼は本物の英雄だ 実に誇らしいよ」
「あたしもパパと一緒に居たんだけど」
「おおぅ、ハハハハ…… そうか、それじゃぁ私たちは戦友というわけだ、素晴らしい! さて早速だが本題に移らせてもらおう」
「確かお宝探しって聞いたけど」
「そう、君にはアナグマになってもらう 56時間前にとある信憑性の高い噂を耳にした」
「は?アナグマ?」
「ふむ、気にしないでくれ」
彼流の何かのジョークだったのだろう。まるで理解していない様子のリベルタに口ひげをひと撫でして早口で続けた。
「郊外にある前住民の遺跡の中に、ある重要なものが隠されている可能性があるんだ それがこれだ」
ウィリアムのもつ小さな端末からホログラム映像が浮かび上がる。
不鮮明だが何か文字のようなものが書かれた三角形のピラミッドのような形をした物体だ。
「……それ何?」
「ああ、われわれにとっては重要なものとだけ言って置こう 詮索はなしだ、君にはまったく関係ないことだからね」
「ふーん、それでどうしてわざわざ私を使うの?あの古臭いスーツの兵士を使えばいいじゃん」
リベルタはもっともな質問をした
「残念ながら洗練された我が兵士たちは皆、もうすぐ行われる作戦でふさがっていてね
あの忌々しいスラムに居座る、不法居住者を排除するんだ」
「スラムってあの?大勢人が居るのに?」
「やつらは人じゃぁない むしろ人の形をしたネズミか何かだ
早急に対策をするように、株主からも散々言われているのだよ
それに、仇敵のダレル社の連中もきな臭い動きを見せているからな ささっと済ませてしまいたいんだ」
「へぇー まぁどうでもいいけど…… ところで報酬は?」
「よく聞いてくれた!わが社の株を進呈しよう! なんと、100株!」
「……?? それって多いの?少ないの?っていうかその株とかっていうの興味ないんだけど
お金にしてよお金に もしくはあそこにあるでっかい石とか!」
ウィリアムは額に手を当てて大げさに首を横に降った。
「まったく、株の大事さを理解できないとは…… わが社においては株主様こそが特権者であり貴族であるのだよ!
貴族であるからには土地の所有権もある! ちなみに私も1万株を所有している そしてあの石は私の年収より高い」
「はぁ…… 土地とか権利とか言われてもぜんぜん興味ないんですけど」
「ふむ、仕方ない、では相応の金を用意しよう さ、さっさと行って必ず持ち帰りたまえリトルレディホーク」
----------------------
「やれやれー なんていうかめんどくさそうな仕事だねグリップ君」
リベルタはがたがたと揺れる馬車の中で朝日を浴びつつレーズン入りのパンにかじりついていた。
彼女は名もない星でバレットトゥースというお尋ね者にスリーポイントシュートを決め、この星に来てからは薄汚い路地を歩き、ニンジャと出会い、そしてマルティニ社のオフィスで気障な口ひげ男の話を聞き、そのまま一睡もせずにまた馬車に揺られていた。
ガンマンの暮らしとはそういうものだ。タフでなければ勤まらない。
「仕事なンてものはミンなそうサ 悔しイけど仕方ないンだ とこロで遺跡ノ位置なんダが……」
「ん?なに?」
「実ハ以前に行った事ガあルんだ ドレッドホークと一緒にネ」
「へー!お宝探しに?」
「イや宝探しトいうカ…… まぁその、着いてのお楽しミだ」
「………さっきもだけど」
言いかけた所で馬車が不意に止まった。乗り合いの馬車に新しい客が二人。
片腕をガトリングガンに換装した上半身裸の大男と、背にディンキーギターをかついだ痩身の男が加わった。
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