自称モブ男子は恋を諦めたい。

天(ソラ)

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おまけ 蘇芳先輩の裏事情 前編

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☆先輩の一人称の話となります。広い心でお願いします(^_^;)



「先輩助けて下さいぃぃ!!」


コスモスが咲き誇る中庭で1人優雅な昼食と洒落込んでいたら、どこから居場所を嗅ぎつけてきたのか可愛い後輩その1が現れて泣きついてきた。

 せっかくのまったりタイムが…。

 掴まれた腕を揺さぶられながら仕方なく、俺は手に持っていた箸を置き、持参していた水筒から温かなほうじ茶をカップに注ぎ後輩に手渡した。

「はいはい。とりあえずこれでも飲んで落ち着けー」

「先輩ぃ」

「 情けない顔すんな。せっかく整っている顔が台無しになってるぞ」

 緩くくせのついた茶髪に丸アーモンド型の鈍色の瞳。一目で異国の血が混じっていると分かる整った顔が涙と鼻水でぐしゃぐしゃでかなり残念な仕様になってしまっている。

 背中を丸めほうじ茶を啜るその脇からポケットティッシュを差し出せば、素直にそれを受け取りチーンと鼻をかむ。気分はまさに保育士そのもの。

 まあ、1人で悩まれるよりかはこうして泣きつかれる方がよっぽどいい。

 苦笑いを浮かべる俺を灰色の目が窺うのを何でもないと顔を背け、自分の分のほうじ茶に口をつける。

 まさか自分が別のゲームの物語にここまで足を突っ込む事になろうとは。転校当初、思ってもみなかった。



 『転校』がテーマのギャルゲー主人公だった俺がすったもんだの末、攻略対象の女子じゃない幼馴染みの野郎とくっついたのは去年の暮れ。
 
 とりあえずのエンディングを迎え、さて転校しますかと親の決めた転校先の学校の案内パンフを読んでいたら妙な既視感を覚えた。

 学校の見取り図に、なぁんか見覚えがあるような?

 そう思ったものの、その時は学校の構造なんてどこも似たようなもんだからきっと気のせいだろう、と自己完結で納得して終わらせてしまった。
 
 しかし、年が明けて改めて転校して学校生活が始まっても、やっぱりなぁんか気になって気持ちが晴れないまま日々が過ぎた。

 そんなある日、職員室のを通りがかった際この学校の制服じゃない学ラン姿の生徒を見かけた。意志が強そうな切れ長の双眸が印象的な、一見取っ付きにくそうな雰囲気を持つソイツと目があった瞬間、ピッシャーンと俺の背後で派手な稲光が走った。
 うん、あれは凄かった。その日の天候は冬の嵐で雷雨だったから近くに落ちなくて本気で良かったと今でも思う。

 というわけで雷か、青年か、はたまたその両方か。おかげその瞬間すっこーんともやっとしていた気持ちが一気に晴れた。気持ち良く快晴になったので、速攻帰ってまぁじぃでえぇ!?と部屋の中で転げ回った。

 この学校、乙女ゲームの舞台やないかいっ!!どんだけ神様ってのは仕事が雑なんだよっっ!!!

 そんな感じでサイレントボイスで暫く叫びまくってたら、夕飯呼びに来た妹に現場を見られ危うく兄としての尊厳を失う所だった。

 そして夕飯後、混乱した頭を落ち着かせるために手持ちの情報を整理することにした。

 まず、ギャルゲーの主人公として去年まで通ってた学校から転校したその先は、乙女ゲーム、略して乙ゲーの舞台となる学校でした。以上。
 …簡潔過ぎるだろ、自分。もっと思い出せ。

 ええと、確かこの学校で繰り広げらる乙ゲーの物語は俺が主人公やってたギャルゲーの対になるもので、『転校』がテーマになっている。

 春に入学して来た主人公ちゃんの両親が急な転勤で外国に行くことになって、引っ越し先が落ち着くまで知人の家に預けられるんだよな。でもって転校までは約3ヶ月半。それまでに攻略対象と交友を深め、別れの日を迎えればゲーム終了って流れだったはず。
 ギャルゲー時と同じく、エンディングにはバッド、友情、トゥルーエンドの3パターンあって親愛度によって変化するっと、…とりあえずこんな感じかな。
 男のくせに何で詳しいかって?それはもちろん、ゲーマーとしての嗜みてヤツですよ(ドヤ顔)。
 
 何人いるかは忘れたけれど攻略対象者の中には今日見た学ラン君もいた。ゲーム時は学校指定のブレザーだったけど間違いない。
 主人公ちゃんが学ラン君が転校経験者てことを知って興味を持つてのが、2人が仲良くなるきっかけになるんだよね。いやはや、この時期に転校して来るとは知らなかった。

 というわけで、学校案内のパンフにあった見取り図に見覚えがあったのは、ゲーム内でまんま場所選択画面として使われてたせいでした。思い出せて良かったおかげでスッキリした。
 でもってスッキリして落ち着いて来たら、自分がこのゲーム内では名前も存在もない、モブ中のモブだと気がついてホッと胸をなでおろした。

 本気でこの世界がゲームだなんて、おめでたい考えはしてないけど、面倒くさい恋愛沙汰に巻き込まれる可能性の高い主要キャラよりか最初からモブと分かっていた方が気が楽だ。

 だが念の為、主要キャラと距離を取っておこう。 石橋は叩いて渡るにこしたことはない。
 そう結論づけその日は心身ともに疲れきっていたので速やかに布団に潜り込んだ。



 ところがどっこい、そうは問屋がおろさなかった。



 距離を取ろうと決めた次の日からことごとく、俺の行く先にヤツこと学ラン君が現れた。

 朝の食堂とか昼のプール裏とか放課後の家庭科室とか。普通こんな時間に何の用だと言わんばかりの場所での高確率エンカウント。 あまりに出くわすから、わざと狙ってるのかと疑った程だ。

 それもまあ、出くわす度またコイツかよ、とうんざりした顔に分かりやすく書いてあったからその線はすぐに消えた。

 その代わり、俺の中で1つの仮定が生まれた。

「…イベント、スチル回収」

 何度目かの遭遇時に聞こえるようわざとらしく大きな声でそう口にしたら、学ラン君は驚きに目を見開いて固まった。
 そんなヤツの態度にビンゴ!と思うのと同時に仮定していたとはいえ、まさかのまさかで俺も驚いた。

 そもそも。何故に俺が学ラン君とンな場所で高確率エンカウントかましまくっていたかというと、理由もちろんゲーム絡みなわけで。
 主要人物には関わらないと決めたが、せっかく何かの縁で乙ゲーの舞台に転校したんだからせめて雰囲気くらいはと、野次馬根性でイベントが発生する時間にその場所に足を運んでいたからだ。

 人に言ったことなかったし匂わせたこともなかったから、当然だけど自分以外にテンプレ転生した奴に会ったのは今世生まれて初めてで。
 分かった瞬間、お前もかよー!!と急激に親近感が湧き、その場で盛り上がってしまったのは当然というか仕方がない。

 話によると学ラン君こと真中蒼司がゲームのことを思い出したのは転校する数ヶ月前。転校とこの学校のパンフを渡された時に思い出したそうな。

「ちなみに真中っち、なんでこのゲーム知ってたん?乙女ゲームよこれ。前世重度のゲーマー?」

「兄さんがやってるの横で見てた」

 「へぇ、お兄さんがーって、まじか!?」

 聞けば真中っちの前世のお兄さんは途中でお姉さんにジョブチェンジした、乙女チックさんだったそうな。
 そのせいか、真中っちも恋愛対象の許容範囲が広く男女の境がないとのこと。

 「だからって誰でもいいわけじゃない。言っとくけどゲームのヒロインにも関わるつもりないから」

 スッパリ言い切りましたよ。コイツ。

 自分もだけど神様はやる気ない奴をどうしてゲームの主要キャラにテンプレ転生させるかね。まあ、俺だって純情ぶったビッチなんてごめんだけどさあ。

 イベント発生場所を巡ってたのも、俺とは違いヒロイン対策をするための下調べということだった。
 関わらないと決めてすぐに勢いで接触しちゃったから正直ヤバいなぁって思ってたけど、それならまあセーフ、だよな?これも何かの縁ってことで。

「同じ前世持ちってことで、何かあったら協力してやるから。よろしくな」

 俺もなまじゲームの記憶があって悩んだし。同じ境遇の奴がいるのは心強いだろう。

 俺の意図を察した真中っちは若干表情を緩め、差し出された手を素直に握り返してくれた。










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☆題名にありましたが思っていたより長くなってしまったので、今回はここまでにさせて頂きます。
続き出来ましたら載せますのでよろしくお願いしますm(_ _)m
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