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しおりを挟む自動販売機のある場所まで向かう途中、幾分か冷静になった頭でふと思う。
…もしかして、別に焦って出てくる必要なかったのでは?と。
そのことに思い至った瞬間、恥ずかしさが頭のてっぺんまで駆け上がりその場にしゃがみ込んでしまった。
蒼司がピンク頭をどれくらい好きだったのか。あんなとんでも女だと知った今、蒼司が現在進行形で好意なんてあるとは思えないけれど、タケルは好きな相手の好みを少しでも知りたかった。だからつい先程聞いてしまったのだ。
「…だとしてもこれはないだろ、自分の大バカ考え無しぃ」
誰に聞かせるでも無い情けない独り言がタケルの口から次いで出る。
放課後で人気がなくて本当に良かった。普段なら廊下でこんな格好、確実に目立ちまくっていた。
そして、なおも独り言は続く。
「女の子なら意味深に取られたかもしれないけど、俺は男だし、ちょっと突っ込んだ質問しても、まさかそこに恋愛的な要素が絡んでいるなんて普通考えないよな。うん」
1人納得し頷いてみる。
「せいぜいあんな女のどこが良かったんだよ、趣味悪っ!てな感じで揶揄うために聞いたとか思うよ。うんうん。蒼司だってそう思ったから答えづらくて固まったんだろうし。それを揶揄う自分が逃げちゃ変に思われる。というか、ちょっと待て。そんな風に捉えらていたらせっかくまた元通りになれそうなのに、また気不味くなるじゃないかぁ」
「だな。また気不味くはなりたくないな」
「でしょう?それなのに自意識過剰で飛び出して来ちゃってさぁ、自分バカなのアホなのって感じだよ」
「そこまで思い詰めなくてもいいんじゃないか?タケルはバカでもアホでもないだろう」
「下手な慰めはいらないから。頭良かったら今頃もっと上手くやってさらーっと告白して傷を最小限に抑えられてただろうし」
「告白?誰に?」
「そんなの蒼司に決まっ、てぇー…」
そこでハッと気づいたタケルが伸びる語尾ごと、いつの間にか自分の側に立つ人物を見上げる。
「忘れ物。ぶちまけた荷物の中にあったぞ。財布忘れて駆け出す、なんてお前どこの愉快な日曜の主婦だよ」
いや、それ歌詞混じってるから。
差し出された自分の財布を反射的に受け取ったタケルは、そう心の中で現実逃避に突っ込んでみた。
人間追い詰められると泣くか笑うかの二択だと聞いたことがある。ということは、自分はまだ追い詰めらていないはずだ。きっと大丈夫。
だって今、頭真っ白で何にも考えられないのがその証拠だ。
「蒼司。どこからどこまでを…?」
呆然しながらも一応尋ねてみる。
聞いてたんだ?と最後まで言わずとも意味が伝わってくれたようで。尋ねられた蒼司は自身の唇に握りこぶしの親指を当て、考える仕草をする。
「ん?んー…タケルがしゃがんで1人で頷いていたところで追いついたから、せいぜいあんな女あたりからか?」
終わった。
返ってきた答えにタケルの目の前が真っ暗になった。
せめて終わるならもっとまともな告白をして振られたかった。
前回に引き続き残念過ぎる結末に、立ち上がる気力もなく身体が床にへたり込む。
「おい、大丈夫か?ほら、手出せ。…ったく、足に力を入れろよ」
差し出された手を取らずぼんやり黙って見つめていたら、強引に腕を引かれ無理矢理立たされた。
「顔色が悪いな。熱中症か?」
自分の体温より冷たい手のひらが額に触れ熱を計りやんわり離れていく。労わりにこちらを覗き込む双眸には蔑みの色は一片もなかった。
「…ちょい待ち」
予想していたものとは違う反応にタケルは片手で待ったをかけた。
「どうした、気分がわるー」
「蒼司、確認するけど俺お前に好きだって言ったよな?」
心配してくれる蒼司を遮るのは申し訳ないが、ここははっきりさせないと自分が後悔する。
「正確には俺に告白云々言ってたと思うが、どちらにしろ、また恋愛に興味が持てるようになって良かったなタケル」
初対面時に暫く恋愛はしたくないと言っていのを覚えていて、尚且つ、気にしてくれていたのは嬉しい。
が、花が綻ぶように笑うのは反則だ。
端正な顔に見惚れること数秒。息をするのを思い出して慌てて何度か呼吸を繰り返す。
死因が好きな相手に見惚れて窒息死なんて、冗談じゃない。
「大丈夫か?」
「はぁはぁ。…ありがとう、って背中さすらなくていいからっ。ええと、そうじゃなくて、その気持ち悪くない?今まで友達だと思ってた、同じ、お、男に告白されたんだよ…?」
自分で言って泣きそうになり、泣くのを堪えるため固く唇を引き結ぶ。
我ながら安定したヘタレ具合である。
すると唇にふにっとしたものが押し当てられた。
ふにふに。ふにふに。
「…何のつもり」
唇の弾力を確かめるよう指先を押し付けられ恨めしげ睨みつければ、その指先が離れ、どこか楽しげな蒼司の元に帰っていきーー、
「間接キス」
ちょん、と形良い唇に触れた。
「うだうだいうよりこっちのが分かりやすいだろ。ほら、次はお前の番な」
そう言って蒼司の唇から離れた指先が再度タケルの唇に触れてくる。
「………………は?」
唇の輪郭をなぞり離れていった悪戯な指先の行方を暫く固まって見ていたタケルの口から、なんとも気の抜けた声が出た。
それから時間をかけてたった今、自分に起きた出来事を把握した途端、顔面から火が吹けるじゃないかと思う程、真っ赤染まる。
「なっ、ななななにをっ!?」
「ここは廊下でいつ誰が通るか分からないしな。せっかくだし、初めてならもっとちゃんとした場所でやらないと。さっきのはあくまで応急処置措置な」
茹でる頭をポンポンと撫でられ、頭の処理が追い付かないまま手を引かれ歩き出す。
「タケル」
「ひゃい!」
噛んでしまった返事に先を行く背中が小刻み震えている。笑われていると分かっていても今の自分にはそこまで気にする余裕はない。
そんな混乱一歩手前のタケルに蒼司が追い打ちをかけてくる。
「あれは認ないからな」
「あれって?」
「告白。あんななし崩し認めないから。あれも仕切り直しな」
「うそ…」
勢いで言うのと意識して当人に伝えるのでは、難易度が違い過ぎる。
「その代わり俺もちゃんと言うし。誤解も疑問も綺麗さっぱりさせて安心させるから」
覚悟しとけ、と流し目で笑われ、ただでさえ落ち着かない鼓動が更に跳ね上がる。
逃げ出したくも、繋がれた手は力強く逃げられそうにない。
こんなことまで言われたらいくらタケルでも、この後の自分が失恋するとは思わない。 思わないけど、恋が実った後のことなんてさっぱりといっていい程考えていなかった自分に、この急展開はきつ過ぎる。
やっぱり暑さで倒れてみようかな、なんて。手を引かれながらタケルは往生際悪く考えてみたが、そんな分かりやすい嘘はすぐにばれ、余計恥ずかしい思いをしたのは自業自得である。
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☆これにて本編は後で書き直すかも知れませんが終了です。ここまでお読み頂き本当にありがとうございましたm(_ _)m
後日先輩の一人称ででタケルが知らないネタバレみたいな話を1話分入れようかどうか…ちょっと考え中です(^_^;)
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