自称モブ男子は恋を諦めたい。

天(ソラ)

文字の大きさ
上 下
14 / 17

14

しおりを挟む



 先輩がいなくなり、1人図書室に取り残されたタケルは、誰もいなくなった空間で大きく息を吐いた。

 時刻を確認するとまだ予定時間には余裕がある。前回ここへ来た時とは違う理由で時間を潰すため本棚の中を歩き始めた。
 自分の興味を引く本を適当に本棚から抜き取り装丁を捲る。開かれたページをパラパラと軽く目で追ってみるが、思うように頭の中に文字が入って来ず、思わず苦笑いしてしまう。
 自分が考えるよりも自分は緊張しているみたいだ。
 

 それでも時間をかけ、いくつか本を物色し机に置いたところで図書室の扉が開いた。

「悪い。待たせた」

 予想よりも早く現れた待ち人の声に応じ、大丈夫だという意思表示を込め少しだけ口角を上げ相手と挨拶を交わす。
 正直なところ、もう少し心を落ち着かせる時間が欲しかったが、そんなの相手に言えるわけがない。
 作り笑いの練習がここでも役に立つとは思わなかったな、とタケルはこっそり微苦笑を唇に滲ませた。

 本を積んだ席の目の前、丁度こちらと相対する席に蒼司が腰を下ろした。

「先輩はー」

「知ってる。後は全部任せるって伝言があった。最も、元々あの人はこの件に関して部外者だったから、全部任せるってのはおかしな話なんだけどな」

 肩を竦めつつ口にした部外者、という単語に情けなくも敏感に反応し瞳を伏せてしまう。

 声音から決して蒼司は意味合いではなく、しかも自分へ向けたものでないと分かっていても、蒼司が言った言葉というだけで心が抉られ痛みが走った。

 先輩と蒼司。2人揃ってタケルへ説明する場を設けたいと、今日という日に図書室で待ち合わせていたが、やはり遅れてくる蒼司を待たずに、先輩がいなくなった時点で適当な理由をつけて自分も帰ってしまったほうが良かったかもしれない。
 蒼司へを好きな気持ちを失くしたくない。そう病院の非常階段から落ちる際、胸に宿った想いから前向きになろうとあの後決意してみたが、自分勝手に傷つく心を持て余す意志薄弱なタケルは早くも挫折しかけていた。

「すまなかった」

 そんな後ろ向きな思考に取り憑かれていたタケルの耳に蒼司の突然の謝罪が届いた。
 内側に沈めていた意識を浮上させ瞳を上げると、切れ長の黒い双眸がこちらを真っ直ぐ見つめていた。

「何でいきなり謝るの…?」

「偉そうに守るなんていっておいて、そのくせ、お前が酷い目に遭うのを止められなかったからな。遅くなったが説明より先にまずはしっかり謝るのがスジってもんだろ」

 そう言いながら蒼司はタケルに向かいもう1度すまない謝罪を口にした。

 揺るがない光。決めたことに関して良くも悪くも真っ直ぐな、そんなところが好きなんだよなと場違いながら再確認してしまう。

「あのさっ」

 自分の好きな気持ちに押し出されるように言葉が口から零れ落ちた。

「あのさ、蒼司はあの娘のことどう、思ってたの?」

 他にもっと聞きたいことも言わなくちゃいけないこともあるはずなのに、勢いづいた口は気づけばおかしな質問を勝手に口走っていた。

 我ながら空気を読めないにも程がある。
 鏡を見なくとも自身の顔色が一気に青褪めていくのが分かった。

 聞きたかった、確かにそれは凄く聞きたかったけれど聞くタイミングは決して今じゃない。
 その証拠に目の前の蒼司の反応がすこぶる悪いというか、明らかに停止していた。

 言葉と水は零れ落ちたら元には戻らない。居た堪れずガタン、と勢いよくタケルは席を立つ。
 その際、積んでいた本が雪崩れ、巻き込まれた自身のカバンが机の下に落ち派手に中身をぶち撒けたが、そんなのに構ってなんていられない。

「あ、あはは…。なんか待ってたら喉乾いちゃったなっと。俺、ちょっと飲み物買って来る!!」

 蒼司の返事を待たず、タケルは不自然に上擦った明るい声を上げ一直線に図書室の外へと飛び出して行った。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした

亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。 カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。 (悪役モブ♀が出てきます) (他サイトに2021年〜掲載済)

思い出して欲しい二人

春色悠
BL
 喫茶店でアルバイトをしている鷹木翠(たかぎ みどり)。ある日、喫茶店に初恋の人、白河朱鳥(しらかわ あすか)が女性を伴って入ってきた。しかも朱鳥は翠の事を覚えていない様で、幼い頃の約束をずっと覚えていた翠はショックを受ける。  そして恋心を忘れようと努力するが、昔と変わったのに変わっていない朱鳥に寧ろ、どんどん惚れてしまう。  一方朱鳥は、バッチリと翠の事を覚えていた。まさか取引先との昼食を食べに行った先で、再会すると思わず、緩む頬を引き締めて翠にかっこいい所を見せようと頑張ったが、翠は朱鳥の事を覚えていない様。それでも全く愛が冷めず、今度は本当に結婚するために翠を落としにかかる。  そんな二人の、もだもだ、じれったい、さっさとくっつけ!と、言いたくなるようなラブロマンス。

モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)

夏目碧央
BL
 兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。  ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?

鈍感モブは俺様主人公に溺愛される?

桃栗
BL
地味なモブがカーストトップに溺愛される、ただそれだけの話。 前作がなかなか進まないので、とりあえずリハビリ的に書きました。 ほんの少しの間お付き合い下さい。

もしかして俺の人生って詰んでるかもしれない

バナナ男さん
BL
唯一の仇名が《 根暗の根本君 》である地味男である< 根本 源 >には、まるで王子様の様なキラキラ幼馴染< 空野 翔 >がいる。 ある日、そんな幼馴染と仲良くなりたいカースト上位女子に呼び出され、金魚のフンと言われてしまい、改めて自分の立ち位置というモノを冷静に考えたが……あれ?なんか俺達っておかしくない?? イケメンヤンデレ男子✕地味な平凡男子のちょっとした日常の一コマ話です。

そばにいられるだけで十分だから僕の気持ちに気付かないでいて

千環
BL
大学生の先輩×後輩。両片想い。 本編完結済みで、番外編をのんびり更新します。

幼馴染は僕を選ばない。

佳乃
BL
ずっと続くと思っていた〈腐れ縁〉は〈腐った縁〉だった。 僕は好きだったのに、ずっと一緒にいられると思っていたのに。 僕がいた場所は僕じゃ無い誰かの場所となり、繋がっていると思っていた縁は腐り果てて切れてしまった。 好きだった。 好きだった。 好きだった。 離れることで断ち切った縁。 気付いた時に断ち切られていた縁。 辛いのは、苦しいのは彼なのか、僕なのか…。

処理中です...