2 / 58
番外編
閑話 ホワイトデーは何倍返し?
しおりを挟む先月の菓子メーカーの陰謀に引き続き、今月はそのお返しをしなければならない日もこの世界にはしっかりある。
ある意味これ広めた人は律儀だと思う。
「アルヴィン様、失礼します」
リヒターが扉を開けたその姿に僕はうんざりした。別にリヒターがどうのって話ではない。問題は彼が両手に抱えてるいるものだ。
目を背けたい気持ちではあったが、それで解決するなら苦労はしない。僕は手にしていた紅茶の入ったティーカップをテーブルに戻し、リヒターに向き直った。
「…リヒター、それはどなたから?」
「騎士団の団員全員から一人一輪ずつだそうです」
「僕、あの人達にあげた記憶ないんだけど」
半眼になってリヒターの持つ抱えきれないくらいの白薔薇を見る。
先月のクッキー作りも恒例なら、この『お返し』も恒例行事である。前世では良くお返しは三倍返し。なんて聞いたが、
「これ何倍返しなんだよ…」
僕の住む離宮は今様々な贈り物で溢れている。お菓子にアクセサリーはまだ可愛いものだ。一番困るのは花。しかも何故か白薔薇が圧倒的に多い。確かに白いものを送るイメージはあるけど、離宮がどこぞのアイドルコンサートの楽屋のように溢れかえっている。
この季節の僕の離宮は別名『白薔薇宮殿』。まんまだね。
「畏れながら、騎士団の者達は来年期待しているのでは」
「…だよね、僕もそう思う」
「………消しますか?」
「リヒター、騎士団長が泣くからやめて」
こんな感じでクッキー大量生産するから年々悪化するんだよね。いい加減何か対策考えないと。
ちなみに兄と父からは共同で薬草園という名の温室を送られました。何倍か考えるだけでも恐ろしい。
「とりあえず花に罪はないから、離宮のどこかに飾って貰える?」
「畏まりました。そうでした、アルヴィン様」
部屋から出て行きかけたリヒターが振り返る。
「何?」
「そこにあります箱は我々『影』から貴方様への贈り物でございます。気に入って頂けたら幸いです」
首を傾げる僕に一礼し、リヒターは部屋から退出して行った。
…いつの間に。
そこと言われ疑問符を浮かべた僕がティーカップに手をかけようとした直ぐそばに、翡翠色のリボンでラッピングされたホールケーキが入るくらいの白い箱が置かれていた。
早速開けて見ると中には、最新の暗器の数々が。
さすが『影』の皆さんです。
「これに使われているのは従来の金属ではないな。軽い。あ、でもここが鋭利だからーー」
「中々エゲツない贈り物だな」
「わわっ!?」
新しい暗器を検分しているすぐ肩口に声がして、危うく足元に暗器を落としそうになる。
こんな非常識な登場する人物は1人しかいない。
僕は椅子から立ち上がり、声の主から3歩程離れてからニッコリ微笑んだ。
「ちょうどいい所に。ギルフィス、是非新しい暗器を試させて下さい」
「絶対、君の性格形成あの陰険の影響受けているよな」
「何の話ですか?ついでに今回の衣装は手抜きですか?」
シンプルな白シャツとズボンの上に白衣姿のギルフィス。分かる、分かるけどっ。
「医者なんだけど」
「城の医官はそんな格好じゃありません!!」
「いやぁ、白で統一したかったから」
「洒落にもなりませんよ…」
がっくり肩を落とし席に戻る僕の向かい側に、さり気なくギルフィスが座る。自分のついでに紅茶を用意すれば、嬉しいそうにそれに口をつけた。
「念の為にお聞きしますが、ご用件は」
「ん?先月のお返し」
ですよねー。
ギルフィスは何も無い所からポン、と赤いリボンでラッピングされた一冊の分厚い本を取り出した。
「何を選べば君が喜んでくれるか迷ったんだよね」
東雲色の表紙のその本は人間の言語ではない文字の題名が書かれていた。
「これは魔族の文字ですか?」
「そう、古い魔族文字で『神話の魔法』って書かれている」
サラッと凄い事言ってません?これはもしかしなくても…、考えただけで手が震える。
「魔王様。これ禁書でしょ?」
「厳密に言えば原書は持ちだしは無理だから、写本してみた」
「禁書は禁書でしょうがっ!!!」
クッキーのお返しに禁書って、何倍返しの前に世界がひっくり返るわっ。これ解読して使ったら世界滅亡する!!
「貴重な本なのにぃ」
「はいそこ、頰膨らませても可愛くないですからね。そりゃ興味深いですが、恐ろしいし第一僕には読めません」
魔族の古代文字なんて解読するのに、何年かかるやら。僕が生きているうちは全解読無理。
そう言ったら、ギルフィスがあっけらかんと読めるよと。
え、どうやって?
知的好奇心に目を輝かせる僕にギルフィスはそれはそれは楽しそうに人差し指を立ててこう告げた。
「アルヴィンが俺と結婚して魔族になれば、読めるようになる」
禁書はギルフィスの顔面にクリーンヒットした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
☆早いけどホワイトデーネタでした。
シリアスばかりは疲れるものでσ(^_^;)
10
お気に入りに追加
1,038
あなたにおすすめの小説
せっかく双子で恋愛ゲームの主人公に転生したのに兄は男に妹は女にモテすぎる。
風和ふわ
恋愛
「なんでお前(貴女)が俺(私)に告白してくるんだ(のよ)!?」
二卵生の双子である山田蓮と山田桜がドハマりしている主人公性別選択可能な恋愛ゲーム「ときめき☆ファンタスティック」。
双子は通り魔に刺されて死亡後、そんな恋愛ゲームの主人公に転生し、エボルシオン魔法学園に入学する。
双子の兄、蓮は自分の推しである悪役令嬢リリスと結ばれる為、
対して妹、桜は同じく推しである俺様王子レックスと結ばれる為にそれぞれ奮闘した。
──が。
何故か肝心のリリス断罪イベントでレックスが蓮に、リリスが桜に告白するというややこしい展開になってしまう!?
さらには他の攻略対象男性キャラ達までも蓮に愛を囁き、攻略対象女性キャラ達は皆桜に頬を赤らめるという混沌オブ混沌へと双子は引きずり込まれるのだった──。
要約すると、「深く考えては負け」。
***
※桜sideは百合注意。蓮sideはBL注意。お好きな方だけ読む方もいらっしゃるかもしれないので、タイトルの横にどちらサイドなのかつけることにしました※
BL、GLなど地雷がある人は回れ右でお願いします。
書き溜めとかしていないので、ゆっくり更新します。
小説家になろう、アルファポリス、エブリスタ、カクヨム、pixivで連載中。
表紙はへる様(@shin69_)に描いて頂きました!自作ではないです!
王道学園なのに、王道じゃない!!
主食は、blです。
BL
今作品の主人公、レイは6歳の時に自身の前世が、陰キャの腐男子だったことを思い出す。
レイは、自身のいる世界が前世、ハマりにハマっていた『転校生は愛され優等生.ᐟ.ᐟ』の世界だと気付き、腐男子として、美形×転校生のBのLを見て楽しもうと思っていたが…
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
乙女ゲームが俺のせいでバグだらけになった件について
はかまる
BL
異世界転生配属係の神様に間違えて何の関係もない乙女ゲームの悪役令状ポジションに転生させられた元男子高校生が、世界がバグだらけになった世界で頑張る話。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】
ヒロインの兄は悪役令嬢推し
西楓
BL
異世界転生し、ここは前世でやっていたゲームの世界だと知る。ヒロインの兄の俺は悪役令嬢推し。妹も可愛いが悪役令嬢と王子が幸せになるようにそっと見守ろうと思っていたのに…どうして?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる