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第3章 偽りの王子と恋の試練?

5 君を救うために(ギルフィス視点)

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☆時は遡って2章終わりから3章始めの間の話となります。



「結論から言うと、全くの別人じゃ」

 前片足を上げた大型犬サイズの黒わんこー冥界の番犬は、暫し対象を観察した後きっぱりそう告げた。

「そうか」

 ギルフィスはそれだけを口にし、内心、やはりなと語尾に付け足しを加えた。

その視線の先には魔法によって深い眠りについている、眠り姫ならぬ眠り王子。年齢よりやや幼く見えるあどけない寝顔を見つめ、ギリリと唇を噛み締めた。

 魔力暴走が治り次に目を覚ましたアルヴィンはいつもとは違う雰囲気を纏っていた。
 彼に似つかわしくない人を値踏みする視線と不遜な態度で自分に向かってこう告げたのだ。


 アイツはお前を選ぶことはない。アイツの心は永遠に自分のものだ、と。


 鼻で笑う姿は顔かたちが同じであっても、コレは自分の知らない別人だと即座に本能で察した。

 確認と現時点でアルヴィンの身に何が起きているのかを把握するため口煩い番犬を召喚したが、実際口に出してその事実を知らさせるのは己れに対し腹ただしいなんてものじゃなかった。

「クソッ、どうしてこんなことにっ!!」

 悪態をついてもどうにもならないことは分かってはいるが、それでもついて少しでもイラつきを発散しなければ平静さを保てそうにない。

 口内広がる鉄錆の味に顔が歪み、ギルフィスは自身の赤い長髪を乱雑にかき上げた。

 自分の施す治療法がアルヴィンを傷つけるのを恐れていた。
 どんなに治療と言い繕っても、あれは性交渉。愛し合う者同士の営みだ。…愛がなくとも性欲があれば出来る行為ではあるが、少なくともアルヴィンの認識としては愛がないという時点でそれは嫌悪に値する行いになるだろう。

 それを強要するということは自分が今以上に嫌われるのは分かりきっていたし、愛や恋という感情を毛嫌いしている彼を傷つけ悪化させる可能性だってあった。

それでも、だ。ギルフィスは自分が愛しく想う存在が苦しみに悶える様を見たくはなかった。自身がとことん嫌われようとアルヴィンには生きていて欲しかった。

 だから出来る限り納得し受け入れてもらうために、自身の身に起きている暴走についてと、そして、それを治すために如何にこの行為が必要かを説明した。
 最後は屁理屈だとは思ったが、あくまで治療だと、そう納得して受け入れて欲しいと懇願した。

 最中もやましい気持ちは全くなかったとは言わないが負担が少ないよう気を使った。…そのつもりだった。

 なのにその結果がこれだなんて。
 怒りによる苛立ちがピークとなり視界が真っ赤に染まる。
 今にも自身の魔力が膨れ上がり暴れ出しそうなった。その時ー

「馬鹿者、情けない顔するでない!」

「っ!?」

 ポフン、と前足で顔を正面から叩かれた。
 固い肉球に痛みこそ感じなかったが、犬に顔面を叩かれたという衝撃はギルフィスが我にかえるのに充分な出来事だった。

 番犬はそれを確認してから、最後に足を体重を思いっきり念入りに踏みつけた後、こちらを呆れ顔で見上げてきた。

「超忙しい儂を喚んだじゃ、我を忘れる暇があるならシャキッとしてとっとと話を進めんかっ!大体、魂はデリケートかつ繊細な代物なんじゃ、お前さんがどうこうしたからとどうこうなるもんでもないわ。この自意識過剰の阿呆が!」

 この駄犬が何を偉そうにっ。

 心からそう言い返したかったが、それは飲み込み気持ちを切り替える。
 一刻も早くアルヴィンの身に何が起きたか把握しないと、対処が今以上後手に回っては悪策なってしまいかねない。この犬の言うことに一々構っていたら時間の無駄だ。

「そのデリケートで繊細な別人の魂がどうして、アルヴィンの身体に入ってるんだ。俺が知ってる限り彼の身体は彼だけのもののはずだが?」

 もしかしなくても、あの混沌の吹き溜まりモドキ等が関係あるのかと問えば、番犬が神妙な顔で当たらずとも遠からずだと返答を返した。

「簡単に言うと『道』が出来てしまっとるんじゃ」

「道だと?」

「そうじゃ、先日若のはブレスレットを媒介にして他人の魂の記憶と接触してしまったじゃろ。あれで自分と他人との境がちぃーとばかし曖昧になっとったんじゃよ」

 それが『道』なのだと番犬は。

「何故それをこの間、別れ際に言わなかった」

 睨みつけるギルフィスに番犬は彼(?)としては珍しく殊勝な態度で申し訳なさそうに項垂れて見せた。

「境は自然と修復されるもんじゃし、問題ないと思ったんじゃよ。まさかタイミング良く他人の魂が入り込むとは…」

 想定外だと言わんばかりに首を左右に振られ、なんとも言えない気分でギルフィスは額に手を当てた。

 今現在、アルヴィンの身体に入っている魂は少なくともアルヴィンと自分のことを知っいる。だからこそ、自分に挑発めいた言葉を投げかけてきたのだ。
 タイミング良く、というよりはこの機を虎視眈々と狙っていたという方が正しいだろう。

 やはり悠長構えている暇はない。早くこの得体の知れないヤツからアルヴィンの身体を取り戻さないと。

「それでこのどこぞの馬の骨ともわからない魂を追い出せば、アルヴィンは 元に戻せるんだろうな?」

 その問いに番犬は眠っている彼の姿を凝視し、すぐに答えなかった。そして、数十秒の間を置きこちらが焦れて組んだ二の腕を指で叩く頃になって、漸くその口を開かれる。

「…残念ながら、今の段階では難しかもしれんのう」

 深刻な物言いにギルフィスの片眉が跳ね上がった。

「何故だ。理由は何だ」

「どんなに目を良く凝らしても若いのの魂が見えんのじゃよ。身体だとて本来の魂が健在なら容易に乗っ取られたりはせんからの。弱っているかと思うたが魂の色の欠片すら見えん」

 魂が見えない、それはつまり…。

「それは……アルヴィンの魂が、消えた…と?」

「いや、そうではない」

 口にしたくもない予想に戦慄く唇に番犬が否と首を振る。それを目にしたギルフィスの無意識に強張った身体から若干だが力が抜けた。

「確かに魂の気配は感じるんじゃ。じゃが見えん。ん?そうか、これは……ならば、……いや、そうすれば、…しかし……ぬ、ぬぅ…」

「変な唸り声を上げるな、はっきりと言えはっきりと。アルヴィンの魂は無事で、どうやったら元に戻せるのか。なんだってしてやるからその方法をさっさと教えやがれっ」

 目の前でああだこうだ独り言を展開されてもこちらが理解出来なければ意味がない。意味が分からなければ話も進まないのだ。

 苛立ちが乗った声音に番犬の耳がピクリと動いた。

「なんだって、じゃと。…お前さんその言葉に二言はないだろうな」

「ああ」

アルヴィンが助けられるなら、魔王の地位も命もなんだってくれてやる。真剣な眼差しに迷うことなく頷いてみせた。

「以前も思ったが、お前さんの愛とやらは重いの~。若いのはほんに心から難儀で同情するわい。…まあ、いいわい。お前さんは仮にも魔王なんじゃから、聖域の場所は知っとるの?」

 知ってるも何も、聖域とは代々の魔王のみが知る地上で唯一、魔素…つまり魔力の源が湧き出る場所だ。魔族にとって魔力は血や酸素と同じ、無ければ死に直結する。だからこそ秘匿とし守らなければならない。

「もう一つ聖域には意味があるじゃろ。今回の目的はそっちじゃ」

「女神か…」

 呟きに、そうじゃと番犬の口角を吊り上げた。

 「若いのの魂を救うには女神の力を借りる必要がある。そして、お前さんの命もな」










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☆考えていた流れを何回か書き直して、結局話を途中でぶっちぎりました…。後で書き直しか並べ替えするかもしれません(;´д`)
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